情報
翌日。
オーレリアの大通り。
人々の喧騒の中を、ガルウィンとティアは歩いていた。
「……いませんね」
ティアが周囲を見回しながら呟く。
「……ああ」
ガルウィンも視線を巡らせる。
だが、あの異様な格好の男――アンソニーの姿はどこにもない。
「そもそも、どこにでも現れるって……」
「どこにいるか分からない、ということだな」
バニーギルド。
存在も、規模も、全てが曖昧な組織。
見つからないのも当然だった。
「……どうします?」
「……」
ガルウィンは少し考え、ふと口を開いた。
「……大声で呼んでみたらどうだ」
「え?」
「案外、それで来るかもしれん」
冗談半分だった。
だが――
「……なるほど」
ティアは真剣な顔で頷いた。
次の瞬間。
「アンソニーさーーーん!!!」
大通りに響き渡る大声。
「情報料持ってきましたーーー!!!」
「……」
通行人たちの視線が、一斉にティアへ集まる。
「……っ!」
ガルウィンは思わず額を押さえた。
(まさか本当にやるとは……)
すぐにティアの手を掴み、そのまま引っ張る。
「こ、こっちだ」
「え? あ、ちょっと――」
そのまま、人目の少ない路地裏へと連れ込んだ。
⸻
薄暗い路地裏。
「もう、なんですか急に――」
ティアが振り返った、その時。
「……あ、あの」
背後から声がした。
「っ!?」
二人は同時に振り向く。
そこに立っていたのは――
全身白のバニータイツ。
うさぎの毛皮に包まれた青年。
「……アンソニー」
ガルウィンが呟く。
アンソニーは、少し恥ずかしそうに視線を逸らしていた。
「お、お疲れ様でした……」
「暗殺ギルドとの戦い」
「……」
ティアが目を見開く。
「どうして、それを……?」
「バニーギルドですので」
それだけで、十分な答えだった。
「……」
二人は顔を見合わせる。
やはり、このギルドは普通ではない。
ガルウィンは懐から袋を取り出した。
「約束の二十万ゴールドだ」
「ありがとうございます」
アンソニーはそれを受け取り、一枚一枚確認する。
やがて、小さく頷いた。
「確かに、受け取りました」
そして、顔を上げる。
「では、情報を」
空気が少しだけ引き締まる。
「オスカー様かどうかは断定できませんが」
「約十ヶ月前――東大陸に、遺跡研究者が大量に派遣されています」
「……東大陸」
ティアが息を呑む。
「西大陸からも、数名の研究者が参加しています」
アンソニーは淡々と続ける。
「その中に――アストン出身の研究者がいた記録があります」
「……!」
ティアの目が、大きく見開かれた。
「……お父さんだ」
小さく、しかし確信を込めて呟く。
「……ありがとうございます!」
ティアは深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます……!」
アンソニーは少しだけ照れたように視線を逸らす。
ガルウィンが静かに言う。
「……次の目的地が決まったな」
「はい……!」
ティアは強く頷いた。
「ただし」
アンソニーが言葉を続ける。
「現在、西大陸から東大陸へ直接向かう船はありません」
「……」
「行くのであれば、南大陸を経由し、そこから東へ向かう必要があります」
「……なるほど」
ガルウィンが頷く。
「ですが」
アンソニーは少しだけ表情を曇らせた。
「現在、海は魔物の影響で航路が封鎖されています」
「船は、ほぼ運休状態です」
「……」
ティアの表情がわずかに沈む。
希望は見えた。
だが、道は閉ざされている。
「……それでも」
ティアは顔を上げた。
「情報があるだけで、全然違います」
「本当に、ありがとうございました」
ガルウィンも小さく頷く。
「……あとは、行く方法を探すだけだな」
「はい」
二人がそう話した、その時。
「……あれ?」
気づけば。
アンソニーの姿は、もうそこにはなかった。
「……消えたな」
「ほんとに、どこから来てるんですかね……」
二人はしばらく、その場に立ち尽くした。
だが、すぐに歩き出す。
「とりあえず、ガッドさんのお見舞いに行きましょう」
「ああ」
⸻
道中。
「そういえば」
ガルウィンが口を開く。
「セルディオから聞いた、クーパー商会というのは何だ」
「えっ、知らないんですか?」
ティアが少し驚いた顔をする。
「西大陸で一番大きい商会ですよ」
「様々な商品を扱ってますけど……」
「特に革製品とか装飾品が有名で、女性に人気なんです」
「……なるほど」
ガルウィンは静かに頷く。
(そんなに大きな商会なんだな)
そんな話をしているうちに、病院へと到着した。
⸻
病室。
白いベッドの上に、ガッドが横になっている。
その横には、椅子に座るエルの姿。
「お、来たか」
ガッドが笑う。
「ガッドさん! 体は大丈夫ですか?」
「おう、もう大丈夫だ」
「治療が終わったら、クレリアットに戻るつもりだ」
「そうなんですね……」
「僕はもう少しオーレリアに残るけどね」
エルが軽く言う。
そして、すぐにガルウィンへ視線を向けた。
「で、おじさん」
「あの煙、結局なんなの?」
「……」
ガルウィンは、少しだけ間を置く。
「……私にも分からない」
そう答えた。
「気づいたら、あのような力があった」
「……ほんとに?」
エルがじっと見つめる。
「本当に知らないの?」
「……ああ」
ガルウィンは目を逸らさずに答える。
「世の中には、不思議なこともある」
「……」
エルは納得していない顔だったが、やがてため息をついた。
「……まあ、いいや」
「そういうことにしておく」
そして、思い出したように言う。
「そうだ、セルディオが二人を呼んでたよ」
「……セルディオが?」
「うん。クーパー商会にいるって」
ガルウィンとティアは顔を見合わせる。
「……行ってみるか」
「はい」
二人は病室を後にし、再び歩き出した。
次に向かうのは――
西大陸最大の商会。
クーパー商会。
新たな情報と、次の道を求めて。




