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南の貴族と大海 ⑥

「今日から始めるそうね」


一人の女が紅茶を片手に一枚の手紙を読んでいる。


「魔物の脅威性を考えると、私は戦力不足な気がしてしまいますね」


紅茶の御代わりを入れながら答える執事。


「かも知れないわね。でも実績を考えれば勝てる戦力だわ」


「お嬢様は時にお厳しいですね」


「子供など持ったことは無いけど、可愛い子には旅をさせよって言うんでしょう?」


「普通、進んでいばらの道を旅などさせませんよ」


「ふふっ。でもあの坊やなら楽しんで進みそうだけど」


インチェンス侯爵がローゼスに問う。

ローゼスは少し考えて。


「確かに。あり得ますね」


「報告が楽しみだわ。彼らは私の予想を上回ってくれるかしら」





-----∇∇∇-----





「船の揺れは、中々慣れないな・・・」


クロアが甲板から空を眺めながら魔物について整理している。


「多足種の魔物、その足は船を軽々しく破壊する膂力。さらに魔法を放ってくる。加えて・・・」


この魔物に置いて最も気になった物であり、見てみたいと言う好奇心を抑えられなかった話。


「魔物が現れるとその場所に雨が降る、か」


魔物が現れるとその場の天候が雨へと変わるらしい。これが本当だとしたら原理が全く分からない。

天候を変えると言うのはもはや魔法をもってしても凄まじい事である。現に天候を操作する魔導士はこの国には居ない。

しかしこれが魔力や魔法で行えるのだとしたら。干ばつ地であるイストフィース領には手が出る程欲しい魔法である。

少なくとも天候を変える、と言うイメージが全くできない。しかも属性なども何なのかなど分からない事が多すぎる。

だけどこの目で、この身体でその空気や天候を感じれれば何か分かるかも知れない。実は俺としてはこの魔物に一番会いたい理由はそれだったりする。


「お、クロア君。こんなとこでどしたんや?」


チェルトさんがこちらに来ていた。


「船の揺れに慣れるために外を見ておこうかと思いまして」


「なる程、確かに内地に住む人やらと海の上は慣れへんよなぁ」


「チェルトさんは生まれた時からシックル領で海の仕事を?」


「ちょっとちゃうな、ウチが生まれてここに越してきたらしいで。ウチはあまり覚えてへんけどな」


「となるとご両親などは海関連の仕事と言う訳では無いのですか?」


「あー・・・ちょっと長くなるけどええか?」


「構いませんけど、その・・・話したくない事であれば無理に聞きたいわけでは」


「ええんよええんよ、ウチは正直気にしてへんと言うか覚えてへんと言うか」

「赤子のウチは捨てられてたみたいでなぁ、その時にここの漁師の人達に拾われたんよ」


さっき会ったばかりの人に聞くにはあまりにも地雷原を踏み抜いてしまったらしい。いや本人が話始めたんだし構わないのか?


「それは、その・・・」


「なーに気ぃつかっとるんや、ウチは気にしてないって言ったやろ?」

「それに、本当に覚えてへんのや。だからここのおっちゃんや女将さん達がウチの父ちゃんと母ちゃんなんよ」


「こんな言葉は、もしかしたら失礼なのかも知れませんけど」


「なに?」


「血のつながりだけが家族の形じゃない。それが体現されていて、すごいなって思いますよ」


「おーきに!それを言うならクロア君達もウチはすごい人達やと思うで」


「何かありましたか?」


「ウチのこの喋り方や、大抵の人が何喋っているか分からんかったり、他の国の喋り方に聞こえるのかあんまし話してくれへんのよ」

「でもクロア君とこの人達はみーんな普通に接してくるわ話しかけに来るわで、ウチもビックリやで。特にあのサキユって子、あの子は良い子やねぇ」


「ありがとうございます。まぁ我が家の領も特殊と言いますか、差別的な事が無いと言うのが正しいかも知れませんね」

「それを体現しているのが、ヴォルフォとサキユですね。イストフィース領には誰でも住めます、人でもエルフでも獣人でもハーピィでも。この頃は熊が家族に増えた所です」


「熊が家族ぅ?わけわからんな・・・でも楽しそうやわ」


「おーいチェルト、ちょっと手伝ってくれ!」


「あっかん、仕事中なの忘れてたわ。クロア君は話し上手やなぁ、またお話聞かせてや。ほなこれで!」


「はい、よろしくお願いいたします」


チェルトさんが走って船員達の元に戻って行く。


「良い子ですね、最初は喋り方に驚きましたが」


後ろからグラハが来ていた。


「そうだね、皆は船酔いは大丈夫そう?」


「私は慣れてきましたが・・・ヴォルフォが少し」


「トントは?」


「元々船には乗ったことがあるそうで、大丈夫そうでした」


「そっか。まぁヴォルフォにはちょっと頑張ってもらうしか無いかな。多分獣人にはきついんだろうね」


「ええ、人より三半規管などが特殊ですからね」


「まぁまだ始まったばかりだし、時間はあるから落ち着いて行こう」


「しかし天候を変える魔物、ですか」


海を眺めながらグラハが呟く。


「本当だとしたらどういう原理なのかを見てみたいね。天候を変えるなんてもはや自然現象、言い方は悪いけど災害とも言えるからね」


「そしてその災害のヌシを倒そうとしているのが我々ですね」


「それだけ聞くと、俺達って無謀だね」


「かも知れませんね。ですがクロア様の事はお守りしますよ」


「それは頼もしいね、サキユにも一度下りてきてもらおうかな。周りがどんな感じなのかも聞きたいからね」


「お供します」


クロアがサキユを呼び、話を聞く。現状は特に変化などは無いらしい。それらしい魔物も見えない。


「今日は会えないかな・・・」


神出鬼没とも言われている。だからこそたまに漁船がでて魚と取る事も有るらしいが、やはり危険すぎるので当然減っている。

貰った資料などを見ていたが、魔物が現れる決まりがあるわけでも無いので、誘導や罠を張って呼び出すことも出来ない。

突然現れて、その一帯を雨で覆い、海の中に引きずり込む。まるで海の暗殺者。


「出会ってみないと、対抗できるかも分からないんだよな・・・」


「かなり大きいとも聞きますが、果たしてどの程度なのでしょうね」


「ボクが見つけられなくてごめんなさい」


「サキユは何も悪くないよ、まぁ待つしか無いかな、中にでも戻ってヴォルフォの容態でも見てくるよ」


「ボク、もうちょっと探してきてもいいですか?」


「頼むよ、空はサキユしか行けないからね」


「はい!」


サキユがまた空へと飛んでいく。


「では、私は船員の方々の話でも聞いてまいります。ついでに弓の調整もしたいので」


「ありがとう、またね」






ヴォルフォの容態は割と慣れてきたようで、少し甲板を歩いていた。

トントは久しぶりの海に少しだけはしゃいでいるようにも見えた。

船での時間は気づけば、太陽が落ちてきている頃合いで。


「今日は会えなそうだね。一旦船内で休もうか」


「ちょっと助かったな、慣れてきたもののまだちょっと違和感が・・・」


「ヴォルフォには悪い事をしたかな?」


「何言ってんすか、明日には慣れてますよ」


サキユにも降りる様に合図を出そうと空を見た時。


違和感。


海になびく美しい夕日、船の周りは綺麗な朱色に染まっていたはずなのに。

薄暗い雲が、その空を覆っていた。


「サキユ!」


急いで合図を出すクロア。


「全員警戒態勢!」


クロアの声が甲板に響く。ヴォルフォ達はすぐさま構える。


「クロア君!?どないしたんや」


「資料の通りなら、来ます」


瞬間、雨が降ってくる。いや雨では無くそれは豪雨、周りを確認するのがやっとなほどの。


「バレドさん!」


「おうよ!全員持ち場につけ!」


これは予想以上だ、雨音で声が届きにくいかも知れない。


「坊ちゃん、あれは・・・!」


ヴォルフォの声の方向を見れば。


「あれか・・・!」


船一隻よりほんの少し小さい、しかしそれが魔物の大きさとして異常だと言う事は一目見て分かる。

その魔物からは、あの時の山で感じた時以上の魔力を感じた。

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