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凋落の怨嗟 ②

「明らかに誰も来なくなったな・・・」


デモールからの話を聞いてからこの地まで来てくれていた商人の人達が誰も来なくなってしまった。

少し前に父上が注文してくれた物資を最後に誰も来なくなってしまった。

元々イストフィース領に来る商人は少なかったが、それでもこの頃の成果もあり増えてきたところだった。


「デモールの話を信じていない訳では無いんだけど、どうしようかな」


イストフィース領の一番の弱点と言えるかも知れない。

情報収集能力があまりにも無いのだ。貴族と言えば派閥や横のつながりがあるのが普通だが、残念ながらうちにはそれが無い。

そうなってくると何が起きるかと言うと、情報不足による孤立。

父上がそう言うのが苦手なのも知っているし、成り上がり故の弱点でもある事は仕方ない。

とは言えこのまま手をこまねいていれば、もし自分達が標的になっていても気付けない。


「うちはある意味武力しかない筋肉貴族か」


武力があるのは悪い事では無いが、武力しか無いのは問題だ。外に出て情報収集を出来る者が現在サキユぐらいしか居ない。そのサキユも別段情報収集として外に出ているわけでも無いので、誰も出来ていないのと同じである。

文官や外交部門の様な人が欲しいところだけど。


「無い物ねだりは意味が無い、か」


あまり乗り気にはなれないけど、情報収集と言えばあの人に頼るしか無いだろう。


「貸し借りを作りたい人では無いんだよな・・・あれを持って行くか」


そう言いながらクロアは、会いに行くための準備を始める。





-----∇∇∇-----





「思ったより早い再開になったわね、坊や」


「時間を作っていただきありがとうございます」


「おべっかも言わない何て、生意気な成長をしたわね」


貴族の中でもインチェンス侯爵はかなりの情報収集能力を持っていると思っている。

盗賊の一件からその能力にさらに磨きがかかったようにも感じる。あれはある意味で閣下の落ち度では無いけど、彼女からしたら自分の落ち度なのだろう。


「今日はお聞きしたい事があって参りました」


「大方、西の動きについてでしょう」


「相変わらずのご慧眼、その通りです」


「でもただで教える訳にもいかないわ、坊やも知っているでしょう?」


「はい、ですので今回はこの甘味とそのレシピを持ってまいりました」


クロアは横に持ってきていた手土産を差し出す。


「これは?」


「我が領で取れた芋で作ったスイーツになります」


「芋?しかもスイーツと言いましたね?菓子類では無く芋で?」


「はい、これは商人から買った本に載っていた物をアレンジして作った物です」


デモールは何かと変な本を買ってきては売り付けに来る。変わった野菜や果物なんかも良く持ってくる。

俺が買うと理解しているから仕入れてくるのだろうけど。

基本的に使えない物が多いが、たまに見た事も無いレシピや新しい考えが書いてある本などがある。だからこそ俺も買い集めているのだが。


「随分と艶が良いわね、食べるのがもったいなく見えるわ」


「レシピはこちらに、作り方もシンプルで生産もしやすいかと」


トルト叔母さんから貰っていた野菜の種の中に変わった形の芋が有ったのだ。名前もサツマイモと言うらしい。北の方では良く作られているとか。

恐らくレシピに関しても元々や北にあった物では無いかと思っているけど、少なくとも北出身の母上は知らない物らしい。


「お嬢様」


「不要よ、坊やが毒なんて入れてくる訳ないでしょう。それに一口目というのは大事なのよ」


ローゼス殿が後ろに下がる。甘味や化粧品の時の女性は本当に怖い。


「いただくわね」


「どうぞ、お気に召しましたらそのまま差し上げます」


熱した芋を潰して砂糖、塩、バターと牛乳を少しずつ混ぜて魔道オーブンで焼いたものだ。

名前もポテトスイーツとでも言うのだろうか、甘い芋である。


「美味しいわね、気に入ったわ」


「ありがとうございます」


「坊やは料理も出来るのね、ますます欲しいわ」


「お褒めに頂き光栄です、よろしければローゼス殿も如何ですか?」


「では、失礼して」


二人がそのまま食べ進める。


「これは甘すぎず丁度良いですな」


「そうね、芋の風味もあってお茶請けとしても悪くないわ」


「芋故に口の水分を中々持って行かれるので、紅茶には良く合うかと」


「確かに、水分無しで食べるのは中々苦労しますね」


口を拭き、紅茶を入れるローゼス殿。


「流石にこれは私が貰い過ぎね。良いわ、教えてあげる」


「ありがとうございます」


「まずは何が知りたいの?」


「商人などから聞いたのですが、何やら西貴族の中できな臭い動きをしている者がいると聞きました」


「それなら恐らくウーロアロの事ね」


「ウーロアロ・・・確か伯爵様でしたか?」


「合っているわ、ウーロアロ・ズレイ・カズラ。西貴族の中でも平民差別主義者の一人ね」


「その方が何かしているのですか」


「何やら兵を集めているそうよ、しかも中途半端な数のね」


「中途半端、ですか」


「ええ、確か百人は行かない程度の人数を集めているそうよ。しかも平民問わずね」


確かに変な話だ。民を見下すタイプにも関わらずそれを集めようなどと。


「本人は魔物の退治をするために新しい戦力の発見のためとか言い張っているそうよ。まぁそれを言われたら特に咎める事も出来ないわ。人数もそこまで多くも無いもの」


戦力の増強との事か。だとしてもそう言うタイプの貴族は根っから貴族以外を嫌うタイプのはず。


「他の貴族に戦を仕掛けるにしても兵の数が足りなすぎるから、戦力の増強とは言われいるけど・・・怪しい物ね」


「閣下は何故怪しいと」


「西の連中はそこまで戦好きでは無いわ、つまり戦う気なんてほとんど無いはず。それに奴は西の中でも中央に近い領地、つまり大した魔物は居ないはずよ。いたとしてもそれは王都の兵が動くもの」


開拓領でも無いから魔物の危険度が少ないのか。そして戦もする気が無いと。


「何がしたいのでしょうか・・・?」


「真意までは分からないわ。でも、自分の兵を使いたくない何かがあるんじゃないかしら」


「自分の兵を、ですか」


「誰かに兵力を貸すとも思えないもの。自分大好きなあいつらがね」


「誰かに指示されたのだとしたら?」


「それなら本気で貸すはずよ。中途半端な兵って事は少なくとも奴より爵位が低い者でしょうね」


「なる程」


確かにそれなら納得も行く。


「私もこの程度しか知らないわ。大した情報でも無いでしょう?」


「いえ、大変勉強になりました。我々だけでは知ることも出来ない情報なので」


「確かに貴方達って変な偏りがあるわね。戦力としては頼もしいけど腹芸が出来るのが坊やと、お父上ぐらいなのかしら」


「お恥ずかしながら、その通りです」


「ふふっ、なら付け込むならそこかしら?」


「お戯れを」

「しかし兵を集めて何かする気がある、その上商人達はこぞって南から離れているとなると、南の誰かに攻め込む気なのですかね」


「恐らくそうでしょうね。とは言え誰を狙っているのかまでは分からないわ。そもそもそれすら陽動の一つでしかない可能性もあるもの。私達は用心するのが関の山だわ」


「確かに、もし動きが有ったら情報を共有して頂く事は可能ですか?」


このまま押し切りたい、この人ほど頼りになる人も他に居ないのだ。


「良いわよ。元々知っていたこんな情報だけでこれを貰うのは、あまりにも天秤が取れていないわ」


「そう言っていただけると助かります」


インチェンス侯爵がそのままポテトスイーツを完食する。


「それともう一つ、お聞きしたい事が有るのですが」


「何かしら」


「ザーロ子爵の件で、お聞きしたい事があります」


「・・・続けなさい」




本当に聞きたい事はここからだ。


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