凋落の怨嗟 ⑤
「随分と人が集まったな・・・」
修練場にて、兵士達もふくめてイストフィース領にいるほとんどの人が居る気がする。
「坊ちゃんが魔法を使うのはよく見ますけど、魔法で戦う姿を見た事が有る人っては少ないからじゃないですか?それに今は外に出にくいですからね」
ヴォルフォが声を掛けてきた。
「賭け事でもしたら儲かりそう」
「あ、それはもう隊長に止められましたよ。トントが怒られてました」
「騎士学校ならこういうのはありそうだもんね。ヴォルフォ達が騎士の時代には無かったの?」
「無くはないって感じでしたね。学園程お気楽では無かったので、それに俺は学園とかには行ってませんので」
「そうだったっけ。そう言えば、父上やヴォルフォ達の昔話は戦争の事しか聞いたことなかったかも」
「俺らも今が好きなんで、昔の事なんて良いんですよ。それより、坊ちゃんは勝つ気ですか?」
「直球で聞いてくるね。一応、本気でやれって言われているから、倒す気でいるよ」
「そりゃぁ楽しみですね。正直俺達も見てみたいんですよ」
「何を?」
ヴォルフォが頭をわしゃわしゃしてくる。
「わっ」
「坊ちゃんの本気ってやつをです。俺達は貴方の全力を見てみたい」
「いつも守られてばかりだからね、ちょっとしたお披露目だね」
「そうですよ、坊ちゃんが勝つ事楽しみにしときます」
ヴォルフォが離れていく。
「本気、か」
「クロア」
気付けば後ろにエリア姉様が居た。
「どうしました?」
「これが終わったら、私とも本気でやってもらうわよ」
「流石に今日は勘弁して下さい・・・でも、そうですね」
姉様に拳を突き出す。
「勝てないからって泣かないで下さいね」
その言葉に、エリア姉様は笑って拳を合わせた。
「楽しみにしておくわ!」
「クロア、準備はできているか」
父上がこちらに来ていた。
「ええ、大丈夫です。なんだか興奮して前に出てきそうな人も多そうなので周りの人達に離れるようにお願いしますね」
「わかっている。だからと言って、力を抜くなよ?」
「それ、皆言ってきますね。何でなんですか」
「それは・・・まぁ気にするな。位置につけ」
そう言われてクロアは最初の立ち位置に向かって行く。
「いつしか、クロアは本気を出すことをやめてしまった気がするのだ。だからと言う訳でも無いが、お前自身の為にも、お前の全力と言う物が我々も見たいんだ」
小さな声で、ウィンはそう呟く。
-----∇∇∇-----
「準備は良いかい、クロア」
大きな木剣を振り回しているギガムさん。あれは元々持っていたのか、それとも作ったのか・・・?
「ええ、いつでも大丈夫です」
俺は今回、木剣を最初から持っていない。剣で戦う事も出来なくはないが、それでは魔導士と言う者がどういう者なのか伝わらないから。
「では、教官とクロアの模擬戦を開始する!」
審判は父上、周りには兵士や領の人達に子供達。
母上やユリズさんが心配そうに見ている気がする。怪我したら怒られそうだ。
「両者構え!」
ギガムさんが剣を構える。
俺も、魔力を貯める。
「・・・始め!!」
戦いを、始める。
-----∇∇∇-----
最初に見た時は、その内包された力の様な物に咄嗟に構えてしまった。
しかし話してみれば、それはウィンの息子だと言うじゃないか。
あの娘の時もそうだったかな、そしてこの領に着いて、エリアを見てまた嬉しくなった。
私は強い者を見るのが好きだ。私はこの力に生まれて良かったとすら思っている。
もし魔法が扱えても私には合わない気がするから。
こうして、魔導士相手に、自分の力を証明をする様に戦えるから。
「くっ!!」
「おおおっ!!」
大きな木剣が振り下ろされる。
ギリギリ躱すクロア。
「やるじゃないか!今のは入ると思ったんだけどね!」
「まぁ剣での打ち合いも一応出来ますからね・・・!」
クロアが水魔法を扱う。
「バレット!」
無数の水の弾丸がギガムに襲い掛かる。
「ふんっ!」
「ちっ!」
剣だけで叩き落すか、無茶苦茶だな。
「坊やの魔法は、こんなもんかい!?」
すかさずこちらに飛び込んでくる。
「フレイムランパード」
「!?」
火の防御壁、飛び込んでくるならそのまま燃やそうと思っていた、が。
「温い火だね!」
「なっ!?」
迷わず突っ切ってきた。
バレット程度ではこの人は止まらないし止められない、ならば物理的に止めるしかない。
「アースシズ」
「ん?」
ギガムの両足を土魔法が捕える。
そしてそのまま体中に土が侵食していくが。
「ふっ!」
「!?」
膂力だけで破壊するのか、動物ならほとんど何もできずに捕まえられるんだけどな。
「今のは少し面白かったね」
「普通なら今ので動けなくなるんですけどね」
「私には届かないってだけさ」
にやっと笑うギガムさん。やっぱり強いなこの人。
でもここまでの攻撃で無理なら、本腰を入れるべきかな。
「っ!」
クロアが魔力を貯める、ギガムにも、それが普通ではない雰囲気だと言う事は感じ取れるほどに。
「そんな長い貯めが私の前で出来るとでも!?」
「思ってませんよ、だからこれはちょっとしたお披露目です」
その瞬間、クロアは空中に飛ぶ。
「空に行ったら逃げ場が無いんじゃ無いかい!?」
剣を回避したクロアの着地を狙うギガム、しかし。
「・・・?」
降りてこない、そして。
「今はこれぐらいが限度か、もう少し上に行ければ良かったんだけど」
「あれは・・・!」
「クロア様が、飛んでる?」
クロアは空中で止まっていた。
「これは、驚きだね!!」
うおおお!!っと歓声が上がる。魔法で飛ぶ、王国の魔導士が研究している文化の一つ。
クロアは今、それを実現している。
「欠陥だらけだけどね・・・」
クロアは空中には居るが動こうとしない、いや動けないのである。
(空中には入れるけど、別に動けないんだよね。魔法で飛んでいると言うより落ちていないだけ。手品みないな感覚に近いかもしれない)
クロアは闇魔法での吸収能力や吸引能力に気付いた時、一つ考えた。
自分達がいるこの大地に重力と言う物がある。ならば闇魔法の引力で空中に引っ張れないかと言う物。
そしてそれは成功したが、今の様に上で止まるのがせいぜいで、空中を自由に移動することは出来ない。
「でもこれなら貯める時間ができる」
「降りて来ないと分かればそれ相応対応をするまでさ!」
「は?」
クロアが居るのは上空、高さとしては人八人分ぐらいだろうか、その高さを、ジャンプだけで飛んでくる。
「ウィンド」
咄嗟に魔法を放つ。
「くっ」
上空から下に叩きつけるように飛んでくる風。体制を崩したギガムの剣はクロアに届かない。
そしてその間にクロアはすでに完成させている。
「メルトダウン」
「!?」
「それは流石にやばいのでは・・・!」
ヴォルフォ達が防御姿勢に入る。
「流石に出力は落としてあるけどね」
烈火の矢が、落ちる。
爆発音が鳴り響く。
-----∇∇∇-----
「よっ、と」
クロアが地上に降りてくる。周りの兵士や領民達はもはや唖然としている。
今のはもはや人に撃って良い物では無いのかと。
「流石に、今のは熱いね」
砂煙の中から鎧を脱ぎながら出てくるギガム。
「例外者って、普通そんなに固いんですか・・・?」
「さぁね、生憎私は自分以外で会った事が無くてね」
少なくともあの出力なら耐えれる威力では無いはずなのだけど。
全力で撃っても火傷程度しか与えられないかもと思った。
「今のが切り札かい?」
「・・・そうだと言ったら?」
「驚きはしないとも、それ程の威力だった。クロアの年齢で今の魔法はどう考えても普通じゃない。今すぐ魔法学園に行くべきだね。ついでに同年代の魔導士がどの程度出来るのか見た方が良いね」
「でもその言い分だと、切り札でも無いんだろう?」
「そう、ですね」
「ならそれを見るまでは辞めれないね」
「・・・」
クロアが、ギガムに向けて手をかざす。
「今度は何の魔法だい」
ギガムもそれを迎え撃つように構える。
「これを人に扱うのは四度目、そしてもう慣れた、だから出来るだけ耐えてくださいね」
「?」
瞬間、クロアは無口頭でそれを発動する。
『解体』
「!?」
ギガムの身体が唐突に切られた。体に二回、足に一回。
「がっ!」
ギガムが体制を崩す。
走る事が難しいと判断した、瞬時にその大剣をクロアに向かって投げる。
「!?」
クロアは魔法への集中の為に反応が遅れたため、剣に吹き飛ばされる、だがそれが致命傷にはならなかった。
「痛って・・・あの状態で瞬時に反撃しますか、けれど流石に厳しいのでは」
倒れそうなギガムを見て話しだすクロア。
「ちなみに、今のは首から上に撃つ事もできました」
クロアがそう言ってくる。つまり今ので殺せた、と。
「これは、参った、ね」
全く見えなかった、使った瞬間が分からなかったと言うべきなのか。ギガムは今の一撃ですでに、戦える状態ではなくなったのだ。
無論まだ彼女は動ける、剣を振るえる、けれど、今の魔法への対処が思いつかない。
あの魔法をクロアが問答無用で使い続けられるのであれば、惨殺される未来しか無いだろう。
「私の負け、だね」
その言葉と共に。
「勝者、クロア!」
歓声が響く、そしてユリズが駆けつける。
「はいはーい、どいてください」
「悪いね、血なんて久々に出したよ」
「あれはクロアの固有魔法かい?見た事もない魔法だったけど」
ギガムさんが聞いてくる。
「そうなります。元々触れないと使えなかったのですけど、修練の賜物です」
「恐ろしいね、場合によっては訳も分からず命が終わりそうだよ」
「不意打ちとかならそうなるかも知れませんね。ただし魔力循環による身体強化を行える人に使うと恐らくですけど出力が落ちるかと」
「なる程、私には特攻の魔法だったわけだ」
「そう言う訳でもありませんよ。実際ギガムさんは俺が想定してたより遥かに傷が浅い。まぁ、その場合は出力を上げればいいだけですけどね」
「はっはっは!そりゃぁ怖い、あいつらにも伝わったかね」
「少なくとも、皆楽しそうでしたよ。こんな人が教官なら嬉しいって感じで」
恐らく父上が今回の事を許可したのはそれも有ったのだろう。ギガムさんの実力に疑問を持つ人が多いのは当たり前だ。出会う事の少ない例外者、どういった力なのか分かりずらいのだろう。
「ここまで見事に負けたのは久々だね、私もまだまだ修練不足らしいねこりゃ」
「あ、まだ動いちゃだめですよ」
ユリズさんの手をどけるギガムさん。
「ここまで直してもらえば大丈夫さ。回復魔法はそこまで好きじゃないんだ、すまないけどもう大丈夫だ」
そう言って立ち上がり、兵の元に戻って行く。
「豪快な人だ」
俺も一旦戻ろうとすると。
「クロア君、君も怪我してますね。こちらに来なさい」
「え、いやこれぐらいならギガムさんに比べたら大した・・・」
「ダ・メです!」
強制的に連れていかれた。
イストフィース領に、さらなる戦力が加わった。
それは他の貴族にもいずれ知れ渡る事になる。イストフィース家の戦力がさらに上がると、彼らを自分達の戦力にしたいと思う者達がさらに増えていく。
そしてこの平穏な日を最後に、彼らへ向けられる怨嗟は、より苛烈になっていく。




