第16話 闇の招待
12月6日午前10時、辺理恵町はついに新たな局面を迎えつつあった。
RS電話番「中神様でしょうか?ナンバー3が直々にお迎えしたいとのご連絡が入りました。私がご案内いたしますので、待ち合わせ場所は立川第3ビルとさせていただきます。」
その留守電を聞き終えた瞬間、俺たちは迷うことなく準備に取り掛かった。
国立 慶悟「いよいよ出番ってわけか。」
中神 恋莉「そうらしいな。ただ…。」
胸の奥で、微かに引っかかるものがあった。今、立川でRSを仕切っているのはナンバー2の津田のはずだ。それなのに、わざわざナンバー3が出てくる。序列的には筋が通る対応かもしれないが、何かが腑に落ちない。
白石 知世「無茶しないでね。私の立場じゃあんまり強くは言えないけど…。」
国分寺 好美「ありがとう。気を付けるよ。」
中神 恋莉「ニコや睡蓮にも伝えておいてくれ。…良太がいるから大丈夫だ。」
拝島 良太「任せておけ。」
そう言葉を交わし、俺、慶悟、好美の三人は喫茶Gehennaを後にした。
立川第3ビルに着くと、先日会ったRSの電話番が迎えに現れた。
RS電話番「お待ちしておりました。それでは、どうぞこちらへ。」
彼の誘導に従い、俺たちは黒塗りのリムジンに乗り込んだ。
国立 慶悟「どこに連れて行く気だ?」
RS電話番「ご安心を。そう遠くへ行くわけではありません。」
国分寺 好美「それにしても、こんな大袈裟な車とはね。窓も曇って外が見えないし。」
リムジンが走り出してしばらくすると、鉄と石がこすれ合うような重々しい音が車内に響いた。音が止むと同時に、車の動きが鈍くなり、低速で進み始める。
RS電話番「さあ、到着しました。どうぞ。」
扉が開き、外に降り立った瞬間、俺は目の前の光景に小さく息を呑んだ。
周囲を見渡して、ようやく状況を飲み込む。高くそびえる壁が四方を囲み、空を切り取ったような圧迫感が漂う。その壁の巨大な門が、ついさっき開いたばかりなのだろう。先ほど聞いたあの音は、この門が動いた音だったのか。
中神 恋莉「…なるほど。そういうことか。」
国分寺 好美「この間の高い壁だ…ついにここまで来れたのね!…喜んでいいのか分からないけど。」
国立 慶悟「素直に喜ぼうぜ…。ん?」
慶悟が視線を向けると、目の前に大きなゴシック様式の大聖堂が現れた。
国分寺 好美「おお!意外と近くにあったのね!」
中神 恋莉「尖塔の形状を見るに、フレンチ・ゴシック様式だな。」
RS電話番「感動しているところに水を差すようで申し訳ありませんが、今あなた方が目指すべきはあちらの建物です。」
その言葉に従い、視線を大門から真っ直ぐ続く道へと向けると、遠くに堂々としたルネサンス様式の城が見えた。
中神 恋莉「あれが辺理恵城か…?もしかして、RSの拠点か?」
RS電話番「その通りでございます。あれはRSの統領、エリック様が自ら建てられた城です。」
俺は思わず、エリックという人物と意外と気が合いそうだと感じた。
RS電話番「では、ご健闘を…。」
そう言って電話番は再びリムジンに乗り、城とは違う方角に向かった。
3人で城への道を歩き始める。近づくにつれ、その威容がじわじわと迫ってくる。シャンボール城を思わせる二重螺旋の塔、無数の尖塔が天を衝くように並んでいる。エリックが自ら建てた、という話が俄かには信じられないほどの規模だ。この城壁の中で何が行われているのか。踏み込む前から、空気の質が違う気がした。
すると真正面から、
RS構成員1「おいおいぃ!勇者御一行様よ!お前たちの命運は、ここで尽きたな。」
大量のRS構成員たちが現れた。しかも、その中にはヴィラルクスの力を纏った、明らかに一般構成員とは格の違う連中も混じっている。
中神 恋莉「お前らが準備不足なら、俺はここで終了だが…どうだ?」
国分寺 好美「なーに言っちゃって来れてるの。」
国立 慶悟「ほんとだよ。俺はこの日のために鍛えてきたんだぞ?」
中神 恋莉「ふっ…杞憂だったか。」
すると、良太からインカムで連絡が入った。
拝島 良太「恋莉、相当な数だ。50人ほどはいるぞ。ステルスドローンで応戦するぞ。」
中神 恋莉「本当か!何ができるんだ?」
拝島 良太「巻き込まれないようにしろよ!」
中神 恋莉「行くぞ!」
およそ10人程度の構成員が、一斉に襲い掛かってきた。
俺は先頭の男の踏み込みを右に半歩ずれて躱し、勢いをそのまま流しながら肘を首筋に叩き込む。倒れ込む体を踏み越え、背後から来た二人目の腕を掴んで前に引き倒す。間髪入れず三人目の腹に膝を入れ、崩れたところへ蹴りを重ねた。足を軸にした動きは止まらない。一人片付けるたびに次の間合いへ踏み込んでいく。
慶悟は違うやり方だった。正面から来る構成員を真っ向から受け止め、その体ごと後ろの仲間に叩きつける。190センチの巨体から繰り出される一撃は、当たった相手を簡単に吹き飛ばした。腕一本で二人をまとめて薙ぎ払い、膝をついた相手の襟を掴んで投げる。豪快だが無駄がない。
好美はバットを低く構えていた。踏み込んでくる構成員の出鼻を狙い、脛へ鋭く叩き込む。前のめりに崩れたところへ、今度は肩口に一撃。音が違う。金属バットが骨に当たる、乾いた硬い音だ。倒れた相手を置いて次へ動く。振りに無駄がなく、的確に急所だけを狙っていく。二人、三人と崩していく中で、自分には一切傷をつけさせない。
ヴィラルクスの力が全身を底上げしている。直接触れずとも、打ち込んだバットや放った拳の軌道に青い衝撃が走り、周囲を吹き飛ばす。
RS構成員「な、なんだこいつら…!」
RS構成員「いい!やっちまえ!」
しかし、次の波が来た。今度は明らかに格が違う。ヴィラルクスの強化体と思しき3人が前に出てくる。動きの質が一段上だ。
強いRS構成員1「くたばりやがれ!」
両手を組んで上から振り下ろしてくる。荒削りだが、重い。俺はその軌道を見切り、半身で躱しながら大きく開いた脇腹にストレートを打ち込んだ。
中神 恋莉「隙がありすぎるんだ!」
強いRS構成員1「ぐふっ!」
強化体でも、芯に入れば効く。しかし倒れない。態勢を立て直した強化体3人が、残りの一般構成員を引き連れて一気に包囲してきた。
数が多い。さすがに少し厄介だ。このまま削り続ければ消耗する。ヴィラルクスの自己回復で多少の傷は塞がるが、この後の幹部戦を考えれば温存したい。
その時、インカムに良太の声が入った。
拝島 良太「恋莉、慶悟、好美!準備ができたぞ!」
中神 恋莉「何ができる?」
拝島 良太「爆発だ。3秒後、敵陣の中心。伏せろ!」
俺たちは即座に低く構えた。
次の瞬間、敵陣の真ん中で爆発が起きた。煙が一気に広がり、視界を塗り潰す。あいつ、ドローンにそんなものまで積んでいたのか。まったく、平然とやってのけるのだから恐れ入る。
中神 恋莉「いいぞ!」
煙の中を、3人で一気に突き進む。足元にうずくまる構成員を踏み越え、視界の悪さを逆手に取りながら前へ。このまま一気に城へと。




