南の貴族と大海 ⑤
討伐への参加を決意した手紙の返信にて、問題の魔物の特徴などが記載されていた。
その手紙を読みながら、五人でシックル領に向かっている。
「しっかし、聞けば聞くほど厄介な魔物ですね」
ヴォルフォがぼやいている。
「そうだね。この手紙に書いてある特徴が誇張無しにそのままなら、正直あまり討伐できるイメージが湧かないかな」
「何か対策をと思って考えておりましたが、私もあまり・・・」
グラハが頭を悩ませている。その横のトントはと言うと。
「ほ、ほんとに戦うんですか?」
「まぁ出会ったから戦うしか無いだろう。それにお前、魔物との戦いは初めてでも無いだろうが」
ヴォルフォがトントを小突く。
「そ、そうですけど!海で戦うなんて初めてですよ!」
「それを言うなら俺達だって船の上で戦うなんて経験無いさ。でもやるしかないからな」
「まずは船に慣れるところから始めないとね。特にグラハは弓なんて相当大変だと思うから」
「ご期待には応えて見せます」
「クロア様はボクと飛びますか?」
「それも有りだけど、俺がずっと空にいたら直ぐに言葉が届かない可能性があるからそれは最終手段かな」
「分かりました!」
「こういう時に、サキユは羨ましいねぇ」
そんな会話を続けながら、シックル領に向かう。
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「イストフィース領の皆様、お待ちしておりました」
シックル領に着くなりビン殿が出迎えてくれた。
「お久しぶりです。一先ず伯爵に挨拶をさせて頂いても大丈夫ですか?」
「無論でございます。案内致します」
そう言われ、すでに用意されていた馬車に乗ると。
「クロア君、久しぶりです!」
すでに馬車の中にリール君が居た。
「お久しぶりです。お待たせして申し訳ありません」
「良いんだ、僕がこの中で待ちたかっただけだから」
「移動しながらになるけど、今回の作戦を伝えても良いかな?」
「問題ありません。お願いします」
馬車は港へと進んでいく。
「船はリール君の部下達が操作する船と、港を仕切っている船長の船の二隻で行くと言う事ですか」
「うん、それぞれに僕とクロア君が乗って指揮を執る形が良いかなって思ってるんだ。それに後から補給船をいくつか出す気でいるよ」
「了解しました。ですが、僕が指揮を執る事に不満が出るのでは無いですか?」
他の領主に命令されて、乗り気になる人も少ないだろう。特に海と共に生きてきた人達なら、気性が粗そうなイメージがある。
そんな人たちが子供言う事を聞くとは思えない。
「それについては、大丈夫だと思います」
「そうなのですか・・・?」
何か策でもあるのだろうか。まぁここはリール君にお任せしよう。
「皆様、そろそろ港です」
ビン殿が声を掛けてくれる。
ゆっくりと馬車が止まっていく。
「さてと、クロア君。改めて今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、ご期待に沿えるように全力を尽くします」
リール君がせわしなく港に走って行く。早速色んな人に声を掛けられている。
「リール君は、この領に置いて人気なんだね」
「坊ちゃんだって、自分の領ではあんな感じですよ」
「そうだといいな」
ヴォルフォ達と合流して、港へ入って行く。
「クロア君。今日船を操縦してくれる、バレドさん」
リール君が一人の大男を紹介してくれる。
「おう、シックル様の友達って言うのはあんたかい」
「初めまして。イストフィース・リーゼ・クロアと言います。本日はよろしくお願いいたします」
「こりゃ驚いた。あんたも貴族様だろう。俺なんかに頭を下げる必要は無いぜ」
「いえ。自分には持ちえない技術を使って力を貸してくれると言うのは、頭を下げる価値があります」
「・・・はっはっは!こりゃ面白れぇ。まさか子供に頭を下げられるとはな」
「任せときな、少なくとも俺の船が海の藻屑になる事は無いと断言するぜ」
挨拶をしていると、後ろから声が聞こえた。
「なんや面白い話してるなぁ。今日は何かあるん?」
一人の女の子が現れた。
「って、リール君おるやん。何々、なんか面白い事やるん?」
「遊びじゃねぇぞチェルト」
「ええやん、この頃海に出れないから暇なんやし。ウチも連れてってや」
「チェルトさん、これはそんな軽い気持ちで行くものでは無いと言いますか・・・」
「なんやリール君もウチを除け者にするんか・・・これでもリール君よりもお姉さんなんやぞ!」
リール君が絡まれている。あの距離の近さが、この領でのリール君の信頼関係を表している。
「ほんで、本当になんなん?」
「あの魔物の件さ。ここに居る人達で討伐しに行くんだと。それに船の船長として俺も行くのさ」
「だったら優秀な観測手も必要やろ、大砲を扱えるもんは少ないんやし」
「そりゃぁ・・・」
船長さんが悩んでいる。俺としては戦力は多い方が嬉しいのだけど。
「横から申し訳無い。僕としては戦力が多いに越したことは無いのですが、如何ですか?」
「おわ!よく見たらこっちにも男の子がおるやん!」
チェルトと呼ばれていた女の子がこちらに振り向く。
「おいこら、失礼だろうが」
「彼はイストフィース家の長男のクロア君です。今回の件で僕が協力をお願いしたんだ」
「ってことは貴族様!?これはこれは失礼を・・・」
「構いませんよ、僕もあまりそう言うのを気にしないので」
「そうなん?話が分かる子が多くて助かるわぁ」
「さっきの話ですが、僕は構いませんよ」
「ほんならウチも乗ってええよな、船長?」
「しゃぁねぇな、ならお前も手伝え」
「あいあいさー」
そうして船を出す準備を始める港の船員達。
「出向にはまだ少し時間がありそうだから、こっちで作戦を話し合おう」
リール君に連れていかれる。海を見渡せるテラスの様な場所。
「クロア君に聞きたい事が在るんだけど、良いかな?」
「僕に答えられる事であれば」
「手紙にも特徴を送ったと思うんだけど、あの魔物は神出鬼没、もしかしたら今日会えないかもしれないんだ。そうなるとクロア君達はどれぐらい滞在できるかな?」
恐る恐ると言う表現が正しいのだろうか。そんな感じでリール君が聞いてくる。
その特徴は特に気にしていた。全く会えずに何日間もシックル領に滞在するとなると俺も困ってしまう。
「長くとも五日間ぐらいでしょうか、それ以上の滞在も可能ではありますが流石に限度もあります」
「分かった、それまでには決着付ける気で僕も望むね」
「僕も出来る限りを尽くします」
「坊ちゃんには我々も付いていますので」
「イストフィース家の騎士様と言えば、有名ですね!」
「おや、我々の事も知っているのですか?」
「はい、恐ろしく強い騎士達がいると」
「それは多分隊長の事ですね、我々の事じゃないですよ」
「いえ、佇まいで分かりますよ」
ビン殿がヴォルフォ達を見てそう言う。
「そういうビン殿も、かなりの者だと感じますが?」
「はて、それはどうかな」
謎の牽制が始まった時に、丁度船長達から声がかかる。
「準備できたぜ」
「では、船からの合図などを間違えない様に気を付けましょう」
「ええ、死力を尽くします」
各々が船に乗り込む。船その物は初めてでは無いが、船酔いなどにも気を付けなければならない。
いつも以上に考える事が多い、出会う前からこの戦いは疲れそうだ。
「全員乗ってるな?出向!!」
帆が降りる、出向の合図と言わんばかりに港から雄たけびが聞こえる。
港の喧騒、波の風切り音、その全てが始まりの合図。
海中に潜むそれは、静かに、彼らを待っている。




