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ブルーレゾナンス  作者: kiriiti
コルナ港へ
15/34

情報

 翌日。


 オーレリアの大通り。


 人々の喧騒の中を、ガルウィンとティアは歩いていた。


「……いませんね」


 ティアが周囲を見回しながら呟く。


「……ああ」


 ガルウィンも視線を巡らせる。


 だが、あの異様な格好の男――アンソニーの姿はどこにもない。


「そもそも、どこにでも現れるって……」


「どこにいるか分からない、ということだな」


 バニーギルド。


 存在も、規模も、全てが曖昧な組織。


 見つからないのも当然だった。


「……どうします?」


「……」


 ガルウィンは少し考え、ふと口を開いた。


「……大声で呼んでみたらどうだ」


「え?」


「案外、それで来るかもしれん」


 冗談半分だった。


 だが――


「……なるほど」


 ティアは真剣な顔で頷いた。


 次の瞬間。


「アンソニーさーーーん!!!」


 大通りに響き渡る大声。


「情報料持ってきましたーーー!!!」


「……」


 通行人たちの視線が、一斉にティアへ集まる。


「……っ!」


 ガルウィンは思わず額を押さえた。


(まさか本当にやるとは……)


 すぐにティアの手を掴み、そのまま引っ張る。


「こ、こっちだ」


「え? あ、ちょっと――」


 そのまま、人目の少ない路地裏へと連れ込んだ。



 薄暗い路地裏。


「もう、なんですか急に――」


 ティアが振り返った、その時。


「……あ、あの」


 背後から声がした。


「っ!?」


 二人は同時に振り向く。


 そこに立っていたのは――


 全身白のバニータイツ。


 うさぎの毛皮に包まれた青年。


「……アンソニー」


 ガルウィンが呟く。


 アンソニーは、少し恥ずかしそうに視線を逸らしていた。


「お、お疲れ様でした……」


「暗殺ギルドとの戦い」


「……」


 ティアが目を見開く。


「どうして、それを……?」


「バニーギルドですので」


 それだけで、十分な答えだった。


「……」


 二人は顔を見合わせる。


 やはり、このギルドは普通ではない。


 ガルウィンは懐から袋を取り出した。


「約束の二十万ゴールドだ」


「ありがとうございます」


 アンソニーはそれを受け取り、一枚一枚確認する。


 やがて、小さく頷いた。


「確かに、受け取りました」


 そして、顔を上げる。


「では、情報を」


 空気が少しだけ引き締まる。


「オスカー様かどうかは断定できませんが」


「約十ヶ月前――東大陸に、遺跡研究者が大量に派遣されています」


「……東大陸」


 ティアが息を呑む。


「西大陸からも、数名の研究者が参加しています」


 アンソニーは淡々と続ける。


「その中に――アストン出身の研究者がいた記録があります」


「……!」


 ティアの目が、大きく見開かれた。


「……お父さんだ」


 小さく、しかし確信を込めて呟く。


「……ありがとうございます!」


 ティアは深く頭を下げた。


「本当に……ありがとうございます……!」


 アンソニーは少しだけ照れたように視線を逸らす。


 ガルウィンが静かに言う。


「……次の目的地が決まったな」


「はい……!」


 ティアは強く頷いた。


「ただし」


 アンソニーが言葉を続ける。


「現在、西大陸から東大陸へ直接向かう船はありません」


「……」


「行くのであれば、南大陸を経由し、そこから東へ向かう必要があります」


「……なるほど」


 ガルウィンが頷く。


「ですが」


 アンソニーは少しだけ表情を曇らせた。


「現在、海は魔物の影響で航路が封鎖されています」


「船は、ほぼ運休状態です」


「……」


 ティアの表情がわずかに沈む。


 希望は見えた。


 だが、道は閉ざされている。


「……それでも」


 ティアは顔を上げた。


「情報があるだけで、全然違います」


「本当に、ありがとうございました」


 ガルウィンも小さく頷く。


「……あとは、行く方法を探すだけだな」


「はい」


 二人がそう話した、その時。


「……あれ?」


 気づけば。


 アンソニーの姿は、もうそこにはなかった。


「……消えたな」


「ほんとに、どこから来てるんですかね……」


 二人はしばらく、その場に立ち尽くした。


 だが、すぐに歩き出す。


「とりあえず、ガッドさんのお見舞いに行きましょう」


「ああ」




 道中。


「そういえば」


 ガルウィンが口を開く。


「セルディオから聞いた、クーパー商会というのは何だ」


「えっ、知らないんですか?」


 ティアが少し驚いた顔をする。


「西大陸で一番大きい商会ですよ」


「様々な商品を扱ってますけど……」


「特に革製品とか装飾品が有名で、女性に人気なんです」


「……なるほど」


 ガルウィンは静かに頷く。


(そんなに大きな商会なんだな)


 そんな話をしているうちに、病院へと到着した。


 



 病室。


 白いベッドの上に、ガッドが横になっている。


 その横には、椅子に座るエルの姿。


「お、来たか」


 ガッドが笑う。


「ガッドさん! 体は大丈夫ですか?」


「おう、もう大丈夫だ」


「治療が終わったら、クレリアットに戻るつもりだ」


「そうなんですね……」


「僕はもう少しオーレリアに残るけどね」


 エルが軽く言う。


 そして、すぐにガルウィンへ視線を向けた。


「で、おじさん」


「あの煙、結局なんなの?」


「……」


 ガルウィンは、少しだけ間を置く。


「……私にも分からない」


 そう答えた。


「気づいたら、あのような力があった」


「……ほんとに?」


 エルがじっと見つめる。


「本当に知らないの?」


「……ああ」


 ガルウィンは目を逸らさずに答える。


「世の中には、不思議なこともある」


「……」


 エルは納得していない顔だったが、やがてため息をついた。

 

「……まあ、いいや」


「そういうことにしておく」

 

 そして、思い出したように言う。


「そうだ、セルディオが二人を呼んでたよ」


「……セルディオが?」


「うん。クーパー商会にいるって」


 ガルウィンとティアは顔を見合わせる。


「……行ってみるか」

 

「はい」


 二人は病室を後にし、再び歩き出した。


 次に向かうのは――


 西大陸最大の商会。


 クーパー商会。



 新たな情報と、次の道を求めて。

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