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凋落の怨嗟 ④

「戻りました、父上」


「おかえり、教官と一緒だったのか」


魔物の警戒を皆に伝えて家に戻ってきた。

現在はサキユに周辺を調べてもらっている。


「こらこら、もう教官でも無い。それに今はあんたが雇い主なんだから敬語なんかも不要だよ、ウィン」


「そうは言われましても、あの時の教えや経験が有るので私も現在生きているわけなので」


「相変わらず堅苦しいね、あんたの娘の方がその辺は気楽だったんだけどねぇ」


「ベニアですか。どうでしたか、我が娘は」


「良い感じにイカれてるね。戦闘中の性格が私は好きだよ」


ベニア姉様もエリア姉様も戦闘好きだからな・・・二人と同じにならないためにも必死にルーシとオルカには戦闘を遠ざけていたのだが、この頃は熊の世話の為にも二人共かなり修練をしている。母上は複雑そうだけど父上は嬉しそうだったな。


「それで、私はここで何をしたらいいんだい?」


「教官にはうちの兵士達のまとめ役と戦闘指南をお願いします」


「良いのかい、私は王国騎士団の指南役をクビになった女だよ」


帰りの道中で少し聞いたが、これが意外だった。

ギガム殿、いやギガムさんは明らかに強い。その上で父上達を教えていた事も含めてかなり実践経験もあるのだろう。

魔物との戦いでも常に冷静だった。ただ一つの事を除けば。


「やはり今の騎士団の実権は・・・」


「そうなるね、魔法主義だのなんだのと、その中で私に白羽の矢が立ったわけさ」


「失礼かも知れないのですが、よろしいですか?」


「おや、どうしたんだい坊や」


「ギガムさんに一つ、俺は名乗ったはずですが?」


「確かに。これは私が悪いね。改めてどうしたんだい、クロア?」


「ギガムさんは、例外者(エクセプション)ですか?」


「その通り、私には魔力は扱えないよ。まぁ魔導士に負けるつもりも無いけどね」


にやっと笑うギガムさん。

それは分かる。恐らくだけど父上と同じかそれ以上に強そうに見える。

魔力が無いので感じ取る事は出来ないけど、纏う空気と言うのだろうか。

あの時戦った帝国の例外者(エクセプション)より遥かに強いと分かる。


「つまりその関係でクビになったと?」


「まぁ大まかに言うとそうだね。私達みたいなのを偉大だと考えてくれる人も居るけど、その逆も然りって事だね」


固有魔法の有無が貴族に大きく関わるのと一緒で、例外者(エクセプション)であるか無いかでの差別も無くは無い。

無論貴族の中には例外者(エクセプション)も居る。数は圧倒的に少ないが。

そしてそれを神から愛されて無いなど何かにつけて糾弾する者も一定数居るが、基本的には優遇される立場のはず。にもかかわらず騎士団の指南役をクビになると言う事は、今言っていた通り政治的な何かが働いたのだろうか。


「元々私は騎士団の中でも特殊な立場だったからね、時間が来てしまったって事さ」


「ですが私にとっては嬉しい報告でもありましたよ。我が領地にて教官が手を貸してくれるとは」


「私が辞める時が丁度あの娘が副団長になった時だったからね。その時に聞いたのさ」


「ベニアが・・・」


「そうさ、だから私も丁度良かったのさ。しかし田舎でのんびりするつもりがここでも戦闘指南かい、しかも自分の教え子が雇い主ときたもんだ、人生何が有るか分からないもんだね」


そう言って、ギガムさんは父上に向かって手を差し出す。


「そうですね。私も自分の教官を雇う日が来るとは思ってませんでしたよ。またよろしくお願いいたします」


父上は当然手を握り返す。


「今日は流石にお疲れでしょう、部屋の用意もありますのでそちらで休んでください」


「それは有難いけど、この領を一周して来ても良いかい?自分の目で見ておきたいんだ」


「構いません、皆にも伝えておきます」


「それじゃ、早速行ってくるかね。クロアもまたね」


そう言って部屋から出ていくギガムさん。


「嬉しそうですね、父上」


「そう見えるか、まぁ事実だ。ヴォルフォ達の負担も少なくなる。何よりエリアが一番喜びそうだ」


「それは何となく分かりますね。話は変わりますけど俺の報告をしても良いですか?」


「寧ろ一番の重要案件だろう、聞かせてくれ」


インチェンス侯爵との話を父上にも話す。





-----∇∇∇-----





「何も動けないと言うのは歯がゆいな・・・それに開拓を止められて正直面倒だ」


父上と話し合った結果、現在領を離れる事を禁じた。魔物の妙な動きもあるので、当初の予定の水路などが全く進められていない。

インチェンス侯爵からの連絡待ちの状態である。


領内の人達も少し恐怖心が出てきている。盗賊なんかは正直皆のトラウマだろう。現状被害は出ていないが、このままずっと商人達も来ないとなると流石に厳しくなっていく。

もしかしたら、この現状が敵の目的なのかも知れないとまで思っているほどに。


「敵の実態が分からないと、対策のしようも無いか」


現在では何となく西貴族が怪しい程度でしか無い。加えて言うならあくまで状況的に怪しいだけで、確実な物も無ければ関係ない可能性だって十分あり得る。

そもそもインチェンス侯爵が名前を挙げていたウーロアロ伯爵が原因なのかすら分からない。


「今は防衛力を高めるしかないか」


我々には分からない事が多すぎるので、取り合えず自力を付けるのが一番の対策。

その為いつも通りのランニングをしていたのだけど、一つだけいつもと変わったことがある。少しして、後ろから大きな人が追い付いてきた。


「クロア、おはよう。相変わらず朝から動けるね」


「そう言うギガムさんもいつも早いですね。おはようございます」


「騎士、と言うか兵士には体力が基本だからね。やれるときに動いておきたいのさ」


ギガムさんと一緒に走る事が増えた事だ。この人が来てから丁度三日経っている。一度来たインチェンス侯爵からの知らせもしばし待てという短い物だった。


「クロアに少し相談しても良いかい」


走る量のノルマを終え、少しだけ肩で息をする。

この人が居るとどんどんノルマが増えていく。勝手に増やしているだけだけど、何となく同じ量を走りたい。


「はぁっ、はぁっ・・・何でしょうか?」


「私と模擬戦をしてほしいんだ」


「急ですね、何故ですか?」


「ここの兵士達を見たんだけど、全員実践不足だね。魔物との戦いが出来るのは悪い事じゃないよ?でも対人戦の動きが酷いね。それにどこか、魔導士を馬鹿にしている兵も少しだけ見かけるよ」


「そんな兵士うちに居ましたかね」


「本心かどうかは知らないけど、少なくとも魔導士との戦いが彼らにはあまり伝わってないのは当たっているだろうね」


王国で良く言われている論争を一つだ。

魔法があるこの国において、鎧を纏い剣や槍に身を置く意味はあるのだろうかと。

遠距離から攻撃できる魔法にだけ特化していけば強いのでは無いかと。

結論だけ言ってしまえばこれは無理である。

魔導士になれる人数と剣や槍を扱う騎士になれる人数が圧倒的に違うから。

もし兵になりたい人が二十人集まったとして、騎士になれる人が十人いれば、魔導士になれるのはわずか二人ほど。王国魔導士などは思っている以上に狭い門らいし。

だからと言って魔導士の方が凄いのかと言われると、魔力が無いと戦えない魔導士より騎士の方が継続戦闘能力が高いなど、どちらもメリットとデメリットがあるので俺はこの論争が終わる事は無いと思っている。どちらにでも優れている部分があり、どちらとも多少の弱点を抱えている。


「しかしそれで何故模擬戦に?」


「私が君と戦ってみたいって言うのもあるけど、一番はあの子達に魔導士と言う者を知ってほしいからかな」

「中には魔導士が恐ろしいものであると分かっている子達も居たけど、一握りって感じだね。それにこの領で戦える魔導士なんて君ぐらいだろう?」


実際母上も魔導士だが、母上が進んで模擬戦などをやるとは思えない。結果的に俺だけになるのかもしれない。


「そうですね、しかし急に言われましても」


「出来るだけ教えておきたいのさ。なんだかきな臭い連中も近くに来ているかも知れないんだろう?」


「どこでそれを・・・」


「何となくって奴さ。私なりに言うなら戦士の勘ってやつかねぇ」


「流石にギガムさんに勝てる気がしませんけど、俺が負けたらあんまり意味無いのでは?それとも一芝居する気ですか?」


「私にそんな腹芸が出来ると思うかい?それに、クロアは強いんだろう。エリアが良く言っているよ。ずっと勝てた事が無いってね」


「俺もエリア姉様に勝った回数何て少ないですよ、いつも勝負がつかないから引き分けがほとんどです」


「それはクロアが魔法を使わないからって言っていたよ?」


「剣での模擬戦なのに、身体強化ならまだしも魔法攻撃は違うでしょう」


「本当の闘いならそんなルールは無いだろう?」


この頃エリア姉様も言ってくる事だ。

カランクレス領での戦争の後からだろうか、模擬戦で魔法を使えと言ってくる。

練習試合に、そんな物使うべきではないと考えている自分が居る。

だけど、本当の闘いを意識するならば、使うべきと考える自分も居る。

でも俺が魔導士としての見本を見せるだけで、姉様が、兵士の皆の傷を減らせるならば、やるべき事は決まっているだろう。


「・・・分かりました。後悔しないで下さいね?」


「いい返事だね。一先ずウィンから許しを貰わないとね」


「確かに。母上が許してくれれば良いのですけど」


「私が言い出したのだから私も付き合うさ。それにエリアが一番見たいんじゃないか?クロアが魔法で戦う所を」


「思えば、あまり見せた事は無かったかも知れないですね」


「尚更楽しみだね、出来るだけ早く準備しよう。顔も知らない相手に横槍を入れられたくないからね」



そうして俺とギガムさんの模擬戦が決まった。

母上は父上を含めた全員で説得してくれたらしい。ユリズさんも居るので、出来るだけ本気で戦えとのこと。

これで例外者(エクセプション)と戦うのは二度目になる。やるからには俺も全力でやろうと思う。ずっと研鑽を続けてきたあれを、試すチャンスかもしれない。

人と戦う事を想定した、俺の固有魔法を。


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