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オーバードーズ  作者: 昭島吾郎
第2章 半グレ組織 Remnant Shade
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第17話 迷宮

ついに俺たちは辺理恵城への侵入に成功した。

中へ足を踏み入れると、広大なエントランスが目の前に広がる。上を見上げれば、荘厳なシャンデリアが黄金の光を放ち、重厚な扉が幾つも並んでいる。まるで異世界に迷い込んだような光景だ。


国分寺 好美「どこから行けばいいの?」


好美がそう問いかける。

どこって言われても……まあ、普通なら正面の扉から進むべきだろう。けど、ここは外観からして相当広そうだし、どのルートが正解かは分からない。


国立 慶悟「おい、この扉、完全に閉まってるじゃねえか! ここから出られねぇぞ。」

慶悟が背後の扉を押しながら毒づく。


国立 慶悟「まあ、外の連中も入れないから、一長一短ってとこか。」


中神 恋莉「なるほど。俺たちへの挑戦状ってわけか…。」


そう呟いてから、俺は正面の大扉へと視線を向ける。


中神 恋莉「とりあえず、真ん中の扉から行かないか?」


2人とも軽く頷いた。

俺たちは慎重に階段を上り、中央にある巨大な扉を押し開く。


すると、目の前には長い廻廊が続いていた。右手には大きな窓があり、その先には広大な中庭が広がっている。そして、中央には特徴的な噴水が鎮座していた。

円形の水盤の周囲には、9頭のライオン像が外側を向くようにして立ち並んでいる。まるで、この城を守る門番のように。


中神 恋莉「そこは12頭じゃないんだな。」


そう思いながら長い廻廊を通り、向こうの扉側についた。その扉を開けると、今度は狭く不気味な廻廊が続いていた。しかも、曲がり角がある。


中神 恋莉「狭いな。気をつけろよ。」


国分寺 好美「う、うん。ねえ、ここだけ変に暗くない?」


中神 恋莉「確かに。」


まだ午後に差し掛かるくらいのはずなのに、窓からも光が差し掛からない。角を曲がると、右側に窓があるが、左側には


国立 慶悟「うん?なんか音がするぞ?ラジオか。」


ラジオといくつかの写真が壁に貼られていたり飾られていた。


国分寺 好美「誰の写真かしら…。」


そこには子供を中心に飾られていたが、それが誰かは見当がつかない。その中に特に目についたのが、壮年の男性だ。彼はウェイターの服を着、喫茶店を背景にしていた。そしてその喫茶店には、既視感があった。ラジオの音は、よく分からない。


中神 恋莉「じゃあ、先に進むか。」


今気にしても仕方がない。とりあえず進むことにした。


曲がり角を右に曲がり次の扉を開くと、目の前にはさっきと同じような狭い廊下が続いていた。窓からは薄暗い光が差し込み、曲がり角を左に曲がると、左側の壁には先ほどと同じようにラジオと写真が飾られている。


廊下を進んでいくうちに、なにか違和感を感じ始めた。だが、それが何なのか、はっきりとは分からない。


(おかしいな……)


ふと立ち止まって、後ろを振り返る。


中神 恋莉「おい、慶悟? 好美?」


返事がない。


中神 恋莉「おい、どこだ?」


声が虚しく廊下に響く。2人の姿が見えない。いつの間に居なくなったのだろう。


(おかしい、ずっと一緒に歩いていたはずなのに……この廊下が、分断したのか。)


もう一度、来た道を確認しようと振り返ると、そこにはまた同じような廊下が続いていた。ラジオの音が微かに聞こえ、同じような写真が壁に飾られている。


中神 恋莉「……何だこれ」


静寂の中、ラジオのノイズだけが不気味に響く。先に進むべきか、来た道を戻るべきか。どちらを向いても、まったく同じ光景が広がっているだけだった。


改めて写真を確認してみると、変化していることに気付いた。


写真の変化に気付いた瞬間から、空気が重くなった。壁に飾られた写真の子供たちの目が、じっとこちらを見ているような錯覚に襲われる。ラジオのノイズが一瞬途切れ、かすかな子供の笑い声が混じる。振り返っても、来た道は同じような廊下が続くばかりで、出口も入口も見えない。


中神 恋莉「…何だこれ」


声が廊下に反響し、妙に歪んで返ってくる。足音すら不自然に響き、まるで誰かが後ろで歩いているような感覚がする。もう一度写真に目をやると、さっきの子供たちの写真がさらに変わっていた。今度は子供たちの顔がぼやけ、代わりに壮年の男がこちらを睨むように立っている。背景の喫茶店は、喫茶Gehennaのはずなのに、窓ガラスが割れ、店内が荒れ果てた廃墟のようになっている。


中神 恋莉「…??」


それが何を示唆しているのかわからなかった。何か凄惨な出来事があったか、または起きようとしているのは間違いないのかもしれない。しかし、一体何故それが…?


中神 恋莉「…行くか。」


考えても仕方がない。


廊下の不気味な静けさが、次第に遠のいていく。


同じような写真、ラジオのノイズ、虚ろな光景。それらが少しずつ後ろへと押しやられ、やがて、空気が変わったのを肌が感じ取る。


微かな風の流れ。機械音。そして……音楽のようなもの。


中神 恋莉「……終わったか?」


前方に、またひときわ大きな扉が現れた。


重たい扉を押し開けた瞬間、空気が変わった。


強烈なスモークの匂いと、低音の効いた重いビート。光が明滅し、視界を乱す。——そこは、地下に拡がる巨大なディスコホールだった。


壁に埋め込まれたスピーカーが音を吐き出し、天井からはミラーボールが赤と青の光をまき散らしている。だが、ただのクラブではない。違和感の正体は、フロアを取り囲む”人の視線”だった。


無数のRS構成員たちが、鉄柵の向こうや二階の足場、バーカウンターの奥から、黙って俺を見つめている。誰ひとり言葉を発さず、ただその存在を”監視”していた。


中神 恋莉「……見せものかよ。」


彼らは明らかに”戦闘員”だった。全員が無表情で、無言で、だが一糸乱れぬ統率感を漂わせている。これは尋常な集団ではない。


そんな中、ステージの上にひとりの男が現れた。


牛浜 真翔。


丸メガネに黒のジャケット、ネクタイすら締めず、無造作に肩を落とした姿は気だるげだが、どこか芯の通った風格がある。腕にはRSの識別コードが刻まれたアームガード、足元は戦闘用のタクティカルブーツ。スピーカー型のデバイスを腰に提げ、肩越しに俺を見据えた。


牛浜 真翔「よく来たな、中神 恋莉。」


中神 恋莉「……お前が牛浜 真翔か。」


牛浜 真翔「そう名乗ってる。」


中神 恋莉「こっちはさっきから訳のわからん幻覚に引きずり回されてんだ。お前ら、どういうつもりだ?」


牛浜 真翔は眉をひそめ、少し首をかしげる。


牛浜 真翔「……幻覚?」


どうやら彼は本当に知らないらしい。その反応は演技ではなかった。


牛浜 真翔「悪いが、ここで何が起こっていたかは俺の管轄外だ。俺に与えられた任務は、君が”通るに値する存在かどうか”を見極めることだけだ。」


中神 恋莉「通る? 試験かよ。」


牛浜 真翔「真面目に答えるなら、“査定”だな。」


彼が手を挙げると、ホールの照明が一気に赤く染まり、構成員たちがざわついた。バーカウンターの照明が落ち、床のライトが俺の立つ地点に向かって収束する。


牛浜 真翔「ここにいる構成員たちも、今は見届け人だ。君の力量、そして”意志”を、組織に示してもらう。」


中神 恋莉「面倒な連中だな……」


牛浜 真翔「君のような存在を迎え入れるには、理由がいる。組織ってのは、そういうもんだ。」


中神 恋莉「トリッキーな連中にしては、妙に形式ばってるな。」


牛浜 真翔はほんの少しだけ口元を歪めた。それは笑みではない。自嘲に近い、規律を守る者の苦い表情だった。


牛浜 真翔「俺は真面目だからな。トリッキーに見えるのは、能力のせいだ。」


中神 恋莉「じゃあ——その真面目なやり方で、見せてもらおうか。RS幹部の実力ってやつを。」


牛浜 真翔「……構わない。始めよう。」


その言葉と同時に、ホールの四隅からシャッターが降りる。出口が封鎖され、音楽がさらに音量を上げてフロアを満たす。


照明が明滅する中、構成員たちは沈黙したまま、舞台を凝視していた。


牛浜 真翔「中神 恋莉。君がもし、ここを超えたいと願うなら——俺を倒せ。」


中神 恋莉「上等だ。」


刹那、音が割れた。牛浜 真翔のデバイスから放たれた異音が、空間の重力そのものを歪ませるようにフロアを揺らした——。

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