南の貴族と大海 ④
「はぁー、緊張した・・・」
「お見事でした、シックル様」
ホッと胸をなでおろすリール。そしてそれに労いの言葉をかけるビン。
「聞いていた通りだけど、本当に僕より年下の男の子なのかな・・・」
「それについては私も同意見です、あの歳ですでにあの立ち振る舞いと広い知識。ポールト様の話も本当ならば魔法の才能もずば抜けているとなると、完璧ですね」
「かっこいいなぁ」
何だか嬉しそうなリール。
「しかしリール様。あの呼び方などはいきなりで驚きました。何か考えでもあるのですか?」
「違うよ。何か思惑があって言ったんじゃないんだ」
「では何故?」
「少しだけ、羨ましかったんだ」
「どなたが、ですか」
「他の貴族の人達が、かな」
リールは椅子から立ち上がり、報告書を片付けながら話す。
「僕は、もう両親が居ない。でも爵位を継いでしまったからには色んなことに呼ばれたり、呼んだりしなくちゃいけない」
「その中で、色んな人を見てきた。そして親子の絆みたいな人達も居れば、親が邪魔だと言う人も居た」
「でもそんな会話その物が羨ましかったし、一年前なら僕は全員憎かったかも知れない」
「我々がお力になれず、申し訳ありません」
「ううん、ビン達は悪くないよ」
「でもそんな時に、インチェンス侯爵閣下と話した時に彼の名前が出てきたんだ」
「ありましたね、海産物関連の話の時でしたかな」
「そう。そして強烈に気になったんだ。あのインチェンス侯爵が一人の男の子の話題を出したこともだけど、調べれば調べる程クロア君は決して恵まれてるとは言えなかった」
「確かに僕とは違って、両親は有名な王国騎士と魔導士だと聞いたよ。けれどイストフィース家に与えられた領地や扱いはかなり酷いものだった」
「干ばつ地の開拓、山々に囲まれ、雨も降らない地であるから水の確保すらままならない」
「それなのに、クロア君は、僕の貴族としてこうでありたいという理想の様な人だった」
「今日出会ったばかりにはなりますが、リール様の言いたい事は理解できます。クロア様からは下衆の香りはしませんでした」
「僕も同じ。でもさ、どうしてあんな人物になれたのかな」
「英雄の子供は英雄という事でしょうか」
「英雄の子供?」
「はい。現在のイストフィース家当主である、ウィン男爵は元々騎士団で英雄とまで言われた傑物でした」
「そうなの?それは聞いたことなかったな・・・」
「昔になりますからね。それこそリール様やクロア様が生まれる前の話です」
「私も何度かお会いした事が在ります。王国には不変の騎士あり、と他国に恐れられた程の方でした」
「そうだったんだ、すごい人なんだね・・・」
リールが整理を終え、椅子に戻る。
「その上、この前のカランクレス公爵閣下の集まりでアルティ様からも彼の名前が出たんだ」
「そしてポールト殿からのお話もあって、皆彼の話をするときに笑ってるんだ」
「それが羨ましかった、彼と関わった人は皆笑顔になっている様に見えてさ。だから僕も、そこに入ってみたくなったんだ。甘い考えかも知れないけどね」
「・・・貴族ならば横のつながりも大事になってきます。その感覚は大切かも知れません」
「クロア君と、そうなれればいいけどね」
「リール様ならなれますとも。今回の件を期に」
「でもそれがなぁ・・・全部話した方が良かったかな」
「それはいけません」
「口止めされているからね、でもそれで嫌われたら最悪だよ・・・」
「今は祈りましょう、イストフィース家が力を貸してくれることを」
リール達は夜の海に願いを込める。
-----∇∇∇-----
「戻りました」
「お帰り、クロア」
「サキユは休ませました、後で来る様に言っておいたので後からきます」
「分かった、では帰ってきて早々悪いが聞かせてくれ」
「勿論」
クロアはシックル伯爵との話をする。
「なる程・・・」
「我々からしたらデメリットしか無いのでは?隊長も坊ちゃんもこの前戦争から帰ってきたばかりでしょう。また命が危ないかも知れない依頼を受けるのは良い事とは思えませんね」
「ヴォルフォの言い分も分かるけど、そう簡単な話じゃないと思うよ」
「どういう事ですか、坊ちゃん」
「多分だけど、この件にインチェンス侯爵が一枚かんでる可能性がある」
「その可能性だが、流石クロアだな。大当たりだ」
そう言うながら、父上が一枚の手紙を出してきた。
「これは、インチェンスの・・・」
「ああ、お前が出て行ってすぐに届いた」
「中身を見ても?」
「宛先は私だが、何ならお前宛てだ」
そう言われ、手紙を読む。これはまた・・・脅しでは無いが怖いものだ。
「なんて書いてあるんです?」
「簡単に言うと、リール君の依頼を受けるならあの時約束した品を納品するのを遅らせても良いとの事さ」
「あー・・・坊ちゃんが作ってたやつですか」
「そう。この前の戦いとかもあって全く進んでないからね。と言うか多分出来てない事分かった上で言ってきてるんだろうな」
本当に彼女の情報収集には驚かされる。
「なら受けるしか無いって事ですか」
「そうだね」
「でもなんでインチェンス侯爵がここまでこだわっているんですかね」
「そこは私も気になっている。確かにインチェンス領での海産物が減るのも気に食わないだろうが、ここまで手を広げる理由としては弱い」
「坊ちゃんは何か思いつきます?」
「・・・考えすぎかもしれないんだけど」
「構わない、お前の考えすぎは聞いておいて悪い事など無かったからな」
ヴォルフォが頷いている。
「先にこちらを」
「これは?」
「魔物における被害及びに被害者リストです」
「かなりの数だな、何人か貴族も居る」
ヴォルフォもリストをのぞき込む。
「名を上げたいって貴族達でいっぱいですね、これは」
「そしてその討伐隊は全員失敗に終わっている。それが何かの狙いだと言いたいのか?」
「恐らく、彼らの戦利品を奪いたいのでは無いかと」
「全部海に沈んでるのにどうやって回収する気ですか?」
「多分何か方法があるんだろうね。そしてその方法をインチェンス侯爵とリール君は知っているんだ」
「戦利品の中には当然色々含まれる。紋章やその他もろもろ。それが全てインチェンス侯爵の手に渡ったらどうだろう」
「あまり考えたくはないな、少なくとも弱みとしては十分だろうな。魔物一匹に自分の討伐隊が負けて帰ってきていないなど、あまり公にはしたく無いだろうからな」
「特に名を上げたい人達、つまりは爵位が低い人達。討伐隊が負けた何て噂が出回ったら、その貴族の信用に関わるからね」
勿論それだけで破滅するなんて事は無い。しかし信用とは積み上げるのは長い道なのに崩れるのは一瞬。
そのままズルズルと失墜していく事だってあるだろう。中にはそれを売りにしている人達だって居るのだ、隠す事その物が確かに悪かも知れないけど。
「少し大きな話になりますね、そりゃぁ・・・」
「そうだな」
父上とヴォルフォが考え込む。
「まぁ、あくまで考えすぎかもしれないですけどね。それに、それは魔物を討伐出来たらの話です。そもそも勝てるかも分からない相手ですから、今は戦力を気にするべきでは?」
「・・・そうかも知れんな。ではどうするか、海上での戦いとなるとそう多くは連れていけんぞ」
「基本的に泳げる人達が好ましいですね。万が一落とされても何とかなる可能性が上がるので」
「んじゃ、俺は参加しますよ」
「ありがとうヴォルフォ、ついでに泳ぎを俺に教えてくれないかな・・・」
「構いませんよ、しかし俺が坊ちゃんに教える事が在るのが嬉しいもんですなぁ」
「何言ってんだか、ヴォルフォには色々教わったよ」
「そうですかね」
「他のメンバーはどうする?」
「サキユは連れていきます、空から目は欲しい」
「それと、弓が使えるグラハと・・・トントを連れて行きましょうか」
「あいつですか、確かにこの頃マシにはなってきましたけど」
「確か新人の騎士だったな、理由はあるのか?」
「彼、両親が漁師だったはずなんですよね」
「よくもまぁ志願所の事を覚えてますね・・・」
「全員覚えているよ、そこまで多くは無いからね」
「ならば四人で行く気か?」
「あとはリール君と話し合いましょう。実際何隻の船を動かすのかも知りませんからね」
「そうだな、では今回の依頼を受ける手紙を書いておこう」
「お願いします」
「失礼します!」
ドタドタとサキユが入ってきた。
「ごめんサキユ、話はほとんど終わっちゃった。それとノックをしてね」
「あ!ごめんなさい」
「相変わらず元気だなお前は!」
ヴォルフォがぐしゃぐしゃとサキユの頭を撫でる。ヴォルフォはハーピィのサキユには少し優しい。
この領に、獣人とハーピィが二人しか居ないからかも知れない。
「でもまぁサキユにも参加してもらうよ、その話をしようか」
「お願いします!」
そうして、また話が始まる。
海に住み、海を汚す。しかしもとはと言えばそれは彼彼女らの住処。
海に生きる者達は、海面からくる人間が、どのように見えているのだろうか。




