Lia
[アラーム]
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ……
[タスキ]
うぅ……また一週間、授業か。
[ナレーター]
タスキはベッドの上で体を起こし、時計を見た。
[タスキ]
今何時だ? くそっ、六時四十五分!? 遅刻する!
[ナレーター]
タスキは急いで浴室に駆け込んだ。始業の時間が迫っていて、彼にはもう一分も無駄にできなかった。
[タスキ]
くそっ、石けんはどこだ? あった! 俺の美しい体から逃げられると思ったか? あははは。
タタタタ〜♪
[ナレーター]
タスキは体を洗い終えると、できるだけ急いでシャワーを浴びた。
[タスキ]
はぁ〜、気持ちいいお湯だ。
[ナレーター]
目を閉じたまま髪を整え終えようとしたとき、彼はタオルを取ろうと手を伸ばした。だが、彼の手は何もつかまなかった。
[タスキ]
嘘だろ……タオル忘れた! くそっ、素っ裸で部屋まで行くしかないのか。
でも運よく、リビングにも台所にも誰の声も聞こえない。
だったら、出て、さっと歩いて、それで終わりだ。オーケー? タスキ、行くぞ。
[ナレーター]
タスキは勇気を振り絞った。よく考えたあと、彼はドアノブをつかんでドアを開け、走り出した。
しかし走っている最中、彼は床にほうきの柄が転がっていることに気づかなかった。
[タスキ(心の声)]
うわあああっ! ちくしょう!
[ナレーター]
タスキは、これ以上ないほど情けない格好で床に転んだ。
そのとき、話し声が聞こえた。何人かが少し顔をのぞかせ、素っ裸で床に倒れているタスキを見た。
その姿を見て、みんなが笑い出した。
そこにいた人たちの中には、彼の叔母もいた。母方の叔母で、遊びに来ていたのだ。その日、二人は一緒に出かけて、近況をのんびり話すつもりだったが、タスキの転倒ですべてが台無しになった。
[タスキ(心の声)]
くそっ……なんで俺ばっかり。
[ナレーター]
タスキはわずかに残ったプライドとともに急いで立ち上がり、体を隠しながら自分の部屋へ走って戻った。
[タスキ]
神様、なんで俺なんだよ? 走ってたら、ちょうどそこにほうきの柄があって、素っ裸で転んで、しかもちょうど叔母さんがいるなんて、どんな確率だよ?
うぅ……しかも遅刻寸前だし。急がないと。
[ナレーター]
そのあいだに、タスキはデオドラントをつけ、Tシャツ、シャツ、ズボン、靴を身につけ、最後に眼鏡をかけた。
それから彼はリュックを手に取り、恥ずかしさを抱えたまま台所へ向かい、持っていく朝ごはんを用意した。
準備が終わると、彼は一言も話さずに家を出た。リビングでは叔母が、さっきの出来事をまだ話していた。
タスキは急いで階段を駆け下りたが、下に着いたとき、バスがもう行ってしまったことに気づいた。
彼には自転車で行くしか選択肢がなかった。
自転車置き場があったので、彼の自転車は下に置いてあった。タスキはヘルメットをかぶり、急いで学校へ向かってペダルをこぎ始めた。
[ナレーター]
自転車をこぎながら、タスキは先週あったことを思い出していた。
[タスキ(心の声)]
今週はちょっと大変だった。まだ友達と呼べるような相手はできていない。
みんな負け犬ばかりで、話しかける価値もない。
ルシアにも番号を聞いたけど、メッセージに返事がない。一週間ずっと忙しかったのかもしれない……女の子っていうのはそういうもんだ。
それから、俺に執着してる、めちゃくちゃうざいやつにも出会った。変な子だ。
父さんの具合も、少し悪そうに見える。俺にも妹にも何も言わないけど、何かがおかしいのは分かってる。
夜中に、痛みでうめいている声が聞こえるだけだ。
それなのに俺は、漫画を読んでばかりだった。
なんてつまらない人生だ……でも、これが現実だ。
俺はそんなにかっこよくないし、眼鏡をかけていて、外すとよく見えない。
こんな人生、大嫌いだ。何ひとつうまくいかない。
それに、自分がこの家族の重荷になっている気がする。
それでも毎日もっと頑張ろうとしている。もう、あまり力は残っていないけど。
孤独……
家族の中で、俺には役目がない。重荷になっている気がする。
こんな気持ちになるのが、大嫌いだ!
俺は何ひとつ、ちゃんとできない!
[ナレーター]
ペダルをこぎ続ける彼の目から、一粒の涙がこぼれ始めた。
[タスキ(心の声)]
いつも失敗ばかりだ!
自分から誰かに話しかけようとしても、うまくいかない。
いいことをしても、誰も見てくれない。みんな、俺の悪いところしか見ない。
どうしてだよ?
俺が何を間違えたのか、分からない。
神様は、なんで俺を生まれさせたんだ?
死んでいればよかった……
こんな人生、最悪だ。
[ナレーター]
タスキはさらに強くペダルを踏み込んだ。胸の中のすべてを抑え込もうとしながら、彼はハンドルを握りしめた。
そのとき、彼の目に、遠くの何かが映った。
何人かの男たちが、一人の少女に絡んでいた。
タスキは数秒間、彼らを見つめた。
彼の中にあった怒りが、再びふくらみ始めた。
深く考えることもなく、彼はそこへ近づいた。
[タスキ]
その子に何してんだよ!?
[ナレーター]
若者の一人が振り返った。
タスキは近づき、胸の中の怒りをすべて込めて、その顔を殴りつけた。
若者は地面に倒れた。
ほかの者たちは、それを見て逃げ出した。
だが、タスキは止まらなかった。
彼は倒れた若者に飛びかかり、何度も何度も殴り始めた。
胸の中にあった怒りも、自分自身への憎しみも、長いあいだため込んできた悔しさも、そのすべてが一気にあふれ出した。
[タスキ]
女の子にそんなことするんじゃねえ!
このクズが!
最低の野郎が!
[ナレーター]
若者の顔は血だらけで、ほとんど動けなくなっていた。
タスキの手も血まみれだったが、彼は殴るのをやめなかった。
彼の目は、変わっていた。
生まれて初めて、タスキは自分が正しいことをしたと感じていた。
女の子を襲ったあの若者に、報いを受けさせているのだと感じていた。
[少女]
もうやめて、お願い!
[ナレーター]
タスキは反応しなかった。
少女は彼に近づき、腰をつかんで後ろへ引っ張った。
[少女]
私はもう大丈夫だから!
やめて、お願い!
[ナレーター]
その暴力を目の当たりにして、少女は泣き出した。
タスキはようやく我に返った。
彼が下を見ると、自分の手が血で真っ赤に染まっていた。
タスキはその場で凍りついた。
[タスキ]
俺……俺、殺しちまった……
[少女]
行こう!
[ナレーター]
少女はタスキを動かそうとしたが、彼は今起きたことのせいで完全に固まっていた。
[少女]
行こう! 警察が来る前に、ここを離れなきゃ。
[ナレーター]
少女は若者の手当てのために救急車と警察を呼び、彼らが着く前にタスキをその場から連れ出した。
タスキの顔は真っ青だった。少女は力をこめて彼が歩くのを支え、すぐ近くにある自分の家へ連れていくことにした。
家に着いても、タスキはうつろな目のまま、何を考えればいいのかも分からずにいた。
[少女]
大丈夫?
[タスキ]
俺……俺、殺しちまった。
[少女]
え? 誰も殺してないよ。気を失っただけ。心配しないで。
[ナレーター]
少女はタスキに近づき、彼を抱きしめた。その腕のぬくもりに、タスキは守られているように感じて、泣き出した。
彼は力いっぱい彼女を抱きしめ返し、声を上げて泣きじゃくった。
[タスキ]
ごめん……俺は化け物だ。
[少女]
化け物なんかじゃないよ。あなたは私を助けてくれた。あの人たちにひどいことをされていたとき、守ってくれた。あなたは私の救世主だよ。それに、心の奥ではいい人だって、私には分かる。
[タスキ]
君は……本当に、俺のことをそう思ってるの?
[ナレーター]
少女は少しだけ体を離し、両手でタスキの頭を包んだ。そして、彼の目をまっすぐ見つめた。
[少女]
うん、そう思ってる。それに、すごく素敵な人だとも思ってる。でも……どうしてそんなに自分を疑うの?
[タスキ]
だって……みんな俺のことが嫌いなんだ。かっこよくもないし、いつも仲間外れにされるし、何をやってもうまくいかない。そのうえ、自分がみんなの重荷になってる気がする。
俺のことを不細工で情けないやつだと思ってるから、誰も関わろうとしない。
今週は全然楽じゃなかったし、本音を話せる相手もいない……俺は、ひとりぼっちなんだ。
[少女]
んー……こうして見ると、別に悪くないと思うけどな。
それにね、人っていつも見た目で判断して、中身を見ようとしないの。でも今の私には分かる。あなたは今日、いい日じゃなかった。それでも、あの人たちにひどいことをされていた私を助けてくれた。
地面に押さえつけられていたとき、助けてくれる人なんて誰もいなかった。でも、あなたが来てくれた。あなたが私を守ってくれるのを見て、安心できたの。
それに、少し申し訳なくも思ってる。こんなことに巻き込んで、ごめんね。
[ナレーター]
タスキの目は、涙でいっぱいだった。
[タスキ]
い……いいんだ、気にしないで。君を助けられて、俺は嬉しかったから。
[少女]
私のほうこそ、あなたに会えて嬉しい。
でも……名前、なんだっけ?
[ナレーター]
少女は目を閉じて嬉しそうに微笑み、タスキの答えを待った。
[タスキ]
俺の名前は……タ……タスキ。
[少女]
素敵な名前。じゃあ、今度は私の番ね。私の名前はリア。
よろしくね、タスキ。
[タスキ]
リア……ひとつ聞いていい? どうしてあいつら、君を地面に押さえつけてたんだ? それに……どうして一人がスマホで撮ってたんだ?
[リア]
えっとね、実は私、すごく人見知りなの。えへへ。
それに見ての通り、私の体ってすごく目立つでしょ。そのせいで、いつも変な男の人たちの目を引いちゃうの。困ってるんだ。
でも、話を戻すとね……あの人たち、みんなの前で私の服を脱がそうとしたの。学園に行こうと家を出たところで、あの人たちが現れて。
一人に強くつかまれて、服を脱がされそうになって、必死に抵抗してたの。でも、ちょうどそこにあなたが来てくれた。
私、力が弱くて自分の身を守れないの。それがいつも困るところで……特に、いつも一人でいるから。あはは……分かってもらえるかな。
[ナレーター]
タスキは、彼女の話に黙って耳を傾けた。リアがされたことを思うと少し腹が立ったが、同時に、彼は少しほっとしていた。
なぜか、彼女と話したあと、タスキの心は少し落ち着いていた。
[タスキ]
そっか……分かったよ。
でも正直に言うと、君がそんなに人見知りには見えない。むしろ、一人でいられるなんて、すごく勇気があると思う。
それに、リアはすごく素敵な人だと思う。
[リア]
本当? あ……えっと、私が一人でいるのはね、同い年の女の子たちって、可愛いからって理由だけで、ほかの人を見下すことが多いから。
可愛いからって、人をバカにしていいわけじゃないよね。中には、見た目を使って、努力しないで欲しいものを手に入れる子もいるし。
私、そういうのが好きじゃないの。だから、一人のほうがいいんだ。
[タスキ]
なるほどな。
[ナレーター]
タスキはスマホを見て、時間に気づいた。
[タスキ]
もう学園には間に合わないな。この時間じゃ、門も閉まってるだろうし。
それに、手が血だらけだ……君の服も汚しちゃったし。
[リア]
あ、気にしないで。
よかったら、うちのお風呂を使ってシャワー浴びて。そのあいだに、何か食べるものを頼んでおくから。
そのあと、家まで送ってあげる。いい?
[タスキ]
それは助かるよ。
ありがとう、リア。
[ナレーター]
タスキは、起きたことすべてを整理しようとしながら浴室に入った。
[タスキ(心の声)]
彼女、すごく綺麗だ……。中身じゃなくて、物みたいに扱われてるのが腹立つ。人見知りだって言ってたけど、俺と話してるときはそんなふうには見えなかった。
本当に、完璧な子だ。
さて、シャワーを浴びて、彼女に送ってもらって、家に帰って休もう。今日は驚きの連続だったな……あはは。
[ナレーター]
シャワーを終えて体を拭くと、リアが兄の服を用意してくれていたことに、タスキは気づいた。
タスキはそれに着替え、浴室を出る前に、リアが貸してくれたその服を見つめた。
[タスキ]
ありがとう、リア。
[ナレーター]
タスキは借りた服を着て、浴室を出た。
[リア]
おかえり、タスキ。いいお風呂だったみたいだね。
[タスキ]
ああ。これで百パーセント復活だ。
[ナレーター]
タスキは片手を上げながら、ヒーローのような口調でそう言った。
二人は笑い出した。
[リア]
あははは、おバカさん。
ご飯はもう少しかかるよ。もう頼んであるけど、そのあいだに二人分のジュースを作っておいたの。
[ナレーター]
タスキはリアの隣に座り、二人でジュースを飲み始めた。
[タスキ]
ん……このジュース、すごくうまいな、リア! どうやって作ったの?
[リア]
愛情たっぷりで作ったの。それに、秘密のレシピなんだよ。
[タスキ]
あはは、なるほどな。俺にレシピを隠そうってわけか?
[ナレーター]
タスキは立ち上がり、リアのほうへ手を伸ばした。
[リア]
何するの、タスキ? だめっ! あはははっ!
[ナレーター]
タスキはリアをくすぐり始めた。
[タスキ]
レシピを教えないってんなら、これでもくらえ! くすぐり攻撃に耐えられるかな?
[リア]
絶対教えないもん! やめて、タスキ! あはははははっ!
[ナレーター]
二人が笑っていると、玄関のチャイムが鳴った。
[リア]
ご飯、来たみたい。
[ナレーター]
リアは急いでドアを開けに行った。そこにいたのは配達員だった。
リアは料理を受け取ってリビングに戻った。料理はたくさんあって、お寿司もあった。
リアは料理をテーブルに並べ、タスキに手伝ってもらいながら、二人の前にある小さなテーブルを整えた。二人は映画を見ながら、話をしながら、食事を始めた。
[タスキ]
なあ、リア。いろいろあったけど……どこの学園に通ってるの?
[リア]
んー……私はカスワード学園に通ってるよ。タスキは?
[タスキ]
俺も同じだ。
[リア]
え、本当に!?
[タスキ]
ああ! 何組なの?
[リア]
私はC組。
[タスキ]
へえ、そうなんだ。俺はA組。
でも、今週一度も見かけなかったな。休み時間とか、外に出ないの?
[リア]
あんまり出ないかな。朝早く来て、教室で絵を描いてるほうが好きなの。
でもね……明日、一緒に行かない? 私は全然いいよ。タスキがよければだけど。
[タスキ]
もちろん、全然問題ない。むしろ光栄です、女王様。
[リア]
何言ってるの? あはははは!
[ナレーター]
二人は笑い出した。
二人は映画を見ながら食事を終えた。遅くなってきたころ、二人は片づけをして、リアの家を出た。
二人はタスキのアパートまで一緒に歩いた。二人は歩きながら、自分たちのことや、子どものころの話をもう少しした。
そして、二人はタスキのアパートに着いた。
[タスキ]
えっと……リア、送ってくれてありがとう。本当にいい子だな、君は。
[リア]
え、えっと……あ……あ、ありがとうは、こっちのほうだよ。今朝、助けてくれて。タスキ。
[ナレーター]
リアの顔が赤くなった。
[リア]
ゆっくり休んでね、タスキ。また明日ね?
[タスキ]
ああ、リア。気をつけて。
[ナレーター]
リアは自分の家へ向かって歩き出した。遠ざかっていく彼女の姿を、夕方の光が照らしていた。
タスキは数秒間、彼女の後ろ姿を見つめていた。
彼の心の奥で、今までどんな女の子にも感じたことのない何かが生まれていた。
本当に久しぶりに、誰かが彼を特別な存在だと感じさせてくれたのだ。
タスキはアパートの階段を上り、ドアを開けた。家には誰もいなかった。妹も、父も、母もいなかった。
タスキがスマホを確認すると、母からメッセージが届いていた。
[母]
妹とお父さんと買い物に出かけてるね。必要なものを買ってくるから。帰りにアイスを買っていくよ :)
[ナレーター]
タスキは微笑みながらメッセージを読んだ。その日いろいろなことがあったのに、彼の心は穏やかで、幸せだった。
タスキは自分の部屋へ行き、リュックを脇に置いた。彼はかなり疲れていたので、ベッドに横になり、数秒間天井を見つめた。
やがて、彼はゆっくりと目を閉じ、小さな笑みを浮かべたまま眠りについた。
第2話、更新しました!
第1話を読んでくれた皆さん、本当にありがとうございます!
スペイン語版ではすでに第1アークが完結して、これから第2アークに入ります
日本語版も少しずつ追いついていきます!
ちなみに、この物語では1話ごとに作中で約1週間が進みます
日本語版は言葉の壁もあって、翻訳や確認に時間がかかってしまいますが、できるだけ丁寧に届けていきたいと思っています
「Kizuna no Saisei」をこれからもよろしくお願いします☺️
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