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凋落の怨嗟 ⑩

「!?」


「あっちは終わったみたいだね」


ジルガとギガムが、カルガンの反応が消えた事に気付く。


「なんで魔力が分からんアンタが死んだことに気付くんだ?」


「簡単さ。人は別に魔力だけが生きてる証拠じゃないだろ?」


「俺には魔力意外感じ取れん」


会話をしながら、ジルガが逃げ道の確認をする。


「逃げるかい?どうやらここにはまともに戦えるのはあんた達二人だけなんだろ。じきに私達の兵が全員ここに来るよ。私一人に勝てないアンタが勝てるとは思えないね」


「確かに命は惜しいけどな」


ジルガが剣を強く握る。


「少なくともここに居た奴らはカルガンを除いて俺の部下じゃねぇ。けど命を賭けたのも事実だ。そんな奴らの命を全部捨てて逃げてよ。これからの人生の飯に、味がしなくなっちまうだろうが」


「アンタの心意気は好きだよ、私は」


ギガムが笑う。


「そりゃ嬉しいね、あんたほどの武人に気に入ってもらえるとはなぁ!!」


ジルガが外套を捨てる。


「良いのかい?大事な物なんじゃないのかい」


「アンタには意味がねぇ。もはやこれはただの重りだ」


「ますます気に入った!全力で来な!」


「お嬢さんと依頼主には悪いが・・・俺はここでアンタ程の奴と全力で戦える事を楽しむとしようかぁ!」


二人の大剣が、火花を散らす。





-----∇∇∇-----





「・・・」


「がぁ、はあぁ」


おかしい、いくら何でも耐えすぎ。

バーナの身体をすでに何十回も斬り刻んだ、にもかかわらず彼女の身体は回復している。

再生魔法を扱えているとは思えない。つまりこれは海の魔物と同じ現象が起こっているのだろう。

行き場のない魔力は全て身体の再生へと変換されているのだ。しかし魔物と人とでは体の作りが違うはず。魔物は魔力で体が構成されていることが多いが、人は違う。

つまり再生が起こったとしても、ここまで超速再生は起こらないはずだ。だと言うのに目の前の少女の身体は回復をし続けている。


「どういう原理だ・・・?」


出来れば捕えたいと思っていた。彼女はある意味で生き証人なのだから。

これほどの恨み、間接的なイストフィース家にここまでの怨嗟なら直接手を下した王家やインチェンス侯爵にもその矛先は向いてもおかしくない。

そうなれば王家への不始末、という名目で恩を売るなりこちらに非は無いなどの証明にもなると思うのだが。それはもう難しそうだ。


クロアが起き上がろうとする彼女を見ながら思考を巡らせる。

そこへ一人の女性が現れる。


「お嬢様!!」


「?」


倒れているバーナの元へ駆け寄る。この女が回復をし続けて居たのか?

いや、それ程魔力を感じない。となると・・・


「っ!これ以上は・・・!」


俺とバーナの間に立って、両手を広げる。


「お嬢様を傷つけさせません!」


「なら後ろのお嬢様を連れてどっか行ってくれないかな?俺も一旦戻りたいんだけど」


「ふざ、けるなぁ!!」


女性の後ろからバーナがまた、学びもせずに突っ込んでくる。


「解体」


「ぁ!?」


直接触れて発動していると言うのに、意識を断ち切れない。いや、もっと言うなら殺せない。

彼女の魔力にも慣れてきて、人に使う『解体』も更に慣れてきたと言うのに、トドメをさせていない。


「どうなっているんだか・・・」


ほんの少しだけ、彼女の原理についても気になっている自分が居る。


「お嬢様!」


「来ちゃ、ダメ・・・」


「しかしもうこんな状態のお嬢様を見るのは無理です!諦めましょう!?」


「あきら、める・・・?」


「ん・・・?」


魔力とは、心の起伏にも大きく関わっているのでは無いかと言われる事がある。

成功するイメージと失敗するイメージ。勿論成功する方が良いとされるが、不安があっては成功するイメージが出来ない。

魔導士には冷静さを求められる。いざと言うときに魔法が扱えなければ意味が無い。

魔法が怖いと思ってしまうと、魔力循環すらままならない事もあるそうだ。

心が不安定では、魔法は正常に扱えない。その不安定さから生まれる魔法もあるだろう。

しかしそれは総じて、良い結果になるとは思えない。

そして今確実に、バーナの魔力にほころびが見えた。


では傷だらけの少女は、この女を殺せば、まとめて殺せるだろうか?


「・・・」


しかしそれは、不要な殺しでは無いだろうか。この女を殺す意味はあるのだろうか?

確かにこれは降りかかる火の粉だ。あの怨嗟に囚われてる少女は、ここで禍根を断つためにも息の根を止めるべきだ。そのためにあのお付きの女を殺す事によって生じる隙を突くのは、合理的かも知れない。

少女を殺せば、今度はあの女が、怨嗟を孕んでこの地を襲いに来るかも知れない。

だけど、まだ、どこかに、踏ん切りをつけられない自分が居る。


「だめ、だ」


少女が弱弱しく話す。


「パパと、ママの、幸せの時間を奪ったあいつらは、家族全員死ぬべきなんだ!」


「お嬢様・・・」


その言葉に、クロアは覚悟を改めて決める。


これはすでに、そんな生ぬるい戦いでは無いのだ。ここに居る全てが、命を賭けているのだ。

そして自分の家族への殺意を見逃すの程、甘い男では無い。


「解体」


「あ・・・?」


無機質な声と共に、バーナの目の前で、女の首と上半身が落ちる。


「エナ・・・?」


「次は君を、斬り落とすとしようか」


「あ、あぁ・・・」


バーナはエナと呼ばれた女の首を抱きしめる。


「あああああああああああああ!!!!!!!!!!」


首を捨てて、槍を握り直す。


「お前はああああああ!!!」


「揺らいだな?」


「がああぁ!!」


クロアは最大の魔力を込める。


「解体」


ここで殺す。意識を断ち切り、終わらせる。

直接触れて発動するそれは。確かに少女の身体を、彼女の持つ槍を、斬り落とした。はずだった。


「・・・?」


斬り落としながら掌打で吹き飛ばした少女の身体は、完璧に解体できたはずだった。なのに。


「あ、あ、あアア・・・!」


「!?」


少女の身体は、再生していた。真っ二つに斬れた身体が繋がりを戻している。

そしてそれと同時に、急激に魔力が上がっている。


(心が壊れて、さらに魔力が上がった?あのバーナと言う女の子に何が起きているんだ?)


クロアは構え直す。明らかに感じた事の無い魔力。その膨大さ。目の前で起きている異常性。

殺したはずの少女は、今最も危険な存在だ。


「ウウ、アアア!!」


「っ!」


人間の出せる声では無い。それに気圧され一瞬反応が遅れた。バーナの拳がクロアを捉える。


「くっ!」


回避は間に合わない、両手で攻撃を防ぐクロア、しかし。


「ん”っ!?」


まるでボロ雑巾の様に吹き飛ばされる。

とてつもない勢いに何度も地面に叩きつけられる。


「ぐっ!がぁあ!」


土魔法を駆使して無理やり壁を作りだし勢いを殺す。


「はぁっ、はぁ!ぐっ!」


完全に両手が壊れた、いや両手だけじゃない!腕で防いだはずなのに身体が軋む、胃の物が逆流しそうなほどにダメージがある。


「おぇっ・・・!」


いや、それでもあの少女から目を離すな。じゃ無ければ死ぬのは俺だ。

腕の激痛が意識を保たせてくれる。


「・・・?」


バーナが居ない。落ち着け、魔力を辿れ。あれ程の膨大魔力ならいくらでも・・・


「・・・!」


膨大すぎるが故に、正確な位置が分からない。周辺に居るのは分かる。けれど先程までの様に、それを追ってどう攻撃してくるかなど、全く分からない。

森の中に自分が居て、その森の中から正しい葉を見つけろと言われている様な感覚。


「クソ!」


分からないならこの周りを全て攻撃対象にするのみ。

砕けた腕を地面につけて攻撃をする。


「解体」


周りの地面を砕く、そして自分は闇魔法の浮遊で空中に上がる。その刹那。


「っ!」


斬られた槍、その柄をクロアの頭に向けて振りかぶるバーナの姿を目の端で捉えた。

魔法を使うが、その程度ではもう止まらない。

血まみれのバーナが、笑っているように見えた。

その景色を最後に、クロアの意識が、途絶える。





-----∇∇∇-----





「クロア様・・・?」



サキユの奴隷紋の、反応が弱まる。


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