アリサと赤いドラゴン
蝋燭は大きな影を二つ作り出していた。
ローレルはうんざりするように、その影をにらみつける。
「そろそろ君は結婚をするべきだと思うよ。」
村長のグリーは大きく手を振りあげながらローレルに力説する。
「そもそも、神聖な教会に魔女なんぞを住まわせることがおかしいんだ。君の優しさはわかるが、おかげでこの教会には人が寄りつかないじゃないか。」
ローレルは憮然として村長の話を聞く。
なるほど、確かにこの教会には人が寄りつかない。
町の教会に比べて貧乏なことには違いがない。
魔物や魔法使いの住む町との境界線に近い場所にたつこの教会はただでさえ、祈りにくる人間はごくわずかであった。そのわずかな村人さえ、今は町中の教会に祈りに行くようになっている。
今の教会の収入はローレルが稼ぐ僅かな悪魔払い料と、アリサが作り出す薬の収入に僅かばかり配られる公費のみだ。
それでもこの教会がやってこれたのは、ローレルの悪魔払いの確かな腕と、アリサの薬のおかげだった。
「町長の娘さんは、それは美人と噂だ。それに、君もこんな僻地にいるにはもったいない腕を持っているんだ。
町の大教会の神父になることも夢ではない。」
ローレルは曖昧に村長に笑い、そのうち考えますと伝えた。
教会から湖に向かいながら、アリサは悲しい気分になった。
自分の存在がローレルの足手まといになっているのはずっと前からわかっていた。
本当はローレルの腕だったらグリーの言うとおり、こんな辺境の教会ではなく、町の大教会の神父でも全くおかしくはないのだ。
そんなことを考えながら歩いていると、アリサの髪の毛に冷たくて、堅いものがぶつかった。
アリサは驚いて頭を押さえて振り返ると、村の子供たちが
泥団子を片手にアリサを指さしている。
アリサの燃えるような赤毛は泥で酷い状態になっていた。
それを村の子供たちは笑っていた。
「おい、赤毛の魔女を退治するぞ!!」
身なりの良い新顔の男の子が村の子供たちに指示をする。
町に住んでいる子供なのかもしれない。
村の子供たちも、魔女狩りという残酷な楽しみを喜んで享受した。
魔女を倒す自分たちは勇者になるのだと。
アリサはろくに使えない魔法で、ワープをして逃げるしかなかったのだ。