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ブルーレゾナンス  作者: kiriiti
コルナ港へ
33/34

朝焼けの朝食

朝になった。


 三人はそれぞれ短く「おはよう」と挨拶を交わすと、早速港へ向かう準備を始める。


 ティアはブーツの靴紐をしっかりと締め、槍を手に取る。

 ジオは手甲のベルトをきつく締め直し、両拳をぶつけて気合いを入れた。

 ガルウィンは静かに剣を手に取り、腰へ差す。


 三人はそのまま宿を出た。


 まだ太陽は昇りきっておらず、港町は薄暗い朝の色に包まれている。

 それでも人の気配は絶えなかった。


 海に出られないとはいっても、近海での漁は続いているらしい。魚を運ぶ者、網を担ぐ者、朝市のように小さな露店を開く者――港町らしい活気が、すでにそこにはあった。


 三人は会長と約束した桟橋へ向かって歩く。


「結構賑わってるね。朝の海風も気持ちいい」


 ティアが頬に風を受けながら笑う。


「そうだな。……てか、腹減ったからそこら辺で売ってる焼き魚でも食いながら行こうぜ」


 ジオがそう言った途端、ぐぅ、と腹が鳴った。


 ティアが思わずくすっと笑う。


「ああ、戦う前に食事は摂っておいた方がいいだろうな。海に出たら、ゆっくり食べる暇もないかもしれん」


 ガルウィンがそう言った時だった。


(儂の分も用意するんじゃぞ)


 頭の奥で、当然のような声が響く。


 ガルウィンは一瞬だけ目を細めた後、諦めたように口を開いた。


「……レグナも何か食わせろと言っている」


 その通訳に、ティアは笑みをこぼす。


「じゃあ、何か買って人目のないところで食べよっか」


「賛成だ!」


 ジオが元気よく頷いた。



 三人は露店で朝食を買い込み、人の少ない海辺まで移動した。


 用意したのは四人分――いや、三人と一匹分を含めた朝食だ。


 焼き魚、蒸し貝、そして貝のスープ。

 潮の香りに混じって、香ばしい匂いがふわりと漂ってくる。


「うぉー! 美味そう! いただきまーす!」


 ジオは目の前の食事に一気に機嫌を良くし、すぐさま焼き魚にかぶりついた。


「本当に美味しそう。わたしもいただきます」


 ティアも手を合わせ、行儀よく食べ始める。


 ガルウィンは自分の皿を前に置くと、静かに言った。


「おい、レグナ。出てきても大丈夫だぞ」


 その言葉を待っていたかのように、青い煙がふわりと立ち上る。


「おぉー。美味そうじゃの! 儂の分は?」


「これだ」


 ガルウィンは、焼き魚と蒸し貝を乗せた皿を差し出した。


 レグナは煙を器用に伸ばし、その皿ごと受け取る。


 そして次の瞬間、魚を一口でぱくりと食べた。


 ガルウィンも蒸し貝を手に取り、口へ運ぶ。


「うむ、美味いな」


 珍しく、はっきり満足そうな声音だった。


 レグナも上機嫌で食べ進めている。


 その様子を見ながら、ジオがふと疑問を口にした。


「てか、レグナって食べたもん、どこに消化されてんだ?」


 レグナは煙の顔でも分かるほど、もぐもぐしながら答える。


「儂が食べた分は、大体は魔力に変換しておる」


「大体は?」


 ティアが首を傾げる。


「まあ、腹が減るわけではないし、食わんでもいいんじゃが……此奴が美味そうに食うもんでな。儂にも楽しみが必要なんじゃ」


「へぇー」


 ジオが感心したように頷く。


「確かに、ずっとガルウィンの中にいるんだもんな。人前じゃ出てこれないし」


 少し不憫そうな声だった。


「まあ、暇な時は此奴と話すか、寝るかのどっちかじゃな」


 そこでティアが、ひとつの疑問に気づく。


「さっき“大体は”って言ったよね? 魔力に変えない分はどうしてるの?」


「そりゃ、此奴の身体に吸収させとるわ」


 レグナは、あまりにも当たり前のように言った。


 ガルウィンの手が止まる。


「……ん? どういうことだ?」


 レグナはきょとんとしたように答えた。


「どういうことも何も、言葉通りじゃ。お主の肉となり、骨となっとるということじゃ」


 ティアがはっとして言う。


「つまり……ガルウィンはレグナさんの分の食事まで食べてるってこと?」


「うむ、そういうことじゃの!」


 レグナは胸でも張るような勢いで答えた。


 ジオがじっとガルウィンを見る。


「じゃあガルウィン、何もしなかったら二人分食べるから……デブ――」


 そこで、ぴたりと口を閉じた。


 ガルウィンが、ものすごく鋭い目で睨んでいたからだ。


 次の瞬間、ガルウィンはレグナの皿をひったくるように奪い取った。


「あっ! 何をするんじゃ!」


「何をするんじゃ、じゃない!」


 ガルウィンが声を荒げる。


「どうりで最近、何を食べても少し食い足りないような感じがしたわけだ! お前のせいだったのか!」


 ここ最近、ほんの少しだけ腹回りに違和感を覚えていたのを思い出す。

 嫌な予感が、確信へと変わった瞬間だった。


「いいじゃろ、別に! その分、お主が運動すれば!」


 レグナは完全に人任せだった。


「ふざけるな! お前のせいで太ってたまるか!」


「太ったガルウィン……」


 ティアがぼそりと呟く。


 その横でジオも想像してしまったらしく、吹き出した。


「ぶっ……!」


「そこ! 想像するんじゃない!」


 ガルウィンが即座に突っ込む。


 朝焼けに照らされた海辺で、二人は笑い、ガルウィンとレグナは言い争う。


 穏やかな朝の食卓。

 だがその先には、海の上での戦いが待っている。


 それでも今だけは、ほんの少しだけ平和な時間が流れていた。

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