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南の貴族と大海 ⑩

「全員乗ってるようだな、出航だ!」


バレドさんの号令で船が動く。船と言うよりもはや戦艦の方が近いだろうか。

帆がいくつもあり、砲台も多く積まれている。何より船の先端には巨大な槍の様な物があった。


「こんな物を持っていたんですね」


「僕の領は、海が一番の主戦場だから。例の研究のためとは言え、こういう物を作っていた両親には感謝してるんだ」


昨日リール君が船の調整と言っていたのは、これが正常に動くかの確認のだったらしい。


「しっかしええんか?船一隻で」


チェルトさんが聞いてくる。今回はこの戦艦だけに全員乗っている。

この前の戦いを経て、戦力を分散させるより集中させた方が良いと言う結論に至った。


「はい。連絡も楽ですからね」


「確かにこの前の豪雨の中で信号を送り合うのはきつかったな」


「バレドさん」


「でもシックル様、この戦艦の艦長が俺で良いのか?」


「はい、僕の部下のにも聞きましたがバレドさんの操縦や指示は見事だったと聞いています。ですから、バレドさんがまずいと思ったら撤退してもらっても大丈夫です」


「貴族様二人も乗ってるなんて、プレッシャーがやばいぜ」


「なーにゆってるんや、さっき船の中見たらごっつはしゃいどったくせに」


「仕方ねぇだろうが、ここまで凄まじい船は初めてなんだよ」


「確かに、僕もここまでの船は見た事無かったですね」


「クロア君も驚かせたなら、僕も嬉しいよ!」


「シックル様」


「ビン、どうしたの?」


「クロア様もこちらでしたか。今一度作戦会議を」


「確かに、確認をしておきましょうか」


「船はまかしとき!」


「お願いします」


二人に船を頼み、リール君とビン殿と一緒に船の中に入って行く。





-----∇∇∇-----





「良いんでしょうか・・・なんだかクロア君にお任せするみたいになってしまって」


「大丈夫ですよ。それにあくまでも出来て一日一度。加えて奴を足止めするのは皆さんにお願いしないといけない。僕一人でやっているわけでは無く、全員の力があるから可能性があるんです」


「そう、だね。分かったよ。改めてよろしくお願いします!」


会議を終えて、また魔物の出現を待つ。


「やっぱり俺はあまり賛成できないですね」


「まだ言ってるのか、ヴォルフォ」


「いざと言うときに坊ちゃんを守りに行けない。万が一が起きたらサキユと一緒に海の藻屑になるかもしれない作戦に、誰が賛成できると言うので?」


「ならそうならない様に、全力であの魔物を足止めしてくれ」


「分かってますよ。それに坊ちゃんがしくじるはずも無いって事もね。でも、感情の問題ですよ」


「・・・いつも心配をかけるね」


「ほんとですよ、いざと言うときは命がけで坊ちゃんを助けに行きますからね」


「それは困るな、ヴォルフォ達が死んだら父上にも怒られてしまう」


二人で話していると、サキユがこちらに来ていた。


「サキユ、調子はどう?」


「いつでも飛べます!」


「それは頼もしい、でも本当に大丈夫?」


「クロア様の魔法ですよね?大丈夫です、ボクには気にせず全力でやって下さい!」


「分かった。頼りにしてるよ」


「はい!!」


サキユが嬉しそうにはしゃいでいる。なんだかあそこまで嬉しそうなのは珍しい。

首をかしげていると、ヴォルフォが俺に言う。


「嬉しいんですよ。坊ちゃんにあそこまで頼られる事がね」


「サキユも含めて、いつも皆には頼ってる気がするけど」


「坊ちゃんから見たらそうなのかも知れませんね。でも俺達からしたら、その歳で何でも出来てしまう坊ちゃんは、あまり俺達を頼ってくれてない気がしてしまうんですよ」

「だからああやって、頼り切られる事が嬉しいんですよ。多分ですけど」


「それなら、これからはもっと頼ろうかな。やってもらいたい事は多いからね」


「仕事増やすのは勘弁してくださいよ?」


「え、頼るってそういう事じゃないの」


「今でもいっぱいいっぱいなのに本気ですか・・・」


笑いながら、船にて待つ。





-----∇∇∇-----





あの時と似ている、日が落ちかけて海が夕焼けに染まる。

目を奪われるような綺麗な朱色の空と海。そしてそれが、すべて暗い雲に包まれる。


「来たか」


「全員警戒態勢!!」


バレドさんの声が響く。

その声が聞こえる前に、全員が構えていた。これは二度目だから。


「豪雨発生!敵影索敵します!」


「主砲の用意を!」


船が慌ただしくなる。


「サキユ」


「はい、いつでも!」


「クロア様、ご武運を」

「坊ちゃん、頼みますよ」

「クロア様、えっと、俺も頑張ります!」


「まずは奴を見つけないといけな・・・なんだかこの嫌な魔力にも慣れたな」


魔力の大きさを覚えていたから、奴がどこに居るのかを察知出来た。


「皆さん!魔物はあちらの方角です!」


「敵影確認しました!」


あの時よりも明確に敵意を感じたからか、奴はこちらに攻撃を仕掛けていた。


「シックル様をお守りしろ!」


ビン殿を筆頭に魔法防御が展開される。


「うひゃああ、とんでもあらへんな」


「チェルト!砲撃を開始しろ!」


「あいよ!!」


戦艦から、あの時よりも強力な砲撃が奴に発射される。


「俺達も加勢するぞ!」


「了解です!」


「この前ので慣れました、目があれば私が射貫きましょう」


「クロア君!」


「大丈夫です、このまま時間を稼いでください。サキユ」


「はい!」


サキユに掴まり、飛翔する。


「お願いします、お二人共・・・!」





「もっと・・・もっと高くー!」


サキユには、雲より上に行く事をお願いした。二度見て確信した。この雨雲は特殊な雲だと言う事に。

通常の雲であればもっと高い。体感であるが、この雲はうちの領にある山よりも低い。なんなら今まで見てきた貴族や王族の城よりも低い位置にあるように見えた。

つまりこの雲は魔法によって生み出されたと思って間違いないと思われる。そしてここまで低い雲ならサキユの飛翔で超える事も可能なはず。しかし。


「思ってたより高いな・・・」


想定より少し遠い。


「うぐぐぐ!!」


サキユをかなり辛そうだ、先に試してしまおう。


「サキユ、ちょっと耐えてくれ」

ウィンド(攻撃風魔法)


風魔法を雲に向かって放つ。魔力で作られていたとしてもそれは雲、ならば非常に軽いそれらは強い風で霧散する。


「サキユ、あそこだ!」


「はい!!」


今まで以上に全速力で、空に駆け上る、そして。


「これは、すごいな」


「綺麗・・・!」


雲の上は先程見ていた夕焼けに染まっていた。下の暗雲がそれらを更に彩っている様にすら見えた。


「っと、こんなことしてる場合じゃ無かったね」


「そうでした、魔物はでどこでしょうか?」


「ん?雲が戻っている」


先程開けた穴がすでに塞がっていた。やはり特殊な魔法か何かなのだろう。

しかし妙だ、あの魔物は魔力をあまり扱えているようには見えなかった。ここまでの魔法が扱えるのだろうか。それとも別の理由があるのか。


「今考えるのはやめるか」

「サキユ、風魔法で雲を散らしてくれるかい」


「はい!」


ハーピィにとって風魔法は最も得意な物。サキユはまだまだ練習中だが、この雲を散らす程度なら問題なく行える。


「はぁ!とうぅ!」


雲の切れ間から、下が見えた。


「うん、あれだね。この距離だと魔力での探知が難しくてね」


「あの上まで行きます!」


サキユが移動してくれる。そして。


「さて、サキユには悪いけど・・・」


「大丈夫です、全力でどうぞ!」


「分かった」


少し体制を変えて、魔力を両手に込める。

あの時よりも更に精密に、より高密度に、高温に。


「魔法名が有った方が、イメージも強くなるか」


形成していく、炎の矢を。

一度行ったことのあるそれは、あの時よりも早く、そしてより高い出力で。


「確か、あの本にも書いてあったな」


水と火による事故や鉄が溶ける物の事。




メルトダウン(超攻撃火魔法)




放たれる、その矢はゆっくりと、しかし確実に魔物に目がけて。

下に落ちるそれはどんどん加速していく、雲を焼き切り、豪雨の中で矢が見える。



「あれは・・・!」


「全員何かに掴まれ!!」


クロアからの話を聞いていた者達はあれが落ちれば、海が荒れる事を聞いている。


だが、魔物もそれが異常な物だと察知していた。野生本能なのか炎の矢に向かって防御をしようとしている。


「不味い・・・!」


「チェルト!!!」


「はいさ!!」


戦艦に搭載されていた巨槍が放たれる。一度きりの切り札だが、使うなら今しかないとバレド達は理解していた。


『クュオオオオオオン!!』


魔物から叫び声の様な物が聞こえる。巨槍に妨害された身体は、防御態勢を崩されていた。


そして。


耳をつんざくほどの爆音、悲鳴にも似たような鳴き声が海へを響き渡る。


「っ!来るぞぉ!しっかりつかまれ!」


「うわうわわわ!!」


海が衝撃によって荒れ果てる、船がとてつもなく揺らされる。


「誰か奴を確認できるか!?」


「私がしましょう」


グラハはこの揺れの中であっても立っている。


「・・・あれは」


魔物の身体は散り散りになり、その破片たちが再生することは、もう無かった。


「討伐完了です」


「おぉ・・・!」


雲が晴れていく、雨が上がる。


「サキユ、大丈夫?」


「は、はい・・・すごく暑かったですけど大丈夫です!」


「うわぁ、あそこまでバラバラになるのか」


「流石クロア様です!」


「ありがとう、降りようか。手が痛い」


「そうでした・・・!早く治療魔導士さんの所に!!」


あの時よりはマシだが、それでも手が焼けてしまう。


「俺もまだまだだな・・・」



雨が止む。あの時とは違い、今度は夕焼けに照らされながら。


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