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南の貴族と大海 ⑪

「状況はどんな感じ?」


手を治療してもらい、甲板に顔を出す。


「坊ちゃん、手は大丈夫で?」


「平気だよ。魔物はどう?」


「今はゆっくり近づいている感じですね、万が一を考えて慎重に近づいているみたいです」


「良い事だね。俺でもそうする」


船員達は少し慌ただしい、けれどそこには確かな喜びが有るのが分かる。


「クロア君!」


「リール君、これで依頼は完了かな?」


「うん・・・本当にありがとう!」


「っと、ごめん。握手は今度にした方が良さそうだね」


俺の手を見てリール君は苦笑いをする。


「お気遣いありがとう」

「一つ聞きたかったんだけど、良いかな」


「何?」


「あの魔物の、魔石やら素材はどうする気なのかな」


「勿論回収するよ。でも、あれは僕達の恥ずべき物の一つだから、そのまま全部処分するかも」


「確かに、あまり公にしたい物では無いね」


あれは人が作ったかも知れない魔物ですなんて、言えないからな。


「しかし、どうやって回収するのですか?」


ヴォルフォが素直な疑問を投げかける。

それは俺も気になっていた。あれは元々海に生息していた者。見ての通り死骸も海に流れている。

まだ近づいている段階だけど魔石が見つけられるかと言えば難しい。


「そう言えば・・・」


人為的な魔物化などの話を聞いていてすっかり忘れていたが、元々俺達はこの件で亡くなった討伐部隊の遺品などを回収するのではとか話していたが、結局方法については何も知らない。

そして一つ思い出した事もある。いや忘れていたと言うべきだろうか。

貴族が固有魔法を持っているのは基本的に普通であると言う事を。

そう思ってリール君の方を見る。


「固有魔法はみだりに公開する物ではない。けれど僕はクロア君達が信頼できる人達だと思っているから、皆さんには知っていて欲しい」

「僕の固有魔法、『水の導き』を」


「リール君の、固有魔法」


「シックル様、そろそろ・・・」


「あ、もう着くんだ」

「クロア君、僕の魔法、良かったら見ていてね」


そう言ってリール君は船の中に戻って行った。


「シックル様から許可は頂いております、そして我々が皆様に返せる物としてシックル様は自身の固有魔法の情報を公開されます」

「これを一つの報酬として受け取っていただきたい」


貴族における固有魔法の詳細な能力は基本的に公開している者は居ない。

大まかな能力は分かっても事細かに分かる事は無いだろう。

それを情報として差し出すと言うのは、貴族においては致命的になる事もある。

しかしそれを承知で、俺達を信頼し、そして報酬として出してきたのだ。これを報酬では無いと断る事は不可能だ。


「ありがたく見させてもらいます」





-----∇∇∇-----





「じゃあ皆、ここで」


リール君は部屋から出てきたと思ったら何とも薄着に着替えていた。

そして今は下の子船に降りている。


「行ってきます!」


「シックル様、いつでも合図を出してください」


リール君は現在命綱を身体に付けて海に中に潜るらしい。どういう固有魔法なんだ?


「シックル様の固有魔法、それは水の中で通常の生活を行える様になるのです」


「通常の生活?」


「はい。シックル様は水の中で呼吸が可能であり、水による抵抗を受けません。そして何より水の中では自由自在に動けるのです」


「それは、凄まじいですね」


つまりリール君は魔力の続く限り溺れる事は無い。その上見た感じかなりの速度で動けるようだ。


「なる程、確かにこれが可能なら海底に落とし物をしても拾えると言う事ですか」


「おっしゃる通りです」


今回の一つの謎が解けた。魔物の素材の回収及びに亡くなった者達の遺品の回収方法。

何があるのかと考えていたが、固有魔法とは思わなかったな。


「しかし遺品にはかなり重い物もあるのでは、一人で平気なのですか?」


「はい、シックル様は水の中では地上よりも魔力もあがり、身体能力も向上致します。故に水の中で我が主に勝てる者はおりません」


そもそも水中で人は戦えないけどね。


「そうなると、何故魔物を討伐しなかったのでしょうか。リール君なら可能なのでは?」


「いえ、確かに能力は向上するものの限度があります」


「そうでしたか」


「はい、クロア様の様な魔法はシックル様には使用が出来ません」


「なる程、出力は上がってもあれを討伐しきる事が出来なかったわけですか」


「それに何より」


ビン殿が一呼吸置く。


「シックル様お一人に、全てを背負わせるわけにはいかなかったのです」


確かに、今回の問題の始まりはシックル家とインチェンス侯爵の問題だ。

しかしそのシックル家は現在リール君のみ。否が応でもリール君の責任にもなってしまう。

これだけの事を、一人で全て納めるなどあまりにも酷である。


「お手伝いできたようで良かったです」


「本当に、ありがとうございました」

「我々だけではシックル様のお力になれなかった」


「他言はしません、僕の胸にしまっておきます」


「重ね重ね、ありがとうございます」


ビン殿が深く、お辞儀を俺にしてくれている。こんな子供に向かって。





-----∇∇∇-----





「今回の件、本当にありがとう」


「いえいえ、インチェンス侯爵との約束もありましたので」


一日が過ぎ、俺達イストフィース家は帰還の準備をしていた。


「すぐに報酬を渡せず申し訳ない・・・」


「良いんですよ、あれだけの情報まで頂いて、さらには書面で契約までしてもらってしまって、寧ろこちらが気を使ってしまいそうです」


今回の報酬として、シックル領から定期的に魚を頂けることになった。お金はインチェンス侯爵から貰える予定なのでお金以外で欲しいと思ったら、魚介類しか考えられなかった。


「クロア君とは、もっと話したかったな」


「僕も同じです。でも互いにそこまで時間が無いようで」


二人で苦笑いをする。


「今度から、イストフィース家にも招待状を送ってもいいかな」


「無論です。その時は我らが当主を連れて参ります」


「そうだね、僕も会ってみたいな、クロア君の家族に」


「坊ちゃん、そろそろ」


ヴォルフォ達が準備を終えて声を掛けてくれる。


「では、我々はこれで」


「クロア君!」


「何でしょう?」


「同じ南の貴族として、僕はイストフィース・リーゼ・クロアを尊敬している!」

「だから、もし何か困ったことが有れば遠慮なく頼ってほしい!」


リール君が、握手を求めてくる。


「伯爵様にそんな事言われたら、期待してしまいますね」


当然、握り返す。


「本当に、ありがとう!」



照らされた青空には雲一つない。

あの時の豪雨がまるで夢のようで、慣れ親しんだ馬車の揺れは、海の上より快適に思えた。

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