1→2 ①
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「タツヤさん、朝ですよ~、起きてくださ~い」
「んあ?……ん、ん~!! ……ふぁ、おはようリミル」
リミルに揺り動かされ目覚める。
ここはヤルバ爺の炭焼き小屋だ。俺達は昨夜ここに着き、簡単な食事だけしてすぐに眠ってしまったのだった。
「まあ、あれだけの大立ち回りをしたんだ。マスターが疲れているのも無理ないんだが……我がマスターならばもう少し、こう……シャキッと出来ないものか」
「ふふ、イオス様。タツヤさんは普段からこんな感じですよ?」
リミルとイオスが楽しそうに会話している……ん? リミルとイオス?!
目の前のリミルはイオス(黒リミル)ではなく、いつも通りのリミルだ。
「我ならば、ここだよマスター」
リミルの頭の上から、小さく手のひらサイズにディフォルメされた、黒いリミルが顔を出した。二頭身フィギュアのような体で、よっこいしょと小リミルがリミルの頭の上に立つ。
「ひょっとして……イオスか? どうなってるんだ?」
「うむ、我とリミルは既にニ心同体とでもいうべき状態なのだが、常に片方しか表に出れんからな。それでは不便だろうと、我が体の一部を使い作ったのだ」
小リミル……イオスが胸を張りドヤ顔を決める。
「我そのものは、依然としてリミルの中だが、こうして外の我が体を操れば、二人とも表に出れるのさ」
ビシッと指差してきたイオスを、差し出した手のひらに乗せしげしげと眺める。
「何というか……ちんまくて可愛いな」
「ですよね! イオス様、可愛いです!!」
「ふふん、そうだろうそうだろう!!」
二人に褒められてご満悦なイオスをリミルの頭に戻していると、小屋にヤルバ爺が入ってきた。
「ヤルバ爺、おはようございます」
「おはよう、タツヤ殿。では朝食にするとしようかの……リミル手伝っておくれ」
ヤルバ爺の言葉に促されリミルと俺も手伝い、朝食の準備をする。
朝、ヤルバ爺が術式で捕まえてきた魚を炭火で焼いて美味しくいただきました。
「さて、これからについてなんじゃが……」
食事を済ませるとヤルバ爺が口を開く。
「このままここに居れば、いずれ再び帝国兵の部隊が大挙して来るだろう。黒龍様が目覚められた今、儂達がこの地に留まる理由も無い……そこで、黒龍様達には隣国ミンバの首都へ向かっていただきたい」
「ミンバ……確か西方にある」
「左様。ミンバの首都ブエラリカには、儂の旧友……いや悪友かの? とにかく、リズという者がおる。その者を訪ねてもらえれば、帝国といえど簡単には手出しできんだろう」
「それはわかりました……でも、お爺ちゃんは?」
「そうですよ、ヤルバ爺。まるで自分は行かないみたいな口ぶりですけど、一緒に行くんですよね?」
リミルと俺の言葉に、しかしヤルバ爺は首を振る。
「儂はこのまま帝国に潜る」
「……間諜か?」
「はい、黒龍様。あれだけの魔装甲冑と、何より帝国最高の戦力である五聖輝将を動かす……只事では無い何かが、帝国内で起こっていると考えてまず間違いありますまい……それにもしかしたらタツヤ殿にも関係する事やもしれないしのう」
ジッとヤルバ爺がこちらを見つめる。
「俺に……?」
「うむ……タツヤ殿が森に現れて四日、あの規模の部隊ならば帝国王城より森まで約三日……部隊編成等を考慮すると、のう?」
「確かに……だったら、尚更俺達も一緒に!」
思わず身を乗り出す俺を、ヤルバ爺が手で制す。
「儂は三賢の一人、水のヤルバ。水の如く変幻自在の技の中でも、結界・隠匿・変異を最も得意とする術者じゃ。儂一人ならば、帝国内でもいくらでもやりようがある。それとも…タツヤ殿は、あのボガードなる強者と同じ五聖輝将の残り四人、戦っても常勝出来るとお思いかな?」
「それは……」
ボガードの並外れた強さを思い出し俯く俺にヤルバ爺が笑う。
「ほっほっほ、物事全てには役割がある。黒龍様の操手であるタツヤ殿、黒龍様の巫女となったリミル。二人には二人にしか出来ぬ事を、二人がせねばならぬ事をしなされ……タツヤ殿、リミルをよろしく頼みます」
「わかったよ……ヤルバ爺」
「お爺ちゃん……私もわかりました。でも、絶対に無理しないでね」
リミルがヤルバ爺の右手を両手で包むように握る。ヤルバ爺はその手を左手で握り微笑んだ。
「ヤルバ、ならば一つ伝えよう。昨夜からずっと、この小屋を遠巻きに帝国の兵どもが監視している」
「ほ、本当か!? イオス!」
「ああ、あくまで監視だけのようだがな。我が居る以上、簡単に手を出す事はないだろう……しかし、単独行動をしようというならば話は別だ。術式で隠れるなら、この小屋を出る前から身を隠すんだな」
「なるほど、御助言感謝いたしますぞ。では、皆準備をするとしよう」
◆
「では、黒龍様、失礼します。タツヤ殿、リミル、達者でな。術式発動、霧隠れ!」
準備を整え、ひとしきり別れの挨拶を交わすと、ヤルバ爺が隠匿の術式を発動する。
ボガードとの戦いでリミルが発動した術式のように、ヤルバ爺から霧が出たかと思うと、ヤルバ爺の体ごとすぐに消えた。
「見事。さて、我等も出立するとするかな」
「はい、先ずはここから最寄りのノーバ村に向かい、ヤグを買いましょう」
「確か、歩いて三日くらいのところにあるんだっけ? ヤグってのは?」
「ヤグは……えっと……大きな獣で、繋いだ車に人荷を積んで運んでくれるんです」
なるほど、馬と馬車みたいなものか。確かに国境を越えて首都までってのは、何か足が欲しくなるな。
黒龍じゃあ、道中大騒ぎだし馬車…いやヤグ車は必要だ。
そうして、俺達はノーバ村に向かって出発した。




