出航への道
遅くなり申し訳ありません!
コルナ港に到着した三人は、潮の香りが漂う埠頭を歩きながら、船を探していた。
港は広く、大小さまざまな船が並んでいる。
だが――どの船も出航の気配はなかった。
「すみません、東大陸か南大陸に出る船を探しているんですけど……」
ティアが船の整備をしている船乗りたちに声をかける。
しかし返ってきたのは、申し訳なさそうな表情だった。
「すまないね、今はどの船も出ないと思うよ。最近は海の魔物が活発になっていてね……。俺たちも商売上がったりなんだよ……」
「この間、王様からの特例で南大陸から船が出たが、あれも魔物に見つからないようにごく少数の人数で小型の船舶だったからな」
船乗りたちは口々にそう話す。
ガルウィンは小さく息を吐いた。
「……たぶんセルディオのことだな」
ティアが振り返る。
「そっか。セルディオさん、港から来たって言ってたもんね」
「冒険者ギルドにも依頼は出してるんだがな。流石にBランクパーティーぐらいの冒険者達じゃないと、アイツは倒せないだろうしな」
別の船乗りが言った。
ガルウィンは視線を向ける。
「どんな魔物なんだ?」
その問いに、船乗りはあっさりと答えた。
「タコだよ」
「でっかいタコ」
「船よりもかなり巨大だからな。並の冒険者じゃ無理だろう」
――その瞬間。
(何!? タコだと!?)
ガルウィンの内側で、レグナが叫んだ。
(おい! ガルウィン! 久しぶりに食いたいぞ!)
(……冗談じゃない)
即答だった。
ガルウィンの表情はわずかに引きつる。
「……」
ジオもまた、何かを察したように無言になっている。
ティアだけが会話を続けた。
「Bランクかぁ……。流石に船の上で戦うってなったら難しいよね」
「……あぁ、厳しいな」
ガルウィンは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「船も船員も無駄にはできないからな。まぁ、もっと詳しい話が聞きたいなら港会長のところに行ってみな。夜なら酒場で飲んでるはずだから」
船乗りたちに礼を言い、三人はその場を離れた。
⸻
時間を潰すため、三人は近くの宿へ入る。
しかし――
「すみません、空いてる部屋はありますか?」
「今日は団体客が多くてねぇ……三人部屋なら一つだけあるよ」
結果、三人は同じ部屋に泊まることになった。
部屋に入ると、ティアはベッドに腰掛ける。
「夜まで暇だね。なんか食べに行く?」
だが――返事がない。
ガルウィンとジオは、なぜか揃って顔色が悪い。
「……?」
ティアが不思議そうに見ていると、
ふわり、と青い煙が立ち上った。
「のう、お主からも一言言ってやってくれんか?」
レグナが現れる。
「な!? レグナ! また勝手に……!」
ガルウィンが慌てて声を荒げる。
だがレグナは完全に無視して、ティアに話しかけた。
「レグナさん? どうしたの?」
「儂は久しぶりにタコを食べたいんじゃが、此奴、尻込みしておっての〜」
「おい! レグナ! 勝手に……!」
「尻込み?」
ティアが首を傾げる。
「此奴、タコが苦手じゃから討伐しに行きたくないと駄々をこねとるんじゃ」
「誰が駄々だ! 子供扱いするんじゃない!」
「子供じゃろが! なーにが足が多いから気持ち悪いじゃ!? いいおっさんが情けない!」
「えっ!? ガルウィン、タコもダメなの?」
ティアが目を丸くする。
「足が多い虫じゃなくて、そもそも足が多いのがダメってこと?」
「…あぁ。動きが不規則すぎて別の生き物みたいに蠢いてるのが気持ち悪すぎる…」
その時。
今まで黙っていたジオが、ガタンと音を立てて立ち上がった。
「悪い、俺パーティー抜けるわ」
「えぇっ!? なんでいきなり!?」
「だってこの流れ、絶対タコ倒しに行く流れだろ!」
ジオは必死だった。
「無理無理無理! あの吸盤見るだけでキモいって!」
両腕を抱えて震え出す。
「あの足の数で吸盤がびっしり付いてて、あれに巻き付かれたと思うと……うわっ……!」
完全に想像している。
「いや……えぇ……」
ティアは完全に困惑していた。
「なんじゃ! お主ら! 大の男が二人してなっさけないの!」
レグナが呆れたように言う。
「仕方ないだろ! 苦手なモンは苦手なんだから!」
ジオが叫ぶ。
ガルウィンも横で必死に頷く。
――コクコクコク。
「儂はあの食感を味わいたいんじゃ! 絶対に倒しに行くぞ!」
「冗談じゃない! 大体タコなんて酒場で食べられるだろう! なぜわざわざ生の、しかも巨大なタコを倒しに行くんだ!?」
「そうだそうだ! ガルウィンの言う通りだぜ!」
「貴様ら……」
レグナがプルプルと震える。
「いつまでも我が儘を言いおって……」
ティアが慌てて止めに入る。
「ま、まぁまぁ! みんな落ち着いて――」
その時だった。
レグナが、ふとティアを見て――何かを思いついた。
「……貴様ら、よいのか?」
声色が変わる。
「タコを倒さなければ、そこの娘の父親も探しに行けんのじゃぞ?」
核心を突いた。
「うぐっ!?」
ガルウィンが詰まる。
「よいのかの〜? あれだけ『彼女は私が守る!』とか言っておった男が、タコ如きに尻込みして泣き喚いて。みっともないのぉ?」
「うぐぐぐ……!」
さらにレグナはジオへ向く。
「お主もこの間『俺も強くなるよ!』とか言っておったな? その結果がこれか〜。かぁ〜! 舌先三寸とは正にこのことじゃの〜」
「うぅぅ……!」
ジオも崩れる。
レグナは止まらない。
「かわいそうな娘じゃ。こーんな情けない男二人と旅して。これでは父など一向に見つけられんわ」
わざとらしくため息をつく。
「儂に肉体があったらのぉ……代わってやりたいぐらいじゃ」
そしてわざとらしく言い直す。
「おっと?すまん、すまん!聞こえておったかの?」
完全に煽りである。
ティアは思わず内心で感心していた。
(レグナさん……すごい……)
そして――トドメ。
「ティアの方がよっぽど勇敢じゃ。たった一人で旅に出て、怖がりもせずに進んでおる。それに比べてお主らは……何? 足が多いから怖い? 吸盤がびっしりで怖い?」
にやり、と笑う。
「可愛いのぉ〜。娘っ子みたいじゃ」
――完全にオーバーキルだった。
二人はその場に崩れ落ちる。
「わ、わかった……我慢する……本当にすまなかった……」
「お、俺も……我が儘言ってごめん……分かったからもう言わないで……」
レグナの勝利だった。ガッツポーズを決めてるように見えた。




