3人と1匹
「ガ、ガ、ガルウィン……そ、それ何……?」
ジオが引きつった顔で指をさす。
ティアも無言でこくこくと頷いていた。
その視線の先――
ガルウィンの右肩には、青い煙で形作られた“何か”がいた。
ガルウィンは顔を手で覆い、深く、重く息を吐く。
――最悪だ。
そうとも知らず。
「儂もアップルパイが食べたい!」
元凶は、堂々と宣言した。
その瞬間。
ガルウィンの中で、何かが完全に切れた。
「レグナァァァ!!」
顔を上げたガルウィンは、右肩を鋭く睨みつける。
「さっき会話するなと言っただろう! しかもなんだ!? 直接出てきて第一声がアップルパイ食べたいだと!? 普通は後で言うか、私に直接聞くだろう! お前には常識というものが無いのか!?」
怒涛の勢いでまくし立てる。
だが、レグナも負けてはいない。
「なんじゃと!?」
煙の顔がぷくっと膨らんだように見えた。
「お前ばかり美味いものを食べおって! 儂なんぞ、そこらに漂っている魔力を細々と食っておるんじゃぞ!? そんな時に目の前で美味いものを食べておるお前が悪い!」
さらに言い切る。
「大体、常識じゃと!? 儂はドラゴンじゃ! そんなもん知らん!」
「開き直るな!!」
完全に口論である。
ジオは呆れたように頭をかいた。
「おいおい、おっさん同士でそんな争うなよ」
「お前は――!」
「お主は黙っておれ!」
二人の声がぴたりと重なり、ジオは即座に黙らされた。
「……はい」
なぜか素直だった。
ガルウィンとレグナの口論はさらにヒートアップしていく。
そんな中。
ようやく我に返ったティアが、おずおずと動いた。
アップルパイを切り分け、皿に乗せる。
そして恐る恐る差し出した。
「レ、レグナ……さん? よ、よかったら……どうぞ」
その瞬間。
レグナはぴたりとガルウィンを無視した。
「おぉー、すまんの」
右肩から煙を伸ばし――
一口。
本当に一口で、皿の上のアップルパイを丸ごとかぶりついた。
「なっ――!? おい、レグナ!?」
止める間もない。
すでに、跡形もなく消えていた。
「美味いのー」
満足げな声だけが残る。
ガルウィンの拳がわなわなと震える。
「くっ……こいつ……」
一方で、ティアとジオはまだ現実を理解しきれていなかった。
だが、意を決したようにティアが口を開く。
「も、もしかして……ガルウィンの中にいるっていう、ドラゴンですか?」
「えっ!? どういうことだよ!?」
ジオが即座に食いつく。
ティアが簡単に事情を説明すると――
「いかにも」
レグナが堂々と名乗った。
「儂が此奴の中に居るドラゴン、レグナじゃ」
「何がいかにもだ。今さら威厳ある感じで名乗るな」
ガルウィンが即座に切り捨てる。
「なんじゃと?」
再び火花が散りそうになる。
だが、今度はジオが間に入った。
「ま、まぁまぁ。……それよりさ、なんで急に出てきたんだ?」
「ふむ」
レグナは少しだけ考える素振りを見せる。
「そこの娘の魔力を流された時に目を覚ましての。それから、そこらの魔力を食っておったら……こうして外に出られるようになったというわけじゃ」
「いい迷惑だ」
ガルウィンが即座に切り捨てる。
だが、そのやり取りを見ていたティアが、くすっと笑った。
「仲良いですね」
「冗談じゃない」
ガルウィンが即否定する。
「儂も嫌々じゃ。誰が好き好んでこんなおっさんと仲良くするか」
「お前の方がおっさんだろう!」
ぴしゃりと言い返す。
そんな二人を見て、ジオは腕を組みながら言った。
「まぁ状況はよく分かんねぇけど……とりあえず、レグナも仲間ってことでいいよな?」
「お前、受け入れるの早くないか?」
ガルウィンが即ツッコむ。
ティアも苦笑しながら言う。
「まあ……ガルウィンが不思議なのは今に始まったことじゃないですし、私もちょっと受け入れてます」
「ティアまで……」
ガルウィンはわずかに肩を落とした。
レグナは満足げに頷く。
「うむ。儂も此奴の中にいる以上、仲間として扱ってくれて構わん」
そしてさらりと続けた。
「その代わり、この三人以外には姿は見せん。……また美味い飯があったら食わせてくれ」
「頼み込むな! しかもそれは脅迫か!?」
ガルウィンが即座に怒鳴る。
だが――
「はい! また美味しいの作りますね!」
「今度は肉食わせてやるよ!」
ティアとジオがあっさり受け入れた。
「餌付けをするな!!」
ガルウィンの叫びが響く。
しかしレグナは満足そうに言った。
「では、よろしくの〜」
言いたいことだけ言い切ると、ふっと煙ごと消えた。
「おい! 待て!」
ガルウィンが呼びかける。
だが返事はない。
完全に引っ込んだらしい。
しばらくの沈黙。
やがてガルウィンは深く息を吐き、二人へ向き直る。
「……すまなかった」
本気で申し訳なさそうな声だった。
するとジオが立ち上がり、背後に回ってぽんと肩を叩く。
「まぁ気にすんなよ! 面白かったし!」
「……慰めになっていない」
ガルウィンは真顔で言った。
ティアは慌てて明るく言う。
「と、とりあえず! ギルドに行って依頼でも受けましょう!」
「あぁ……」
ガルウィンはどこか疲れた様子で頷く。
三人はそのまま、クレリアットのギルドへ向かって歩き出した。
――新たな騒動の予感を残したまま。
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