3-3
そして夜が明ける。視界いっぱいに広がる平原のずっと先、昇る太陽に照らされながら白い魔装甲冑の軍団が見える。
俺はリミルの体になったイオスと共に、軍の最前列に立ち、腕組みをしたまま、その光景を眺めていた。
「……マスター、そろそろ往くか」
「ああ、そうだな」
特に示し合わせもせず、同時に歩き出す。白騎士達の大群勢を前に、俺達はあまりに小さな二人だったが、その足取りはこの平原に居る誰よりも力強かった。
歩きながらイオスが胸の結晶に手を伸ばす。黒い閃光に包まれながら、俺は叫んだ。
「人龍合神っっ!!」
閃光が収まると同時に、ドラグーンになった俺は全速力で白騎士へ向かい走る。
グングンと短くなる互いの距離。白騎士達は立ち止まると一斉に手をかざし、ありとあらゆる術式を放ってきた。
炎弾、水槍、雷撃、巨石、風刃……それら全てが向かってくる中に、しかし俺は走る速度を緩めずに突っ込んだ。
「餓龍剣!」
呼びかけに応じるかのように、虚空から餓龍剣の柄が飛び出す。それを握り引き抜くとズルズルと刀身の先まで虚空から出現した。
「全っ、解放っ!!」
その瞬間、飛来した様々な術式が一切合切霧散する。と、同時に餓龍剣に溢れかえる程のエネルギーが集まるのを感じた。
「よし、さすがリズさんっ! いい仕事してるな!」
「むっ、おいマスター。それには我の力も入っている事を忘れてくれるな」
「勿論わかっているさ! そらっ、お返しするぜ!」
エネルギーが集結し輝く刀身を思い切り振り抜く。過剰に蓄積された魔素は、ドラグーンの振るう超高速の刃から離れ、長く伸びたスパークする粒子の刃となって白騎士達をまとめて切り裂いた。
そうして空いた空間に走りこむ。結果的に周囲をグルリと白騎士に囲まれる形となった。
「頃合いだな……マスター! こちらはいつでもいけるぞっ!」
イオスの声に合わせ、餓龍剣を再び虚空にしまうと、両腕を腰で構え、ドラグーンの胸部甲殻が大きく左右に開く。
「応っ! いくぞっ! 《ハイパーノヴァ・ストリッーーーム!!!》」
かつて狼牙に撃った物と同じ黒い光が伸びる。しかし、前回のように極太の光では無い。
薄く広く、扇状に大きく広がった光の中を暴力的なエネルギーの奔流が駆け抜ける。
「うぉぉぉぉぉぉっっ!!」
前方の、音も無く蒸発していく多数の白騎士達。俺はその姿を確認すると、放出したまま無理矢理に身体を回転させ、更に周囲を囲む多数の白騎士を消していく。
放出したエネルギーが全て時空の彼方に消える頃、俺の周囲にはまるで巨木の森のように、白騎士達の下半身のみがいくつもいくつも乱立していた。
よし……今の一連の攻撃で確実に数百は減ったはずだ。
「ふぅ……MAP兵器ってのは、やっぱり密集時に使うにかぎるな」
「タツヤさんっ! 次が来ますっ!」
「一息つく間も無いって事か……イオス!」
「うむっ、いいぞ! マスター!!」
「《ニュートロン・ハンマーーー!!》」
腕を振り上げると、ドラグーンの上空に巨大な塊が召喚される。そのまま腕を振り下ろすと、巨塊は白騎士達へ向かい勢い良く落下。いとも容易くプチリと潰すと消滅した。後には、まるで何事も無かったように広がる平原を白く染める、魔装甲冑だった残骸だけが残った。
「くっ、さすがに多いなっ!」
「いきますっ! 術式発動! 水撃槍!!」
ニュートロンハンマーで撃ち漏らした数体の白騎士がこちらに斬りかかってくる。俺はそれを回避しながら、カウンター気味に放った蹴りで倒す。更に追い討ちをかけるように、リミルの水槍が多数発生し、生き残った白騎士を狙い撃って吹き飛ばしていく。
「次の兵装が準備出来たぞっ!」
「よしっ……《メテオライトスプラッシュ!!》」
両腕を前に伸ばし、手のひらを広げる。その前方で時空がグニャリと歪み、細かい光の矢が凄まじい速度で飛び出していく。粒に触れた白騎士は、まるで無数の虫喰いが出来たように穴だらけになって次々倒れた。
あの粒の一つ一つが小さな隕石達だ。時空を歪められ飛び出した、宇宙を突き進む小隕石群が、自らの速度で燃えながら光の矢となったのだ。
勿論、殺傷後はさっきと同じく、そのまま元の宇宙に即座に戻す。ドラグーンの超火力兵装は全て、この召喚と送還、そして周辺に影響の出ない結界作成がセットで存在し、中でも結界作成にそのエネルギーの多くを費やした。
「これで大体半分位は潰せたか? ……イオス、まだいけるな?」
「ふふん、マスター、起きたてだった狼牙戦と今の我では訳が違うぞ。まだまだ余裕だ」
「タツヤさん、イオス様、私も術式でもっとサポートします!」
「よ〜し……それじゃあ、もうひと頑張りするか……むっ!!」
その時、再び白騎士へ向かおうとする俺達の前に、四つの影が立ち塞がった。




