リンゴと水の歌
AIを一部使用しています。ご理解のうえお読みください。
クレリアットへ向かう道中。
街道を外れ、深い森の中を進む二人。
木漏れ日が差し込み、静かな風が吹いている。
「……暗殺ギルドについて、知っているか」
ガルウィンが歩きながら口を開いた。
「え?」
ティアが顔を向ける。
「そんなに詳しくはないですけど……」
少し考えてから答える。
「人を殺す依頼なら、なんでも受けるって聞いたことがあります」
「……そうか」
「依頼金はすごく高いらしいですけど……」
ティアは少し顔を曇らせる。
「それでも頼む人は多いみたいで……」
「……」
ガルウィンは一瞬だけ目を伏せた。
「……いつの時代も、同じか」
ぽつりと呟く。
「え? 何か言いました?」
「……いや」
ティアには届いていなかった。
「それよりも」
ティアは少し前を見ながら言う。
「護衛の人たちと合流したら、連携を考えないとですね」
「……ああ」
「怖い人たちじゃなければいいんですけど……」
少しだけ不安そうに笑う。
「……」
ガルウィンは一瞬考え――
「……私は怖くないのか?」
静かに問う。
「え?」
ティアはきょとんとした後、少し考える。
「……少し言葉足らずかもしれませんけど」
そして、真っ直ぐに言った。
「最初に会った時から、怖くなかったですよ」
「……」
ガルウィンは、わずかに目を細める。
その時だった。
――バサバサッ!!
頭上の木々から、何かが無数に落ちてくる。
「……来るぞ」
ガルウィンが低く言う。
地面に着地したそれを見て、ティアは目を見開いた。
「……え?」
丸い。赤い。
――リンゴだ。
だが。
目がある。
口がある。
しかも――
牙が、びっしり生えている。
さらに二本の足で立ち上がる。
「な、なにこれ……」
「アップルヘイトだ」
ガルウィンが答える。
「……初めて見ます」
「……私もだ。本で見ただけだ」
その瞬間。
アップルヘイトが、一斉に飛びかかってきた。
「来ます!」
ティアが前に出る。
「――ウィンドエッジ!」
風が刃となり、前方を薙ぐ。
リンゴが、真っ二つに裂ける。
甘い香りが、一瞬だけ漂う。
「数が多いな……!」
ガルウィンも剣を抜き、応戦する。
一太刀で切り倒しさらに周りのリンゴを回転斬りで倒す。
連続で斬り伏せる。
動きは速いが――
「……弱いな」
単体の強さは低い。
数だけの魔物。
次々と斬り捨てていく。
やがて、数が減っていき――
「……これで最後……!」
ティアが最後の一体を倒す。
その瞬間。
ガルウィンの視線が動く。
「……!」
ティアの頭上から、一体のリンゴが落ちてくる。
牙を剥き、噛みつこうとする。
「ティア!」
ガルウィンが踏み込む。
間に割って入り――
突き。
アップルヘイトを、串刺しにする。
だが、その瞬間。
――ブシャァッ!!
体内から、液体が弾けた。
ガルウィンの全身に、降り注ぐ。
「……」
一瞬の沈黙。
甘い匂いが、漂う。
「……」
べとべとだった。
まるで――
リンゴジュースを浴びたように。
「……ふっ」
ティアが、肩を震わせる。
「……ふ、ふふ……」
そして――
「ふふっ、あははははっ!」
耐えきれず、笑い出した。
「ガルウィンさん……それ……!」
「……」
ガルウィンは、無言で自分の状態を見る。
「……格好がつかないな」
ぽつりと呟く。
ほんの少しだけ、恥ずかしそうだった。
⸻
その夜。
焚き火の前。
串に刺されたアップルヘイトが並んでいる。
「……絵面、ひどいですね」
「……ああ」
見た目は完全に異形。
だが――
一口かじる。
「……」
「……あれ?」
ティアの目が開く。
「美味しい……!」
焼きリンゴのような甘さ。
さらに、絞った果汁も――
「ジュースもいけますね」
「……悪くない」
ガルウィンも頷く。
しばらく食べ進めた後。
「甘いもの好きなんですか?」
「あぁ」
「……じゃあ今度、アップルパイ作りますね。」
ティアが嬉しそうに言う。
「……」
ガルウィンは一瞬だけ間を置き――
「……楽しみだ」
素直に答えた。
その表情は、わずかに柔らかい。
焚き火の火が、静かに揺れる。
笑い声が、夜に溶けていく。
そして夜が明け2人はさらに歩を進める
木々の隙間から光が差し込み、穏やかな風が吹いている。
「……ガルウィンさん」
隣を歩いていたティアが、少しだけ怪訝な顔で口を開いた。
「なんだ」
「……ちょっと、臭いです」
「……」
ガルウィンは一度立ち止まり、自分の袖を軽く嗅ぐ。
数秒。
「……気のせいだ」
平然と答えた。
――昨日のアップルヘイトの果汁。
――そして汗。
それらが絶妙に混ざり合っているのは、明らかだった。
「気のせいじゃないです!」
ティアは即座にツッコむ。
「これから偉い人の護衛なんですよ!?」
「……ああ」
「その状態で護衛するんですか?」
じとっとした目で見る。
「想像してみてください」
ティアは大袈裟に身振りをつける。
「ガルウィンさんがカッコよく戦ってるその後ろで――」
「セルディオさんが“あぁ、この人ちょっと臭いな……”って思ってるんですよ?」
ティアがわざとらしく声色を変えて非難する。
「……」
「嫌じゃないですか?」
「……死にそうな時にそんなことを考える者はいない」
真顔で返す。
「います!!」
ティアは思わず声を張り上げた。
そのまま、周囲を見回す。
そして――
「……あっ」
耳を澄ます。
「水の音……こっちです!」
ティアはガルウィンの手を掴み、ぐいっと引っ張る。
「ちょっ……待て」
そのまま半ば強引に、川へと連れていかれた。
⸻
澄んだ水が流れる小さな川。
「ここで洗いましょう」
ティアは腕を組んで言う。
「……」
「ついでに水浴びでもどうです?」
ガルウィンは少しだけ考え――
「……分かった」
渋々、服を脱ぎ始める。
「洗濯は私が――」
「自分でやる」
即答だった。
「……そうですか」
ティアは少し肩をすくめる。
「じゃあ私はあっちで焚き火起こしてますね」
「あぁ」
ガルウィンはそのまま川へ入り、水をかぶる。
冷たい水が、体を流れていく。
「……」
しばらくして。
ガルウィンは焚き火の場所へ戻る。
だが――
「……ティア?」
姿がない。
「……」
周囲を見渡し、歩き出す。
その時。
――歌声が聞こえた。
静かで、澄んだ声。
風に乗って、優しく響く。
「……」
自然と、その方向へ足が向く。
木々の隙間を抜け――
そして、見た。
川辺。
水の中にいるティア。
その姿にガルウィンはエレアの姿を重ねる
「……」
目が合う。
「……」
一瞬の静止。
「……すまない」
ガルウィンは即座に背を向けた。
ティアも慌てて水の中へ身を沈める。
「……っ!」
しばし、沈黙。
「……悪かった」
「……い、いえ……」
ぎこちない空気。
ガルウィンはそのまま言う。
「……あまり外で歌うな」
「え?」
「綺麗な声だ」
少しだけ間を置き――
「魔物が寄ってきてしまう」
「……」
ティアは一瞬驚き、そして少し笑う。
「じゃあ」
いたずらっぽく言う。
「今は大丈夫ですね」
「……」
「ガルウィンさん、近くにいますし」
そう言って――
また、歌い始めた。
ガルウィンはその場に腰を下ろす。
背を向けたまま。
ただ、静かにその歌を聞く。
風の音と混ざり合う、柔らかな旋律。
「……」
気がつけば。
意識が、少しだけ遠のいていた。
⸻
「ガルウィンさん」
「……」
「ガルウィンさん」
声に呼ばれ、目を開ける。
「……」
目の前には、ティア。
「……寝てましたよ」
少し笑っている。
「……そうか」
ガルウィンはゆっくりと立ち上がる。
二人で、焚き火の場所へ戻る。
⸻
干していた服。
まだ少し湿っている。
「……あれ?」
ティアが首を傾げる。
「着替え、あるんですか?」
「……ある」
「じゃあなんで着替えなかったんですか?」
「……面倒だった」
「もう……」
ティアは呆れたように息を吐く。
「ちょっと貸してください」
手をかざす。
「炎よ、風よ――ヒートウェーブ」
温かい風が吹く。
服が揺れ、徐々に乾いていく。
「これで、すぐ乾きます」
「……便利だな」
ガルウィンがぽつりと呟く。
その横で、ティアは少しだけ笑った。
穏やかな時間。
戦いの前の、静かなひとときだった。




