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ブルーレゾナンス  作者: kiriiti
コルナ港へ
23/34

パーティーの初陣

翌朝。

 ガルウィン、ティア、ジオの三人は、クレリアットの冒険者ギルドを訪れていた。


 オーレリア王国のギルドに比べれば、ここはやや小さい。

 建物の造りはどこか西部劇に出てくる酒場のようで、木材を基調にした無骨な雰囲気が漂っている。


 だが、中へ入れば活気は十分だった。

 朝から多くの冒険者で溢れ返り、クエストボードの前には人だかりができている。笑い声、怒鳴り声、椅子を引く音が入り混じり、いかにも地方のギルドらしい賑やかさがあった。


 三人もクエストボードの前に立ち、依頼を眺める。


「……あんまり報酬が良さそうなのねぇな」


 ジオが腕を組みながら呟く。


「そうですねぇ……」


 ティアも同じように首を傾げた。


「やっぱり、条件のいい依頼は他の冒険者さんたちに取られてるんでしょうね」


「だろうな」


 ジオも頷く。


 そこでふと周囲を見回し、何かに気づいたように顔を上げた。


「あれ? ガルウィンは?」


 そう言われてティアも辺りを見渡す。

 すると少し離れたテーブル席に、一人で腰掛けているガルウィンの姿を見つけた。


 何やら本のようなものを開いている。


「もしかして……」


 ティアは半ば確信しつつ、そちらへ近づいた。


 案の定、ガルウィンが読んでいたのはクエストブックだった。

 Cランク以上だけが借りられる、特別な依頼が載った冊子である。


「なんだそれ?」


 後ろから覗き込んだジオに、ティアが説明する。


「クエストブックっていって、Cランク以上の人しか見られない依頼が載ってるんですよ」


「へぇー……」


 ジオは感心しながら、ガルウィンの肩越しに中を覗き込んだ。


 ティアはじっとガルウィンを見つめ、釘を刺すように言う。


「ガルウィン。この前みたいに、名前だけで決めないでくださいね」


 ガルウィンはページをめくりながら、当然のように答える。


「もちろんだ」


「この前?」


 ジオが不思議そうに聞き返す。


 ティアは少しジト目になって言った。


「前に依頼を選ぶ時、討伐するモンスターの名前だけで決めたんです。あの時は大変だったんですから」


 じわじわと蒸し返すような口調だったが、ガルウィンは特に気にする様子もなくページをめくっている。


 そして、不意に手を止めた。


「……これはどうだ?」


 少し嬉しそうに、二人へページを見せる。


 そこにはこう書かれていた。



― ダイゴレム討伐 ―

報酬:10万ゴールド



 しかも今回は簡単な挿絵まで付いている。

 見たところ、巨大なゴーレム系の魔物らしい。


「いいんじゃねぇの?」


 ジオがあっさり頷く。


「報酬もまあまあいいしな」


「……そうですね。今回は大丈夫そうです」


 ティアも依頼内容を見ながら頷いた。


 少なくとも、足が大量に生えた虫ではない。

 その一点だけでも十分安心材料だった。


「決まりだな」


 ガルウィンはそう言って立ち上がり、そのまま受付へ向かって依頼を受けてくる。


 手続きを終えて戻ってくると、ティアが言った。


「じゃあ、薬とか必要なものを買ってから向かいましょう」


「ああ」


「了解」


 三人は短く頷き合い、準備を整えてギルドを後にした。



 ダイゴレムが現れるという岩山は、クレリアットの西にあるらしい。


 街道を少し外れ、草地と土の道を三時間ほど歩いた先。

 ようやく目的の場所が見えてきた。


 岩山といっても、切り立った山ではない。

 少し小高い岩場が連なっている程度で、すぐ横には森が広がっている。


「この辺りにいるはずなんだけど……」


 ティアが周囲を探していると、不意に動きを止めた。


「……いました」


 声を潜めてそう言い、ある一点を指差す。


 そこには一見ただの大きな岩があった。

 だが、よく見れば苔がびっしり生えており、その巨体がわずかに動いている。


 明らかに自然物ではない。


 そばまで来たガルウィンは、低い声で二人に指示を出す。


「私が先に斬る。隙を見てジオが叩け」


「了解」


「ティアは中距離から火球とウィンドエッジで少しずつ削れ」


「わかりました」


 確認を終えると、ガルウィンは短く言った。


「行くぞ」


 次の瞬間、地を蹴って走り出す。


 翠剣を抜き放ち、一気に不自然な岩へ斬りかかった。

 だが――


 甲高い音とともに火花が散る。


 硬い。


 ほとんど岩そのものだ。


 その一撃で敵は目覚めた。

 ゴゴゴ……と地鳴りのような音を立てながら、岩の塊がゆっくりと起き上がる。


「……っ」


 三人は思わず息を呑んだ。


 それは想像以上に巨大だった。


 頭部と思しき場所には苔がびっしりと生え、全身は無数の岩が寄せ集まってできている。

 人型ではあるが、その大きさは十メートル近い。


「で、でかくないか!?」


 ジオが焦った声を上げる。


「これ、攻撃通るんですか!?」


 ティアも驚きを隠せない。


 ガルウィンも目を細めた。


「……ちょっと予想外だな」


 だが止まってはいられない。


 ジオはとりあえず拳を握り締め、足元へ飛び込んだ。


「豪掌!」


 大きく踏み込み、岩の脚部を思い切り殴りつける。


 ヒビは入った。

 だが、それだけだ。


 ダイゴレムは意にも介さず、先に攻撃を仕掛けたガルウィンめがけて巨大な腕を振り下ろす。


 ガルウィンは横へ跳んで回避し、そのまま即座に斬り返す。

 だが、やはり刃は深く通らない。


 ティアも距離を保ちながら、


「ファイアーボール!」「ウィンドエッジ!」


 と次々に魔法を放つ。

 しかし、焼け焦げも切り傷もほとんど残らない。


「こいつ硬すぎないか!?」


 ジオが声を上げる。


 ガルウィンは一度後方へ飛んで距離を取り、剣を構えた。


「――一閃」


 レグナの力を使わずとも、この新しい剣は剣技に耐えられる。

 放たれた鋭い斬撃がゴーレムの巨体を打つ。


 だが、やはり入ったのは浅いヒビだけだった。


「どうやって倒しましょう……!」


 ティアの声にも焦りが混じる。


 その時、ガルウィンの目がわずかに細まった。


「……頭に苔が生えていたな?」


「えっ? まあ、びっしり生えてましたけど……」


「そこなら、少しは脆いかもしれん」


 ジオは足元を叩きながら叫ぶ。


「けど、そこまで飛べねぇだろ!」


 ガルウィンはすぐにティアを見る。


「ティア。ムカデをやった時みたいに、風で補助できるか?」


 ティアは一瞬で意図を理解した。


「大丈夫! いけます!」


 ガルウィンは今度はジオを呼ぶ。


「ジオ! こっちに来い!」


 ジオはダイゴレムの踏みつけを避けながら駆け寄ってきた。


 ガルウィンは両手を低く構える。


「ジャンプしろ!」


「おう!」


 ジオは迷わずその両手を踏み台にした。


 片足が乗った瞬間、ガルウィンは一気に腕を振り上げる。

 ジオの身体が高く宙へ打ち上がった。


 さらにその直後、ガルウィン自身も地を蹴って跳ぶ。


 そこへティアの風が吹き上がる。


 上昇気流のような風が二人をさらに押し上げた。


 空中で体勢を整えながら、ガルウィンが叫ぶ。


「ジオ! 先に私がヒビを入れる! そこへ思い切り叩き込め!」


「了解だ!」


 ガルウィンは空中で剣を構える。


「――一閃!」


 薙ぎ払いの斬撃が、ダイゴレムの頭部へ走る。

 苔むした岩肌に、今までより深いヒビが入った。


 その直後だった。


 ジオが拳に雷を纏わせる。


 眩い光が炸裂し、轟くような声が響いた。


「くらえ! 雷霆拳!!」


 雷を宿した一撃が、ヒビの入った頭部へ突き刺さる。


 次の瞬間――


 バキィッ! と大きな音を立てて、ダイゴレムの頭が砕け散った。


 巨体がぐらりと揺れる。


 苦しげな地鳴りのような声を上げ、そのまま大地を震わせながら倒れ込んだ。


「うおっ!?」


 ジオはその反動で体勢を崩し、盛大に地面へ落ちる。


 一方のガルウィンは空中で身をひねり、軽やかに着地した。


 砂まみれになったジオが口に入った砂を吐きながら文句を言う。


「ぺっ、ぺっ……最悪だ!」


「なんとかなったな」


 ガルウィンは淡々としていた。


「結果はな!」


 ジオが即座に言い返す。


 そこへティアが駆け寄ってくる。


「うん! いい連携でした!」


 その声には心からの喜びが滲んでいた。


 ガルウィンはジオへ手を差し伸べる。


「いい一撃だった」


 ジオはにやっと笑ってその手を掴んだ。


「へっ! 当然!」



 戦闘が終わると、今度は討伐証明のための素材回収である。


 ティアが素材ナイフを取り出し、ダイゴレムの残骸に向けた。


 ナイフがぱっと光る。


 次の瞬間、巨大なゴーレムの残骸は、無数の岩素材へと分解されていた。


 その量を見た瞬間――


 三人は揃って黙った。


 岩、岩、岩。

 少しの山なら築けそうなほどの量である。


「……この岩、持って帰るんですか?」


 ティアが絶望したように呟く。


 ガルウィンとジオはその場に座り込み、まったく同じ顔で答えた。


「「無理だな……」」


 ぴったり重なった声に、ティアは思わず苦笑するしかなかった。



 結局、持てるだけの岩を持ち帰ることにした。


 残りについてはギルドの受付で事情を説明し、後日ギルド側が引き取りに向かうことになった。


 依頼達成の手続きも無事に終わり、三人はそのまま酒場で食事を取ることにした。


 椅子に腰を下ろしたジオが、満足そうに笑う。


「初めてにしては、いい連携だったな」


「ああ」


「うん、そうですね」


 ガルウィンとティアも同意する。


 ジオは上機嫌のまま続けた。


「いやぁ、ガルウィンは予想通り強かったし、ティアの補助もかなり助かったぜ」


 褒められたティアは少し照れたように笑う。


 ガルウィンも短く答えた。


「ジオも中々良かった」


「おっ、珍しく素直じゃねぇか」


 ジオがにやにやする。


 ティアも元気よく頷いた。


「はい! 二人とも強かったです!」


 その言葉に、ガルウィンとジオは顔を見合わせ――どちらともなく小さく笑った。


 食事はいつもより少しだけ賑やかで、温かかった。



 宿へ戻る頃には、三人とも程よい疲労と満足感に包まれていた。


 それぞれ部屋の前で立ち止まり、短く言葉を交わす。


「じゃあ、おやすみ!」


「おう、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 三人はそれぞれの部屋へ入っていった。



 ガルウィンはベッドに腰を下ろし、そのままゆっくりと横になる。


 疲れているはずなのに、心は妙に静かだった。


(……そういえば、最近は眠れるな)


 かつては眠りに落ちるたび、過去が蘇った。

 だが今は違う。


 ティアがいて、ジオがいて、少しずつ旅が形になっている。

 その変化が、自分でも気づかぬうちに心を和らげていた。


 ガルウィンは穏やかなまどろみに身を委ねる。


 意識がゆっくりと沈んでいく、その奥で――


 彼の内に眠る存在が、静かに目を開けた。


 レグナ。


 長く沈黙していた竜が、ゆっくりと覚醒し始めていた。

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