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凋落の怨嗟 ③

「ザーロ元子爵の件で、お聞きしたい事があります」


「・・・続けなさい」


「彼らが処断された事は、僕も聞きました。ですがこの前の話を聞いていて一つ、あまり考えたくはない想像が出来てしまったのです」


「何かしら」


「ザーロ元子爵の一族は全て、処刑されたと国中が知っているでしょう。ですが、今の優しき王が血縁者全てを断罪するか、疑問に思ったのです」


「言いたい事は分かったわ。だけどその疑問による答えを私は出来ないと思うけど、何を聞きたいの?」


「僕が聞きたい事は二つ、一つ目は。閣下はザーロ元子爵の死をその目で確認したのでしょうか?」


「坊やなら、分かっているとは思うけど。私がこの目で彼らの死体を見てはいないわ。部下も含めて、ね」

「けれど言える事もあるわ。恐らく元子爵本人は亡くなっているのは間違いないと思うの。流石に優しい王とは言え、厳しく断ずると言った直後に温情を与えるなんて事はしないはずよ」


「そこは流石に僕も信用しています。けれど血縁者全てを屠るかと言われると、場合によっては温情が有ってもおかしくは無いのかと思いまして」


「それは言えてるわね。もし元子爵が勝手にやっていた事だとしても家族なら連帯責任になるのは当然の事。とは言え一族全員と言うのは重過ぎると思っても不思議じゃないわ。反逆を犯した訳でも無いもの」


その通り。薬物の売買は当然この国でも違法だ。しかしもしこれが平民が犯した罪ならば恐らく犯罪奴隷や、開拓労働などになるなど死罪とまではいかない場合もある。

しかし貴族が罪を犯した場合は当然重罪。それだけ責任を負う立場なので当たり前だが、それでも一族全員死刑まで罪がのしかかるかと言うと疑問である。

貴族の血縁者は基本連帯責任、しかし年端も行かない子供が血縁者の場合だって大いにある。

反逆罪や、大量の殺戮など明らかな行為の場合は流石に温情など無いだろうが、今回の場合はそれが不明瞭だ。

王国騎士団の報告を信じるのであれば、元子爵の家族はすでにこの世に居ないだろう。しかし血縁者ならどうだ?


「そして二つ目は、ザーロ元子爵は妾など居た経歴があるでしょうか?僕が調べた時は、妻子一人ずつのようでしたが」


「彼も貴族だったもの、何人か居た気がするわ」


「その間に子供が居たかも、分かりますでしょうか?」


「流石にそこまでは私も分からないわね・・・でももし居たとしても、そこまで愛情があるようには思えないわね」


「そうなのですか?」


「自分の地位に拘りが強そうだったもの、子供に自分の爵位なんてあまり考えそうになかった気がするわ。現に、気に食わなかったから貴方達に嚙みついたのでしょう」


確かに。元々それが原因と言えばそうだ。


「なる程、家族愛が有るようなタイプでは無かったと」


「そこは少しだけ違うかもしれないわ。愛妻家ではあったの、奥さんの話をするときだけは何故だか笑っていたわ。それが本妻の事かは私も分からないけどね」


俺が喧嘩を買っておいて、調べて処断したと言うのに俺は元子爵の事をあまり知らない。

別に後悔や罪悪感が有るわけでは無いが、そうゆう一面もあったんだなと単純に思うだけだが。


「坊やは今回の件が元子爵絡みだと考えているの?」


「ありとあらゆる可能性を考えているだけです。臆病者なので」


「坊やが?笑わせてくれるわ。でもそうね、その件に関しては私も関わっている者として少し協力してあげる。調べてあげるわ」


「ありがとうございます」


「この話はここまでにしても良いかしら、最後にこれのレシピについてだけ少し聞きたいわ」


「はい、何でしょうか」


「じゃあ・・・」


インチェンス侯爵が話始めようとした時、部屋の外から走ってくる足音が響く。


「失礼致します!」


「何事ですか、お嬢様はまだ会談中ですよ!」


ローゼス殿が部屋に飛び込んできた兵士に怒鳴る。


「申し訳ございません!しかし緊急の要件でして・・・」


兵士はクロアを横目で見る。


「良いわ、そのまま話なさい。緊急なのでしょう、坊やにも聞かせて良いわ」


「はっ!警備兵から明らかな興奮状態の魔物が領に攻めてきていると報告を受けました!」


「「!?」」


明らかな興奮状態・・・凶暴化だろうか、少なくとも魔物化などではなく普段の魔物と言う事か。


「分かったわ、ローゼス」


「はっ、情報を整理して参ります」


「こちらへ!」


そう言ってローゼス殿が兵士と一緒に部屋を出ていく。


「急にごめんなさいね。でも坊やも今すぐ帰った方が良いわ」


「しかし、閣下が襲われるなら・・・」


言い切る前に、インチェンス侯爵に遮られる。


「私の領だけでは無いかも知れないわ。魔物の集団なんて年に数える程度しか起きない事が今起きている。タイミングが良すぎるわ」


それは俺も思った、俺達の様に開拓領ならまだしもインチェンス侯爵達の様な中央に近い領地が魔物に襲われる事は少ない。


「分かりました、失礼致します」


「さっきの話はまた今度にしましょう。調べ物に関しては私も協力するわ、またね」


頭を下げて部屋を出ていく。


「気づいたら結構過ぎていたのね。やっぱり坊やとの話は面白いわね、ローゼスが居たら笑われていたかも」

「それにしても・・・ザーロ、ね」


何処か遠い目をしているインチェンス。そこに情報をまとめたローゼスが帰ってくる。


「お嬢様、ご報告です」


「聞くわ」





-----∇∇∇-----





「サキユ、ごめん。少し急げる?」


「分かりました!全速力です!」


いつも以上の速度で空を駆ける、一瞬見えたインチェンス領に来ていた魔物達。あれは凶暴化した魔物達だろうか。


魔物は魔力が枯渇すると凶暴化する。普段は枯渇することが少ないが、何か枯渇する原因があれば簡単に凶暴化へを至る。

現在分かっているのは凶暴化すると、魔力を異常なまでに求めるようになる。そして魔物が魔力を得る最も最高効率は、魔力を持った者を食する事。魔石などでも良いがそれは彼らの体内にある物。

ならば同族を食えば良いのではとも思うが、彼らはそこまで理性の無い獣では無い。異種族の人間や動物を食べた方が良いと、分かっているのだ。そして街や村には、動物以上に人間が居る事を、理解している。


「結構な数が居たな・・・とは言えインチェンス領を攻めるには少ないか」


空から見ただけだが、そこまで大量には見えなかった。勿論手で数えられるレベルでは無かったが、しばらくしたら鎮圧出来てしまうぐらいの量。


「しかしこんな領を襲うとは、魔物達も運が無いな」


運、か。果たして自然に起きた事なのだろうか。


「俺達の領も確認しないとな」


クロアはサキユに掴まりながら思考の海へとまた落ちていく。





-----∇∇∇-----





「あれは・・・?」


空から帰る中、イストフィース領に続く道に魔物の死体と見慣れか顔が数人と知らない人が居た。


「サキユ、降りよう」


サキユと共に降りていくと。


「坊ちゃん!」


「ヴォルフォ、これは?」


ヴォルフォを筆頭に数人のうちの兵士が居た。


「先生の迎えに行ってたんですけど、帰りに魔物達が居ましてね。応戦してました」


「全員無事?」


「ええ、何人か怪我はしましたけど軽傷ですよ」


「そっか。それで、先生って?」


「君がウィルの息子かな」


ヴォルフォの後ろから女性の声、そしてその体躯はディンと同じか、少し大きいか?


「初めまして、イストフィース家の坊や。私はギガム、かつてこいつらの指南役をしていた騎士団の指南役さ」


大きな手で握手を求められた。指南役だと・・・


「初めまして、イストフィース家長男、イストフィース・リーゼ・クロアと申します。父達がお世話になっていたようで」


「しっかりしてるねぇ。こんなとこで立ち話をするのも変だろう。一旦アンタらの領に向かわないかい」


「それが良いと思います、僕達も同行しますよ」


「坊ちゃんとサキユが居てくれるなら百人力ですね。あいつらにも伝えてきますよ」


ヴォルフォが兵士達をまとめ始める。

ギガム殿が俺を見て話しだす。


「ちなみに、坊やのお姉ちゃんも私の指南を受けた事があるよ」


「ベニア姉様もですか・・・」


「あれはすごい子だったね。あんな才能の塊はもう見ないと思っていたよ」


「姉が褒められると、僕も胸を張れますね」


「仲が良いんだね。それに今言ったはずだよ、もう見ないと思ってった」


「それでしたら、僕では無くて領に居るはずのもう一人の姉を見ればもう一度見れると思いますよ」


「へぇ、それは楽しみだね」


「三人共、準備よろしいですか」


「ああ、行こうかね」



新たな人物がイストフィース領に来ていた。

そしてそれと同時に、南の貴族が魔物に襲われたのだ。まるで指揮がされているように。

クロアはこの時に感じていた、明らかな殺意と、今、自分達が狙われているのだと。

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