1→2 ③
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玉座の間には、普段居並ぶ家臣の姿は無く、ただ五聖輝将の四人が玉座に座るドミニアス帝に向かい並んでいる。
「陛下、ボガードが討たれたとの報告に間違いないのでしょうか?」
小山のような巨躯を鎧で固め、さらに異常なまでに発達した腕部を持つゴリラ男、《雷滅のゴブル》が低く静かに問いかける。その視線はひたすらにドミニアス帝に注がれ、王の否定を待つ。
しかし、相変わらず気怠げな様子を見せる王の口から出たのは、五聖輝将達の望んだ言葉では無かった。
「……ああ、そうだ。ルーディアにて古の邪龍が復活し、ボガードはこれに挑み、敗れ戦死した」
己が最高の家臣を失ったというのに、その声には何ら感情が込められてはいなかった。
「ぬぅぅ……信じられん、あれ程の男が……」
ゴブルがボガードの死を悼むように目を伏せる。
「なっ、ならば! 何故、我等にボガード義兄上の仇討ちを、憎き邪龍の討伐を命じてはくれぬのですか!?」
「やめな、アクエイド」
思わず王に詰め寄ろうとした弟を姉の声が止める。
青い翼と猛禽類のような鉤爪の脚を持つ、眉目秀麗な若騎士《凍土のアクエイド》に対して、姉である《焦土のフレイア》は真紅の翼を持ち、妖艶な雰囲気を纏った麗人だ。姉弟は共に五聖輝将の一人であり、またフレイアはボガードと将来を誓い合った仲でもあった。
「姉上! 姉上こそ何故そう落ち着いていられるのですか!」
「わきまえよ、アクエイド! 貴様を含め、俺達は五聖輝将。その身は既に帝国の剣であり陛下の剣なり! 振るうべき時と場所は陛下がお決めになること。陛下の真意を問いただすなど、越権行為に他ならんぞ!」
「ゴブル殿! ……はっ、申し訳ありませんでした」
何も答えぬ姉に、なお食い下がろうとするアクエイドをゴブルが一喝する。
先ほどの静かな声とは打って変わった、その地響きのような声に冷静さを取り戻したのか、アクエイドは素直に己が非礼を詫びた。
「ほっほっほ、若い者達は元気でええのう。のう、陛下。そろそろ、皆にもあれを見せてやろうかのう?」
気まずくなった玉座の間を、明るくするような間延びした声で笑う小柄な老人、《金剛智略のダイトル》は、その亀に似た顔を王に向ける。
王は、少し考えるそぶりを見せると立ち上がり、己に最高の忠義を尽くす四人の将を見下ろした。
「……アクエイド、それにゴブルとフレイアよ。我についてくるがいい」
王はそう告げると玉座の間を後にする。
「どうぞ、ダイトル殿、俺の腕へ」
「おぉ、悪いのゴブル殿……よっこいせ」
ゴブルがダイトルを抱える形で進み、フレイアとアクエイドがそれに続いた。
五人は王城の地下へと向かう。
ダイトルの配下である紋様を刻まれた騎士が守る扉を越えると、そこには大きな空間が広がっていた。
空間には蒸し暑い空気が漂い、辺りにはいくつもの巨大な穴が設けられ、穴には天井から鎖が滑車で下がっている。
何人かの研究員と思わしき格好をした者達が、その穴の周囲を忙しそうに走り回っていた。
「ここは……?」
「王城の地下にこんな空間が……ダイトル殿、いったいここで何を?」
「ほっほっほ、さてさて何かのう」
とぼけて笑うダイトルと先行する王を見比べ、三人は顔を見合わせる。やがて、穴の手前で立ち止まった王に追いつくと、王は穴の中を指差した。
ダイトルを降ろし、ゴブル達が穴を覗くと、そう深くない辺りで、白い粘着質の液体が蒸気と共にゴボゴボと泡をたてている。
「これは一体?」
その時、王の下へ研究員の一人が走り出て平伏する。
「恐れながら申し上げます! 三番坑…こちらの穴より間も無く引き上げを行います。周辺は大変危険ですので、どうかお下がり下さい!」
その言葉を受け王と五聖輝将が穴から離れる。
十分な距離を離れると、天井に吊るされた滑車が術式で回転し鎖が上昇していく。
やがて、ピンッと張った鎖と共に白い何かが現れた。
それは……白くツルリとした肌を持つ巨人だった。
「こ、これは!? ……まさか、魔装甲冑の素体か?」
「うむ、流石はゴブル殿。いかにもこれは魔装甲冑の中身、ただし誕生したばかりの、じゃがのう」
「しかし、あのように白い素体は聞いた事が……ダイトル殿、今何と?」
「誕生したばかりの魔装甲冑の素体、そう言ったのだよ」
「ありえません!」
ダイトルの言葉にアクエイドが叫ぶ。
隣のフレイアも目を見開き、運ばれつつある白い素体を見つめている。
「魔装甲冑、その素体は神代の遺跡からのみ発掘される兵器。産み出すなど……」
「若いのう……己が常識に捕らわれては進歩は無いぞ、アクエイドよ。魔装甲冑が発掘でしか入手出来ない……それは古い考えじゃ。儂等は魔装甲冑を、それもより強力な白き魔装甲冑を産み出す技術を手に入れたのだ! さあ、陛下に続き奥に進もうではないか」
既に歩きだした王に慌てて付き随い、広間の突き当たり、精緻な彫刻がなされた重厚な扉を控えた騎士に開けさせる。
その部屋はまるで神殿の様に荘厳な造りだった。
否、真の意味で神殿だった。
部屋の奥、数段高くなった床の上には、巨大な純白のドラゴンが眠っているように座り込んでいた。
ドラゴンの体からは白く脈打つ管が、地下へと伸びている。おそらくは、あの穴へと繋がっているのだろう。
「……ま、まさか……このドラゴン……いやこのお方は……」
その身から溢れる威光に照らされ、ダイトルを含めた五聖輝将の四人は平伏する。
「我が五聖輝将達よ、これが今すぐ邪龍を討たぬ理由だ」
四人に向かって静かに獅子王が語る。
強い光が宿るその瞳には、普段の気怠げな様子は微塵も存在しなかった。
「邪龍が目覚めたように、我等が光龍様もお目覚めになられた。そして、命と創造の源である光龍様のお力で産まれし神の大軍勢と共に、我等聖光龍帝国は邪龍を含む全ての悪しき者達をこの世から滅するのだ! なればこそ、今は邪龍を捨て置き、我等が力を神の座へと高める時ぞっ!!」
静かな口調から一転、力強くなった主の言葉と気迫に、平伏した五聖輝将達の体がビリビリと震える。
その姿を白龍の影で見つめている者が居た。
白き鎧に身を包み、白龍を模した兜で顔を隠したその騎士は、やがてそのまま溶け込むように白龍の中へと消えていった。




