表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーレゾナンス  作者: kiriiti
コルナ港へ
21/34

新たな仲間

焚き火のそばで温かい食事を口にしながら、目を覚ましたばかりのガルウィンは、向かいに座るジオとリリィへ視線を向けた。


「…二人は、これからどうするつもりだ?」


 その問いに、先に答えたのはリリィだった。


「わたしたちはオーレリアに戻って、依頼の報告をするつもりよ」


 手に持った器を見つめながら、少し申し訳なさそうに続ける。


「今回の調査、結局ろくにできなかったし……依頼としては失敗だもの」


 それを聞いたティアが、すぐに口を挟んだ。


「でも、今回の蜘蛛はもう倒しましたし、危険がなくなったことを伝えればいいんじゃないですか?」


 リリィは困ったように微笑む。


「それは、あなたたちの手柄でしょう? わたしたちが報酬を受け取るべきじゃないわ」


 だが、ティアもガルウィンも気にした様子はなかった。


「私たちは今からオーレリアに戻るつもりもないしな」


 ガルウィンが淡々と言う。


「それに、もともとは二人を助けるために洞窟へ入っただけですから」


 ティアも頷いた。


 すると、ジオがもぐもぐと食事を頬張りながら口を開く。


「それでも、あいつを倒したのはアンタらだ。報酬は貰えよ」


「うーん…」


 ティアとリリィが揃って悩ましげな顔をする。


 そんな空気を変えるように、リリィがふと尋ねた。


「そういえば、二人はどこに向かってるの?」


 ティアは器を膝の上に置き、素直に答える。


「コルナ港から、とりあえず南大陸を目指すつもりです。その前にクレリアットで少し依頼をこなして、路銀を稼ごうと思ってます」


 そして、思い出したようにジオを見る。


「そういえば、ジオさんも南大陸出身なんですよね?」


「ああ」


 ジオは頷いた。


「センドールって街から西大陸に渡ってきた。……そうか、アンタら南大陸を目指してんのか」


「はい」


「だが、今は船が運休中らしいぜ。俺も戻りたいんだが、船が出ねぇから、この西大陸でぶらぶらしてたんだ」


 その話に、リリィが「あ」と小さく声を上げた。


「だったら、ジオも二人について行ったら?」


「え?」


 ティアが目を瞬かせる。


「ここからならクレリアットも近いし」


 リリィはそう言ってから説明する。


「森を大きく迂回するより、この鉱山を突っ切った方がずっと早いのよ。だから、その道に危険がないか調査する依頼を受けたの」


「なるほど…」


 ティアが納得したように頷く。


 するとジオが、少しだけ真面目な顔になってガルウィンへ尋ねた。


「俺もついて行って大丈夫か?」


 だが、ガルウィンは首を振った。


「決めるのは私じゃない」


「え?」


「リーダーはティアだ」


「ええっ!?」


 今度はティアが本気で驚く番だった。


「そ、そうなんですか!?」


 ガルウィンは当然のことのように答える。


「私を旅に連れ出したのは君だ。それに、この旅の目的も君の父親探しだろう」


「父親?」


 ジオとリリィが揃ってティアを見た。


 ティアは少し照れくさそうにしながらも、父が行方不明であること、その情報を追って東大陸を目指していることを簡単に説明した。


 話を聞いたジオは、腕を組み、ふっと笑った。


「そういうことなら、ティア。俺もついて行っていいか?」


 ティアは少し考えてから、今度はリリィへ視線を向ける。


「仲間が増えるのは心強いですけど……リリィさんは一人で大丈夫なんですか?」


「私はとりあえずクレリアットまで行って、そこから馬車でオーレリアに戻るわ」


 リリィはしっかりとした口調でそう言った。


「それなら大丈夫ですね」


 ティアは安心したように笑うと、右手を差し出した。


「じゃあ、ジオさん。よろしくお願いします!」


 ジオもにっと笑って、その手をがしっと握る。


「おう! よろしく頼むぜ!」


 そのままジオはガルウィンの方を向いた。


「おっさんもよろしくな!」


 くったくのない笑顔だった。


 ガルウィンはわずかに眉をひそめる。


「おっさんじゃない。ガルウィンだ」


 それが彼なりの自己紹介だった。


 ティアとリリィが思わず笑いを漏らす。


 少し和んだ空気の中、ガルウィンは改めてリリィを見た。


「ところで、報酬の件だが…リリィ、と言ったか。君が受け取れ」


「え、いや……だから、それは…」


 リリィは戸惑った顔を見せるが、ガルウィンは静かに言い切る。


「パーティーの総意だ。一番ランクの低い君が受け取れ」


 有無を言わせぬ口調だった。


 リリィは困ったようにティアを見る。


 ティアはくすりと笑って肩をすくめた。


「ガルウィンの優しさだから、気にしないでいいですよ」


「そうそう」


 ジオも両手を頭の後ろで組みながら気楽に言う。


「一番の年長者が言うんだ。気にすんなって」


 ガルウィンは即座にジオを見た。


「お前は少し気にしろ」


 その一言に、ティアとリリィは声を上げて笑った。


 リリィもようやく観念したように笑い、小さく頭を下げる。


「……じゃあ、報告して有り難く受け取るわ」



 四人はそのまま朝まで洞窟の外で過ごし、夜が明けてからクレリアットへ向かった。


 鉱山を抜けた道は想像以上に近く、昼過ぎにはクレリアットの街へと辿り着くことができた。


 街の入り口は活気に満ちており、商人や旅人が行き交っている。


 そこでリリィとは別れることになった。


 馬車乗り場へ向かう彼女を、三人で見送る。


「じゃあ、わたしはオーレリアに戻るわ」


「気をつけてくださいね」


 ティアが手を振る。


「あなたたちもね。……本当に助かったわ」


 リリィは最後にもう一度礼を言うと、馬車へ乗り込んだ。


 動き出す馬車を見送った後、ジオが大きく伸びをしながら尋ねる。


「で、こっからどうすんだ? 依頼受けるのか?」


 ティアは少し疲れたように笑った。


「今日は、さすがに休みたいです…」


「そうだな」


 ガルウィンも異論はなかった。


「了解。じゃあ俺はちょっと街をぶらついてくるわ。後で宿に行く」


 そう言うと、ジオはひらひらと手を振り、そのまま人混みの中へ消えていった。



 ティアとガルウィンは宿屋へ向かう。


 見つけたのは、少し古びたレンガ造りの宿だった。外観こそ年季が入っているが、中は意外にも清潔で落ち着いた雰囲気がある。


 部屋に入ると、小さな椅子とテーブルが一つずつ備え付けられ、ベッドも綺麗に整えられていた。


 それぞれ個室を取り、二人は別々の部屋へ入る。


 ガルウィンは部屋へ入るなり、深く息を吐いてそのままベッドへ横になった。


 さすがに疲労が溜まっている。


 目を閉じかけた、その時だった。


 コンコン、と扉を叩く音がした。


「……開いている」


 そう告げると、扉がゆっくり開く。


 入ってきたのはティアだった。


 少しだけ真剣な顔をしている。


 部屋へ入るなり、ティアは真っ直ぐに尋ねた。


「洞窟でのこと…聞いていい?」


 ガルウィンは少しだけ黙り込み、やがて右手を見つめながら口を開く。


「私の中にいる竜は、今は魔力が足りず、話すことも力を出すこともできない状態だった」


 静かな口調だった。


「だから私は、自然に魔力が戻るのを待っていた。だが……どうやら、他者の魔力を吸い取れば早く回復できるらしい」


 ティアはその言葉を整理するように、ゆっくりと繰り返す。


「じゃあ……私が魔力を渡そうとしたから、吸収されて…あの力が使えたってこと?」


「どうやら、そうらしい」


 ガルウィンは短く頷いた。


「じゃあ、また渡せば使えるの?」


「使えるだろう」


 そこまでは即答だった。だが続く言葉は重い。


「だが、ティアの魔力を吸いすぎてしまうかもしれん。今後は、私に魔力を渡すのは控えた方がいい」


 ティアは黙って聞いている。


「今回は、気を失うだけで済んだ。だが次にどうなるかは分からない」


 部屋に静寂が落ちる。


 ティアは少しだけ考え込んだ後、ふっと顔を上げた。


「うん。わかった」


 そして、にこりと笑う。


「じゃあ、ピンチの時に渡すね」


 ガルウィンは思わず目を瞬かせた。


「…いや、話を聞いていたか?」


「聞いてたよ?」


 ティアは当然のように返す。


「でも、死ぬかもしれない状況なら、しょうがないでしょ?」


「…」


 あまりにも真っ直ぐな返答に、ガルウィンは言葉を失う。


 しばらく困ったような顔をしていたが、やがて諦めたように小さく息をついた。


「……なるべく、そうならないよう善処する」


 ティアは満足そうに笑った。


「うん、それでいい」


 そして扉の方へ向かいながら、振り返る。


「じゃあ、おやすみなさい」


 ガルウィンもわずかに微笑んだ。


「おやすみ」


 ティアが部屋を出ていき、扉が静かに閉まる。


 再び一人になった部屋で、ガルウィンはベッドの端に腰掛けたまま右手を見る。


 あの力は、確かに切り札になる。

 だが、その代償をティアに払わせるわけにはいかない。


 ――そういう状況にならないようにしなければならない。


 ガルウィンは静かに決意を固めると、ゆっくりとベッドへ身を預けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ