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ブルーレゾナンス  作者: kiriiti
青の覚醒
10/34

襲撃

AIを一部使用しています。ご理解のうえお読みください。

 森を抜け、街道を進んだ先。


 ようやく、その街は見えてきた。


「……あれがクレリアットです」


 ティアが前方を指差す。


 夕日に照らされた街並みが、遠くに広がっていた。


「日が沈む前に着けそうだな」


 ガルウィンは小さく頷く。


 二人はそのまま街へ入り、まずは冒険者ギルドへ向かった。


 護衛依頼の手続きを済ませるためだ。


 

「合流は明日の朝になります」



 受付でそう告げられ、二人はひとまず宿へ向かうことにした。



 宿の部屋に入った途端、ティアはベッドへ倒れ込むように横になった。


 

「はぁぁ……」


 

 久々のちゃんとした寝床。


 全身から力が抜ける。


「やっぱり、ベッドって最高ですね……」


 そう呟いた次の瞬間には、もう静かな寝息が聞こえていた。


「……早いな」


 ガルウィンは思わず呟く。


 その寝顔を見ながら、ふと最初に宿へ泊まった時のことを思い出した。


 自分は眠りが浅い。


 だから、宿に泊まらなくても構わない。


 そう言ったことがあった。


 ――その方が宿泊費も、一人分で済む。


 だが、ティアはきっぱりと言ったのだ。


 「ちゃんとしたベッドで横になるだけでも疲れは取れるものですよ」


 「眠りが浅くても眠れはするんですよね? なら尚更、ちゃんとしたベッドで寝なきゃ駄目です」


 「なので、その提案は却下します」


 

「……却下、だったな」


 ガルウィンは小さく息を吐く。


 それからというもの、なぜか宿に泊まるたびにティアと同室になっていた。


 理由は、なんとなく分かっている。



 ティアは時々夜中に目を覚まし、自分がちゃんと眠れているかを確かめているのだ。


「……」


 不思議だった。


 この旅を始めてから。


 ほんの少しだが、眠れる時間が増えた気がする。


 

 ガルウィンは眠るティアを見つめ――


 ほんのわずかに、微笑んだ。



 翌朝。


 ギルド前で、依頼主と護衛たちと合流する。


「オーレリア王国まで、よろしくお願いします」



 そう言って頭を下げたのは、依頼主のセルディオだった。


 恰幅のいい中年男。


 整えられた口髭。


 人当たりの良い笑みを常に浮かべている。


 だがその目は、歴戦の商人らしく油断がなかった。


 笑いながらも、人を値踏みするような鋭さがある。


 

「よろしくお願いします」


 ティアも礼儀正しく頭を下げる。



 そして、護衛の二人。


「ガッドだ。よろしく頼む」


 全身を鎧で包んだ大男が、低い声で名乗った。


 ガルウィンも体格は良い方だが、ガッドは鎧のせいかさらに一回り大きく見える。


 巨大な斧を背負い、その姿だけで圧があった。


 あの斧が振り下ろされれば、地面ごと叩き割れそうだ――そう思わせる迫力がある。


 

 もう一人は、少年だった。


 黒いローブ。


 さらさらとした黒髪。


 丸眼鏡。


 頭には、小鳥が乗れそうな小さなシルクハットがちょこんと載っている。


 手には、細かな装飾の施された杖。



「……エル。よろしく」


 どこか冷たい、そっけない口調だった。


 

「か、可愛い……」

 

 思わずティアがぽつりと漏らす。


 ガルウィンがわざとらしく咳払いをした。



「……こほん」



「っ、失礼しました!」


 ティアは慌てて背筋を伸ばす。


「私はティアです。槍を使います。よろしくお願いします」


「……ガルウィンだ」


 短く名乗る。


 すると、エルがじっとガルウィンを見た。


「おじさんが、オーレリアのマスターが言ってた……いきなりCランクから始まったっていう人?」


「……そうらしい」


「ふぅん」


 エルは値踏みするように目を細める。


「あんまり強そうには見えない」


「おいおい」


 すかさずガッドが間に入った。


「短い間とはいえ、同じ依頼をこなす仲間だ。仲良くやろうぜ」


「……ふん」


 エルは鼻を鳴らす。


 ガルウィンは特に気にした様子もなかった。


「では、早速行きましょうか」


 セルディオが朗らかに言い、荷馬車を動かし始める。


 一行はクレリアットを後にし、オーレリアへ向かう街道へ出た。



 街を離れてしばらくした後。


 歩きながら、ティアが二人へ尋ねる。


「ガッドさんとエルさんは、何が得意なんですか?」


「俺は見た通りだな」


 ガッドは豪快に笑う。


「戦闘になりゃ、この斧でまとめて叩き潰す」


 大斧を軽く持ち上げて見せた。


「防御も得意だ。斧と鎧で受けるのは慣れてる」


「魔法は?」


「土魔法だな。石礫を飛ばしたり、石壁を出したりだ。派手じゃねえが実戦向きだ」


「頼もしいですね」


 ティアが素直に感心する。


 次にエルが口を開いた。


「僕はまだ成長途中だから、魔力量はそこまで多くない」


 だが、と続ける。


「風、雷、氷の三属性が使える」


「三属性……!?」


 ティアが目を丸くする。


「珍しいですよね」


「まあね」


 エルは少しだけ得意げにメガネの縁を触る。


「この杖で威力も底上げできるし」


「その歳でBランクっていうのも納得だな」


 ガッドが笑う。



「ティアは?」


 

「私は槍です。魔法は炎と風が得意です」


 そしてエルが、今度はガルウィンに目を向けた。


「おじさんは?」

 

「……剣一本だ」


「魔法は?」


 ガッドも自然に尋ねる。


「……使えない」


「……使えない?」


「魔力がない」


 一瞬、空気が止まった。


「は?」


 エルが素っ頓狂な声を出す。


「魔力ないのにCランク?」


「……そうらしい」


 ガルウィンは淡々としている。


 ガッドは一拍置いてから、豪快に笑った。


「はははっ! そりゃすげえな!」


「俺もまだまだ研鑽できるってことか」



「頼もしい限りですなぁ」


 セルディオもにこにこと笑う。


 

 ティアはそんなやり取りを見ながら、少しだけ誇らしい気持ちになっていた。



 やがて一行は森へ入る。


 

 その瞬間、空気が変わった。


 

 重い。


 湿っているわけではないのに、妙に息苦しい。


「……」


 ガルウィンが目を細める。


 

 複数の視線。


 木々の陰から、確かにこちらを見ている。


 

「気をつけろ」


 

 低く告げた、その直後だった。


 ――ヒュンッ!


 木の陰から、ナイフが飛ぶ。


 それを皮切りに。


 火の玉。


 氷の槍。


 ナイフ。


 矢。


 無数の飛び道具が周囲から一斉に襲いかかってきた。


「来たぞ!」


 さらに背後から、短剣を手にした刺客が三人、一直線に駆けてくる。


 

「指示を出す!」



 ガッドが即座に叫んだ。


 

「ガルウィンは先頭で商人を守れ!」


「エル、ティア! 飛び道具を落とせ!」


「俺が後ろの刺客を受ける!」


「了解!」


 ティアとエルが同時に応じる。


「風よ!」


 二人の風魔法が重なり、飛来する矢やナイフを弾き返す。


 だが数が多い。


 火球や氷槍まで混ざっており、全てを完全には防ぎきれない。


「セルディオ!荷馬車の奥へ!」


 ガルウィンが鋭く言う。


「ひっ、はい!」


 セルディオは慌てて身を伏せる。


 ガルウィンは荷馬車の前に立ち、ティアとエルが撃ち漏らした飛び道具を剣で次々と弾いた。


 火球を逸らし、氷槍を叩き落とし、ナイフを弾く。


 その目は常にセルディオの位置も確認している。


 一方、最後尾ではガッドが刺客を迎え撃っていた。


「はああっ!」


 大斧が唸り、刺客の一人を吹き飛ばす。


 もう一人の短剣を鎧ごと受け止め、膝蹴りで体勢を崩す。


 巨体に似合わぬ判断の速さだった。



 だが、飛び道具が止まらない。


 

「……仕方ないな」


 

 ガルウィンが低く呟く。


「ガッド!」


「おう!」


「位置を変わってくれ」


 ちょうど最後の刺客を叩き伏せたガッドが、駆け寄ってくる。


「考えがあるのか?」


 ガルウィンは頷いた。


 そして、荷馬車の上へ飛び乗る。


 高い位置から、飛来してくる魔法と投擲の軌道を一瞬で読む。


 

 右前方。


 左の木陰。


 さらに奥。


 

 全ての位置を把握した次の瞬間。


 

 ――跳んだ。


 

 荷馬車から、木の上へ。


 枝を蹴り、影へと飛び込む。


 

「ぎゃっ――!?」


 悲鳴が聞こえた。


 そのまま、次の木へ。


 また悲鳴。


 さらに次の木へ。


 短い断末魔。


 木から木へ、闇から闇へ。


 そのたびに、人の声が途切れていく。


 ティアは息を呑んだ。


「……すごい」


 だが、その剣筋には。


 どこか、いつもの冷静さとは違うものが混ざっていた。


 そして数度目の悲鳴の後。


 森の暗がりから、ガルウィンが姿を現す。


 全身に返り血を浴びていた。


 

 そして――



 明らかに、疲労していた。


「ガルウィンさん……?」


 ティアが思わず声を漏らす。


 

 ガルウィンは答えない。


 

 ただ、自分の両手を見ていた。


 

 震えている。



 血に濡れた手。


 

 温かい血。


 

 斬った瞬間の感触。


 

 命が途切れる気配。


 

 ――三百年前。


 燃え落ちた国。


 悲鳴。


 泣き叫ぶ声。


 自分の手で奪った命。


 

「……っ」


 

 ガルウィンの表情が歪む。


 そのまま、力が抜けたように膝をつき――


 倒れ込んだ。


 

「ガルウィンさん!!」


 ティアが叫びながら駆け寄る。


 

 森の空気が、一気に張り詰めた。

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