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王国視察団 ③

朝早くから女性が一人、イストフィース領を散策している。


「あまり公に使えないから昨日は使わなかったけど・・・何なのこの領」


王国視察団の一人、オルヘ。

彼女の固有魔法は『領域探索(マナサーチ)

彼女を中心に周囲の魔力の探索及びに強度を計る。魔導士が他人の魔力を推し量るのとは少し違い、魔力のより濃い場所や、目に見えない場所、例えば地中の中でも魔力の濃さが分かる。

優秀な魔導士であっても、対称との間に物体で阻害されれば魔力感知の精度が落ちる。彼女の固有魔法はそれを無視して探知が可能になると言うもの。


「本当にすべての畑が魔力土のようね、一体どうやって・・・?」


「オルヘ様」


「遅いわよ」


「申し訳ございません。イストフィース殿に倉庫などの鍵を頂いておりました。保存中の物もあるので出来る限り傷まない様にとの事です」


「そう、注意して探すわ」


「そちらはどうでした?」


「昨日の予想通りよ」


「ではこの眼下に広がる畑が全て・・・!?」


「そのようね。それなのに堂々とそんな鍵を渡してくるあたり倉庫などにも秘密は無さそうね」


「万が一と言う事もあるでしょうから私はこのまま、こちらの調査に参ります」


「そうして。ついでに住民に聞き込みもお願いしていいかしら。私も見かけたら聞いておくわ」

「昼からは騎士殿も我々を見張るけど、騎士殿にも今日の事は伝えてあるわ。基本的に自由に動けるはずよ」


「委細承知いたしました。ではまた後程」


テルテがその場を後にする。


「とんだ大物の調査になりそうね、まったく」


オルヘ達は調査を続けていく。





-----∇∇∇-----





「副団長はこんな所に住んでいたんですね。なんだか聞いていた話とは大分違いますね」


ラサキが領を見渡しながらベニアと雑談をしている。


「今の領に関しては私もびっくりしたよ。たった数年でこんなにも変わるんだね」


ベニアがこの領から出た頃に比べれば何もかもが違う。

畑の数はこんなに多くなかったし、領民も少なかった。それに自分の給金が無ければ家族の生計が少々厳しかったのが今では全て貯金に回せと言ってくる始末。

何か良からぬことで羽振りがいいのでは無いかと思ったこともあったが、あの父がそれを許すわけが無いと思い、自分の目で確かめるためにもこの場所への護衛を希望した。


「皆さんが良い顔で過ごしているのを見ると、良い領なのだと理解できますね」


「そうね。私も胸を張って自慢できるわ」

「昔は私も畑仕事を手伝っていたのに、今ではまるで違うみたいなのが少し寂しいけど」


「副団長も畑仕事を?」


「それだけ人手が足りなかったの。私が居た頃はまだまだ開拓も進んでいなかったからね」


「天才を言われた少女の意外な一面ですね」


「ちょっと、それ嫌いだって言ったよねー?」


ベニアがポコポコラサキを叩く。


「冗談ですって、痛い痛い・・・ちょっ、本当に痛いですって!?」


「まったくもう。それに多分、天才って言うのは私じゃなくて・・・」


自分の家でもあるイストフィース家を見るベニア。


「どうしたんですか?」


「いえ。何でもないわ。私達もそろそろ行きましょう」


「はっ」





-----∇∇∇-----





「昨日の案内で畑の状態には気づかれたかな」


クロアは視察団の動きを考えながら自室で書類を纏めていた。


「あっちには気づくかな・・・まぁなるようになるかな」


あそこを調べるかどうかだな。


「しかし人手は増えてきたけど、どうしてうちには肉体的な人が多いんだろうな・・・」


イストフィース領に人が増えてきているのは間違えない。しかしながら読み書きや計算などが出来るものが少なく、現在ではクロアとウィルがほとんど担当している。

勿論出来るものは居ないわけではない。中央学院の卒業者などもいるから当然ではある。

しかし全員が騎士を目指している者が多く、官僚や管理の方を担当する者が居ないのだ。


「どう考えても父上の武勇などのせいもあるのだろうけど。そろそろ困ってきたな・・・」


勢い良くドアが開く。


「クロア様、失礼します!」


「サキユ、どうしたの」


ノックに関してこの頃諦めてきた。


「さっき昨日来た人たちから夜にまた時間が欲しいと伝言を預かりました!」


「昨日って言うと、視察団の方々かな。これはまた、色々質問攻めされそうだね」


「そうなのですか?」


「多分ね。どこまで調べたんだろうな、質問の返しでも考えておこうかな・・・」

「あ、そうだ。サキユ、これを」


「手紙ですか、どちらに届ければ良いでしょうか?」


「視察団の方々が帰ってからでお願いしたいんだ。インチェンス侯爵にお願い」


「あの人たちが居なくなってからですね。わかりました!」


「一応届ける前に俺に伝えて。もしかするとその手紙が必要なくなるかもしれないから」


「了解です!」


そうして、サキユと会話をしながらも書類仕事を終わらせていくクロア。

気が付けば時間が過ぎていき、視察団から呼ばれていた時間になっていた。




「この度は自由に動き回らせていただきありがとうございます。見事な領に我々も驚きを隠せませんでした」


「いえいえ、何かおかしな点があったでしょうか?」


何も無ければこうして時間を作ってくれとは言われないはず。恐らくは土の事だろうとクロアは思っていた。


「はい。我々が調べていて気になったのは畑の土です」


「土、ですか」


父上が対応はしてくれているが。現在では基本的に俺が口出しをしているため父上も全て理解しているわけでは無い。


「この領の畑、その全てが魔力土でした。しかし失礼ながらイストフィース殿にそこまでの資金があるとは思えません。あの素晴らしい土は一体何なのでしょうか?」


「それについては私からよろしいでしょうか?」


「ご長男のクロア殿でしたね。どうされたのですか?」


俺との会話に父上がさらに割って入る。


「申し訳ない、先に説明いたしましょう。現在この領地の畑の管理は私の息子であるクロアがほとんど担当しております。畑については私よりも詳しいかと」


「なんと、その歳ですでに管理を・・・失礼、才能に年齢は関係ありませんね。話を戻しましょう」


視察団の二人の視線がクロアに集まる。


「では僭越ながら私が畑についてお話します。結論から言ってしまうとあの土はたまたま出来た物であります」


「たまたま、ですか」


「勿論、魔力土に近づけば良いと思い研究していた時に出来た物ではありますが」


「つまり、あれは自分達で製作した物だと?」


「そうなります」


「ではその製法を教えて頂く事は出来ますかな、それとも製法は独占するのでしょうか」


「いえ、我々に独占する気はありません。しかしあまりイメージの良い物では無いかも知れません」


「構いません、我々も聞いてみたいのが本音ですから」


「では」


俺が実験していた肥料や魔法を使った水やりを解説する。

無論誰もが出来る物ではない。肥料と呼んでいる魔物の骨。現在ではこれを粉末にして、畑の肥料にしている。

骨を粉末にするなど普通はかなり難しいはず。しかし俺には固有魔法でそれを可能にしている。

さらには自身の魔力量で水やりもごり押ししているので他人が同じ方法で作ろうとするには単純に人数を増やすしかない。

大きな領であれば可能だろうが普通の農村では人数を増やすと言うのも厳しいはずだ。俺達だって正直余裕があるわけでは無い。

だが固有魔法などの詳細を語る気は無いのでほんの少しだけぼかしながら説明する。


「なんと、そのようなやり方であれ程の土が出来上がるのか・・・」


「とは言え、恐らくですがすべてが完全に魔力土になってはいないと思われます。収穫の時にいくつかまばらな物が出来ている時があるので」


「なる程、しかし魔物の骨を肥料にですか。確かに、人によっては抵抗感があるかもしれませんね」


「しかし素晴らしい魔力と栄養を内包している物でもあります」


「そのようですな。いやはやありがとうございます。我々も勉強になりました」

「イストフィース殿、いやウィル殿は子供に恵まれましたな」


「ええ、自慢の息子です」


「これは我々も良い報告が出来そうです。イストフィース家は開拓を現在成功されている、と」


その言葉は、素直に喜べた。しかしそれは同時に。


「先に言ってしまいますが、恐らく税が上がるかと思われます。ご理解お願いします」


「勿論です。ご期待に沿えるようにまだまだ成果を上げて見せます」


「これは頼もしい。辺境の貴族はお二人の様な方々ばかりなら助かるのですけどねぇ」

「っと失礼。今のは失言でしたな、お忘れください」


「他に何か気になる点はありましたか?」


「あの立派な作物たちがどこに販売されるのか気になるところですが、それは我々も行き過ぎですね」

「もっとも聞きたい事は聞けましたので大丈夫です。お二人共、ありがとうございました」


「こちらこそ。では我々はこれで」


父上と二人で家に帰る。

短い距離ではあるが、その帰り道。


「税が上がるのは少々手痛いが、嬉しい事ではあるな」


「そうですね。父上、おめでとうございます」


「何を言う、お前の発想や力もあってこそだ。これからもよろしく頼むぞ」


「言われなくとも。もしかしたら爵位も上がるのでは?」


「それは望み過ぎだろう」


「そうですかね」



久々の親子での帰り道。少しだけ、嬉しい気持ちを抱えながら家に帰る。

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