南の貴族と大海 ⑧
シックル領に戻ってきた頃には、夜更けになっていた。
帰る事は出来たが、かなりの被害が出ている。現在は怪我人の治療などをしていた。
「リール君。今、大丈夫かな」
「クロア君。はい、大丈夫です」
「皆で魔物に関して話合いたいんだけど、どうかな」
「そうですね・・・すでに時間も遅いですから、近くの屋敷で話し合いましょう」
そうして、リール君に案内された屋敷で休むことにした。
「しかし、とんでもない魔物でしたね。あれは倒せる物なんですかね」
会議をする前にヴォルフォに聞かれる。
「そうだね、でもおかしなところもいくつか有ったのも事実。どちらかと言うと魔物について知ってそうなリール君の話を聞きたいかな」
「確かに。魔物化した生物とは聞いてますけど、何か知ってそうでもありましたからね」
そんな話をしながら、部屋に入る。
「クロア君、他の皆様も。良かったら食事でもしながら話しませんか?」
すでに机に料理が用意されていた。豪勢とは言えないかもしれないが、イストフィース領に比べれば非常に物が多い。
「これはありがたい、坊ちゃんも良いですよね?」
「勿論。寝泊まりするところだけでなく食事までありがとうございます」
「いえいえ、僕達からお願いしているのですからこれぐらいは当たり前ですよ」
食事もすると言う事なのでサキユとトントも呼び出し、全員で席についていた。
「今日はごめん、僕達の船がやられてしまって」
「人命が第一なのは当然です。寧ろあの状況で撤退したのは正解だったと思っています」
「ありがとう。魔物について疑問があるとの事だったけど、聞いてもいいかな?」
「いくつか聞きたいのでが良いですか?」
「聞かせて欲しい」
その言葉を確認したので、話始める。
「まず一つ目。あの魔物の再生の仕方が少し変に感じたんです」
「再生の仕方?」
「はい。知っての通り再生魔法、所謂聖属性の魔法はかなり特殊な魔法です。魔物が聖属性を使えないとまでは言えませんが、少なくとも見た事はありません。その上聖属性で治癒しているなら特殊な魔力を感じるはず、にもかかわらずあの魔物からはそれらを感じませんでした」
「なる程・・・」
「二つ目は奴の脆さです」
「脆さ?」
「魔物化した生物は魔力循環を自動的に覚えるのか、他の魔物と比べても非常に硬く、耐久力があがると言われています。実際に僕も出会ったことがありますが、常に発動している様に感じました。しかしあの魔物は魔法による攻撃でも無い、魔力を纏った攻撃でも無い大砲にすらかなりのダメージを負っていました。つまり奴は魔力循環を出来ていない、もしくはしていないと言う事です」
「よろしいでしょうか?」
「ビン殿、どうぞ」
「魔力循環は魔法扱う上での基礎、それらを行えていないのであれば我々が受けた攻撃はどう見ますか?」
「それが三つ目の疑問です。まとめて言えば、異常な再生をし続けているのに魔力の使い方が分かっていない様に見えた、と言う所です」
「坊ちゃん、俺も良いですか?」
「どうしたの?」
「奴の出現した場所に雨が降る理由は分かりますか?」
「それを合わせると四つだね、ただあの豪雨に関しては魔力を感じなかった。雨雲を発生させているのか、もしくは全く別の魔法か。何にせよ雨から攻撃性が感じなかったから、一先ず除外してもいいかな。まぁ実際こちらの連絡などに支障をきたすから面倒ではあるんだけどね」
「私の弓なども、中々に厄介でした」
グラハもかなり難しそうだった。あの豪雨の中で良く撃てるとも思うが。
「以上を踏まえた上でリール君に聞きたいんです」
「僕に答えられる事なら」
「あの魔物について、何か知っているのでは無いですか?」
「・・・」
リール君は沈黙しているが、何か葛藤しているようにも見えた。
「ビン、人払いをしておいてくれる?」
「かしこまりました。リール様」
「我々も席を外しましょうか?」
「いえ、ヴォルフォ殿。イストフィース家の皆様はすでに信頼に足る方々だと僕は思っています。なので皆様にも聞いて頂きたいです」
「ありがとうございます、しかしあまり大人数で聞く話でも無いと考えています。クロア様、私とトントは部屋の入口の警護をします」
「分かった、よろしく」
そう言ってグラハはトントを連れて部屋の外で待機する。
「気を遣わせてしまってごめん」
「良いんですよ、それに信頼されているのは嬉しいですから」
「リール様、完了致しました」
「ありがとう、ではこれからする話は他言無用でお願いできますか?」
「当然です」
「実は—―――」
-----∇∇∇-----
「とんでもない話だった・・・」
「ですね、そりゃぁインチェンス侯爵も圧力を掛けてくる訳ですね」
リール君から聞いた話はとてつもない物だった。
「意図的に魔物化を引き起こし、魔石の量産とはね・・・」
リール君の両親は、貴族でありながらも生物の研究家だったらしい。それに目を付けたインチェンス侯爵がそれを商売に生かせないかと考えた事から始まったらしい。
最初は海の生物の研究から魔物の研究。最初のうちはなんて事のない海洋生物の研究。魚の料理やそれ以外での使い道など、便利な物を考える研究に近かったらしい。
しかしある日に、海の魔力による研究が始まった。そしてその魔力の多さにリール君の両親は目を付けた。
そして、考え出されたのが生物を意図的に魔物化させること。
魔物化によって発生した魔物からは、通常よりも純度の高い魔石及びに素材が手に入る。事実イストフィース領で討伐したあの魔物鹿の魔石や素材もかなりの値段で取引したらしい。
そしてそれらをインチェンス侯爵に話すと、その計画に資金援助を行ってくれたらしい。もし本当にそれが可能ならとてつもない事になる。
自然現象の様に発生する魔物化を自らの手で引き起こせるのだ、魔石や素材もだが何より魔物化を起こせると言うのが問題だ。
「本当にとんでもない研究をしてくれたもんだよ」
「でも、魔石を量産できるなら有難い事も多いのでは?」
「確かにね。村や町の発展、魔道具の量産など便利そうな事も多いかもね」
「でしょう?でも坊ちゃんはあまり良い事にとらえて無いようですけど、何故ですか」
「そりゃあね。考えてみて、魔物化を意図的に作り出すことが出来るんだよ」
「そう聞きましたね」
「つまり、生物から魔物に変える事が出来るんだ」
「それが魔物化でしょう?」
「そう、だからこそ俺はやばいと思うんだよ」
「?」
ヴォルフォが首をかしげている。
「魔石や素材の量産だけで終わるなら、平和かも知れないけどね」
「もしこの研究が進んでいて、さらに完成されていたら、生物を魔物に変える事が出来るようになる」
「それは、もはや戦争兵器になり得るよ」
「兵器、ですか」
「だってそうでしょう、何せ生物から魔物に出来るんだ。他国に行って、その生物でも動物でも運んで、その国で魔物にさせてしまえば良いのだから」
「なっ!?」
ヴォルフォもようやくとんでもない事に気付いたらしい。
「そう、魔物に攻撃させるんだ。勿論制御できるかどうかは分からない。でも魔物化とは自然現象、人のせいだとは思わない。つまり証拠も残さず、問題にもなる事なく攻撃が成立してしまうかもしれないんだよ」
「当然彼らの研究は海の膨大な魔力と言う大前提があるから、完成していたとしても何処でも出来るわけでは無いとは思うけど・・・原因や仕組みが分かればやれることが増えるのは当たり前だからね」
「そんな事を思いつく坊ちゃんが、俺は怖いですよ」
「俺が思いつくんだから、インチェンス侯爵や王都の人達なら真っ先に考えるだろうね」
魔物化を引き起こせると言うのはそういう事だ。『あの魔物はお前らが送った』なんて言われてもその魔物は存在していない。何せ魔物化したのはどこにでもいる動物や生物なのかも知れないのだから。
無差別に魔物を放つようなものだ。普通なら魔物とは見た目や特徴が登録されて、何処にどう存在しているかなどの研究が行われている。
故に通常では居ない魔物が居た場合、魔物を意図的に運んだ者がいると思われるか、何かの異常事態。だが今回のこれはどうだ。
魔物化した生物はそのほとんどが登録できない。なぜなら魔物化とはそれぞれ変わるから。
同じ動物から魔物化しても、同じような魔物にはならないのだ。そしてそれらは自然現象の一つ、雨が降るのを、花が咲くのを、星が降るのを、太陽が落ち夜が来ることを、人の手によるものだと、誰が考えるだろうか。
「結果として、完成は出来ずに計画は中止になった。そしてその尻ぬぐいを俺達ががやってるって事だね」
「インチェンス侯爵は大事になる前に処理したいわけですね」
「そうだね、自分で討伐隊なんて組んだら何かあると思われるだろうから、俺達にやらせるんだろうね」
侯爵が討伐隊を組むなんてなったら何かがあると言っているのと同じだ、だから自分では動かないのだろうな。
「しかし、原因が分かったとして、あの魔物を倒す考えはありますか?」
「そうなんだよねぇ・・・」
目の前の一番の問題はあれを倒せるのか、だ。
「無理やり魔物化されたあの魔物は魔力を御しきれていない。だから不自然な再生や魔法攻撃なんだろうけど、今倒せずに魔力の制御を覚えられたらそれこそ倒せなくなる」
「だからこそ、俺達で今のうちに倒すんでしょう?」
「何か考えないとね、取り合えず今日はもう休もう」
「明日はリール様が船を用意するから休みですか、俺は町にでも出て色々見てみますよ」
「あんまり羽目は外さないでね?」
「分かってますよ」
「クロア様!!」
「サキユ、どうしたの?」
「一緒に!寝ましょう!」
その日は考えが何も起きずに、眠りに落ちる。




