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神狼様は懐かない(はずだった)  作者: 絹ごし春雨


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第5話:妹が呼んでも来ない(姉の側にいる)

「フェンリル〜! 見て! 新型の高級オイル缶だよ〜! これをあげるから、ちょっとこっち来て、お耳をこう……こう、一秒だけ……!」


 妹がリビングの端で、最高級のメンテナンスオイルをチャプチャプと鳴らしながら、子犬を呼ぶような声で誘惑する。


 しかし、ソファで読書をする姉の足元に陣取っているフェンリルは、ピクリとも動かない。耳を後ろに向けて、聞こえていないふりを決め込んでいる。


「聞こえてるでしょ! お手は!? お手くらいできるでしょ、アンドロイドだもん!」


「……低俗な買収工作だな。私のプロセッサはその程度の誘惑では揺らがない」


「オイルで釣れないの!? じゃあ、この最新の……!」


「お前が近づくだけで、私の視覚センサーが濁る。離れろ」


「ひどいっ! 私の全財産なのにっ! 私のカードの引き落としがあと三十回残ってるんだよっ!?」


 絶叫する妹を尻目に、フェンリルはふっと息をつき、より一層姉の足元へと体を寄せた。


 姉はページをめくる手を止めず、ふふ、と小さく笑う。


「……そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。妹も一応、あなたのこと大事にしてるんだからさ」


「……こいつはうるさい。それに引き換え、お前は静かでいい」


 ぽつりと呟いたフェンリルの声には、最初期の冷徹さはすっかり消え失せ、どこか心地よさそうな響きが含まれていた。

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