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南の貴族と大海 ③

「初めましてイストフィース殿、僕はシックル・ラムカ・リールです」


「こちらから挨拶を出来ずに申し訳ありません。初めまして、イストフィース・リーゼ・クロアです。以後お見知りおきを」


男の子二人が頭を下げ合う。爵位が高いはずのシックルのその姿にクロアはアルティ様の事を思い出す。


(この頃の貴族達は皆頭を下げる人が多い・・・わけでも無いか)


そんな事を思っていると、リールが口を開く。


「突然呼び出してしまって申し訳ない。あまり食事もできなかったでしょうから、良ければこちらでもお召し上がりください」


そう言われ椅子に座るように催促される。


「護衛は僕の部下が居りますので、そちらの彼女もどうぞ」


部屋の中を改めてみると、護衛らしき人物が四人居た。インチェンス侯爵程では無いが、当然警戒もされているらしい。


「リール閣下からのお言葉だし、サキユも座って良いよ」


「失礼します」


サキユが緊張しながら隣に座る。


「イストフィース殿、その・・・閣下というのは辞めてください、僕はまだまだ新参ですし、これと言った物もありませんので」


「しかし・・・」


「良いんです!」


「そ、そこまで言うなら・・・リール様?」


「もし、嫌でなければ・・・君付けで呼んでくれると・・・」


「シックル様、それは流石に・・・」


リール様の隣に居たビンと名乗っていた者が割って入る。


「ビン、これは僕の望みなんだ!」

「僕もクロア君と呼びたいんだけど・・・ダメかな?」


「リール様がそれを望まれるのであれば、僕は構いません」


「ありがとう!じゃぁクロア君、改めてよろしく!」


握手を求められたので素直に応じる。


「では、リール君。よろしくお願いいたします」


彼は笑顔だった、考えてみれば、近い歳の貴族に会う事は彼にとって少ないのかも知れない。そして友人と呼べる者は、居なかったのかも知れない。

アルティ様と、少し似ている気がする。爵位が高いからこそ、身近な者は少ないのかもと思った。


「実は僕もまだ食べて無くてね、一緒に食べてもいいかな?」


「勿論です」


そうして食事が運ばれてきた。

料理が並べられていくが、違和感を感じた。


「これは・・・」


毒があるとかそう言うのではなく、無論その可能性もあるかもしれないが。

ここは港町でありそれを治める領主の食べる物。となれば海産物が多くなるのは自然だろう。

しかし運ばれてきた料理を見れば、誰もが気づくかも知れない。


「なんだか、乾き物が多いですね」


「クロア君は乾き物を知っているのですか!?」


「知識としてはですが、趣味で料理を嗜んでおりまして」


目の前のリール君とビン殿が驚いている、そんなに変だろうか。


「驚きました・・・クロア殿には失礼かも知れませんが、海産物に詳しい貴族は少ないのです。内陸に住み慣れた方々ですと魚料理そのものを嫌がる方もいますので」


ビン殿が説明してくれる。確かに聞いたこともある。どこかのパーティーで魚料理が出てきて荒れた貴族が居たとか何とか。


「そうだったのですね。僕も実物を見たのは初めてです。頂いてもよろしいですか?」


「どうぞ!」


白身の魚を食べる。口の中で味が弾けるのが分かる。一口で美味いと、脳が理解できる。


「美味しい・・・!」


「良かった・・・苦手な人も居るみたいなので、口に合ったなら良かった」


「ボクもいただきます!」


サキユも食べ始める。


「ん~!!美味しいです!!」


三人で食事を進める、食べ終わる頃には夜会が終わりそうだった。





-----∇∇∇-----





「ご馳走様でした」


食事が終わり一息つくと、リール君が話を始める。


「今日、クロア君を呼んだ理由を話しても良いかな・・・?」


「お聞きします」


「実はね、クロア君に頼みがあるんだ」


「頼み、と言いますと?」


「最近、この海で魔物や魚たちが活性化しているのか、漁師の人達があまり海に出られなくて、漁獲量が減っているんだ」


そうなのだろうと、予想は出来た。

先程の保存のきく魚料理。そしてあまりにも多かった船。恐らくあの漁船は本来もっと動いているのだろうと思った。


「なる程、だから港に漁船が多かったのですね。漁船が有るにしてもなんだか無理やり止めている様に見えました」


「もう知っていたのですか・・・流石です」

「そしてその原因が、海の中で魔物化した生物が居るのでは無いかと言われています」


それも分かる。俺も真っ先にそれを疑うから。


「何か、被害報告などが挙がっているのでしょうか?」


「そうですね、こちらの報告書を見て頂けますか?」


ビン殿手際よく紙を選択し、こちらに渡してくれる。


「・・・確かに人の仕業にしてはおかしいですね」


報告書を見れば、船の破損、海上で突然の行方不明、海中から魔法攻撃などなど。これらを人が行えないかと言われれば出来る者もいるだろうが、少なくともそんな事を出来る人物は少ない。

それに人が行っているなら魔力の起こりや目撃情報が有ってもおかしく無いはずだ。にも関わらずその報告は無い。


「しかし、魔物化している者がいるならば、目撃情報が有ってもおかしくないと思うのですが、そう言った報告は受けていないのでしょうか?」


「魔物については、すでに分かっているのです」


「それは・・・原因が分かっていると言う事ですか?」


「そうです、そして今回の頼みと言うのはその魔物の討伐に力を貸してもらいたいんです」


これはまた、危険な事が転がり込んでくるものだ。


「お話については理解は出来ました。しかし何故、僕や姉のエリアを指名したのでしょうか。戦力が欲しいと言う事でしたら僕の父上を頼るのが一番では無いでしょうか?」


「当然の疑問ですね。失礼かも知れませんけどお答えします。当主に依頼するよりは、依頼料が下がるのでは無いかと思ったからです。そしてお二人は先の戦いで戦果を挙げているとお聞きしたからです」


「なる程、そういう事でしたか」


これは納得が行く解答。事実父上は元々の名声が有ったからこそ依頼では中々の量の褒賞を貰える。


「お恥ずかしい限りですが、現状我々にはそこまで余裕がありません。けれどこれを解決しなければシックル領は終わりを迎えてしまう。どうか力を貸して頂けませんか?」


「申し訳ありませんが、僕一人では判断出来かねます」


「そう・・・ですよね。勿論一度イストフィース家で持ち帰って決めてください。ですがせめて、クロア君の返事だけでもお聞きできませんか?」


「それは・・・」


正直、あまり乗り気にはなれない。これはつまり海の上で魔物と戦えと言う事だ。しかもどんなことをしてくるかも分からない相手にだ。

うちの領でも起きた魔物化事件。あの時は当然自分達の領で起きた事でもあったが、一番は相手が分かりやすかったからだ。

山に居る動物達なら全てとは言い切れないが、かなり見てきたし慣れている。しかし魚や海に生息する生物達など、知識ですら浅い。

今日初めて海を目の前にして、その広大さを知ったばかりなのだ。あの広大な海に住んでいる魔物など、想像も出来ない。


「・・・その魔物は、僕の仇でもあるのです」


「それは、どういう・・・?」


「クロア君は、僕の両親が二年前に起きた事件で亡くなったのは知っていますか」


「お聞きしております。その事は、本当に残念です」


「良いんだ、もう立ち直ってるから。でもね、あいつはまた姿を現した」

「今でも覚えている、あの時の父様や母様の背中を」


天井を見上げるリール君。その顔は、どことなく不思議だった。


「だからこそ、全力を挙げてあの魔物に止めを刺したい。僕は、僕がこの領を守る為にも」


なる程。二年も伯爵を務めていれば、そんな目を出来るのか。


「お話は分かりました。そして僕としては、力を貸したいと思います」


「本当ですか!?」


「ただし、イストフィース家の当主は我が父です。当主が反対すれば当然僕個人で力を貸すことはできません」


「分かっています。それでも、ありがとうございます。良いお返事が聞けるのをお待ちしております!」


「では、一つだけ資料として頂きたい物が有るのですか、よろしいでしょうか?」


「用意できる物なら用意します、何が必要ですか?」


「では・・・」


クロアはある物を受け取り、部屋を後にする。今日は部屋を取ってくれているようなのでシックル領に泊って行く事になった。





-----∇∇∇-----





「クロア様、なんでそれを貰ったのですか?ボクはてっきり前払いで何かお金を貰うと思ってました」


「それを受け取ったらそれこそ絶対引き受けないといけなくなるじゃないか。それに、どちらかと言えばこれが欲しかったんだ」


クロアが受け取ったのは被害者リスト。話を聞いていると、どうやらその海の魔物を討伐するために他領の貴族が討伐隊と出したりしていたらしい。

何故他の貴族が討伐に来てくれるのかと言うと、魔物は倒した者に名誉や戦利品が貰える。

ここで言う戦利品とは魔石などの事。通常の魔物より魔物化した者を魔石は非常に価値が高いからこそ、我先にと来る者が少なくはない。

そして当然、その者達が敗北すれば被害者と言えるだろう。当然リール君には責任など無いからただの亡くなった人や行方不明の名簿でもあるけど。


「あの時、彼の目はどことなく違った」


「目が、違った?」


「うん。言っていただろう、両親の仇でもあるから倒したいと」


「言ってた気がします!」


「ならばそれは復讐とも呼べるだろう。だと言うのに、彼からは怨念や恨みをあまり感じなかった。勿論まったく感じなかったわけでは無いよ。でも、両親を奪われたにしては余りにも冷静だった」


「確かに、淡々とお話していました」


「つまり問題の魔物が仇かどうか俺達には分からないと言う事さ。彼が言うならそうなのだろうと信じるしかないからね」


「・・・結局それを貰った理由にはならないのでは?」


「そうかな、その魔物がもし仇じゃ無かったら?」


「でも悪さをしている魔物ですよね?討伐するのは当たり前じゃないんですか?」


「そうだね、だけどわざわざ俺達を頼って来るほどの事かな?」


「それは・・・分かりません!」


「話に出てきていたけど、リール君は現状お金があまり無いと言っていた。うちと似ているね」

「にもかかわらず他の貴族に頼ってまで討伐をする理由があるはず。しかもほとんど交友も無い俺達にだ。つまり何か急ぎの理由や、俺達を指名する理由が出来たのかもしれない」


「急ぎの理由って言うと、何ですか?」


「まぁ色々あるだろうけど、恐らく海産物関連だろうね。そしてこの領、南の貴族と言えば」


「あ!」


「恐らくインチェンス侯爵に何か催促されたのだろうね、そしてインチェンス侯爵からも俺について何か言われたのかもしれない。そんな時にポールト殿にも話を聞いたんだろうね、だからこそ俺と姉様の名前が挙がった」

「そして何故このリストが欲しかったかと言うとね、討伐に向かった貴族の情報が欲しいから」


「貴族の情報?」


「魔物に沈められたか殺されたか。どうなったかは分からないけど、貴族には各々の紋章があるだろう」


それのおかげもあって俺達もインチェンス侯爵に付け入る事が出来た。


「それが何かあるんですか?」


「もし貴族の紋章を取り戻したら、その紋章を貴族に返すことになる。けど、何の対価も無く自分の失態を受け取る奴なんて貴族には居ない。もしまだ残っているなら、紋章が有れば有るだけシックル領は儲かるってことだよ」


「そうなんですか!?」


「まぁ考えすぎかもしれないけどね。でもインチェンス侯爵もそれを考えているかも知れないし、リール君もそれが狙いかも知れない」


「ボクには何が何だかさっぱり・・・」


「良いんだよ、こういうのは俺が勝手に考えているだけだから。もしかしたら本当に仇で、普通に領の迷惑だから倒しだけかも知れないからね」

「でもインチェンス侯爵が何か企んでる可能性はあると思うね、一度帰って父上達とも相談しないとね」


「でも今日はお泊りです!」


「そうだね、宿はもう近いみたいだし、今日はもうゆっくりしようか」


「クロア様!絶対に添い寝しますね!」


「好きにしてくれ・・・」




二人で宿に歩きながら、そんな話をする。

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