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オーバードーズ  作者: 昭島吾郎
第2章 半グレ組織 Remnant Shade
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第18話 ディスコホールの戦い

牛浜 真翔が静かに立ち上がる。

その瞬間、ディスコホールの音楽が急激に変わった。低音が響き渡り、ビートが加速する。照明は赤と青が交互に明滅し、俺の視界を乱す。


牛浜 真翔「君がもし、ここを超えたいと願うなら——俺を倒せ。」


その言葉は宣告というより、儀式の開始を告げるものだった。


中神 恋莉「……上等だ。」


静かに構える。肩の力を抜き、呼吸を整える。


牛浜は一瞬の静寂の後、突然動き出した。


その動きは——異常だった。


通常の格闘技のそれではない。ブレイクダンサーのような、あり得ない軌跡で身体を回転させながら、俺に接近する。両足を軸に身体を回転させ、遠心力を乗せた蹴りが放たれた。


中神 恋莉「!」


直感的に身を引く。蹴りが空を切る音が、通常の蹴りの倍以上の速度で響く。


牛浜 真翔「ふん。」


着地と同時に、牛浜は逆回転。両手を地面につき、ハンドスプリングのようにしながら、今度は上段からの打撃を繰り出す。その動きは流動的で、どこまでが移動でどこからが攻撃なのか判然としない。


牛浜の拳を肘で受け流す。しかし——


中神 恋莉「(これが……オーバーアビリティか。)」


牛浜の周囲の空間が、微かに歪んでいた。見えるか見えないかの領域で、何かが時間的な「流れ」を変えている。


牛浜 真翔「気づいたか。」


牛浜は回転を続ける。風車のように身体を回転させながら、次々と俺に迫る。その動きの中で、拳と足が交互に放たれる。


防ぐ。防いだ瞬間、自分の動きが——わずかに遅くなっていることに気づく。しかし、牛浜の攻撃を完全に避けることができている。傷はついていない。


中神 恋莉「(周囲の時間を遅延させている……だが、俺の知覚と回避速度は、それに追いついている。)」


牛浜 真翔「……そういうことだ。」


牛浜は攻撃の手を緩めない。その動きはさらに加速し、ブレイクダンスのような高速回転から、突然の静止。そして、その静止から放たれる一撃は——


直感的に身をひねった。


牛浜の拳が、俺の頭部を掠める。しかし、ヴィラルクスの自動防御と反応速度により、その拳が直撃することはない。


牛浜 真翔「速い。だが——」


牛浜は再び回転する。今度は床を蹴りながら、跳躍と回転を組み合わせた複雑な軌道で俺を襲う。


ディスコホールの中心では、牛浜の高速な攻撃が続いていた。

ブレイクダンスのように回転しながら、拳を放つ。足を払う。身体を反転させて、予測不可能な角度から打撃を繰り出す。


防ぐ。避ける。受け流す。


傷はない。牛浜の攻撃は確かに強力だが、俺の知覚と反応速度により、すべてが「躱される」ものになっていた。


牛浜 真翔「君の動きも速い。だが、時間が敵だ。」


その言葉の意味は、体で理解していた。動きを遅延させる。消耗を待つ。長期戦に持ち込むつもりだ。


牛浜の攻撃はさらに激しくなる。回転、着地、跳躍、回転。その流れの中で、死角のない角度から次々と打撃が放たれる。


しかし——傷は一切ついていない。


牛浜 真翔「ッ!」


牛浜は強引に回転を加速させた。


風車のような両脚が、空気を切り裂く。その速度は、人間の動体視力では追えないレベルになっていた。


だが——


俺は、その風車を見ている。


完全体の身体能力と、ヴィラルクスの覚醒によって、俺の知覚は加速していた。通常の人間にとって「知覚不可能」な速度も、俺にとっては「見える」のだ。


牛浜の攻撃の全てが、俺の目には映っている。


中神 恋莉「もう、十分だ。」


左手を静かに掲げた。


青白い波動が腕から放たれた。物理的な衝撃波ではなく、エネルギーそのものだ。時間の歪みをすり抜け、牛浜の内部へと直進する。


牛浜 真翔「なっ——」


牛浜の回転が、瞬間的に止まった。


中神 恋莉「時間への干渉は、空間に作用する。だが——」


静かに歩み寄る。


中神 恋莉「波動は、その内側を貫く。」


牛浜 真翔「ぐ……」


牛浜は、そのまま床に倒れ込んだ。身体から、微かに血が流れている。内部損傷によるものだ。


床の上で動きを止める牛浜。呼吸は荒く、だが、意識はまだある。


倒れた牛浜の上に立つ。


その瞬間——牛浜の腹部めがけて、全身の力を込めて膝を強打した。


牛浜 真翔「ぐぉぉぉっ!!」


絶叫がディスコホール全体に響き渡った。その身体は、さらに床に押さえ込まれる。


牛浜の意識は、その瞬間——途絶えた。


ディスコホールの照明が、再び赤と青に明滅する。


だが、その光の中で——牛浜の敗北は、確定していた。


その時、ディスコホールの奥の扉が、静かに開いた。


そこには——


エリック・シンキバが立っていた。


ツーブロックの髪が、薄暗い照明に浮かび上がる。その瞳には、深い何かが宿っていた。


その両脇には、ニコ・シンキバと舞浜 睡蓮が静かに佇んでいた。


エリック・シンキバ「牛浜を倒すとは……。」


中神 恋莉「……エリック。」


エリック・シンキバ「よく来たな。中神 恋莉。」


その声には、試験官のそれではない——別の意図が含まれていた。


ニコ・シンキバが、微かに笑みを浮かべる。


舞浜 睡蓮が、俺を見つめている。


三人の存在が、突然の緊張をディスコホールに齎した。

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