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南の貴族と大海 ②

「見えてきたね」


「広ーい!」


サキユの背に乗りながら、見えてきたシックル領の感想を話す。

複数人で移動する場合は色々手配しないといけないけど、俺一人が移動するだけならこうしてサキユに運んでもらう。

身体の大きさの問題で大人は不可能だが、子供一人であればサキユもかなり余裕があるらしい。


「いきなり領の中に降りるのは不味いですか?」


「そうだね、招待状は持っているから門番が誰かに話を通したいかな」


「分かりました!」


そう言いながら、領の入り口から少し離れた所に着陸する。


「お疲れ様、いつもありがとう」


「クロア様の為なら喜んで!」


ここまで満面の笑みで言われると少し照れ臭い。


「サキユも水分補給してね」


「はい!行きましょう!」


久しぶりに二人きりだからかサキユのテンションが高い気がする。この頃はあまり会話も出来ていなかったからなぁ・・・

そんな事を思いながら、二人で領の入り口まで歩いて行く。

入り口には馬車などの入り口と人だけが出入りする場所と別れていた。

領の出入りは何かの証を見せている様に見える。初めて訪れる者は話せば通してもらえるのだろうか。

夜会があるせいなのか、ここまで厳重だとは思ってなかったが大丈夫か・・・?


「失礼、本日はどのようなご用件で?」


一人の門番らしき人物が話しかけてきた。


「おはようございます。本日はシックル閣下からご招待に預かり、訪問させて頂きました」


シックル伯爵の手紙と招待を門番に見せる。


「こ、これは失礼致しました!貴族様とは知らずに!」


すごい勢いで頭を下げる。しかし彼は悪くない。


「いえいえ、子供一人と護衛にハーピィ一人では不審なのは当たり前だと思います。寧ろ分かりずらくて申し訳ない」


頭を上げるように促す。


「ありがとうございます。お名前をお伺い致します」


「イストフィース・リーゼ・クロアと申します」


「イストフィース様ですね、少々お待ちください」


そう言って何かを確認するように見ている。恐らく招待した人物が合っているかの確認だろうけど。


「確認が取れました、どうぞお進みください。シックル様の元まで誰か案内させますか?」


「いや、少し街も見て回りたいんだ。夜会にはまだだろうからもう少し時間をおいてから伺います。あまり早くに訪問してもご迷惑でしょうから」


「かしこまりました、城の守衛にもそう伝えておきます」


「ありがとう」


そうして門をくぐると、サキユがはしゃぐ。


「クロア様と二人きりで旅行です!」


「旅行では無いけどね、まぁあながち間違いでも無いのかな」


「どこに行きますか、クロア様!」


「落ち着いてくれ、俺も色々調べてきたんだ。まずは行きたい所があるから付いてきてくれるかい」


「お供します!」


そうして二人で歩き出す、一番の目的地へ。





-----∇∇∇-----





「これが・・・!」


眼下に広がる青く、広大な海。

サキユの背からも見えてはいたけど、目の前にするとまた違う物だと実感する。

見渡す限りの水、水、水。

少しサキユにお願いして、海岸の崖のような場所に連れてきてもらった。


「ひっろーい!!」


「サキユもこっちの領に来ることは初めてだっけ?」


「そうです、手紙を渡すまでボクはこの領に来たこともありませんでした!」


それもそうか。基本的にうちの領での手紙や持てる物品の配達をしながら、たまに父上や俺が出す手紙を他の領に運んでもらう事しかしてない。

かなり助かっているが、当然送ってみた事も無い領などは知らない。


「俺も、ここまで近くで海を見たのは初めてだよ」


「綺麗です・・・」


二人で海を眺めている。しかし少し時間が経つと。


「うぅ・・・なんだかベトベトします」


「ああ、潮風の影響だね。サキユの羽の手入れが大変になってしまうし、そろそろ街へ戻ろうか」


「ごめんなさい、クロア様。楽しみにしていたのに・・・」


「いや、見れれば十分だったから。寧ろこんなところまで運んでくれてありがとう」


そうしてまたサキユに運んでもらう。その時、少し遠くに港が見えた。


「港町とは聞いていたけど、随分と止まっている船が多く無いか・・・?」


ほんの少し、疑問が生まれた。そんな疑問を抱えながら、サキユと街を散策していたら、時間が近づいていた。





-----∇∇∇-----





「本日はお越し頂きありがとうございます。お楽しみ下さい」


守衛の人に通してもらい、城に入って行く。インチェンス侯爵やカランクレス公爵とまでは行かないが立派な城である。

使用人の様な人に案内してもらい会場に入る。


「サキユ、騒いではいけないよ」


「はい」


中に入ると、まばらではあるがすでに人は居た。しかしなんだか、少ないような気がした。


「落ち目の貴族の誘いになぞ乗らないって事か」


静かに、小さく呟く。伯爵ともなれば、こういう催しを開けば多くの人が集まると予想していたが・・・


「手土産は、伯爵だけに渡すか」


そんな中で、見知った人物がこちらに近づいてくる。


「クロア君!」


「これはポールト様、お久しぶりです」


「よしてくれ、あの時の様に接してくれて構わないよ。私が許す」


「わかりました、ポールト殿」


あの戦争の時、少しだけではあるが仲良くなった貴族の一人だ。


「今日はお一人ですか?」


「ああ、すまないね。いつか息子や妻とも挨拶してほしいのだけどね」


「いえいえ、僕も今日は父上などが居ませんので」


「そうだったのか、息子とあまり変わらないのにすでに一人で夜会に出るとは・・・」


ポールト殿がなんだか少し感心している、そして何となく今回の事が見えてきたぞ。


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「おや、なんだろうか」


「シックル伯爵に僕の事をお話したのは、ポールト殿ですか?」


その言葉に、ポールト殿は笑う。


「その通りだよ、やはり君は常に物事を考えて動いているのだね」


少しはとぼけられるかも知れないなどと思っていたら、正直に話してきた。


「少し、二人で話さないかい?」


「護衛を後ろに付けても?」


「おやおや、ならば私の護衛も含めて周りを見張らせようか」


そう言ってポールト殿が護衛の人に合図する。俺もサキユに伝える。


飲み物のグラスを貰い、会場の端の椅子へ二人で腰掛ける。


「何から話すべきか、シックル君・・・いやシックル伯爵は苦労人でね」


今回の件をポールト殿が話始める。


「クロア君、恐らくこの夜会の中で君に話があると呼び出されるはずだよ」


「何故、僕なんでしょうか?」


「一つは私が推薦したこと。二つはシックル様の望み。三つめは、私の願いかな」


「一つ目は理解できますし、二つ目はポールト殿に聞いても意味は無いでしょう。とすると、その三つ目の願いと言うのは?」


「・・・笑わないで聞いてくれるかい?」


「少なくとも、ジョークでも無い限り笑いません」


「はっは、そうだね。もちろん冗談では無いよ」

「その、だね。私は息子を溺愛している、周りに自慢するのが恥ずかしくない程に」


「素晴らしい事だと思います」


「だけど、私の息子は固有魔法に恵まれなくてね」


珍しい話では無い。固有魔法を持つ者同士が婚姻をして、子供を産んでも、その子供まで固有魔法を授かるかどうかなど、運でしかない。うちのエリア姉様が良い例だ。


「君も何となく知っているだろう、固有魔法を持たない貴族がどういう目で見られているかどうか」


選民思想というのは、どこまで行っても消えないのだ。平民と貴族から始まり、位の違いから固有魔法の有無ですら。

特に貴族でありながら固有魔法や例外者(エクセプション)ですら無い者の立場は酷い。

固有魔法を授かっていない事を隠し通す者までいる程に。

エリア姉様の様に何かに秀でていれば多少はマシなのかも知れないが、そうであったとしても、だ。


「そして、そんな息子はいつか、僕の爵位を引き継ぐだろう。その時、今の貴族達の意識のままではあの子があまりにも、凄惨な世界を見る事になってしまう」

「だけどあの子が僕から引き継ぐと言う事は、周りの貴族も同じ様に世代が変わるだろう」


ポールト殿は会場の中心を見ながら話を続ける。


「その時、今の様な意識の者達ばかりではなく、分かりあえるような者達が居れば、あの子に胸を張って私の爵位を授けられる」

「クロア君やアルティ様、それにシックル伯爵など。私が恩を売って、あの子に向けられる刃が減るなら、私は喜んでこの身を差し出すよ」


さらっと、そしてにこやかに笑いながら。この人は多分、見過ぎてしまったのだろう。落ちた貴族や迫害された貴族の結果や過程を。

そしてそんな世界に、自分の愛する子供に、旅をしてほしく無いのだろうな。

まさに綺麗事かも知れないが、ポールト殿からはそれをなすことが本気なのだと、伝わってくる。


「今回の件では、君には迷惑をかける事になってしまったね。申し訳ない」


「いえ、僕も海を見てみたかったので。見る機会を頂けて嬉しかったですよ」


「私の息子も海を見た事が無くてね、いつか見せてあげたいよ」


二人のグラスが空になる。


「でも、今回の件が知れて良かったです。何故自分が指名されたのか腑に落ちていなかったのでスッキリしました」


「簡単に言えば、私は君の情報を売り、シックル伯爵に恩を売ったのだ。そんな私を非難しないのかい」


「非難するほどの事でも無いでしょう。それに、僕がシックル伯爵からの何かを受けるかは、僕次第なのでしょう?」


「そうだね、そこまでは私は協力していない」


「ならば後は、イストフィース家とシックル家の話です。それにこんなに美味しい海産物を食べれただけでも満足ですよ」


「ありがとう、クロア君」


「いえいえ。でもこれで、ポールト殿に恩を売れた事になりますかね」


ポールト殿はその言葉に笑う。


「ははは、そうだな。息子にも伝えておくよ、イストフィース家には悪い事はできんぞ、とな」


二人で笑い合う、そして椅子から立ち上がると一人の男性がこちらに来ていた。


「お初にお目にかかります。私はシックル様の側近、ビンと申します」

「イストフィース・リーゼ・クロア様でお間違いないでしょうか?」


「ええ、間違いありません」


「ポールト様、よろしいでしょうか」


「構わないよ、私からの話は終わっていたからね」


「では、イストフィース様。失礼ですが私に付いてきて頂けませんか、我が主がお話をしたいと申しております」


「もちろん、お伺いします。彼女は僕の護衛なのだけど、一緒に連れて行っていいですか?」


サキユの方を見る。


「もちろんございます。ではご案内致します」


「ではポールト殿、失礼します」


「君と話せてよかったよ、クロア君。シックル君・・・伯爵にもよろしくと伝えておいてくれ」


そう言われ、会場を後にする。

ビンと名乗る男性にサキユと一緒に付いて行く。


「こちらのお部屋になります」

「シックル様、ご案内致しました」


部屋の中から入ってくれ、と声がした。


一体、どんな話をされるのだか。

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