王国視察団 ①
「これぐらいにしておくか、これをさらに広げないと無理だな」
山の中でクロアが魔法の修練をしている。
固有魔法もだが今はあの天候を変えていた魔物の魔法を再現しようとしている。
「かなり小規模だけど雨自体は再現できたけど、これを空に作るのは現状不可能だな・・・」
寒季も終わり寒暖季に入る季節。同時に動物達が活発化する時期でもある。
「今年は収穫物も多いから、対策はしっかりしないとな」
クロアは一人で山から下りる。いつもの様に、修練を終えて。
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「皆も分かっていると思うが、この時期がやってきた」
ウィンの執務室で、いつも通りの五人が会議をしている。
「今年は去年より色々やってますからねぇ、根掘り葉掘り聞かれそうですね」
「そうだな、なので今年はクロアを案内人にしようと思うが、どう思う?」
「良いのではないでしょうか。クロア様なら我々よりも詳しい可能性すらありますから」
「それに坊ちゃんが始めた物も多いですからね。俺らよりよっぽど説明できる事も多そうです」
「と言う訳で今年はクロア、頼めるか?」
「構いませんが、事前でどの程度まで踏み込んでくるかご教授頂いても良いですか?」
「分かった、それについてはまた後で話そう」
「そう言えば、坊の言ってた水路はどうするんですかい」
「まだまだ計画段階かな、肝心の雨も全然再現できないからね」
「しっかし雨を降らせる魔物が居るとは、世界は広いもんだな」
「確かに良い経験だったぜ、お前も船酔いで倒れるかもしれないけどな!」
「何言ってやがる、船ぐらい乗りこなして見せるさ」
ディンとヴォルフォがはしゃいでる。しかし、視察団か。
「クロア様、お疲れですか?」
「ん?そんな事は無いけど、考える事が多くて面倒だなって感じかな」
グラハが気遣ってくれる。顔に出てしまっていただろうか。
「確かに、坊は働き過ぎだな」
「坊ちゃん、この頃はいつお休みになられました?」
「睡眠はしっかりとってるけど?」
「そうじゃなくて、畑にもいかず領民の悩みも聞かず、魔法や身体の修練もしないで休んだ日はありますかって事です」
「何それ。一日完全に何もしない日って事?誰しも何かしらするでしょ」
「一日中寝てる日とか無いんですか?」
「そもそもこの頃は他領に行き過ぎてて自室にいる時間の方が少ないよ」
「確かに、クロアは遠征が多かったな。ならば今日と明日は休みなさい」
「仕事をしなくて良いなら魔法の修練をしたいのですが・・・」
「駄目だ、監視にサキユとリリルを付けるぞ?」
「それならサキユだけにしてください・・・」
「いや隊長、サキユじゃダメでしょう。結託されるだけですって」
「それもそうか、ならリリルに頼むしかないか」
「分かりましたよ、何もしませんって。でも外を歩くぐらいさせて欲しいのですけど?」
「それぐらいなら良いだろう。たまには何もせずに、領を見て回るのも悪くはないぞ」
「その言葉は父上にもお返ししますよ。俺と同じか俺以上に動き回っているでしょうからね」
「私は領主だからな。まぁしかし、私も受け取っておくよ」
そうして急遽休みを言い渡されたので、領地を見て回る事にした。
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「改めてみると、確かに変わったな」
盗賊騒ぎがあった頃からだろうか。最初は小さな村や集落が少し離れ離れに暮らしていたが、今では全員がここに集められ、人が住める領地を広げつつある。
人手が増えた事で畑なども増えていき、今ではかなりの農村地だ。
「あれ、クロア様じゃないですか」
「トントか」
今は村の巡回中だろうか。
「こんな所で何をしてらっしゃったので?」
「何も、休みを急に与えられてね。領をゆっくり見て回ってたんだ」
「休みなんて羨ましいですね、見ての通り俺は巡回中ですよ」
「それで、巡回していて何かあった?」
「なーんもないです。嬉しい事に平和ですよ、この領は」
「まぁ、問題が起きる程広い領でも無いからね」
「確かに中心街や王都に比べたら田舎ですけど、俺は好きですよ。こうしてゆっくりできる土地は」
「その感覚は分かるけど、俺ぐらいの子供やトントの様に騎士を目指してる人が言うと夢が無いね」
「それは・・・確かに」
二人で談笑しながら領を歩き回る。
「そう言えば、そろそろ視察団が来る時期だからトント達も気を引き締めてねって。俺から言われなくても、いろんな人に言われてるかな」
「確かヴォルフォさん達がそんな話してましたね。そもそもその視察団って何なんすか?」
「は?」
「え、何か変なこと言いました?」
「いや、トントって確か中央学院の卒業者だったよね」
「まぁそうですね、騎士科でしたけど」
学院にも色々あるらしい、俺は中身までは全然知らない。
「なる程、騎士科だっけ、そこだと視察団の話は聞いたことない?」
「聞き覚えはないっすね」
「知る必要が無いって事でもあるのかな、まぁ確かに科目が違うか」
「そうだね、簡単に説明しようか」
王国視察団
それは、各地の領地に出向き、領内に異常が無いか調べる団体。
「って言うのが表向きだね、実際はもう少し違うけど」
「と言うと?」
「実際はその領、つまりは貴族の納税の調整さ」
先代の王が打ち出した政策で、王族に収める税の調整役が視察団の役目である。
「調整って、具体的には何かしてくるんですか?」
「取れること所からは取る様に動いて、取れない領地には温情が入るかもって感じかな」
「平等になるのは良い事なのでは?」
「そうだね、俺もこの政策は嫌いじゃないよ。視察団がまともならね」
「え、なんかあるんですか?」
「どこにでも害虫は湧くって事さ」
視察団の報告はある意味で税の増減を決める一手になる。つまり彼らが虚偽の報告をすれば、次の年の税が増減される。
ありもしないのに豊かだから、と言ってない金をとられる可能性だってある。
事実それによって潰れた領だってあるらしい。
「つまり、変な報告をされたくなかったら賄賂を渡せと?」
「昔はあったらしいよ。でも今はほとんどその心配は無いかな」
「何故ですか?」
「あまりにもその悪事が横行したことで、視察団には王国騎士団が監視役兼護衛として付くようになったから」
「なる程、確かにそれなら悪さは出来ませんね」
「そうだね、そしてさらに厳重になったよ」
「厳重?」
「視察団はさ、税の増減って話がほとんどされるけど、俺はそれだけじゃないと思う」
「他に何が?」
「反逆の可能性を潰す為の動きでもあると思ってる」
急激の金を貯めこみ、兵士を集めたりすれば何かと思うのが普通。
この前の様に魔物討伐が目的ですと言えば兵を集めても不信感は少ないだろう。
しかし目的も無く兵士を集めるなんて事は無い。目的も無く武具を買いあさったりしないだろう。
視察団の本来の目的は、その領地には反逆の疑いがあるか無いかを見極めるために作られたのでは無いかと考えている。
疑いがあれば税を上げ、金銭的ダメージを与える様にするなど、そしてそれをいち早く王に知らせる事が出来る。
「てなわけで、いつもこの時期は貴族はピリピリしてるらしいよ。父上が愚痴ってたよ」
「ほへぇ~、色々大変なんですね・・・」
「先代の王は本当に凄まじい人だったって事だね」
「先代の王って確か女王様でしたよね」
「そうだね、フローレレ王国が誇る生ける伝説。王国中の女性の憧れだね」
「騎士団に女性が多い理由ってもしかしてそれなんですかね」
「かもね。現にうちにも二人ぐらい居るからね。女王に憧れている女の子が」
ベニア姉様とエリア姉様がまさにそうだから。
「見回りに付き合ってくれてありがとう、トント」
「いえいえ、俺も勉強になりました!」
気付けば、領内を一周していたようで。
「それじゃ、俺は帰る。またね」
「気を付けて~」
暖かくなる季節。夜は風が冷たいけど、どこか心地よい。
視察団の訪問で、イストフィース領が騒がしくなるなんて、この時はまだ知らなかった。




