第12話:姉への譲渡、フェンリルの妹への感謝
翌日の朝食の席。
目の下にうっすらとクマを作った妹は、冷めたトーストをかじりながら、決死の覚悟を固めたような顔で姉とフェンリルを見据えた。
「……お姉ちゃん」
「ん? どうしたの、そんな真剣な顔して」
「……フェンリルを、あげる」
「は?」
姉が手を止める。隣に座っていたフェンリルも、ぴくりと耳を動かして妹を睨みつけた。
「正確には、マスター権の正式譲渡手続きを済ませておく!」と、妹は血涙を流しながら机に書類を叩きつけた。「もういい! 私じゃあいつの心を掴めなかった! でも、あいつがあんなに幸せそうな顔で頭を預けてるのを見てたら……私が無理に独占するのは間違いだって悟ったんだよ!」
「ちょっ、ちょっと待って。そんな簡単に――」
「いいの! お姉ちゃんがもらって! もう好きにしなさいっ!」
自棄クソになった勢いで叫ぶ妹に対し、フェンリルはふっと息をつき、ソファからゆっくりと立ち上がった。
そして、元マスターである妹の前に歩み寄り――なんと、神狼モデルにあるまじき、ほんのわずかに敬意を込めた仕草で、スッと頭を下げた。
「……驚いたな。お前のその執着にも、限界があったか」
「言い方! 最後までトゲがあるな!?」
「だが、お前のその財力によって、私はこの場所にたどり着いた。……その点においてのみ、お前の選択を賞賛する。……感謝するぞ、人間」
真面目な顔でそう告げるフェンリルに、妹は「うっ……私のお金が、あいつの口から『感謝』に変わった……」と、複雑な達成感と敗北感に打ち震えながら、ガッツポーズをきめたのだった。




