うさぎと金
AIを一部使用しています。ご理解のうえお読みください。
オーレリア王国に来てから、数日。
ティアとガルウィンは、各所を回っていた。
酒場。
情報屋。
ギルド。
あらゆる場所で、同じ名前を口にする。
「オスカーという人物を知りませんか?」
ティアは父親について聞いて回る
だが――
返ってくるのは、決まって同じ答えだった。
「知らないな」
「聞いたことない」
「役に立てなくて悪いな」
「……」
ティアは小さく息を吐く。
手がかりは、ゼロ。
(……このままじゃ)
視線を落とす。
(そろそろ、この街を出るしか……)
そう思い、前にいたガルウィンに声をかけようした――その時。
「あ、あの……」
背後から声がした。
「何か、お困りですか?」
ティアは振り返る。
そして――
「……」
固まった。
ガルウィンも、同じように振り向く。
「……」
固まった。
そこにいたのは――
白。
全身、白。
ぴったりとしたスーツのような衣装。
だがそれは布ではなく――
うさぎの毛皮。
頭には、ぴんと立った耳。
顔だけが露出した、若い男。
そして何より――
その格好が、明らかに異質だった。
「……」
数秒の沈黙。
「……なんだ」
ガルウィンが口を開く。
「ただの変態か」
「それで納得できます!?」
ティアが即座にツッコむ。
「いや、その格好どう考えてもおかしいですよね!?」
「世界は広いからな。」
「あ、あの……!」
男は顔を赤くしながら、あたふたと手を振る。
「お困りでしたら……何か力になれると思いまして……!」
「困ってるのはそっちじゃないですか?」
ティアが冷静に返す。
「……いや、待て」
ガルウィンがふと顎に手を当てる。
「……そういえば」
「この間、ギルドマスターに情報を聞きに行って飲んだ時に聞いたな」
「……え?」
ティアが目を見開く。
「マスターと? いつの間に!?」
「私も、目的は忘れていない」
淡々と返す。
「……」
そして、男を見ながら言った。
「バニーギルド、というものがあるらしい」
「……バニーギルド?」
「存在不明。規模不明。人数不明」
「だが――どこにでも現れる」
「気づけば、消える」
静かな説明。
「……そんなものが?」
ティアが呟く。
男は、おずおずと手を挙げた。
「……はい」
「バニーギルドの新人、アンソニーです」
「……」
「……」
二人は、無言で顔を見合わせた。
「……本当にあったんですね」
ティアがぽつりと言う。
「う、うちは……その……」
アンソニーは少し照れながら続ける。
「お得意様の欲しい物を、色々ご用意できます……!」
「いや、私たち初対面なんですけど」
「はい!」
なぜか元気よく返事をする。
「なので今から、お得意様になってくれそうな方を探してます!」
「営業ですね……」
ティアが小さく呟く。
その横で、ガルウィンが口を開いた。
「……物は試しだ」
「え?」
「一つ聞く」
アンソニーに視線を向ける。
「オスカーという人物の居場所、分かるか」
「……」
アンソニーは少し考え込む。
「……申し訳ありません」
「僕では、分かりません」
ティアの表情が曇る。
「ただ……」
アンソニーは続ける。
「先輩たちなら、分かるかもしれません」
「……」
ガルウィンが静かに言う。
「バニーギルドは、世界中に散らばっているらしい」
「なら、情報を持っている可能性はある」
ティアは少し考え――
「……確かに」
「このまま情報ゼロで進むよりは……」
そして、アンソニーを見る。
「お願いします。情報を集めてください」
「……はい」
アンソニーは頷き――
「ですが」
一度、言葉を切る。
「情報料として、二十万ゴールド頂きます」
「……え?」
ティアの顔が引きつる。
「に、二十万……?」
「規則なので……」
申し訳なさそうに言う。
ティアはすぐにガルウィンの方を見る。
「……無理です」
即答だった。
「今20万なんてお金ないですよ……?」
「……」
ガルウィンは少しだけ考え――
「分かった」
アンソニーを見る。
「二十万は必ず用意する」
「えっ」
「その間に、情報を集めておいてほしい」
「……」
アンソニーは少し驚いた顔をした後、考え込む。
数秒。
「……分かりました。本来は前払いですけど今回だけは特別に…」
小さく頷いた。
「これからのお得意様になるかもしれませんし」
「……助かる」
ガルウィンが言う。
「ありがとうございます!」
ティアも深く頭を下げた。
「では――」
アンソニーが軽く手を上げる。
その瞬間。
ふわり、と光が揺れ――
煙のように、姿が消えた。
「……」
「……」
二人は、しばらく動けなかった。
「……本当に、消えましたよね?」
「……ああ」
ガルウィンもわずかに目を細める。
「妙な連中だ」
「でも……」
ティアは拳を握る。
「やっと、手がかりが掴めるかも」
「……そうだな」
ガルウィンは頷く。
「まずは、金だ」
「……はい」
二人は顔を見合わせ――
同時に、歩き出す。
ーー冒険者ギルド
「……二十万、ですか」
ティアがぽつりと呟く。
重い数字だった。
「手早く稼ぐ必要があるな」
ガルウィンは静かに言う。
二人はクエストボードには向かわず、受付へと進んだ。
「クエストブックを借りたい」
「はい、どうぞ」
受付嬢から受け取った本を、近くの席で広げる。
「……」
ページをめくる。
討伐、護衛、探索――
だが。
「……報酬が足りないな」
「ですね……」
数万単位では、追いつかない。
時間がかかりすぎる。
「どうするか……」
その時だった。
――ギィ、と音を立てて。
二階の扉が開いた。
「ガルウィン!」
低く響く声。
ギルドマスターだった。
「……どうした?」
ガルウィンが顔を上げる。
「おぉそこにいたか!」
そう言って、がっしりとした筋肉に赤い服を来た初老の男が階段を降りてくる。
「緊急の依頼だ」
その一言で、空気が変わる。
「内容は?」
「護衛だ。商人のな」
マスターは短く言った。
「報酬は――十五万ゴールド」
「……」
ティアの目が大きく開く。
「……受ける」
ガルウィンは即答した。
「即答か」
「問題は内容だ」
マスターは頷く。
「この依頼はB本来ならランク以上にあてがうはずだったんだが」
「……私はCランクだが」
ガルウィンが静かに確認する。
マスターは鼻で笑った。
「だがお前はC以上はあると私は思っている」
「それに――」
周囲を見渡す。
「今、このギルドの中にBランク以上がいない」
「みな他の依頼に出払っていてな」
「……なるほど」
「だからお前に話を持ってきた」
理にかなっていた。
ガルウィンは一度だけ頷き――
「……ただし」
言葉を続ける。
「ティアと組む」
「……彼女はDランクだぞ?」
マスターが眉をひそめる。
「私は問題ない」
ガルウィンは迷いなく言う。
「私は、彼女以外と組む気はない」
「……」
ティアは、わずかに目を見開いた。
そして、少しだけ嬉しそうに視線を落とす。
マスターは腕を組み、ティアを見る。
「危険な依頼だぞ。危険が伴うかもしれん」
「……」
ティアは黙る。
脳裏に浮かぶのは――
二十万ゴールド。
父の情報。
(……でも)
命の危険。
迷いが、表情に出る。
ギュッと目をつぶる
「……」
その時。
「ティア」
ガルウィンが静かに呼んだ。
ティアが顔を上げる。
「君は、私が守る」
優しい声だった。
「安心しろ」
「……」
一瞬、時間が止まる。
そして――
「……ごめんなさい」
ティアは小さく呟いた。
「私、やります」
まっすぐに、前を向く。
「……そうか」
ガルウィンは、軽くティアの頭に手を置いた。
ぽん、と撫でる。
「マスター」
そのまま視線を向ける。
「この依頼、受けさせてくれ」
「……いいだろう」
マスターは頷いた。
⸻
依頼の詳細が語られる。
「商人の名はセルディオ」
「コルナ港から荷馬車で移動中だ」
「コルナ港から冒険者が二人、護衛についている」
「今頃は――」
「中間地点、オーレリアとコルナ港の間にあるクレリアットの街に到着しているはずだ」
「……そこに合流しろということか」
「ああ」
「そこからオーレリアまで護衛を頼む」
ガルウィンは一つ疑問を口にする。
「なぜ、最初から四人ではない」
マスターは少しだけ表情を曇らせた。
「……情報が入った」
「暗殺ギルドが、セルディオを狙っている」
「……暗殺ギルド」
「恨みを買った人間や、重要人物を殺す連中だ」
重い言葉。
「……」
ガルウィンは、わずかに目を伏せる。
――殺す。
その言葉に、記憶が蘇る。
炎。
崩壊。
無数の命。
「……」
だが――
(……今は、関係ない)
思考を切り捨てる。
「……行こう」
ガルウィンが言う。
ティアは強く頷いた。
⸻
ギルドを出る。
空は高く、風は穏やか。
だが――
向かう先は、穏やかではない。
「クレリアットまで三日か……」
「急ぎましょう」
「……ああ」
二人は並び、歩き出す。
十五万ゴールド。
そして――
その先にある、二十万。
父への手がかりのために。
危険な旅が、始まる。




