王国視察団 ④
「短い期間でしたが勉強させて頂き、ありがとうございました」
「良い結果を報告出来て、我々も嬉しい限りです」
視察団の方々は朝には領をでる準備を終えていた。
「仕事とはいえもうちょっと居たかったなー・・・」
ずっと俺に寄りかかっているベニア姉様を引きはがす。
「時間らしいですよ、姉様」
「ぶぅ、ロア君はお姉ちゃんと別れるの寂しくないんだ」
「勿論寂しいですよ。ですけどだからと言って王国騎士団の副団長を留める訳には行きませんからね」
「弟さんの方がなんて物分かりが良いのかしら・・・」
ラサキ殿が姉様を引っ張ってってくれる。
「ほら副団長、シャキっとしてください」
「はーい、ホントに家に帰れなくて残念・・・」
「姉様の部屋はずっと残ってますよ。今度時間を見つけて、仕事ではなく普通に帰ってくれば良いですよ」
「その方がスー達も喜びます」
今回の件は姉弟には伏せてある。ベニア姉様も会いたいと駄々をこねていたが色々ややこしい事にもなりかねないので完全に断絶させてもらった。
あとはこの別れの時間が長くなりそうだから。
「では我々はこれにて」
「お気をつけて」
「またねーロア君」
「姉様もあまりラサキ殿に迷惑を掛けない様にしてくださいね」
四人が来た時と同じように飛竜にのって帰っていく。
「今回は、いつも以上に疲れたな・・・」
「まさか姉様が来るとは思いませんでした。しかし良く許されましたね。身内と分かれば普通違うところになりそうですけど」
「私もそこは不思議に思っていた。まぁ考えても分からんだろう」
「それもそうですね。サキユに用があるので俺はこれで」
「休まないのか?」
「あの方々が居たから出来ない事もあったんで」
「まさか本当に隠し通すとはな」
「別に隠したくて隠したわけでは無いですけどね。それに今その可能性があるからって税を引き上げられても困るのはイストフィース領でしょう」
「そうだな。だから私も許したのだ・・・だがやはり気が引けるな」
「確実性も無いのに税だけ上がられても皆困りますよ。父上は間違ってませんよ」
「今はそう思う事にしよう」
「では」
そのまま現在進行中の実験倉庫に向かう。
クロアの向かう先は食料の倉庫などではなく、地下の倉庫。
「しかし本当にばれないとは、悪い事をしている気分になってしまうね」
そこはクロアが作っている葉巻、及びに砂糖の倉庫。
少量だけど作る事には成功している。けれどこれを大量に生産する力がまだうちには無い。
そんな中で嗜好品が作れるのだからと言って税を引き上げられる可能性は高いのであまり見せたい物では無かったのだ。
もちろん見つかったのなら正直に話す気でいたのだけど意外にも見つからなかった。
恐らくあの女性、オルヘ殿と言ったかな。あの人が魔力探索に長けているのだろう。昨日の朝早くに魔力を感じた。固有魔法か、単純に探索に使ったのかは分からないが。
それに場所が場所だったのだろうか。
「まぁ熊の飼育場がこんな形になっているなんて誰も思わないか」
クロアの作った倉庫の場所は熊が飼育されている母屋の地下。
そもそも熊達は母屋を寝るとき以外にはあまり使用しない。それに地下に入れない様にもなっているので人の出入りがほとんどない。
ここまで調べには来なかったのか、見逃されたのか。
「それとも分かった上で聞いては来なかったか、まぁ今考えても仕方ないか」
「クロア様?」
クロアが倉庫で唸っているとサキユが入ってきていた。
「サキユ、お帰り。前の手紙の件、お願いできる?」
「わかりました!今から行った方が良いですか?」
「いや、明日で構わないよ」
「では明日行きます!」
「ありがとう。代わりにこれを上げよう」
そう言って、サキユに砂糖の入った小袋を上げた。
「これは?」
「てんさい糖って言う砂糖の一種だよ」
そう言われていきなり舐めるサキユ。
「甘いです!なんだかまろやか!」
「そりゃぁ砂糖だしね。溶かして果物に付けても良いと思うよ」
「美味しそうです・・・早速やってきます!」
そう言って即座に部屋から飛び出ていく。
「ぐっ、外で伝えるべきだったかな・・・」
倉庫でハーピィの起こす風はとんでもなかった。
「砂糖の方はほとんど良いんだけど、問題はこっちだな・・・」
砂糖は作り方も場所も準備が進んでいる。もう少しで領民の人達に仕事としてお願いできそうなぐらい進んでいるが、問題は葉巻。
「そもそも試せる人が少ない上に現状の作り方は俺の固有魔法頼り。これじゃあ量産は無理だな・・・」
葉巻の作り方は本にも書いてあるのだけどそもそも作成にはかなりの期間を要する物なのだ。
『解体』によってある程度の工程をすっ飛ばしているが、俺が関われなくなったらこれは使えない。
その上手探りでやっているので、しっかり知識がある人に教えを乞いたいぐらいだ。
「献上用に五本は作れているけど・・・これ以上は正直無理だな」
まぁ、これでインチェンス侯爵の約束は守れた。
「今度会うのが楽しみだな・・・また無理を言われなければ良いけど」
そうしてクロアも倉庫を後にする。
-----∇∇∇-----
「それでは、我々はここまでです。お疲れ様でした」
「ベニア殿、ラサキ殿もお疲れ様でした。またよろしくお願いします」
視察団と騎士団が別れる、王城にて。
「いやはや、まだまだ忙しいですな」
「そうね。けれど、女王様に良い報告が出来そうだわ」
テルテとオルヘが自分達の部署に帰っていく。
「おや、女王様にですか?何かありましたかな」
「あの領、嗜好品を隠していたわ」
「・・・何故昨日それを教えて頂けなかったのですかな?」
「まだまだ作り途中だったからよ。恐らく作るには時間が掛かるでしょうね」
「それは理由にはならないのでは?」
「そうね、でも気になるのはもう一つ。寧ろこっちが本命だわ」
「と、言いますと?」
「クロアと言ったかしら、あの少年」
「ご長男でしたな、あの年齢にしては良く出来た子でしたね」
「あの子から、あなたは何も感じなかった?」
「説明も上手く、良く出来た少年の様に見えましたが・・・」
「私達相手にそこまで隠せていたのね。あの領に行ったのが私で良かったわ」
「どういう事ですか?」
「あの子の魔力よ。すでに魔導士団の基準を超えているわ」
「なっ!?」
王国魔導士団、王国騎士団の対を成す部隊である。
そして魔導士団の基準とは、一般の魔導士の数倍の魔力を保持する事。
「つまりクロア殿は、あの歳ですでに魔導士団と同じだと?」
「同じどころか、私にも底が見えなかったわ。その上あなたにその事を感じさせないほどの魔力操作を持っていると言う事よ」
「なる程、確かに。女王様が喜びそうなお話ですね」
「そう。だから見逃したの、あそこまで魔法の研鑽を続けた彼に免じてね」
「・・・まぁ良いでしょう。イストフィース殿から謀反などは感じませんでしたからね」
「しかし次は報告して頂きたい。あなたが私の上司と言え、私達の仕事なのですから」
「分かってるわ。もうしないと誓うわ」
「期待しております。けれど彼がそこまでの魔力を・・・」
「あの領に入った時に濃すぎる魔力を感じたけど、最初は確信を持てなかったわ」
「辺境というのは、恐ろしいですな」
「そうね。だからこそ面白いのですけど」
視察団は報告へと足を運こんでいく。




