襲撃
AIを一部使用しています。ご理解のうえお読みください。
森を抜け、街道を進んだ先。
ようやく、その街は見えてきた。
「……あれがクレリアットです」
ティアが前方を指差す。
夕日に照らされた街並みが、遠くに広がっていた。
「日が沈む前に着けそうだな」
ガルウィンは小さく頷く。
二人はそのまま街へ入り、まずは冒険者ギルドへ向かった。
護衛依頼の手続きを済ませるためだ。
「合流は明日の朝になります」
受付でそう告げられ、二人はひとまず宿へ向かうことにした。
⸻
宿の部屋に入った途端、ティアはベッドへ倒れ込むように横になった。
「はぁぁ……」
久々のちゃんとした寝床。
全身から力が抜ける。
「やっぱり、ベッドって最高ですね……」
そう呟いた次の瞬間には、もう静かな寝息が聞こえていた。
「……早いな」
ガルウィンは思わず呟く。
その寝顔を見ながら、ふと最初に宿へ泊まった時のことを思い出した。
自分は眠りが浅い。
だから、宿に泊まらなくても構わない。
そう言ったことがあった。
――その方が宿泊費も、一人分で済む。
だが、ティアはきっぱりと言ったのだ。
「ちゃんとしたベッドで横になるだけでも疲れは取れるものですよ」
「眠りが浅くても眠れはするんですよね? なら尚更、ちゃんとしたベッドで寝なきゃ駄目です」
「なので、その提案は却下します」
「……却下、だったな」
ガルウィンは小さく息を吐く。
それからというもの、なぜか宿に泊まるたびにティアと同室になっていた。
理由は、なんとなく分かっている。
ティアは時々夜中に目を覚まし、自分がちゃんと眠れているかを確かめているのだ。
「……」
不思議だった。
この旅を始めてから。
ほんの少しだが、眠れる時間が増えた気がする。
ガルウィンは眠るティアを見つめ――
ほんのわずかに、微笑んだ。
⸻
翌朝。
ギルド前で、依頼主と護衛たちと合流する。
「オーレリア王国まで、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げたのは、依頼主のセルディオだった。
恰幅のいい中年男。
整えられた口髭。
人当たりの良い笑みを常に浮かべている。
だがその目は、歴戦の商人らしく油断がなかった。
笑いながらも、人を値踏みするような鋭さがある。
「よろしくお願いします」
ティアも礼儀正しく頭を下げる。
そして、護衛の二人。
「ガッドだ。よろしく頼む」
全身を鎧で包んだ大男が、低い声で名乗った。
ガルウィンも体格は良い方だが、ガッドは鎧のせいかさらに一回り大きく見える。
巨大な斧を背負い、その姿だけで圧があった。
あの斧が振り下ろされれば、地面ごと叩き割れそうだ――そう思わせる迫力がある。
もう一人は、少年だった。
黒いローブ。
さらさらとした黒髪。
丸眼鏡。
頭には、小鳥が乗れそうな小さなシルクハットがちょこんと載っている。
手には、細かな装飾の施された杖。
「……エル。よろしく」
どこか冷たい、そっけない口調だった。
「か、可愛い……」
思わずティアがぽつりと漏らす。
ガルウィンがわざとらしく咳払いをした。
「……こほん」
「っ、失礼しました!」
ティアは慌てて背筋を伸ばす。
「私はティアです。槍を使います。よろしくお願いします」
「……ガルウィンだ」
短く名乗る。
すると、エルがじっとガルウィンを見た。
「おじさんが、オーレリアのマスターが言ってた……いきなりCランクから始まったっていう人?」
「……そうらしい」
「ふぅん」
エルは値踏みするように目を細める。
「あんまり強そうには見えない」
「おいおい」
すかさずガッドが間に入った。
「短い間とはいえ、同じ依頼をこなす仲間だ。仲良くやろうぜ」
「……ふん」
エルは鼻を鳴らす。
ガルウィンは特に気にした様子もなかった。
「では、早速行きましょうか」
セルディオが朗らかに言い、荷馬車を動かし始める。
一行はクレリアットを後にし、オーレリアへ向かう街道へ出た。
⸻
街を離れてしばらくした後。
歩きながら、ティアが二人へ尋ねる。
「ガッドさんとエルさんは、何が得意なんですか?」
「俺は見た通りだな」
ガッドは豪快に笑う。
「戦闘になりゃ、この斧でまとめて叩き潰す」
大斧を軽く持ち上げて見せた。
「防御も得意だ。斧と鎧で受けるのは慣れてる」
「魔法は?」
「土魔法だな。石礫を飛ばしたり、石壁を出したりだ。派手じゃねえが実戦向きだ」
「頼もしいですね」
ティアが素直に感心する。
次にエルが口を開いた。
「僕はまだ成長途中だから、魔力量はそこまで多くない」
だが、と続ける。
「風、雷、氷の三属性が使える」
「三属性……!?」
ティアが目を丸くする。
「珍しいですよね」
「まあね」
エルは少しだけ得意げにメガネの縁を触る。
「この杖で威力も底上げできるし」
「その歳でBランクっていうのも納得だな」
ガッドが笑う。
「ティアは?」
「私は槍です。魔法は炎と風が得意です」
そしてエルが、今度はガルウィンに目を向けた。
「おじさんは?」
「……剣一本だ」
「魔法は?」
ガッドも自然に尋ねる。
「……使えない」
「……使えない?」
「魔力がない」
一瞬、空気が止まった。
「は?」
エルが素っ頓狂な声を出す。
「魔力ないのにCランク?」
「……そうらしい」
ガルウィンは淡々としている。
ガッドは一拍置いてから、豪快に笑った。
「はははっ! そりゃすげえな!」
「俺もまだまだ研鑽できるってことか」
「頼もしい限りですなぁ」
セルディオもにこにこと笑う。
ティアはそんなやり取りを見ながら、少しだけ誇らしい気持ちになっていた。
⸻
やがて一行は森へ入る。
その瞬間、空気が変わった。
重い。
湿っているわけではないのに、妙に息苦しい。
「……」
ガルウィンが目を細める。
複数の視線。
木々の陰から、確かにこちらを見ている。
「気をつけろ」
低く告げた、その直後だった。
――ヒュンッ!
木の陰から、ナイフが飛ぶ。
それを皮切りに。
火の玉。
氷の槍。
ナイフ。
矢。
無数の飛び道具が周囲から一斉に襲いかかってきた。
「来たぞ!」
さらに背後から、短剣を手にした刺客が三人、一直線に駆けてくる。
「指示を出す!」
ガッドが即座に叫んだ。
「ガルウィンは先頭で商人を守れ!」
「エル、ティア! 飛び道具を落とせ!」
「俺が後ろの刺客を受ける!」
「了解!」
ティアとエルが同時に応じる。
「風よ!」
二人の風魔法が重なり、飛来する矢やナイフを弾き返す。
だが数が多い。
火球や氷槍まで混ざっており、全てを完全には防ぎきれない。
「セルディオ!荷馬車の奥へ!」
ガルウィンが鋭く言う。
「ひっ、はい!」
セルディオは慌てて身を伏せる。
ガルウィンは荷馬車の前に立ち、ティアとエルが撃ち漏らした飛び道具を剣で次々と弾いた。
火球を逸らし、氷槍を叩き落とし、ナイフを弾く。
その目は常にセルディオの位置も確認している。
一方、最後尾ではガッドが刺客を迎え撃っていた。
「はああっ!」
大斧が唸り、刺客の一人を吹き飛ばす。
もう一人の短剣を鎧ごと受け止め、膝蹴りで体勢を崩す。
巨体に似合わぬ判断の速さだった。
⸻
だが、飛び道具が止まらない。
「……仕方ないな」
ガルウィンが低く呟く。
「ガッド!」
「おう!」
「位置を変わってくれ」
ちょうど最後の刺客を叩き伏せたガッドが、駆け寄ってくる。
「考えがあるのか?」
ガルウィンは頷いた。
そして、荷馬車の上へ飛び乗る。
高い位置から、飛来してくる魔法と投擲の軌道を一瞬で読む。
右前方。
左の木陰。
さらに奥。
全ての位置を把握した次の瞬間。
――跳んだ。
荷馬車から、木の上へ。
枝を蹴り、影へと飛び込む。
「ぎゃっ――!?」
悲鳴が聞こえた。
そのまま、次の木へ。
また悲鳴。
さらに次の木へ。
短い断末魔。
木から木へ、闇から闇へ。
そのたびに、人の声が途切れていく。
ティアは息を呑んだ。
「……すごい」
だが、その剣筋には。
どこか、いつもの冷静さとは違うものが混ざっていた。
そして数度目の悲鳴の後。
森の暗がりから、ガルウィンが姿を現す。
全身に返り血を浴びていた。
そして――
明らかに、疲労していた。
「ガルウィンさん……?」
ティアが思わず声を漏らす。
ガルウィンは答えない。
ただ、自分の両手を見ていた。
震えている。
血に濡れた手。
温かい血。
斬った瞬間の感触。
命が途切れる気配。
――三百年前。
燃え落ちた国。
悲鳴。
泣き叫ぶ声。
自分の手で奪った命。
「……っ」
ガルウィンの表情が歪む。
そのまま、力が抜けたように膝をつき――
倒れ込んだ。
「ガルウィンさん!!」
ティアが叫びながら駆け寄る。
森の空気が、一気に張り詰めた。




