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凋落の怨嗟 ⑦

「追加の人員も着いてるぜ。どうすんだい、お嬢さん?」


一人の男が少女に声を掛ける。


「集まり次第、殺しに行く」


「了解。それじゃ今日は取り合えず休んでくれて大丈夫だぜ」


「貴方達も好きに動いていいよ・・・」


少女はテントから出ていく。


「・・・良いんですか?あんな子に指揮を任せて」


もう一人の男がリーダーらしき男に話しかける。


「良いも何も、雇い主からの命令でもあるからな。それにあそこまで覚悟が決まっている女も可愛くていいじゃねぇか」


「女であれば見境無しとか、うちのリーダーは終わってんな」


「そうじゃねぇわ!!」


リーダーの男は地図を広げた。


「俺達が居るのは恐らくここだな。んでもってこっちが現在のイストフィース領の町だ」


「そろそろ頃合いですか、正直僕は嫌なんですけどね?」


「何がだ?」


「あの子の命令の一つですよ。イストフィース領の住民であれば無抵抗でも殺せっていうやつです。僕達は雇われですけど人殺しの趣味があるわけでも無いので」


「そうだな。でも傭兵なんてそんなもんさ」


「正直無抵抗の子供や女性を殺したくはないんですけど」


「場合によっちゃ殺るしかねえぞ?」


「分かってはいますけど、僕と同じ意見は多いですよ。逆に喜んで奴も何人か居ましたけど」


「お前らで興奮した奴らは止めておけ。それにその心は忘れるな、俺達は傭兵だが理性を失った獣じゃねぇ。人を殺した時に罪悪感を覚えろそんで慣れろ、それすら覚えなくなったらそれはもう人じゃねえ。理性を持って殺せ、本能で生きるのは人間じゃねぇからな」


「分かってますよ。それに、雇われとは言えあの子を守るのも我々の仕事ですからね。本能で人を守れませんよ」


「良い事言うじゃねぇか」


「それで、何か考えているんですか」


「少なくとも正面からやり合ったら俺達が絶対に負けるな」


その言葉に男が驚く。


「リーダーがそこまで言うとは珍しいですね」


「当たり前だ、イストフィースの当主が出てきたらそれこそ終わりだな。闇討ちならともかく正面衝突は馬力が違いすぎる」


「英雄の名は伊達では無いって事ですか」


「一度だけ見た事が有るが、ありゃ人を辞めてるタイプだな。普通じゃあそこまで強くなれん」


リーダーの男が無精髭をジョリジョリと触りながら何かを考えている。


「カルガン、クロスボウは何本残ってる?」


「先の戦闘で一つ失いましたね。それに魔物との戦闘で三つ程壊されましたので現在は六つ残ってますよ」


「よし、部隊の編成だ。全員に言い聞かせろ、イストフィース家当主とある獣人族を見かけたら逃げろってな。勝ち目ねぇからな」


「その二人だけで良いので?あの子が言うには魔導士の子供もいると聞いてますけど」


「確かにそうだが、顔が分からねぇ以上警戒しても意味がねぇ。それに餓鬼を警戒しとけって言って、あいつらが全員信じるかよ」


「なる程、じゃぁ話が分かりそうな何人かには話しておきます。それなら良いでしょう?」


「構わねぇよ。忙しくなるぜ」


「依頼主が大きいですから、チャンスだと思いましょう」


「お、前向きじゃねぇか。その方が良いな、やる気出てきたぜ」


二人の男が武装した者達の元へ歩いて行く。





-----∇∇∇-----





「ありゃどっかの村だったのかい?根城にされてたよ」


ギガムさんとサキユが帰って報告してくれる。

盗賊騒ぎの時に捨てた村だな。


「何か特徴的な建物はありましたか?」


「元が何だったか分からないから何とも言えないね、サキユは分かるかい?」


「えっと・・・確かフウシャ?の建物があった場所だった気がします!」


「フウシャ村か、捨てた村は全部壊すことを優先してるけどまだ残ってる村が二つだけあったね」


盗賊騒ぎの時にこのイストフィース領の村々は全員この中心町に集めた。

今となっては町と言える程になって領民はほとんどこの場所に住んでいるが、残った村をそのままにするわけにもいかず、徐々に整地しているのだが何分人手が足りない。

故に目立つ建物だけを破壊して、あとは少しづつ取り掛かろうという計画だったのだけど。

目ざとく見つけた奴らが居たらしい。


「流石に中までは入れなかったけど、あれは結構な人数が居るね。小隊ぐらいの規模はありそうだけど、もう少し多いかもね」


「教官が言うには間違いないでしょうね、しかしどうやってそこまでの人数を移動させたのだか・・・」


「いくつか方法はあるでしょう。それに今はその方法については考えてもあまり意味無いのでは?」


「クロアの言う通りだね、まずは奴らをどうするかだ」


「こっちから攻めればいいじゃないのか?場所も分かってるんだし」


ディンが不思議そうに言い放つ。


「敵の全体が分からないから総攻撃するわけにもいかないんだよ。俺達が居ない間にこの地を襲われたらやばいだろ」


ヴォルフォがディンの頭をつつきながら言う。


「多分だけど、それが一番の作戦にはなっちゃうと思うよ」


「坊ちゃん?」


皆が俺の言葉を待つ。


「敵は明らかに搦め手が得意だ。グラハの報告から真正面から戦ってくれそうにもない。となると俺達は力押しするのが最も勝率が高いと思う。ただしその間の防衛をどうするかって話には結局なるけどね」


「それは一理あるね。魔物をけしかけて消耗させてきているあたり真っ向勝負が得意な連中ではない可能性はある」


「恐らく後ろに貴族が付いていると言う事は、父上の武勇なども知っているでしょうからね。俺が敵なら最も戦いたく無いですから」


「確かに、隊長が敵に居るって知ったら俺は絶望しますね。ついでに先生と坊ちゃんも居るとか勝てる気がしませんよ」


ヴォルフォ達が笑う。


「この戦いは考えることは少ないね。闇討ちや搦め手で戦いたい敵と、真っ向勝負がしたい俺達。ずっと後手に回っていたからこっちから打って出たい所だけど」


「町の防衛をどうするかだな。打って出る事は構わないが、その間に魔物なりが攻めてきたらまずいだろうからな」


残った村に居るなら逆に丁度良いかも知れない。


「賊共には俺、エリア姉様、サキユ、ギガムさん、と数人の兵士で行きます。その間に父上達は町の防衛をお願いできませんか」


「何か策があるのか?」


「いえ、単純な話ですけど残っている家屋とかはすでに破壊が決まっている物、それに元々村だった場所でも有るので周りに被害も出ない事を考えれば、俺が最初の一撃で家屋を出来るだけ破壊しましょう。少なくとも屋根のある家やテント、奴らが運んだであろう食料なんかを破壊出来れば相手も後退せざるを得ないでしょうからね」


「無茶苦茶言ってますね・・・坊ちゃんの魔法ならそれが出来るってのは俺達が一番わかってますけど」


「相手に魔導士が居た場合が危ないけど、この前の海の魔物に比べれば多分大丈夫だと思うからね」

「残った敵をギガムさん達にお願いしたいです」


「私は構わないけど、良いのかい?」


ギガムさんが父上に問う。


「もう慣れた事です。うちの息子と次女は戦っている方が落ち着くようにも見えてきているので」


そこまで戦闘狂になったつもりは無いけど・・・まぁでも魔法を思い切り使えるのは楽しいか。


「もう一つ気を付けるべき点として、魔物の凶暴化ですね。これだけは原理が分からない。彼らは魔物を使役できるのか、はたまた別の何かを持っているのか」


「固有魔法の中には魔物を使役できる物もあると聞いた事が有るな。その可能性も考慮しておこう」


「出来るだけ急ごうかね、時間を与えればどんどん相手が有利になっていくよ」


「教官の言う通りだ。明日には決行する、皆よろしく頼む!」


父上の言葉に各々動く。そんな中でギガムさんに声を掛けられた。


「どうしました?」


「一つだけ聞きたかったんだ、ベニアにも聞いたことがあってね」


姉様にも?何を聞きたいのだろうか。


「クロア、あんたは人の命を奪うのに躊躇いは無いのかい」


「何が言いたいのでしょうか」


「私はね、色んな奴を見てきた。騎士になって喜ぶ奴、戦いに怯える奴、それを楽しめる奴、そして人の事を殺める事が出来ずに負けて死んじまう奴、それに絶望して騎士をやめる奴」


ギガムさんがこちらを真っすぐ見つめてくる。


「あんたには、ベニアと同じ匂いがする。でもあいつよりもどこか、違うと言うか・・・私も正確には言い表せないんだけどさ」

「ベニアや、エリア、クロアはさ、迷いは無いのかい?」


何だ、その程度の事か。


「ギガムさんも聞いたことがあると思いますが、俺はもうすでに戦場まで経験してしまいました」

「直接手を加えて居なかったとしても、俺にはすでに何十、何百と殺したんだと思います」


「クロア・・・」


「でも、それに罪悪感や後悔が有るのかと言われれば、無いですね」


俺は言葉をそのまま続ける。


「降りかかる火の粉なら対処するだけです。心は特に動きませんね」


「なら、襲ってくるならどんな相手でも、かい?」


「勿論無差別に戦う気もありませんよ?でもきっと戦う気がします」


「そうか、なら安心だね」


「?」


首をかしげる俺にギガムさんは言葉を続ける。


「いざ人の悪意や憎悪を目の前にしたときに動けない奴は多い。それの心配だったんだけど・・・イストフィースの家族には何か心を鍛える秘訣でもあるのかい?」


「父上の背中を見て育ったからかも知れませんね」


「確かに、ウィンの背中なら見てても飽きなそうだねぇ」

「呼び止めて悪かったね、明日楽しみにしとくよ」


「はい、俺もギガムさんには期待しておきます」


そうしてギガムさんと別れた。

一人で歩く廊下、窓を見ると日が落ちている。


「そう言えば、初めて人を殺めた時も、こんな夜だったな。色んな意味で盗賊の人達には感謝だな」


その程度では、もう俺の心は乱されないのだろうな。





-----∇∇∇-----





「ようやく・・・殺せるよ」


光の無い部屋に少女はうずくまっている。


「もうすぐ、もうすぐに仇を打つからね。パパ、ママ・・・」


少女の心は、闇に落ちていく。

憎悪を終わらせる歓喜と共に、負の心が、開花していく。


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