凋落の怨嗟 ⑨
戦いは圧倒的だった。
「くぅ!」
圧倒的に。
「うぁ!」
一方的にクロアの勝利。
「はぁ・・・がぁあ・・・」
「硬いな」
どういう原理かは不明だが、魔力は確かに凄まじい物だ。
自分で思うのは変な感じだけど魔力量だけなら俺と同じか、もしくはもっと多いかも知れない。
けれど明らかに戦い慣れていない。国境の戦場を経て、常に鍛錬を怠る事なく過ごしてきた俺から見れば明らかに対人戦闘に慣れていない。
「クソ!」
また立ち上がり、こちらに向かってくる。両手で槍を構えてこちらに飛び込んでくるが。
「よっ!」
「ぎぃ!」
フェイントでも無く、怒りに感情が駆られている彼女は余りにも一直線。
確かに早いけど、何処に突っ込んできているのか分かれば対処は容易い。
カウンター気味に掌打を決めているのだけど全く意識が途絶えない。それどころかどんどん怒りが増しているようにも見える。
「お前みたいなやつに・・・お前なんかに負けない・・・!」
「まだ魔力が上がってる気がするな・・・」
何かを使って魔力を増幅しているのは分かるのだけど、それが何なのかが分からない。
出来る限り早めに決着を付けたいのだけど、その魔力からなる身体強化の影響なのか、有効打がほとんど無いのだ。
幸い魔法に関してはほとんど使ってこないので助かっている。
「死ね!!」
バーナは最初にその魔力からクロアに攻撃魔法を放ったが、一つとして彼に届く物が無かったのだ。
魔力は多いがあまりにも魔力の操作などの練度に差がある相手に、魔法での戦いは勝てないと直感したのかもしれない。
だからこそすべてを自身の強化に変えて、目の前の怨敵を叩き潰すことにしたのだ。
クロアが手をかざす、それは彼の固有魔法の合図。
「解体」
無機質な声で放たれる魔法。
それは確実にバーナの身体を斬り刻んだ。しかし。
「・・・硬すぎる」
ギガムに使った時よりも明らかに刻んだ回数も多い、にもかかわらず少女はお構いなしに向かってくる。
「はああ!!」
「ふっ!」
直接触れて、発動する。
「解体」
「がああぁ!!」
掌打を打ち込み、それと同時に『解体』を発動する。明らかに威力は上がっているが。
「はぁ、はぁ!」
バーナは立ち上がる。
「恨みと言うのはそこまで人を強くするのか」
長い闘いになりそうだ・・・
-----∇∇∇-----
「父上様!」
「サキユか!クロアはどうした!?」
「それが・・・」
サキユが町に戻り、強襲の状況を伝える。
「そうだったか・・・良く戻った」
「クロア様が・・・!」
「今は休みなさい。クロアの判断を信じる。あいつは負けんさ」
「・・・はい」
サキユがトボトボと足を治療しにいく。
「どうしますか、隊長」
ヴォルフォ達は現在、町の防衛をしている。
相手の人数が分からない以上魔物も含めて警戒を続けている。
「援護に行くには少々危険だ、教官とクロアを信じよう。今一度周辺の警戒と、皆を避難所に集めてくれ。遅れている者が居ないの確認を頼む」
「了解、俺は周辺警戒に行ってきます」
「では私が住民の確認へ」
「んじゃ俺は正門で待ってますかね」
三人が動き出す。
「頼むぞ、クロア・・・」
ウィンも、住民の確認を急ぐ。
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「サキユちゃん?」
「あ・・・」
ユリズが教会で治療をしている。完治した人達を誘導するのが彼女の仕事だ。
「足を怪我してるわね。すぐに治すわ」
「あれ、サキユ?」
そこにはリリーとロズも居た。
「サキユが居るって事はクロアも居るのかな?ヴォルフォ達と一緒なのかな」
「うぅ・・・!」
「サキユ?」
サキユは皆にも自分だけ帰ってきたことを説明する。
「そうだったのね、クロア君を信じましょう?それにここに居る人達を運ばないと!」
「・・・はい!ボクも手伝います!」
「元気っすね、早く町の中央に行きましょう」
「トント!起きて平気なの?」
「これぐらいなら何とか、俺より他の奴らを運ぶの手伝ってくださいな」
「なんだよー、トントも起きれるなら手伝え」
「勘弁してくれって・・・今は下手すりゃリリー達より弱いよ」
魔法で治療できるとは言え身体にある痛みの感覚までは消えない。
疲れや気だるさまでは直せないのだ。
「まぁいいや。早く運ぼうよ、シスター」
「リリーちゃん、皆怪我をしてた人達だから優しくお願いね?」
「そうだよ、一応僕達が護衛なんだからしっかりしなくちゃ!」
「分かったよ・・・私もエリア様と一緒に行きたかったなぁ」
ぶつぶつと文句を垂れるリリー。
教会から人を先導していく。しかし。
「っ!危ない!」
「うわ!」
サキユがリリーを抱えて何かを避ける。それは、一本の矢だった。
「へへへ、怪我人と女子供しか居ねぇぞ?」
「当たりだな、人質にするぞ。むやみに殺すな」
「流石カルガン副団長、怪我人がどこに運ばれるか分かってる」
二人の男と一人の女が侵入していた。
「こいつら!」
「おっと?」
クロスボウを即座に構える。
「くっ!」
「あまり動かない事をお勧めする。君達も居たい思いはしたく無いだろう?」
「そんなもんで俺達に勝った気っすか?」
「っ!?」
事前に聞いていた、その武器は確かに脅威だが目の前で使ってくれるなら恐れる程の脅威では無いと言う事も。
トントが懐に飛び込みクロスボウを一つ破壊する。
「貴様!」
「みんな逃げて下さい!」
「・・・ふざけんな!私だって護衛なんだ、戦うぞ!」
リリーが剣を抜く。
「剣を抜くなら子供でも容赦しないよ?」
女がリリーに襲い掛かる。
「やぁ!」
「!?」
サキユが風魔法で女を飛ばす。
「何あのハーピィ、ムカつく」
「気を付けろ、あのハーピィも要注意人物だ。報告されては困る。逃がすなよ」
「殺してもいいか!!」
「・・・ハーピィについては構わないが、全員は駄目だ。言っただろ人質にすると」
「ッチ、じゃああのシスターでも楽しもうかな」
その視線に、ユリズが後ずさる。
「ユリズさん、俺達を置いて隊長達に報告をお願いする」
怪我人の兵士達が二人ほど前に出る。
「しかし!」
「お願いします、一刻も早くヴォルフォさんでも、グラハさんでも!」
「・・・っ!」
「ロズ君!案内してくれる?」
「で、でも!」
「私達の仕事よ!」
リリーがロズに拳を突き出す。
「っ・・・こっちです!」
それを見て二人は走り出す。
「あれ良いの?報告される」
「こうなっては仕方ないだろう。いきなり切り札を使う訳にもいかん」
「おいそっちのガキは殺すなよ、女が減った」
「ムカつくやつね・・・そんでもってキモイ!!」
「生きのいい餓鬼だ・・・楽しませてくれよ?」
「イストフィース家に喧嘩売った事、覚悟しろ!」
兵士と傭兵がぶつかる。
-----∇∇∇-----
「あちらは上手く行ってます、かね」
肩が息をするカルガン。目の前の少女の強さに嫌気がさしている。
「君ってもしかしてイストフィース家の長女ですか?騎士団に居るはずなんですけど」
「違うわ、それに姉様だったらもう勝ってるわ」
「こわ、何なんです?貴方達の家族」
呆れるようにため息をつくカルガン。
(すごく強い訳じゃない、けど決定打が全く取れない)
エリアはカルガンが弱くはないと分かっていた、だからと言って負ける程強くも無いはずなのだが、綺麗に受け流されていると言う感覚。
だけど時間の問題だろう。エリアはすでにカルガンの剣術に慣れ始めている。
「このままじゃ、僕が殺されちゃいますね。打ち合ってて分かりますけど勝てそうにないですから」
「じゃぁ、潔く抵抗をやめれば?」
「それも出来ないのが傭兵の辛いところですね。なので無理やり勝つことにします」
そう言ってカルガンが懐から小さな瓶を取り出す。
「?」
中には何かの液体、そしてそれを飲み干す。次の瞬間。
「っ!?」
カルガンが急速にエリアに襲い掛かる。先程までより明らかに早く、強く。
「うっ!」
エリアが蹴り飛ばされる。
「これで二回目ですね、女の子なら顔を蹴った方がダメージあったりしますか?」
「ぺっ!舐めんじゃないわよ」
エリアが即座に立ち上がる。
(急激に強くなった?違う、多分魔力が上がったんだ)
こういう時に、クロアが居れば何か分かるのかもしれないと思った。けれどそんな思考は捨てる。
(・・・無い物ねだりに意味はないって、あいつなら言いそうね)
エリアが笑う。
「蹴られ過ぎておかしくなっちゃいました?」
「別に、そんな物に頼らないと勝てない時点でアンタが弱くて安心したのよ」
「ありゃ、バレちゃいました?僕は弱いんです、だからこうでもしないと・・・!」
「っ!」
剣と剣がぶつかり合う。
「君の様な子供にも勝てないんですよ!」
「うぅ」
エリアが押し負ける。
「はっ・・・ふぅ・・・」
「降参でもしますか?」
「それなら死んだ方がマシね」
「・・・子供のする発言じゃないなぁ全く」
エリアはクロアとの鍛錬を思い出す。
-----∇∇∇-----
「ねぇクロア、どうすればギガムに勝てると思う?」
「姉様、この頃ずっとギガムさんとやり合ってますね。突破口が無いと?」
「そ。魔力も無いのにどうやってあんなに・・・」
「姉様が出来れば、ですけど」
「何かあるの?教えなさい」
「身体強化に使う魔力も全て剣に費やしてみては?」
「そしたら負けちゃわないの?」
「姉様はそもそも身体能力が高いですからね。魔力無しならベニア姉様や俺より身体は強いのでは?」
「そうなの?」
「あくまで身体強化も身体の強度を上げているイメージですからね。確かにそれによって動きやすくなったりしますが、あくまで元は強度の増加。普段なら壊れてしまう動きも強化しているから出来るってだけですから」
「ふ~ん、まぁやってみるわ!」
-----∇∇∇-----
(魔力を、剣に)
エリアは自身の魔力を全て、剣に込める。
「悪あがきですね、トドメを上げますよ!」
不用意に近づくカルガン。先程の薬の影響だろうか、普段の彼ならしなかったはずの踏み込み、勝負への焦り、そして魔力が上がった事による高揚感。
その一撃を、イストフィース家の剣神は見逃さない。
「あれ?」
カルガンの剣は完全に切られた。いや、剣だけでは無い。その腕を、そして、身体を。
「やっぱり駄目ね。さっきまでのアンタならそんな甘い攻撃はしてこなかったわ。自分にでも酔ったのかしら」
返答はない。死してる者から、声は、無い。
「すぐにギガムの所、へ」
エリアが膝をつく。
「あーもう、お腹痛い。どいつもこいつも足癖の悪い奴ら」
一つの戦闘が終わる。
少しだけ、イストフィース側の勝利だ。




