第3話:フェンリル姉を見る(姉の少し離れた側に座る)
数日後。
妹が「ちょっとネットの掲示板で『懐かせ方』を相談してくる!」と血走った目で自室に籠もった隙のことだった。
リビングには、ソファで読書を続ける姉と、充電スタンドから離れて床に佇むフェンリルの二人のみが残されていた。
静まり返った部屋の中、フェンリルは音もなく床を滑るように歩き出す。その足音は、まるで本物の狼のように気配を感じさせない。
スタ、スタ、と姉の座るソファの脇まで歩み寄ると、フェンリルはすっとその場に腰を下ろした。
ただし、ぴったり隣ではない。ソファの端、姉から半径一メートルほど離れた「絶妙な距離感」の床の上である。
「……?」
気配に気づいた姉が本から目を離し、斜め下を見る。
そこには、銀髪を揺らしながら、澄んだ三白眼でじっと窓の外を見つめているフェンリルがいた。
触れてくるわけでもなく、何か要求するわけでもない。ただ、近くにいる。
「……何? そこ、日当たりいい場所でもないけど」
「……お前に関係はない」
ふん、と顔を背けるフェンリルだったが、その尻尾はなぜか機嫌良さそうに床をトントンと叩いていた。
ちょうどその時、自室から戻ってきた妹がリビングの扉を開け――その光景を目撃する。
「は……? え……? 私のフェンリルが、なんでお姉ちゃんの近くに座って、しかもそんな穏やかな顔して――ぐぬぬぬぬっ! 私には『死ね』って言ったのにっ!!」
あまりの不遇さに、妹は血涙を流して床を転げ回ったのだった。




