男装女と兄と警備兵
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今日は国王の二女、アイリス姫の18歳の誕生日、成人の日です。
国王と王妃はアイリス様が目出度い席を楽しく過ごせるように彼女に年の近い有力貴族の子女子息のみを招待し、ダンスパーティーを開き。
私と兄様もそれに呼ばれました。
あ、ちなみに現在私は十七歳、兄様は二十二歳です。
……それは良いとして
「兄様、この国の人達は馬鹿なんですか?」
「こら、あまり滅多なことを言ったらいけないよ。」
グラス片手に、途方もない広さを誇るホールを見渡し呟きます。
私の肩を軽く叩き形だけしか咎めないあたり、兄様も何故私がそんなことを言っているのか分かっているのでしょう。
「…ここの警備は穴だらけですよ」
そう、このホールの警備は穴だらけなのです。
出入口には二人、ホール内にも等間隔で警備兵がいます。
人数も十分で一見するとしっかり警備できているように見えます。が、ホール内に来るまでの廊下にはほとんど警備兵が見当たりませんでした。
ホール内へ入る時も、チェックは適当でしたし。
何よりベランダを覗いた時に一人も警備兵が見当たらなかったのです。
いくら王城の敷地内だからと言ってこんなんじゃ誰が入り込んでもわからないですよね。
……私は、自分の身は自分で守れますが。
自衛手段を持たない貴族の人たちはどうなるのでしょう。
「ほらまた、そんな浮かない顔をして。」
「え?」
思わず自分の顔に両手を当ててしまいます。
浮かない顔…をしてたのでしょうか。自分では笑っていたつもりなのですが。
「王城のパーティーは初めてだろう?折角だし、楽しまなきゃね」
するり、と肩に置いた手を腰まで滑らせる兄様の、手の甲を叩きます。
ええ、私今、男の格好してるんですけどね。
「セクハラですよ」と訴えれば茶目っ気たっぷりにウインクされました。
あぁぁぁ…もう、ただでさえ兄様の側にいると目立つのにそんなことしたら余計目立つじゃないか!
兄様は自業自得として、私にホモ疑惑が浮上したらどうしてくれよう。
そんな私の心情を知らずに、兄様はさっさと頭を切り替えたようです。ぐぬぬ…
「それじゃあ、アイリス様に挨拶をしに行こうか?」
「……わかりました」
先程のことは無かったかのように話題転換されてしまいました。
パーティーに参加した際は、一度主催者、主役等に挨拶に行くのが暗黙のルールです。まあ、そうでない場合もありますが。
ましてや今回はこの国のお姫様が主役ですからね。
しかもなんか父様が、私は男装してくるというのを報せちゃったらしいのです。
面白がった姫様が「是非お話しがしたいわ!」と言ったらしいから、しっかり顔を見せないと下手したら反逆罪になります。
ちくしょー、父様が何も言わなければ男で通すつもりだったのにー
なんて、文句いっててもしょうがないですよねー…。
ふう、と小さく溜め息を吐いてホール内を見渡します。
夕食も兼ねたこのパーティーは立食形式で、ホールのいたる所に料理が並べられています。
どれもこれも一流の料理人が腕に寄をかけてつくったものばかりで、見た目は勿論味も凄く美味しい……らしいです。
残念ながら私はまだ食べていないのですが。あ、あそこのケーキ美味しそう。
「…………」
「どうしたの?クリス」
黙ってしまった私を訝しく思ったのか兄様が体を少し屈めて私の顔を除き込んできます。
「……兄様、先にアイリス様の所へ行ってください」
「え?」
「私は少し用事が出来ました。」
それだけ言うと私は兄様の返事を待たずに踵を返しました。が、兄様は私の肩を掴み引き留めてきます。
ええい離せ!私にはやらねばならないことがあるんだ!!
私の肩を掴む兄様の手を引き剥がそうとしたら、手首を掴まれて動きを阻止されてしまいました。
悔しいことに、やっぱり女の身は男の力に敵わないようで、ふりほどけません。
「兄様!」
「一人で動き回っては駄目だよ。」
「危ないからね。」と付け足した兄様に少しムッとしてしまいます。
シスコン兄様は私のことを子供扱いするのです。
自衛だって出来ますし、いつまでもか弱い妹ってわけじゃないのに。
「電撃」
「いっ…!!」
私が呟くと、兄様が勢い良く手を離しました。
初歩的な雷属性の魔法を使っただけなのですが、それでも手を離させるには十分だったようです。
「竜巻!」
続いて兄様の足元に小さな竜巻を発生させ、動きを阻害します。
兄様が口を開き何か言おうとしましたが、気が立っていた私はそれを遮るようにして
「私はいつまでも子どもじゃないんです。兄様に頼らなくても自衛できます!」
そう言い、返事を待たずに歩き出しました。
兄様が悲しそうに顔を歪めたのを見て、可哀想だったかもしれない、と少しだけ後悔したのはしょうがないことだと思います。
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クリスティーナこと、クリスが去った後、
「ティーナ…」
クリスの後ろ姿を見つめていたニコロは、きゅっと唇を噛んだ。
考えれば、もう来年には成人を迎える彼女だ。自分の態度は彼女の自尊心を酷く傷付けることだったのかもしれない。
気持ちが沈むと自然俯きがちになり、見えない風に拘束された自身の足に目が行った。
「……ティーナは、僕のことが嫌いになったのかな」
誰にともなく呟いて、その考えを掻き消すように頭を振る。
「そんなわけない!ティーナが僕を嫌うなんてそんな、そんなこと…!!」
嘆くニコロは、クリスと言い争っている辺りからずっと注目を浴びていたことに気付かなかった。
並々ならぬ美男子二人がまるで痴話喧嘩のようなやり取りをしているのを見た一部の貴族の子息が、修羅場に発展してはいけないと警備兵を呼んでいたことにも勿論気付かなかったし、その警備兵が漸く人垣をすり抜け、ニコロの方へ向かって来ていることにも気付かなかった。
「あのー、ちょっと良い?」
声をかけられやっとその存在に気付いたニコロが、のろのろと視線を上げればそこには気まずそうに頭を掻いた警備兵がいた。
頬にある、斜め上に耳の辺りまで伸びた傷痕が印象的な赤毛の男だ。
「ここで痴話喧嘩があったって聞いたんだけど、あんただよね?」
「痴話喧嘩…恐らく、僕で合ってると思うよ」
弱々しく笑ったニコロは先程頭を抱えて取り乱していた人物と同じには見えない。
元が美形なだけに儚げな美しさを醸し出し、野次馬と化した貴族の少女達は顔を赤くしたり甘い溜め息を洩らしたりしていた。
時たまその中に男も混じってる辺り、彼がどれ程人を惹き付ける容姿をしているのか窺える。
しかし取り乱したニコロを遠目に見ていた警備兵はさして心配する素振りも見せずに首を傾けた。
「もう一人は何処行った?」
「テ…クリスのことかい?」
「そうそう、そのクリスっての。」
「クリスは一人で…、そうだ君!!クリスを追い掛けてくれないかなっ」
「な、何で俺が」
突然弾かれたように生気を取り戻したニコロに、若干引き気味になりながらも警備兵が答える。
「僕は今ここから動けないんだ。風に込められた魔力が無くなるまでね」
「は…?」
意味がわからないという表情をした警備兵が下がっていくニコロの視線を追うと、その足元に行き着いた。
風も無いのにズボンの裾がパタパタと揺れていることから、魔法が働いていることがわかった。
それを見た警備兵は瞳をこれでもかと言う位大きく見開き驚愕して、
「うっわ〜……」
次いで心底嫌そうに額に手を置いた。
「えーと、申し訳ないけど…そのクリスの特徴と、行った場所にアテがあったら教えてくれない?」
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「あーあ、厄介なモン見付けちゃったな……面倒臭いことにならなきゃ良いけど」
赤毛の警備兵はやる気なさそうにそう呟いたが、一度胸に渦巻いた不安は募る一方だった。
兄様好きです。でも主人公視点じゃないと描きづらいです…むむ




