男装女とケーキと赤毛
やっぱり主人公以外の視点難しいです。
赤毛視点死ぬほど時間かかりました。性格が定まりません。
先程のケーキを追えば、そこは所謂デザートコーナーでした。
色も種類も様々なスイーツ達が私を手招きしています。
「うわぁぁぁ…!!」
感動するあまり思わず声を洩らしてしまいました。
まあ、男装してはいるのですが、一応私も女の子ですからね。甘いものは好きなんです。
さて、どれから食べましょう。
ふふ、と小さく笑いそれらを眺めていたのですが、よくよく見ればここら辺は女性ばかりが集まっていて、男性の人数は全体的に見ても少ないです。
甘いものばかりですもんね。でも私は気にしません。
むしろ男の人って苦手ですから、落ち着きますし、ね。
今日は好きなだけ食べられますから
…片っ端から食べていきますよ!!
乾いた唇をぺろりと舌で湿らせ、近くにあったシフォンケーキみたいなものを手に取ります。ふわふわの生地にクリームがたっぷり添えられていて、中々美味しそうです。
意外なことにシフォンケーキはあまり人気が無いようで、他のケーキやお菓子と比べて数量が余っています。
人気があるのはフルーツケーキとか、飴細工とか見た目に楽しいものばかりですね。
貴族のお嬢様ってキラキラしたものばかりに囲まれているからシンプル…というか、他のケーキに比べて地味なシフォンケーキは見向きもされないのかもしれません。
美味しいのに勿体無いですよね〜。
もくもくと口にケーキを運びつつそんなことを考えながら女の子達を眺めていると、その中の一人と目が合ってしまいました。
……う、気まずい…
いきなり目を反らすのも不自然な気がして曖昧に微笑めば、その彼女はぽっと顔を赤くしてふらりとよろめいてしまいます。
あ!
「大丈夫ですかっ?」
もしかしたら貧血かもしれないと駆け寄って肩を支えれば体からは益々力が抜け、彼女はしゃがみこんでしまいました。
「あ、えと…っ」
返事もなくどうすれば良いか分からずわたわたと狼狽えていると、「あー…」という声と共に頭上に影が差してきました。
「あのなー…女の体はそう簡単に触るもんじゃねえよ…」
「?」
呆れたような声に顔を上げれば、そこにいたのは見知らぬ男性でした。
頬に傷がある、燃えるような髪色をした男性はしかしその髪色とは対称的に、冷めたような気怠げな雰囲気をしています。前髪は後ろに向かって流されています。撫で付ける、と言うのとは少し違う、どちらかと言うと適当に掻き上げましたって感じの髪型の人です。
簡易的な鎧を身に付け、腰に長剣を携えていることから警備兵であるとわかりました。
ふうとため息を一つ吐いたその人は近くの使用人さんに、しゃがみこんだ彼女の介抱をてきぱきと指示しています。そして彼女に合わせてしゃがんでいた私の体を片腕で助け起こしてくれました。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいいから。えーっと…あんたがクリスで合ってんだよね?」
「うえっ?あ、まあ」
礼を言ったのに何故かそんなことを訊かれて、間抜けに返事をしてしまいました。
というか、何でこの人は私のことを知っているのでしょうか?
……自分の知らない所で勝手に自分のことを知られている、というのは、あまり良い気分じゃないです。
まあ、それを言う度胸なんて私にはありませんけどね。
「少しあんたに訊きたいことがあるんだけど、時間取れるか?」
「えと…訊きたいこと、ですか?」
私、何かしましたっけ?今までの行動を振り返ってもそれらしいことは無いと思うのですが。
……もしや男装がバレた?
うわー…結構完璧に男を演じてたと思ったんですけど。今後男装してはいけません!なんて言われたら私の楽しみ…ではなく、独身計画が台無しになってしまうじゃないか!!
「まあ、そんなに気を張らないで。今日はあんまり時間を取るつもりないからさ」
強ばった顔をしていたのか、赤毛の警備兵さんは親しげに私の肩を数回叩きました。
その反応に、私はほっと安堵の息を洩ら…すわけがありません。
だって、今日はって言ったんですよ?今日はって。
え、何ですか?私ってこれからも何度かお呼びだしがあるんでしょうか。
男装ってそんなに罪になることなんですか?
でもアイリス様には喜んで頂けたそうなのですが。……あ、そうだ
「あの…」
「何?」
「わ、私、アイリス様にまだご挨拶していないんです。」
「後じゃいけないのか?」
「…兄様……兄と一緒に伺う予定だったので…」
「兄…って、あんたと痴話喧嘩してた奴?」
「はっ、はい」
本当、何で知ってるんだろ?
「そいつにも関係ある話なんだけどな」
え?
いつの間にか俯きがちになってた頭を持ち上げてその表情を伺えば、警備兵の男性はにんまりと笑いました。さっきまでどこか眠そうだったのですが…
「俺は面倒なことは嫌いだからさ、厄介事は早く片付けたいわけだ。」
「わかるだろ?」と、そう言った警備兵さんはちょいちょいと手招きすると、クルリと踵を返し歩き出しました。
…うぇ、付いてこいってことですよね?
話し合い、するんでしょうか…やだなぁ、話あんまり得意じゃないのに
たらー、と流れた汗を兄様が用意してくれたハンカチで拭います。
歩きだした私の頬には、何だかやたら冷たい風が当たったように感じました。
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あの色男と痴話喧嘩をしていたクリス、という奴は、白いタキシードを着ているらしい。長い銀髪を後ろで結んでいると言った。
まあ、そんだけ特徴あったら見付かるだろ。
くあ、と欠伸を一つして、目撃情報を確認しつつうろうろしていたら段々甘味ばかりが置いてある一角に変わってきた。
流石にここらは甘いものばかりだからか男が少ない。
女の数ばかりあんまりにも多いもんだから、どぎつい香水の匂いが混ざりあって胸焼けを起こしそうだ。
自ら進んでこの中に入るとかどんな勇者だよ…
まあその数少ない勇者のほとんどは甘味に集まる令嬢が目的だが。人脈を広げるためとか、ただ単にやましい気持ちで近付いたりとか、理由は様々。
本当に少数ではあるが、甘味目的で足を運ぶ者もいることはいるんだけどな。
そうでもしないと人脈を広げることも女を捕まえることも出来ないという辺り、群がった男共の実力がどれ程のものか窺える。
…なんだ、そいつは女漁りでもしてんのか?
未だ見ぬクリスの姿を思い描き、どうせろくでもない人間なのだろうな、と再度ため息を吐いたところで
……目的の人物が見つかった。
銀の長い髪を後ろで結び、白いタキシードを着ていたりと、特徴が一致している。恐らくこいつがクリスだろう。
やたらと周りの視線を集めているがそれに本人が気付いた様子は無く、辺りの甘味を眺めて歓声を上げている。
上気した頬でうっとりと甘味を眺める様を目にした令嬢は瞬時に顔を真っ赤に染めたり、またその表情を凝視しているにも関わらず、だ。
いっそわざと気付かない振りをしているんじゃないかと思わずにはいられない。
……なんだ?女を漁りに来たんじゃないのか?
見目はかなり良いだろう。男の俺でも思う。ここに呼ばれるならそれなりに力のある貴族であるはずだが、「見目の良い銀髪の、クリスと言う名前の貴族」の話は噂に聞いたことも無い。
怪しい。実に怪しい。
そうは言っても、見付けてしまったものを無視する程、与えられた仕事に無責任な訳ではない。
「あーぁ…」
ため息を洩らした後で、ふわぁと大きく欠伸をする。
俺は回れ右をして今すぐ戻りたい気持ちをぐっと抑え、クリスと言う謎の男の方へと歩き出した。
ふと、自身の利き腕が無意識の内に腰に掲げた剣に添えられているのに気付く。
どうやら俺は思ったよりも用心深い性格らしい。
赤毛の名前が未だに出てこない畜生。




