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南の貴族と大海 ⑨

「海に関する書物が多くて助かるな、勉強になる」


リール君は破損した船の代わりを用意すると言う。しかしその船が正常に動くかを確認するために今日は全員待機と言う事になった。

何もしないのも性に合わないので、書庫の出入りを許可してもらった。普段は見かけない本が多くて非常に楽しい。


「うちには海に関する書物など無かったからな・・・」


当然と言えば当然なのだけど。山々に囲まれたイストフィース領で海について学んでもあまり意味はないだろう。

家にある書物は父上が貴族になった頃に勉学の為に買ったらしいけど、現在では俺の部屋と言っても過言では無いぐらい俺しか使っていない。この頃はスーも良く来るか。

そんな父上を見て育ったためかエリア姉様もまず本は読まない。


「今この思考は無意味だな、やめよ」


何か魔物討伐の糸口は無いかと探す。


「ん?これは・・・」


山による災害と対策などは知っているが、海による災害などは良く知らない。


「ふむ・・・」


「クロア様、飲み物を頂いてきました!」


「お、ありがとうサキユ。退屈なら一緒に居なくても良いんだよ?」


「大丈夫です!」


今日は一緒に居ますと言う宣言と共に俺が本を開いている横でずっと立っている。

流石にずっと立っていられるとなんだか悪い気がしてくる。


「めぼしい本は見つけたから、あっちで座ろうか」


「はい!」


書庫にあった木箱の上に二人で座る。先程から集めていたいくつかの本を横に置き、海について調べる。


「津波か、地盤沈下や強力な魔法の余波で起こるのだっけか」


書いてある通りならまさに絶望だ。巨大な波から逃げると言うのは非常に難しいだろう。


「海底、火山」


片手で数える程度だが、海の中にも山が有るらしい。物によっては海面から見える位置に。

山とは基本的に噴火の可能性が秘められている、しかし中には噴火の可能性が全くない山もある。これは山の出来かたが違う為である。

しかし海の中にまで山が有るのは初耳だった。


「海におけるマグマ爆発・・・」


海底火山と呼ばれるそれらは噴火を起こすと周りの水ごと爆発させるらしい、原理も書いてあるが中々難しい。


「温度の低い物に温度が異常に高い物が触れると・・・」


少し興味深い話が書かれていた。他の本も読んだがこれは、一番有力かも知れない。


「サキユ、悪いんだけど連れてって欲しい場所があるんだ」


「どこへでも飛びます!」


そう言って、サキユに運んでもらう事になった。





-----∇∇∇-----





「ここなら、被害は出無さそうかな」


サキユに海にまた連れてきてもらった。しかし今度は人が全くいない、シックル領と離れた数人が乗れる程度の孤島にいる。


「温度による爆発、か」


クロアは魔力を放つ。


ヒート(生活火魔法)


小さな炎は一瞬で海に消された。


「流石にこれではダメか」


続けてフレイムランス(攻撃火魔法)を海に打ち込んでみる。


「おぉ・・・」


かなり小規模ではあるが爆発の様な物が起きた。ただし魔法で作った炎だからなのか、海に含まれている魔力のせいなのか分からないが、爆発の仕方が少し変にも見えた。


「魔力を強く込めて・・・」


再度放つ、結果として爆発の範囲は広がった。しかしそれは魔法の範囲が広がったからであって爆発の威力にさほど変化は無いように見える。


「魔力出力を上げても広がるのは範囲・・・そうか」


確か、海底火山の爆破はマグマと水の接触。つまり炎よりもより強力な火、あるいはエネルギーと言う事。


「火の温度を上げるイメージか」


だがマグマなどの実物を見た事が無い俺にはイメージが出来ずらい。


「火、炎、温度・・・」


料理の時に焼いたり煮たりなどはするが、どれも一定の温度のイメージだ。マグマ程の高い温度とは思えない。

焼く、煮る、焦がす、溶かす・・・


「溶かす、か」


前に一度だけデモールから剣の作り方を聞いた事があったな。

精巧に作られている鉄剣、ひいては魔剣。鍛冶師の人達のたゆまぬ努力と力が合わさり出来ると言うのを聞いて、作り方が気になって近くの鍛冶師が居る他領に見に行った事があった。

非常に丈夫な鉄だが、高温で熱し続けると柔らかくなり加工が出来るようになる。それを何度も繰り返し更に強度を上げていくと言うのを見た。


「あの鍛冶師の所にあった精錬窯で柔らかくしていたな」


でもマグマはそれそりも更に高い温度の可能性もある。つまり今イメージするのは。


「鉄を溶かしきるイメージ・・・」


クロアは両手を合わせてその中に火種を作る。


「溶かす、鉄が熱され、ドロドロになる。それすら焼き尽くすほどのエネルギーを」


「きゃっ!」


海を眺めていたサキユが声を上げる。


「ごめんサキユ、熱かったか」


「大丈夫です!ちょっとびっくりしましたけど」


掌に込めた火が周りの温度を上げるまでに達したのだ。


「ちょっと危ないかも知れないから、飛んでおいで」


「分かりました!いつでも呼んでください!」


サキユが上空で弧を描くように回り続けている。


「さて、もう一度。より強力に」


手を合わせ、作り始める。

先程の事もあり、すでにイメージは固まっているクロア。彼の魔力量、及びに出力、そしてそれらを扱う為に研鑽し続けた魔力のコントロール。

イメージさえ出来てしまえば、それは容易に実現させる。

クロアの手から、赤い雫が零れ落ちる。魔力の雫の様な。外から見ればそれは綺麗にも見えたかもしれない。

だがその雫が足場の岩肌に触れると。


ジュクジュクと音を立てながら、その岩を容易に溶かす。


「作り出すことは出来た、しかし・・・」


これを撃ち放つのは難しいな。両手の中で作り出したこの火は、放つ様な形はしていない。


「いや、柔らかくすることで加工するだったか」


先程の鉄を溶かす意味を思い出す。ならばこの火の形をもう少し変える事が出来るのではないかと。

火を飛ばす、いつもの様に周りに作り出して飛ばすのではなく手から放つイメージか。


両手に包まれていたそれが形を変えていく、手から放つと言うイメージからかそれは矢の形を成している。


「弓の様に弦は無いけど、手を離すと放たれるイメージを・・・」


それを海に向ける、相当量の魔力を消費しているが、彼は少しだけ楽しそうに。


「はぁ!」


超高密度の矢が、クロアの手から放たれる。しかし余りイメージが強くないせいか、込めた魔力の問題か。かなり遅い速度で飛んでいく。


「弓矢ほどの速度は出ないか」


矢が落ちる、海に、触れる。


「っ!?」


瞬間、巨大な爆破が起きる。


「クロア様!」


サキユに掴まり、空に逃げる。


「これは・・・」


その火は自然現象ではなく魔法によって生み出されたもの。エネルギーの逃げ場は無く、生み出している火種も特殊。

そして何よりクロアのイメージをしたその火は超高温。もはやマグマすら超えているかもしれない。


「遠くでやって良かったな、シックル領に迷惑が掛かる」


異常なまでの爆発音は届いてしまったかもしれないが、かなり離れているので大丈夫だろう。

津波に関しても、港がある場所ではなく崖が多い林道沿いの方向に来たはず、被害は出ないと思いたい。


「しかし、速度が問題だな」


あの速度で魔物に放っても、魔物に避けられる可能性もあるし、そもそも届かなければ意味が無い。


「それにこれは、使えて一度だな」


魔力循環をして、自らの魔力にも関わらず両手の皮が焼けていた。痛い。


「わー!クロア様の手大丈夫ですか!?」


「平気だよ、でも痛いから帰ろうか」


「すぐに治療魔導士の所に!!」


サキユが急いで飛んでくれる。


「そうか・・・このまま空から・・・」


慌てているサキユに乗りながら、クロアは今の魔法の使い方を考える。

帰ると何をしていたんだとヴォルフォ達が怒り心頭であった。





「はぁ、それで?」


「それで、とは」


「そんなになってまで何か思いついたんでしょう?」


「一応ね」


「聞きますよ、坊ちゃんはいつも何だかんだ成し遂げますからね」


「誉め言葉として受け取っておくよ、リール君達にも話してみないとね」



この日は魔物へを対抗と、リール君が用意した船について話す。

それらを経て、明日、決着を付ける準備を始める。


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