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ブルーレゾナンス  作者: kiriiti
青の覚醒
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訪問者

エント村に、一人の少女が現れた。

 槍を背負い、風に揺れる黒い髪。

 どこか品のある立ち振る舞い。

 白いシャツに緑のローブを羽織りズボンは動きやすさを重視したタイトなズボンを履いている。


「すみません」


 村人に声をかける。

 その声音は柔らかく、丁寧だった。


「この村に、強い方がいると聞いて来たのですが……」


 礼儀正しい口調。

 だが、その瞳の奥には、焦りと覚悟が見える。


「強い人、ねぇ……」

 

彼女の問いにその場にいた村人たちは顔を見合わせる。


「……もしかして、あの人のことか?」


「森の中に住んでる……」


 そして、一人が口を開いた。


「ガルウィンさん、だな」



「ガルウィン……さん?」


 

 少女――ティアは、その名前を小さく繰り返す。


「でも、あの人は村にはほとんど来ないぞ」


「山奥で一人で暮らしてる」



「それでも、会うことはできますか?」


 迷いはなかった。

 村人は少しだけ考え――


「ああ、道は教える。ただ……」


「ただ?」


「……変わった人だぞ」


 その言葉に、ティアはわずかに微笑む。


「それでも、構いません」



 山道を登る。

 空気は澄み、風は冷たい。

 ティアは歩きながら、自分の手を握る。


(……ここで見つからなければ)


 ティアは1年前から音沙汰がない父を探して旅をしていた。

 父親は遺跡専門の研究者であり、ある時遺跡探究に出かけそのまま戻ってこない。


 一ヶ月探し続けた。


 だが――

 現実は甘くない。

 行き先も告げず情報もオスカーという名前以外ない。

 その上1人では魔物にも行手を阻まれ思うように進めない日々。

 だからこそ、決めた。

 せめて色々な場所に行ける様に強い者と組む。


(Dランクじゃ、誰も……)


 苦く笑う。

 ティアは冒険者ギルドに属しており日々様々な依頼をこなし金を稼いでいた。

 父が居た時は近場の薬草採取など比較的安全な依頼をこなしていた。だが旅に出るとなると違う。危険な魔物、情報収集、夜は魔物の襲撃を警戒しながらの旅。女性1人旅で全てをこなすのは到底無理な話だった。

 最初はギルドで同行者を募った。だが無期限の同行でどこに行くかもわからない。

 そんな条件を飲む者は、ほとんどいない。ましてやティアはDランク。

 それでも。


(……絶対に、見つける)


 足を止めることはなかった。



 日が沈みだし、やがて、開けた場所に出る。

 そこは中心に大きな木が生えておりその周りは森に囲まれている。まるでそこだけ環境が違うような場所。

 そしてそこには小さな焚き火。


 大木の虚から見える簡素な住まい。


 そして――男がいた。


 白髪、整った髭、青い眼光は鋭く服の上からもわかるほどガッシリとした体格だった。

 白のシャツに茶色のベスト。胸元には青いブローチの様な物が光って見えた。

 こちらに気づいているかどうかわからない。

 静かな空気。

 ティアが一歩踏み出した、その時。


 男が、顔を上げた。


 ――目が合う。


 その瞬間。


 ガルウィンの思考が、止まった。


 ――エレア。


 最愛の女性の姿が、重なる。

 風に流れる黒い髪。

 少し幼さが残った顔立ち。

 柔らかい雰囲気。

 目の奥の光。


 あまりにも、似ていた。


「……」


 だが。

 次の瞬間には、静かに目を伏せる。


(……違う)

 

 当たり前だ。


 (彼女は死んだ…)


 ガルウィンは300年前に自分の両手の中で息を引き取った彼女の事を思い出した。


「……何の用だ」


 落ち着いた声で問う。

 ティアは一礼する。


「突然すみません。私はティアと申します」


 礼儀正しい所作。


「少し、お話をしてもよろしいでしょうか」


「……構わない」


 ガルウィンは焚き火で焼いている肉を見ながら答える。


「食事の準備をしている。食べるならもう一枚焼くが?」


「……ありがとうございます」


 ティアは少し驚いたように目を瞬かせた。

 だが、すぐに真剣な表情へ戻る。


「お願いがあります」


 まっすぐに、ガルウィンを見る。


「いなくなった父の捜索を、手伝っていただけませんか?」


 焚き火が、ぱちりと音を立てる。


「……なぜ、私に頼む?」

 

 短い問い。ガルウィンはなぜ彼女がこんな場所に来て面識もない自分に頼むのかが理解できなかった。


「この辺りであなたが強い方だと聞きました。」


 迷いのない答え。


「……それだけか?」


「はい、今のわたしには仲間が必要なんです。」


 ガルウィンは少しだけ目を細める。

 

「……腕はどの程度だ?」


「え?」


「実力が知りたい。話はその後だ」


 一瞬、間が空く。

 だがティアは、すぐに槍を握り直した。


「……わかりました。お見せします」


 その言葉に、ガルウィンは立ち上がる。


「来い」


 ティアはガルウィン目掛けて走る。怪我をさせるかも知れないが只者ではないと感じたティアは手を抜く事なく自分の力を見せる為全力で挑む。

 魔法を唱え炎を槍に纏わせる。

 炎の魔法を乗せた突き。


 だが――


「……遅い」


 ガルウィンは一歩で間合いを詰める。

 そのまま槍を手に取り受け流し、崩す。

 

 ――一瞬だった


 ティアはそのまま槍を支点に身体が宙に浮き、地面に倒れ込む。

ティアの視界にすっかり暗くなった夜空が入る。

そして、身体を起こそうとした瞬間、首元に手刀が止まっていた。


「……終わりだ」


 静かな声。

 ティアは息を呑む。

 悔しさが、表情に滲む。

 いくら強いとはいっても何もさせてもらえないほど差があると思ってなかった。


「……これが、現実だ」


 ガルウィンは手を引く。


「そんな腕で、旅に出るつもりか」


 厳しい言葉を投げかける。ガルウィンは悔しそうにこちらを見上げているティアを見下ろす。

 だが。

 ティアは、

 

「……それでも」


 まっすぐに、見返す。


「それでも、父を見つけたいんです」


 迷いのない瞳。

 ――あの時と、同じ。

 エレアの、最後の目と重なる。


「……」


 ガルウィンは、目を閉じる。


 (すまない、エレア…。今度こそ…。)


 風の音だけが流れる。


 

 そして――目を開け



「……分かった」


 ゆっくりと、口を開く。


「とりあえず話を聞こう。」


 ティアの目が見開かれる。


「本当ですか……?」


 その表情に、わずかな笑みが戻る。


 止まっていた時間が――


 ゆっくりと、動き出す。

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