南の貴族と大海 ⑦
「状況は!?」
「リール様、落ち着いて下さい!」
「ビン、魔物はどこに!」
「あちらです、かなり視界が悪いですが見えますか?」
「あれが・・・!」
「クロア君達の方は!?」
「連絡を取りたい所ですが予想以上の雨に視界不良で連絡が取りずらいです。少なくとも船は見えています!」
「くっ!」
リールとシックル家の騎士達が甲板から魔物を確認する。魔物との距離がクロア達の船の方が近く、船の中までの確認は取れない。
「少なくとも沈んではいない!全員攻撃用意!」
「はっ!!」
その時、船から魔法が見えた。
「あれは・・・良かった!」
-----∇∇∇-----
「取り合えず無事なのは伝わったかな」
「この雨の中で良く飛ばせましたね」
「魔力を持ってる火は魔力を持たない水だけで簡単には消えないよ」
緊急用の魔法を飛ばして安否を伝える事は成功した。しかし。
「何もしてこないのが怖いね」
「まだ多少距離があるからかも知れませんね。けど、こっちからも攻撃出来ないですね」
グラハとヴォルフォがそばに付いている。船員の人達は大砲に付いてくれている。
「グラハ、正直に言って欲しいんだけど・・・弓は当たる?」
「恐らく厳しいでしょうね。魔力を纏わせてもこの豪雨の中でダメージになる程の威力が出るかと言われますと・・・」
「一先ずは大砲で様子をみますかい?」
「それも悪くは無いけど、出来るだけ攻撃するなら一斉に攻撃したいね。あの大きさの魔物にチマチマ攻撃しても有効打になる気がしない」
「クロア君!」
「チェルトさん?どうされました?」
「報告係からやで、リール君が攻撃を始めるそうや」
「了解しました、リール君の攻撃に合わせてこちらも攻撃してください」
「合点承知!」
「まずはこれでどんな物か、だね」
魔物が動き出す、ゆっくりと、こちらに明確な敵意を向けて。
もう一つの船から砲撃音、それに合わせてこちらの船からも火薬のにおいと音が鳴る。
砲撃は的確に魔物を捕える。この豪雨の中での命中は、流石と言えるだろう。
遠くまでは見ずらいはずなのに、その爆発はハッキリと見えた。
「煙で確認が取りずらいな」
「雨のせいもあってほんとに見えませんね」
煙が消えていく。黒い影が見えてくる。
「おや?」
「あれ?」
魔物にはかなりのダメージが入っていた。見ればわかる程に身体が損傷している。
「思ってたより柔らかいですね、俺達の出番はもしかして無いかも知れませんね」
ヴォルフォが少し呆れている。この程度でしか無いのかと言う感じ。
でもおかしい。あれだけの部隊が討伐に出ていたのに、これぐらいで倒せるならあそこまでの被害にはならないはず。
そんな事を考えていると魔物に動きが有った。
「!?」
「バカな・・・!」
魔物の身体が見る見る再生していた。
「再生魔法!?魔物が覚えているって言うのか!?」
「再生魔法かは不明だけど、少なくとも異常な再生速度だ。なる程、大砲程度で倒せないわけだ」
再生をしながら、魔物の触手が形を成していく。あれは、何かの構えか?
「っ!魔力を貯めている!」
こちらの船に魔導士は俺しか居ない、防御するにしても限度がある。
しかし魔物が狙いを定めていたのは、もう一隻の船だった。
魔法が放たれる寸前に甲高い音が響く、あの魔物の鳴き声なのか魔法の音なのか。
「全員何かに掴まれ!」
魔法が放たれる。凝縮された水鉄砲の様な、巨大な水球。それが異様な速度でリール君の船に向かっていた。
その衝撃に海が揺れる。
「うわああ!」
「平気かトント!」
「やばいですよヴォルフォさん!」
「リール君達は・・・!」
魔法で防ぎはしたのだろうか、それでも船は損壊していた。
「バレドさん、向こうの船はまだ動けると思いますか?」
「あれはわからんな・・・通常時なら動けるだろうがこの豪雨じゃ船もどんどん重くなっちまう。撤退するなら今しないと時間の問題だと思うぜ」
「サキユ!」
「はい!」
「飛べるか!?」
「頑張ります!何をすればいいですか?」
「取り合えずリール君達の無事を確認してきてくれ。そして無事なら撤退するかの有無を聞いてきてくれ」
「分かりました!」
この状況で連絡を待つのは危険だ。至急確認する必要が有る。
雨の中での飛行はハーピィなら出来る。しかしサキユはまだハーピィの中でも幼い上に雨に打たれる経験がほぼ無いので危険ではあるが、今はサキユに頼るしかない。
「全員構えて、先程の大砲も打ち続けて下さい。時間を稼ぎます」
「了解!」
「グラハも頼む」
「承りました」
「トント、俺達は大砲の玉運びだ!」
「はい!」
先程よりも距離が近い。だが奴の触手の範囲にはあまり近づきたくはないな、魔法と違って物理攻撃では船が一瞬で破壊される可能性がある。
「この雨、しかも海の中に住んでいる様な魔物に効くかは分からないけど」
「フレイムランス!!」
クロアの唱えた攻撃魔法は明らかに、出力の高い魔法。魔物にその魔法は届く、しかし。
「消えはしないけど明らかに威力が落ちている・・・その上、またか」
魔法の当たった部位は破壊出来ているが、再生がすでに終わろうとしている。
「撃てぇ!!」
バレドさん達の大砲も放たれる。距離が近づいたから先程よりも明確に魔物を捕えている。
「防御力は無いけど体力が異常に多いって感じか」
破壊された部位が次々再生されていく。しかしあの再生は変に見えた。
「再生魔法にしては聖属性にも感じない。そもそもあの再生に魔力あまりを感じない・・・一体どうなっているんだ?」
魔物が再生している方法に疑問を覚える。しかし考え込む時間は今は無い。
「これだけ雨粒が有るなら・・・バレット!!」
一人の人間を倒す分には十分な威力を誇った水魔法。魔物に降り注ぐ。
次々と水は貫通していく。
「再生しない部位が有ったりするか?」
クロアは観察する。視界は悪いが魔物を見ていると、再生は常にし続けている。
「・・・」
やはり変だ、攻撃すると痛みを訴える鳴き声の様な物が聞こえる。それに痛がりながらも再生がされ続けている。
まるで自分の意志とは無関係に再生しているように見える。
「自然治癒力が異常に発達しているのか?」
全ての生命にその力はあるが、とは言えそれが発達する原因が分からない。魔力循環が膨大な魔力を誇ればそうなるのか?
「もう一度」
クロア達が攻撃を続ける。魔物の声が響く。そして破壊された部位から再生は始まる。
「駄目だな。現状攻略法が分からない」
攻撃を続けているとサキユが戻ってきた。
「お帰り、どうだった?」
「クロア様に伝言です!一時撤退だそうです!」
「了解」
「一時撤退の命が出た!全員撤退する!」
「舵を変えるぜ!!」
船が方向を変え、魔物から離れていく。
「坊ちゃん!奴さん何かしてきそうだ!」
「分かってるよ」
クロアが魔力を高める、高出力のその魔力にヴォルフォ達はいつも通りだが、トントやチェルト達は背筋が凍る。まるで先程の魔物の攻撃の時の様に。
「バリスタ」
巨大な無数の水の矢が魔物に飛んでいく。遠くで魔物の声が聞こえる。
「これで一旦平気だと思いたいね」
「魔法に関しては、相変わらずですね」
「まぁ、それだけ鍛えているからね」
「油断はしないで、まだ逃げきれているか分からないから」
「了解です、警戒はしておきます」
異常な再生力を持つ魔物。攻略方法が見つからない。人命を優先し一時撤退。
気が付けば、雨が上がっていた。




