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邪龍神機 イオス・ドラグーン  作者: 九頭龍
第一章 目覚めたら異世界/復活の邪龍神機
17/95

1→2 ②


 ノーバ村へと向かったその夜。


「さて、マスター。話がある」


 野宿のため張った結界の中、リミルの肩に座り焚き火の炎に照らされながらイオスが言う。


「おう、なんだい?」


「うむ、我の体……あの魔装甲冑もおそらくそうであろうが……その性能を決定付けるのは、操手の力量の差と言っても過言ではない。では、操手の力量とは何かわかるかな?」


「えっと……状況を観察し的確な行動を判断し実践する……とか?」


「それは操手の基礎、だな。言い方を変えよう、先の戦いにおいて、マスターとあのボガード、奴との違いは何だと思う? ちなみに初陣だったマスターには悪いが、もし我と狼牙、共にボガードが操手だった場合、我は狼牙を圧倒する自信がある」


 ボガードとの戦いを思い出す。こちらの攻撃を許さない程の手数とスピード……機体が不利ならボガードはどうやって?


「ふふん、その顔……だいぶ悩んでいるな。答えは操手の思考速度だ」


「……思考速度?」


「既に伝えた通り、マスターと繋がった我の行動を決めるのは、マスターのイメージ……思考だ。つまり、マスターが思考するスピードを上げ、そのイメージした挙動に追従出来る性能の機体があれば、我等は理論上無限に強くなる。そして、我が体の性能はこの世界一だ」


「なるほど、つまり俺とボガードの思考速度に差があったから、俺が一回行動する間に向こうは三回四回と行動出来る……それがあいつの速さの秘密か」


「ああ、とりわけボガードの思考速度は早い。さすがは五聖輝将といったところだな。マスターにも、もっともっと早くイメージ出来るようになってもらいたい」


「話はわかったよ。それで、具体的にはどうすればいいんだ?」


 俺の言葉にイオスは自分の頭を指差し答える。


「マスターの脳内には、我との契約後の接続で、我が体の一部が既に入っている。それらが……」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺の脳に黒龍の一部が?」


 黒龍と繋がる前、頭の中に何かが侵入してきた事を思い出した。あれがそのままだっていうのか!?


「まあ、待て、落ち着け。マスターの健康上には何ら問題無い。むしろ、それらのおかげで、マスターは人体では本来不可能な領域まで思考速度を上げる事が可能になった。これは魔装甲冑の操手も同じだろうがな」


「……わかった、イオスを信じるよ。で、結局どうすれば上げられる?」


「慣れだな。戦いを通して、思考速度を上げる感覚に慣れるしかない。その為に……よっ」


 そう言うと、小柄な見た目からは想像もつかない跳躍力で、リミルの肩から俺の頭の上へイオスが飛び上がる。


「今から我とマスターを繋げイメージの中で戦いを経験してもらう。それを繰り返し思考速度上昇の感覚に慣れよ……リミル、そういう訳で火の番頼むぞ」


「はい、わかりました、イオス様! 頑張ってくださいね、タツヤさん!」


 笑顔で答えるリミルの返事を受け、イオスの体が膨張しながらトロける。イオスだった黒い肉が俺の頭を覆うと、俺の視界が暗転する。

 気がつくと、何も無いだだっ広い空間がどこまでも広がる中、俺はドラグーン状態で立っていた。

 その時、まるで蜃気楼のように突然あの狼牙が現れる。


「準備はいいか、マスター?」


 空間全体にイオスの声が届く。


「イオス? どうして狼牙が?」


「ふふ、思考速度を上げるにはおあつらえ向きの相手だろう? 安心しろ、あのじぇっとえんじんとかいう技は使わせないさ。だから、マスターも搦め手は使わず徒手空拳で打倒してみよ」


「お、おう!」


 俺が構えると狼牙が吠え、飛びかかってきた。



 ノーバ村に着いたのは三日目の昼前だった。

 たどり着く前までの二日間、俺はイメージの中でひたすらボガードにボコボコにされ続けた。

 多少喰らいつけるようにはなったものの、まだまだ思考スピードに差があるようだ。この訓練は今後も継続するらしい。

 さて、ノーバ村はそこまで大きくはない集落で、畑に囲まれて数軒の民家が建ち、人間サイズの熊や狐なんかが暮らしている。

 村人に教えられて、そのうちの一軒であるヤグを譲ってくれそうな家を訪ねた。


「えぇぇ!? ヤグ一頭と荷車でそんなにするんですか?」


 その家の、バッファローを思わせる毛深い牛面の農夫に購入話を持ちかけたリミルが、驚いた声をあげる。


「それって相場の三倍じゃないですか!?」


「へへへ、悪いな嬢ちゃん。このところの戦乱続きで、軍がまとめて徴用した後でな。ヤグも貴重なんだ」


 やたらヘラヘラとした牛男。どうやら足元を見られてふっかけられているようだ。


「おい、マスター……そのヤグと荷車を見せてもらえ」


 俺の襟元に隠れたイオスがそっと耳打ちする。

 俺は愛想よく笑いかけながら、なるべく自然な形を装い牛男に尋ねる。


「リミル、ちょっといいかな……いやぁ〜、旦那の言い分ももっともだよな、戦争続きでこっちも参っちまうよ。ところで売ってくれるヤグと荷車ってのはどれかな?いや、ケチつけて値切ろうってわけじゃないんだが、年寄りヤグとオンボロ荷車買って帰ったんじゃ親方に怒られちまうからさ」


「いいぜ、ウチのヤグはまだ若いし脚が丈夫だ。それに荷車だって新品同様さ。裏に繋いでいるから見せてやるさ」


 牛男と一緒に家の裏に回り、荷車に繋がれたヤグを見る。どうやらヤグというのは、この牛くらいのサイズのカピバラを指すようだ。サイズ以外に脚の太さとか羊状の角が生えている違いもあるけれど、モヒモヒと鼻を動かす何も考えていなそうな顔は間違いなくカピバラだ。


(ヤグって可愛いんだな……)


「よし、マスター。もういいぞ、買わずに村を出よう」


 異世界で遭遇した思わぬ癒しに和んでいると、再びイオスが耳元で囁く。どういうことか聞き直す前に、待ちきれない牛男が後ろから急かしてきた。


「どうだぁ? 立派なオスヤグだろ? 買うのかい?」


「うーん、いいヤグだな……だけど、やっぱり三倍払うには親方の許可がいるなぁ。旦那には悪いけれど今日のところは帰るよ。邪魔したね」


「なんでぃ、買わないのか? まあ、怒られちまうんじゃ仕方ないか。親方によろしくな」


「えっ、タ、タツヤさん!?」


 慌てるリミルの背中を押しながら、牛男に手を振りノーバ村を出て行った。

 村から少し離れた林に入ると、リミルが少し呆れたように首を傾げる。


「確かにあのヤグは高いですけど、どうするんですか?」


「いや、実はイオスがね……」


「うむ、それは我に任せてもらおう」


 そう答えるとイオスが俺の肩の上で人形のように動きを止める。

 次の瞬間にはリミルの体が黒く染まりイオスになっていた。

 イオスが胸元の玉を触ると空間に歪みが生じ、光を発する。

 光が収まると、俺達の前に真っ黒なヤグと荷車よりもいくらか上等な馬車……いやヤグ車が現れていた。


「我の体の一部で作ってみたぞ。目立たないようにヤグとやらを模倣したがどうだ?」


 リミルの体から、再び俺の肩の小イオスに戻ったイオスが黒ヤグを指差す。

 見たところ、さっきのヤグと色以外ほとんど同じだ。相変わらず、鼻をモヒモヒさせている。

 それを見たリミルが目を輝かせた。


「凄いです! こんなことも出来るんですね、イオス様!」


「うむ、この程度造作もない。それにマスター、自分の身体を見てみろ」


 そう言われ、初めて気付く。

 この世界に来た時のままだったジャージの下に、薄く黒い全身タイツのような物を着ているのだ。


「それもついでに我の体より今作った物だ。薄いがドラグーンと同様にマスターのイメージで、マスター自身の動きを補佐増強する」


 試しに軽く飛び跳ねてみる。

 驚くほど軽く、全身の筋肉が強化されたような感覚だ。


「おお、まるでスーパーマンって感じだな!」


「うむ、どの程度まで動けるか把握しておくといい。ただし、無理はするなよ、マスター。ドラグーンと違って、その身体はマスター自身の物。いくらか軽減するとは言え、怪我もすれば、死ぬ危険性も高いのだからな」


「了解。この肌にぴったりなのも、上から服を着れば目立たなくていいな」


「あ〜……それはな」


 そう言うとイオスが突然ニヤニヤしだす。


「鎧を形作り、黒騎士! という感じにしようかとも思ったのだがな。マスターが着た姿を想像すると……くくく、なあ、リミル?」


「え、えっと……ふふふ、そうですね」


 二人で顔を見合わせ笑い合う。悪かったな、どうせ俺には似合わないだろうよ。


「ははは、いや……マスターすまんすまん。さあ、改めてミンバへ向かうとするかな」


 ふてくされたふりをした俺の背中を、相変わらず笑いながらポンポン叩き、イオスがヤグ車へ入るよう促す。

 早速乗り込むと、内部も外観同様黒い。座った椅子は高級な布団のようにフワフワで座り心地も最高だ。

 イオスの指示で、自動で動き出したヤグ車に揺られ、俺達は一路ミンバの首都ブエラリカへ向かった。

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