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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第五章 ブエラリカを覆う影/終焉の龍神機現る
78/95

5-11


 あの混沌卿と戦った夜から、既に三ヶ月近く経過した。

 あれ以来動きのない混沌卿一派に警戒しながらも、俺達は争いの無い日々を謳歌している。


「なるほど、ようやく帝国の方は片付くのか」


 今は夜、ここは俺の部屋だ。夕食を済ませ、部屋でくつろいでいると、控えめなノックと共に、肩にイオスを乗せたリミルが入ってきた。

 どうやらミンバと帝国臣下の間で、今回の戦後処理と今後の事が決まり、ブライアン王達がミンバに帰ってくるとの連絡が、リズさんに術式で届いたらしい。


「どうも色々と難航したようだな。今までの帝国は、ドミニアスが国家の意思決定を殆ど全て行なっていたらしい。ドミニアス亡き今、あの国が国家として独り立ちするには、少々時間を要するだろう」


「あれだけ大きな戦争をして負けて……それでも国家としてやっていけるものなのか?」


「戦争という物は、別に相手を全滅させなければいけないものでもなければ、必ず勝者が侵略し統治しなければならないものでもないぞ」


 俺の疑問に、イオスが人差し指を振りながら応える。


「領土の大幅な切り取りと賠償金の支払いで、苦しくはなるが国家として立ち行かなくなる程ではないようだ。ミンバとしては、統治する手間や、下手に国が潰れて起きる諸問題を考えて、帝国に小さく収まっていて欲しいのだろうな」


 なるほど、確かに国が無くなり難民が流れ込んだりすると、色々と厄介な問題が起きそうだ。それならば、国として小さくても安定してもらった方が良いだろう。


「でも、これでやっとシルフィちゃん達とも会えますね」


「そうだな、踊る羊亭がまた賑やかになるなぁ」


 この三ヶ月の間でも、俺達は何度か踊る羊亭へ足を運んだ。ゴルディとシルフィの二人が居なくても、既に顔馴染みになった自警団の皆は明るく迎えてくれたし、店の料理も変わらず美味しい。

 それでも、何処か静けさや寂しさを感じるのは、それだけあの二人が、あの店には無くてはならない存在になっているという証拠なのだろう。


「こほん……ところで、だ。お前はそこで一体何をしているのだ、マシロよ」


 イオスの咳払いと共に二人の視線が俺の後ろに注がれる。

 その視線の先、俺が腰掛けていたベッドに寝巻き姿で寝転がっていたマシロが首を傾げた。


「え? 何って……夜だから寝る準備ですよ?」


「ほぅ……なるほど、寝る準備か。ならば何故、自室のベッドでは無くここに居るのだ」


「そうだぞ、マシロ。流石に一緒に寝るのは……」


「でも……お兄ちゃん。最近、冷え込みが厳しくて……一人だと辛いんです」


 わざとらしくヨヨヨと泣き崩れるマシロに困っていると、リミルが腕を組んで唸りだした。


「むぅ〜、それは困りましたね……かと言って、このままというのも……そうだっ! 私に一つ良い考えがあります」


 ポンッと手を打つと、リミルにしては珍しく、イオスのようなイタズラめいた笑顔を見せた。そして夜は更けて……。


「……何故こうなる……」


「ふふん、どうした? まだ眠れぬのか? マスター」


 胸の上に座ったイオスが、クスクスと静かに笑う。


「いや、眠れるわけないだろ……こんな状況で……」


 身動き出来ない俺の両脇からは、さっきからずっと静かな寝息が聞こえてくる。

 たいして大きくはない、俺のベッドに三人で寝る……それがリミルの言う良い考え……だった。

 俺の右腕をマシロが、左腕をリミルが、それぞれ枕にし、俺の体に寄り添うように密着し寝ている。

 布越しに感じる、少女特有の柔らかく控えめな感触と温もりが、否応なく俺の本能を刺激していた。


「俺だってな……一応、健全な男なんだぞ?」


「ふふん、それだけ慕われているのさ、マスターは。いっそのこと、マスターにその気があるなら、二人に手を出してみれば良い。存外、すんなり……いや、むしろ喜んで受け入れてくれるやもしれんぞ?」


「お前なぁ……そんな事出来るわけないだろ」


「ふん、冗談だよ、マスター。これだけ共に居れば、マスターがそういう類に誠実な男だという事くらいわかるさ。それとも……」


 イオスの体が突然とろける。かと思うと、リミルの体がモゾリと動いた。


「……我にしておくか?」


 リミルの体に戻り、寝ている俺に被さるように、そっと上体を起こしたイオスが、俺の顔を覗き込み見下ろしてきた。

 薄暗闇の中で、まるでそのものが発光しているかのように、イオスの真紅の双眸が妖しく輝いている。


「……阿呆。その体だってリミルの体じゃないか」


 笑って誤魔化そうとするが、イオスの表情は動かない。そこにはどこか、幼子が親に縋るような……そんな必死さがあった。

 思わずイオスの顔を見つめる。呼吸すら忘れるような沈黙が、俺とイオスの間に流れた。

 俺はその静寂に耐え切れずイオスの頭を撫でる。


「……すまない、イオス。今はまだ……ちゃんと答えられそうにない」


「ふふん、そうか。なに、構わんさ」


 撫でられイオスがようやく表情を緩める。


「マスターなりに真剣に考えた結果がそれならば、我はそれでいい。どのみち我とマスターは常に共にあるのだからな」


 そう言うと、再びポスンと俺の左腕に頭を乗せる。


「今夜は少々喋り過ぎた。我はもう寝るぞ……マスターも早く休むといい」


 言い終わらないうちに、イオスがリミルへ戻る。俺は……あのイオスの瞳が脳裏にチラついて、結局朝方近くまで眠れなかった。


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