第6話:フェンリル姉の護衛を始める。
ある日の午後、姉が「ちょっと近所のスーパーまで買い出しに行ってくる」と上着を羽織った。
すると、充電スタンドで微睡んでいたはずのフェンリルが、ガタリと音を立てて立ち上がった。
「……どこへ行く」
「え? スーパーだけど。夕飯の食材買うの」
「私も行く」
「え、いいよ、留守番してて――」
「護衛だ。外には何が潜んでいるかわからん」
何を言っても聞く耳を持たないフェンリルは、いつの間にかスタイリッシュなコートを羽織り、姉の数歩後ろを完璧な一定の距離を保ちながら歩き始めた。
近所の商店街。銀髪の耳つき美青年が、主従の如く静かに女性の背後に従っている姿は、通りすがりの人々の二度見を誘うには十分すぎた。
「あのさ、フェンリル。そんなにピリピリしなくても、ここは平和な住宅街だよ」
「油断するな。人間社会は弱肉強食だ」
「あなたを作ったメーカーが聞いたら泣くよ……」
苦笑する姉の荷物を、フェンリルは言われるでもなくスッと持ち上げ、少し誇らしげにしっぽを揺らした。
その様子を自宅のベランダから双眼鏡で見つめていた妹は、「私のフェンリルが……すっかり忠犬ならぬ忠狼になってる……私以外の人間を守ってる……!」と、ハンカチを噛み締めて号泣していた。




