泣いている暇はない
[ナレーター]
すべてはまだ暗いままだったが、突然、奥のほうに光が現れ始めた。
一人の女性が叫びながら、痛みにうめく声が聞こえていた。
[????]
さあ、いきんで!
[ナレーター]
少しずつ、タスキは光に近づき始めた。叫び声はどんどん大きくなっていった。
突然、すべてが真っ白になった。
[????]
生まれたぞ!
[ナレーター]
突然、赤ん坊の泣き声が聞こえた。
タスキの視界はぼやけていて、何が起きているのか、彼にはほとんど見えなかった。
[????]
ははっ、俺たちの赤ちゃんが生まれたぞ。ほら、見てくれ。俺たちの息子だ。
[ナレーター]
赤ん坊を腕に抱いていた父親は、母親に渡そうと彼女のそばへ近づいた。
[母]
私の赤ちゃん……
[ナレーター]
母親はその子を見つめながら微笑み、優しく体を拭き始めた。
[母]
あなたの名前、もう決めてあるの。
うーん……あなたの名前はエリュスよ。
たった一人でドラゴンを倒した皇帝と同じ名前。強くて、力があって、勇敢な人。
[父]
俺たちの赤ちゃんにぴったりの名前だな。
[ナレーター]
タスキの心の中では……
[タスキ(心の声)]
ここはどこだ? なんであの女の人は俺を息子なんて呼んだんだ?
じゃあ……俺は本当に生まれ変わったのか? あの魔女が言ってたのは、こういうことだったのか?
この体、すごく変な感じがする。うぅ、腹が痛い。腹が減った!
なんとかして気づいてもらわないと。死にたくない。
[ナレーター]
突然、赤ん坊は泣き始めた。
[母]
ほらほら、泣かないで。ママはここにいるわよ。
[ナレーター]
母親は小さなわが子に、甘く優しい歌を歌い始めた。それから彼女は赤ん坊を腕の中に抱き直し、お乳をあげ始めた。
[タスキ(心の声)]
なんて綺麗なおっぱいなんだああっ!
落ち着け、タスキ! 新しい母親だぞ! 失礼にもほどがある!
でも……母乳ってこんな味なのか? 悪くないな。まあ、結局のところ、俺は赤ん坊なんだし。
でも、なんでこんなに目を開けてるのがつらいんだ?
いや、いや、いや……まさか、死ぬなんて言わないよな!
目を閉じたくない。タスキ、頼む、閉じるな!
家族を救いたいんだ。死にたくない、頼むから……
[ナレーター]
少しずつ、エリュスは泣きやみ、母親の声を聞きながら眠りについた。
しばらくして、すべてが再び暗くなった。
数時間が過ぎた。
突然、激しい雷鳴が聞こえ始めた。外ではひどい雨が降っていて、ときおり、風のせいで家の屋根が吹き飛ばされそうに思えるほどだった。
エリュスは目を覚ました。
[タスキ(心の声)]
何が起きてるんだ?
生きてる!
なんで俺、死ぬなんて思ったんだ? 考えすぎだな。疲れるのは当たり前だ、まだ赤ん坊なんだから。
すごい雨だな……それに、めちゃくちゃ寒い!
なんでこんなに何でも大きく聞こえるんだ? 体は動かせないし、俺にできるのは泣くことだけだ。
まあ、少なくとも綺麗な母親がいるけどな。へへへ。
くそっ! なんでまた腹が減ってるんだ?
まあ、しょうがない。泣くとするか!
[ナレーター]
タスキは泣こうとしたが、突然、自分のよだれでむせてしまった。
赤ん坊はパニックになり始めた。
[タスキ(心の声)]
いったい何がどうなってんだよ!?
[ナレーター]
赤ん坊の体は必死にもがき始めたが、泣き声は一つも出せなかった。
[タスキ(心の声)]
いや、いや、いやだ! なんで息ができないんだ!?
[ナレーター]
タスキは心の中で必死に泣き叫び始めた。しかし、彼の小さな体からは、わずかな涙しか出てこなかった。
[タスキ(心の声)]
しっかりしろ、赤ん坊! 頼む、息をしてくれ!
頼む! そのよだれを出せ! なんで息ができないんだよ!?
あああああああああああっ! 死にたくない!
[ナレーター]
赤ん坊の体は、だんだん動かなくなっていった。少しずつ反応しなくなり、空気が足りないせいで、その肌は青みを帯び始めた。
タスキは完全にパニックに陥っていた。彼はどうすればいいのかわからず、心の中で叫ぶことしかできなかった。
異変に気づいた母親が、急いで近づいてきた。
タスキの視界はぼやけ始め、音はどんどん遠くなっていった。
彼にかろうじて聞こえたのは、必死な母親の声と、同じようにおびえている父親の声だけだった。
[母]
エリュスっ! 返事してええええっ!!!
[ナレーター]
母親はすぐに赤ん坊を腕に抱き上げ、助けようとし始めた。赤ん坊が反応しないのを見て、彼女は恐怖に飲み込まれた。
数秒間の苦しい時間のあと、赤ん坊は突然咳き込み、再び息をし始めた。
叫び声を聞いて駆けつけていた父親は、すっかりおびえて立ち尽くしていた。
エリュスは必死に泣き始めた。
[タスキ(心の声)]
もうここから出たい!
こんな体いらない!
なんで普通に異世界転移じゃダメだったんだよ!?
この体が大嫌いだ! 俺はただ、もう一度家族に会いたいだけなんだ!
死にたくない!
頼む、誰か聞いてくれ!
ラヴェリス、みんなを救えるって約束しただろ!
こんなところで死ねるかよ!!!
[ナレーター]
母親は再び赤ん坊を腕に抱き直し、落ち着かせるためにお乳をあげ始めた。
しかし、彼女の顔にはまだ恐怖が残っていて、わが子を抱く手は震えていた。
起きたことを目にした父親は、心配を抑えきれなかった。
[父]
もっとちゃんと赤ん坊を見てなきゃダメだろ!
[母]
じゃあ、あなたは何なのよ!? この子が死にかけてるとき、あなたは何をしてたの!?
私が夕食を作ってる間、あなたは剣を研いでただけじゃない! 私、子どもを産んだばかりなのよ!
恥ずかしくないの!?
[タスキ(心の声)]
二人とも黙れ!!!
二人とも俺を見殺しにするところだったんだぞ!!!
[父]
悪かった、な? 実は結界の一つが働かなくなって、何があったのか見に行かなきゃならないんだ。
だから剣を研いでたんだ。何かあったときのために、備えておきたかった。
これからはもっとこの子を気にかけるって約束する。でも、お前とこの子に無事でいてほしいなら、俺が二人を守らなきゃならないんだ。
頼む、結界の一つに何が起きてるのか見てくる。お前は赤ん坊を見ててくれ、いいな?
帰ってきたら、俺がこの子の面倒を見るから。
[母]
お願い……行かないで。
[父]
ほかに道はないんだ。
心配するな。必ず帰ってくるって約束する。
[ナレーター]
父親は、守護の結界の力を回復させるための魔法の石を手に取った。
父親はそれを小さな袋にしまい、研いでいた剣も手に取った。
彼らの家は豪華ではなかった。石の壁に、藁と葦でできた屋根の、つましい家だった。
激しい雨のせいで、屋根からは小さな雨粒が漏れてくるほどだった。
村は小さく貧しかったが、村人たちは皆、互いに助け合っていた。
村を囲む森は、いくつもの守護の結界によって守られていた。
父親が家を出ると、結界に何が起きているのかを確かめに出てきた、別の村の男と出くわした。
二人は少し歩き、森のほうを見つめた。
[村の男]
あの声、聞こえたか?
結界に何かが起きてる。
どんな怪物だって、入ってこられるはずがないのに……
[父]
わかってる、でも……
[村の男#2]
危ない、後ろだ!
[ナレーター]
父親は振り向いて剣を抜き、飛びかかってきた一体の怪物の体の真ん中に、その剣を突き刺した。その怪物は灰色のしわだらけの肌に、長い爪と、鋭い歯がびっしり並んだ口を持っていた。
父親は剣を引き抜き、怪物がまだ生きているのを見ると、その頭を踏みつぶした。
[父]
どの結界が働いてないのか、探さないと!
二人一組に分かれろ!
[村の女#5]
助けて、お願い!
[父]
くそっ!
お前らは先に行け、ここは俺がやる!
[ナレーター]
父親は助けを呼ぶ声のほうへ走り出した。途中で何体かの怪物が彼に襲いかかってきたが、父親は一体ずつその首を切り落とし、道を切り開いていった。
叫び声のした場所に着くと、父親は扉を蹴り開けて家の中に入った。
そこで父親は、目の前に立つ一つの影を見た。その後ろでは、村の女が部屋の隅で震えていた。
それは背が高く細い怪物で、その腕は手が膝に届きそうなほど長かった。怪物の肌は焼けた肉のようで、ひび割れていて、内側から赤い光が漏れていた。顔の真ん中には黒い目が一つだけあり、頭には二つの黒いこぶがあり、口は顔に対してあまりにも大きかった。
[怪物]
おおぉ、まさかお客さんかい?……しかも、なんともうまそうな匂いのする客だ。
[ナレーター]
父親は剣を強く握りしめ、嫌悪の表情で怪物をにらみつけた。
父親は勢いをつけて、怪物に斬りかかった。怪物は彼のほうを振り向き、狂気じみた笑みを浮かべた。
[怪物]
いいねえええっ! 早くお前の肉を食らいてええっ!
[父]
黙れええええっ!
[ナレーター]
父親がたどり着いたとき、怪物は剣の刃を両手でつかみ、横へとそらした。
それから怪物は父親の手をつかみ、爪を食い込ませながら、血がにじむほど強く握りしめ始めた。
父親は怪物の力に驚き、怪物はそんな彼を狂った笑みで見つめていた。
怪物は左手で彼から剣を奪い取り、後ろへ放り投げた。そして怪物は右手で父親をものすごい力で殴りつけ、窓の外へと吹き飛ばした。
父親は外の泥の上、雨の中へと落ちた。
怪物は自分の手を見つめ、父親の血を眺めた。それから怪物はその手を口元に近づけ、舌でなめた。
[怪物]
絶品だ。
そういう遊び方をしたいってわけか……なら、可愛い子たちを出してやろう。
[ナレーター]
怪物はそう言いながら、背中に背負っていた二本の剣をつかんだ。
怪物は不気味な手つきで剣を指の間でくるくると回し、外で父親が立ち上がろうとしている間に、彼に向かって駆け出した。
[怪物]
逃げられると思ってんのかあ!? 絶対に逃がさねええええ!!!
[ナレーター]
怪物は父親の上に飛びかかった。
父親にはもう身を守る剣がなく、怪物の攻撃を防ぐために、ほとんど何もできなかった。
怪物が彼にとどめを刺そうとする直前、父親は目を閉じた。
そのとき、父親は剣と剣がぶつかり合う音を聞いた。
父親は目を開けた。
それは父親の友人の一人で、彼を助けるためにぎりぎりのところで駆けつけたのだった。
怪物は、誰かが自分の攻撃を止めたことに驚いた。
[父の友人]
ずいぶん困ってるみたいだな。手を貸してやるよ……
[怪物]
おおぉ、お前も遊びたいってわけか。なら遊ぼうじゃないか!
[父の友人]
本当に哀れな姿だな。見てるだけで吐き気がする。
[怪物]
そりゃいい! わかってくれて嬉しいよ。
[ナレーター]
父の友人は剣で攻撃しながら、怪物に飛びかかった。怪物はその一撃を受け止めようとしたが、男は相手の剣をそらし、腹に蹴りを入れて息を吐き出させた。
友人は攻撃を続けるため、怪物に向かって走った。怪物は二本の剣で身を守り、受ける攻撃を一つ残らず防いでいた。
戦いの最中、友人は素早く動いて怪物の腕をつかみ、自分のほうへ引き寄せてバランスを崩させた。それから友人はその場で回転し、怪物の顔に強烈な蹴りを入れて、地面に倒した。
友人は怪物の上にまたがり、その首に剣を突きつけた。
[父の友人]
これで終わりだ、このクズが。
[怪物]
お願いだ、殺さないでくれ! 頼むよ!
[ナレーター]
父の友人は答えようとしたが、突然、何かがおかしいと感じた。
彼が下を見ると、一本の剣の切っ先が自分の体を貫いていた。
彼は武器を落とし、血で染まり始めた自分の両手を見つめた。それから彼は、起きていることが信じられないまま、膝から崩れ落ちた。
[父]
デンジいいいいいっ! 嘘だあああああっ!
[ナレーター]
地面にいた怪物は、煙のように消えていった。それは、デンジをだまして命を奪うために怪物が使った、ただの分身だった。
デンジを貫いた剣の後ろから本物の怪物が姿を現し、太い声と恐ろしい笑みで話し始めた。
[怪物]
本当に、そんな簡単に殺されてやると思ったのか? ははははっ!
この匂いはたまらねえ……絶望の匂いだ。恐怖の、うまそうな匂いだよ。
[ナレーター]
怪物はデンジの体から剣を引き抜き、彼を放した。
デンジの体は力なく地面に倒れた。
デンジの目は開いたままで、絶望に満ちていた。そのまなざしからは、彼がまだ起きたことを信じられずにいるのが見て取れた。
デンジは、もう二度と妻にも娘にも会えないことを悟っていた。彼の顔には、一瞬ですべてを失った者の痛みが浮かんでいた。
[怪物]
さて、どこまで話したっけな?
ああ、そうだった。お前のことを忘れたわけじゃないぜ。
[ナレーター]
エリュスの父親は、死んだ友を見て膝をついた。
怒りに満ちた父親は、地面の草と土をひとつかみ握りしめた。その目からは、涙があふれ始めていた。
デンジはただの友人ではなかった。父親にとって、デンジは兄弟のような存在だった。
数秒後、父親は深く息を吸い込み、立ち上がった。
その近くには、怪物が村に入り込んだときのための非常用の剣が、何本も保管されていた。
父親はそのうちの一本をつかみ、怪物をまっすぐにらみつけた。
[父]
もううんざりだ、このクソ怪物が!
[ナレーター]
父親は上半身をわずかにひねった体勢で、怪物に向かって走り出した。
父親は剣を両手で背中の後ろに構え、その切っ先を地面すれすれに引きずっていた。
彼の顔は怒りに満ちていた。
怪物はただ狂った笑みを浮かべて彼を見つめ、次の動きを待っていた。
十分に近づいたとき、父親は勢いのすべてを乗せて、強烈な一撃を放った。
しかし、怪物はそれをかわした。
父親はあきらめず、二度目の攻撃を仕掛けた。
しかし、怪物は彼の背後に現れた。
父親はぎりぎりで気づき、振り向いて攻撃を防いだ。二本の剣がぶつかり合った。
二人が戦っている間に、雨はさらに激しく降り始め、雷鳴はどんどん近くで響くようになった。
怪物は後ろへ跳び、不気味な笑みを浮かべた。
それから怪物は全速力で父親に向かって走り、自分の分身をいくつも作り出して、彼を取り囲んだ。
[怪物]
ははははっ! さあ、どうやってここから抜け出す!?
[ナレーター]
父親は目を閉じた。
あの嵐の中で、父親は意識を集中し始めた。
父親は周りの音に耳を澄まし、すべての怪物の中から心臓の鼓動を聞き分けようとした。
父親にはそれが感じられた。
一体ずつ、父親は分身を除外していき、やがて左側から聞こえる、ただ一つの本物の鼓動を見つけた。
父親は目を開け、その方向へ剣を向けた。
父親は本物の怪物を見つけたのだ。
父親は、とどめの一撃を放つ構えをとった。
怪物が全速力で迫ってくる中、父親はデンジと過ごした楽しい思い出をすべて思い返した。
彼は二人の笑い声や会話、そして一緒に戦ってきたすべての日々を思い出した。
父親はまた、友の死を知らされたとき、その家族が感じるであろう痛みを思い浮かべた。
父親は剣の柄を強く握りしめた。
[父]
雷鳴破断!!!
[ナレーター]
突然、空がエネルギーで満ち始めた。
父親は剣を掲げ、空へと突き上げた。黒い雲を稲妻が照らす中、膨大な量の電気が刃に集まり始めた。
状況を見た怪物は、笑うのをやめた。
怪物は初めて、驚いているように見えた。
エネルギーはどんどん高まり、やがてあたり一帯がまぶしい光に包まれた。
父親は怪物に向かって走り、剣を両手で握ったまま、怪物めがけて跳んだ。
怪物は後ろへ下がろうとしたが、すでに遅すぎた。
とてつもなく強力な雷が空から父親の剣に落ち、彼の斬撃とともに、怪物を直撃した。
ドオオオオオオン!!!
その衝撃で、あたり一帯が揺れた。
光と電気の巨大な爆発が戦場を覆い、二人の足元の地面が裂けた。
光が消えたとき、地面には巨大な穴が残っていた。
怪物は、その攻撃によって跡形もなく消し飛んでいた。
父親はその場に立ったまま、荒い息をつき、まだ剣を握りしめていた。
数秒の間、父親は何も言わなかった。
父親はただ、怪物が消えた場所を見つめていた。
ますます激しくなる雨の中、巨大な穴を見つめていた父親は、血にまみれた友の体を目にした。
一言も発さずに、父親は凍りついたように立ち尽くし、その命のない体を見つめていた。
ほかの人々が彼に近づき、話しかけようとしたが、父親は答えなかった。彼は誰とも話したくなかった。父親はただ、雨の中を友の家に向かって歩き始めた。そこには友の妻と娘がいた。
父親は何も考えず、黙って歩いていた。ふいに父親は剣を地面に落とし、引き裂かれた心と、言葉では言い表せない痛みを抱えたまま、歩き続けた。
ついに、父親はデンジの家に着き、扉を開けた。
デンジの妻は、おいしい夕食を用意して、うれしそうに夫の帰りを待っていた。彼女はふと顔を上げた。そのとき、娘が扉のほうへ駆け出してきた。
[デンジの娘]
パパああああっ!
[ナレーター]
しかし、入ってきたのが誰なのかを見て、娘も母親も戸惑った。二人の前に立っていた男は、デンジではなかった。
父親はゆっくりと中に入り、友の妻の前まで歩いていった。そして、もう立っていられなくなり、父親は膝から崩れ落ちた。
[父]
デ……デン……デンジが……
[デンジの妻]
デンジに何があったの?
[父]
デ……デ……デンジは……
[デンジの妻]
いや……いや、いや……まさか……
[ナレーター]
父親はうつむいたまま、一言も口にすることができなかった。
[デンジの妻]
デンジは死んだの? そうなんでしょ? 答えて!
[ナレーター]
妻は必死に、答えを待って彼を見つめた。
父親は床に目を落としたまま、ゆっくりとうなずき、そうだと伝えた。
妻は片手で口を覆った。彼女の目には涙があふれ始め、やがてその喉から、引き裂かれるような叫び声がほとばしった。
[デンジの妻]
デンジいいいいいっ! いやああああっ! 私のデンジいいいいっ!
[デンジの娘]
ママ、パパはどうしたの? ママ、パパはどこ!?
[ナレーター]
娘は混乱していた。彼女には何が起きているのかわからず、怖かった。娘に聞こえるのは父親の名前だけで、父親に何があったのか、彼女にはわからなかった。
その間も、母親は胸に手を当てながら必死に泣き、何度も何度も夫の名前を繰り返していた。
彼女は耐えがたい痛みを感じていた。彼女は自分が聞いていることが信じられず、どう反応すればいいのかもわからなかった。涙が顔を伝う中、彼女の体は震え始めた。
[デンジの妻]
夫はどこにいるの! 教えて!
[ナレーター]
父親はゆっくりと立ち上がった。目を上げないまま、父親はデンジの体がある場所を指さした。
それを理解した妻は、娘を連れて雨の中へ駆け出した。彼女の足は泥の中で滑ったが、彼女は止まらなかった。
彼女は、すべてが嘘であってほしい、夫には何も悪いことが起きていないでほしいと願いながら走っていた。
彼女は怖かった。それは、夫を永遠に失ってしまったのではないかという、恐ろしいほどの恐怖だった。
その場所の周りには、多くの人々が集まっていた。家族と一緒にいる者もいれば、起きたことに涙を流している者もいた。
デンジの妻が娘を連れ、雨の中を必死に走ってくるのを見て、何人かの人々は彼女を通すために道を空けた。
人だかりのある場所に着くと、彼女は行く手を阻む人々を押しのけ始めた。
彼女は夫に会わなければならなかった。
彼女は、それが現実ではないことを、自分の目で確かめなければならなかった。
しかし、人だかりの中心にたどり着いたとき、彼女は夫を見た。
彼女の夫の体は、血にまみれ、地面の上で動かずにいた。
その瞬間、彼女は胸に刺すような痛みを感じた。まるで自分の中の何かが壊れてしまったかのようだった。
娘もまた、父親の体を見た。何が起きたのかをはっきりとは理解できないまま、娘は泣き出し、父親のもとへ駆け寄った。
妻はデンジの体のそばに膝をついた。震える手で、彼女は夫を見つめ、彼が動いてくれることを、目を開けてくれることを、もう大丈夫だと言ってくれることを待っていた。
しかし、デンジは動かなかった。
返事はなかった。
聞こえるのはただ、地面を打つ雨の音と、娘の必死な泣き声だけだった。
彼女は、周りの世界が崩れ落ちていくのを感じた。彼女はもう痛みをこらえることができなかった。ありったけの力を振り絞り、彼女は魂のすべてで叫んだ。
[デンジの妻]
デンジいいいいいいいいいいいいいいっ!
『Kizuna no Saisei』の最新話を読んでくださり、本当にありがとうございます!
まずは、次の話を投稿するまでに時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。今回の話はいつもより長く、執筆もかなり複雑だったため、完成させるまでに予想以上の時間がかかってしまいました。
それに、10月12日は僕の誕生日だったんです!笑 もうあっという間に2日も過ぎてしまいましたが、まだまだお祝いの言葉を受け付けています!笑
さらに、僕の住んでいる国では地震も発生し、今もまだ揺れが続いています。そんなこともあって、なかなか集中できず、執筆を進めるのも大変でした。
それでも、こうして皆さんに新しい話を届けることができて、本当にうれしいです。いつも待っていてくださる皆さん、そして『Kizuna no Saisei』を読んでくださる皆さんに、心から感謝しています。皆さんの応援が、この作品を書き続ける大きな励みになっています。
今後の更新情報を見逃さないように、ぜひXをフォローしたり、WhatsAppのチャンネルに参加したりしていただけるとうれしいです。新しい話の公開情報などもお知らせしていきます!
これからも『Kizuna no Saisei』をよろしくお願いします!次の話でまたお会いしましょう。この物語は、まだまだ続いていきます。
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