王国視察団 ②
飛竜に揺られ、イストフィース領を目指す四人が居た。
「そろそろですね、副団長」
「副団長殿もイストフィース領に訪れるのは久々だとお聞きしましたが?」
「そうなんですよ、私も領に来るのは五年ぶりぐらいですね」
「どこまで変わっているのか、実は私も楽しみで」
「それはそれは・・・しかし我々も、だからと言って温情などはありませんよ?」
「分かってます、むしろしっかりと見てくださいね。悪いことしてたら私が辞めさせますから」
「自分の家族ぐらい信頼してやってください副団長・・・」
「信頼してるからこそだよ。ちょーっとイタズラ好きな弟がいるんだ。あの子は何かやらかしてそうで家族として心配なのです!」
「えぇ・・・」
格式の高そうな衣服を身に纏う者が二人。そして王国騎士団の身に纏う鎧を着た者が二人。
イストフィース領に、やってくる。
-----∇∇∇-----
「毎年この時だけは気が滅入るな・・・」
「珍しいね、ヴォルフォがそこまで気負うなんて」
「気負うって言うか、俺が何か働いてしまうとそれは隊長や坊ちゃんの責任になる事もあるからですよ」
「その心配はするな、今日は私とクロアで案内する。お前はあくまで護衛として付いてくれば良い」
「それとクロア、お前も大丈夫そうか?」
「ええ、平気ですよ。父上が案内するのは最初だけ、その後は俺が全部やりますよ」
「ふっ、頼もしいな」
「来ましたよ、お二人共」
飛竜が降りてくる。
少しだけ気が引き締まる、別に戦争があるわけでは無いが、これもある意味戦いなのだ。
なのだが。
「!?」
少し遠くで飛竜から降りてくる人の顔に見覚えがあった。
「どうしました、坊ちゃん?」
「いや・・・今・・・」
「あれは・・・!」
一人の男性と二人の女性。
そして、こちらに一人走ってくる少女。
「ローア君!!」
抱き着かれる。
「なっ!?姉様!」
これは予想していなかった。視察団の護衛がベニア姉様だとは。
「ちょっと副団長、視察団の方々も居るんですけど?」
「あ、そうだったね」
「これはこれは、感動の再開にまで水を差すほど無粋ではありませんよ」
「いえ、失礼しました。まずは私が領主を務めているイストフィース・リーゼ・ウィンを申します。今年もよろしくお願いします」
「これはご丁寧に。私共が今回の視察を務めさせて頂きます。私はテルテと申します。後ろにおりますのがオルヘと申します」
「テルテ様、オルヘ様。よろしくお願いします」
「はいはーい、知っての通りお姉ちゃんです」
「副団長補佐のラサキと言います。我々は視察団のお二人の護衛です。以後お見知りおきを」
「護衛のお二人もよろしくお願いします」
父上は平静を保っているように見えるが、だいぶ困っているな。まさか自分の娘が居るとは思わなかったのだろう。俺も同じだけど。
「イストフィース家長男、イストフィース・リーゼ・クロアと申します。今回は我が父を案内をさせて頂きます」
「それは有難い。しかし明日は我々は自由に見回らせて頂きますよ」
「承知しております」
視察は二日かけて行う。
初日は領主やその近しい者が案内をする。当然虚偽を行う輩が居ないとも限らないがそれを阻止するために二日目が存在する。
案内を意図的にしなかった場所などがあれば彼らが自由に見て回る二日で見つかるからだ。勿論広い領地であればこの視察は日数が伸びる。イストフィース領はそこまで広くないので二日で済むだけである。
「では早速お願いしてもよろしいですかな、時間を無駄にするわけにはいきませんので」
「分かりました」
視察が始まる、何だか堅苦しいが悪い事ばかりではない。
功績が認められれば良い事もある。税が上がるのはそれだけの事を成したともとらえる事が出来る。そうなれば他の領や貴族との繋がりも増える事が在る。
とは言え税が上がるのはやはり大変にはなるが。
-----∇∇∇-----
「これは素晴らしい農園だ」
「こちらでは野菜や果物を主に育てております」
「ほう、しかしこの干ばつ地にて育つのですかな?」
「我々が育てているのは干ばつ地においても強い物を育てておりますので、その問題はありません」
「なるほど、場所にあった物と言う事ですな。これは素晴らしい」
案内は順調に進んでいく。後ろの視察団の女性はずっとメモの様な物を取っている。後で精査でもするのだろうか。
「遠くのあれは・・・食用ですかな?」
「あれは護衛用の熊です」
「護衛・・・?」
「山々に囲まれていると、動物が下山し作物の荒らすことが多いのです。しかし彼らが居ると動物達が寄り付かなくなるので、現在飼育中です」
「なんと!?熊を飼育しているのですか!」
後ろに居る姉様も驚いている。まぁ仕方あるまい。あれはある意味で俺達姉弟の我儘だ。
「これは驚きですな。飼育方法が確立されたら是非教えて頂きたい物です」
「まだまだですが、いずれは必ず」
案内は続いて行く。
-----∇∇∇-----
「いやはや今日はありがとうございました。こんな宿まで用意して頂いて」
視察団が来るとは勿論去年から知っていたので、トルト叔母さんの伝手で来客用の宿を建ててもらったのだ。
「明日は我々が領内で歩き回りますので、領民の方々への対処をお願いします」
「はい、皆様の事はすでに伝えてありますので自由に動いて大丈夫です」
「ありがとうございました、では今日はこれにて」
「ほら副団長、貴方も仕事なんですからこっちです」
「えー・・・だって私の家はそこにあるのにー!」
「はは・・・姉様はお仕事でしょう。家に居たら色々おかしくなるでしょう」
「なによ、お姉ちゃんに逆らうの!?」
「正当な理由です。おやすみなさい」
「あー!」
「ほら行きますよ副団長!!」
あの補佐の人も大変だなぁと思いつつ宿を後にする。
「悪くない宿ですね。オルヘ様」
テルテが、視察中に一切喋らなかった女性に跪く。
「そうね。お前はこの領、どう見る」
「あれがもし全て育っているなら農業としては優秀ですな。家畜などは少ないですが、まだまだ伸びしろがある。しかもここは開拓領、これからもどんどん広がる可能性もあります」
「お前はあの農地に何か気付かなかったか」
「農地ですか、確かにこの時期にしてはすでに育っている物もありましたね。収穫手前と言うべきでしょうか。少々早いとも思いますが時期によるのでは?」
「そうね、そう言われれば違和感もないけどそうじゃないわ」
「と言いますと?」
「この領の畑、すべての土が魔力土だわ」
「バカな!?」
魔力土から作られる食材は高級品となる場合が多いが、魔力土自体は高級品とまでは言わないが安い物ではない。そしてそれを畑全部に使うとなれば相当な量と費用がかかる。
「ではあの作物たちは全て魔力土で育成されたものだと・・・!?」
「そうなるでしょうね。実りが早いのもそれが原因でしょうね、そしてそれはこの領だけが収穫物が多く、さらには品質も上がると言う事よ」
「確かに常に魔力土を使っているなら年に二回しか収穫できない物でも倍になる可能性があります」
「しかしあの広大な畑を全てなど・・・金の周りが良いどころではありませんぞ」
「あの量を金だけで解決するのは無理でしょうね。それにこの領まで来る商人は多くないはず。考えられるのは一つよ」
「彼らは魔力土を作っているんだわ。しかもこの広大な畑の量をね」
「なんと・・・しかしそんな場所は今日の案内にはありませんでしたよ?」
「隠している、にしてもそんな場所もこの領には無いはず・・・何か仕掛けでもあるのかしら」
「明日は気合を入れねばならないようですな」
「そのようね、私の固有魔法も使うわ」
「畏まりました、明日に備えて今日は失礼します」
テルテが部屋から出ていく。
「この領に何が隠されているのか・・・私が暴いてやるわ」




