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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第三章 大魔法祭を楽しく過ごしたい!
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古びた魔導箱と帰り道

 ロキオンの悪戯はさておき、魔導箱自体はとても楽しかったし、実際にこれを続けていけば魔力制御は上達していくだろう。折角なので一つ購入するつもりではあるが、もう一度くらい挑戦してみるのもいいかもしれない。


「もう一度魔導箱に挑戦しますね! 今度はもっと早く開けてみせます!」


 わたしはスピネルと話し合いを続けているロキオンにそう告げると、カウンターに置かれたままの魔導箱へと目を向ける。そして、そこに置かれたもう一つの古びた魔導箱に気が付いた。


「そう言えばもう一つありましたね……」


 古びた魔導箱は不思議な雰囲気を放っており、先ほどまでの二つと違って随分と年季が入っている。それに頑丈そうな作りをしているので、壊すことも難しそうだ。


 先ほどの魔導箱もそれなりの難易度だったので、こちらはもっと難しいのではないだろうか。もしそうならわたしの腕を磨く良い機会かもしれない。


 そう思ったわたしは振り返り、魔導箱の持ち主であるロキオンに声をかける。


「ロキオン、こちらの古い魔導箱にも挑戦してみて良いでしょうか!?」

「別に構わないが……それは多分開かないぞ」

「え? どういうことですか?」


 開けるために作られた魔導箱なのに開かないとはどういうことだろうか。わたしが首を傾げていると、ロキオンがテーブルに近寄って古びた魔導箱を手に取る。


「これは元々家の蔵にあったものでな。この店にある中で最も難しい魔導箱なんだ」


 そう言ってロキオンは懐かしそうに目を細めて、古びた魔導箱を見つめる。


「何度か開けようと試してみたが、俺じゃ上手く開けられないみたいでな……それが悔しくて自分で作った物がさっきクリス達の挑戦した魔導箱なんだ。つまりこれは他の魔導箱の元になった魔道具だな」

「そういうことだったのですね!」


 ロキオンの話を聞いて開けられないという言葉の意味が分かった。それにこの魔導箱だけがやけに古びている理由も。


 ロキオンは説明を終えると、わたしの方へ古びた魔導箱を差し出してきた。


「それで良ければクリスも一度試してみると良い。俺には無理だったが、クリスなら開けられるかもな」

「分かりました! 是非挑戦させてください!!」


 ロキオンから古びた魔導箱を受け取ったわたしは、先ほどと同じく少しずつ魔導箱に魔力を流していく。


 箱の作りは先ほどの魔導箱によく似ており、全体に魔力を流していくと魔導箱の鍵が見つかる。そこに向かって魔力を多く流して鍵を開けていくところまで同じだ。この調子なら時間はかかるが何とか開けることが出来そうだ。


「先ほどと同じ感じでいけそうです!」


 順調に鍵が開いていくことを確認したわたしは、自信を持って魔導箱の奥へと魔力を流していく。


「果たしてそうかな?」

「それはどういう……」


 ロキオンのそんな言葉が聞こえた次の瞬間、魔導箱に流していた魔力が押し戻されるような感覚があり、今まで開けた鍵が全て閉じてしまった。


「あれ……?」


 先ほどの魔導箱は同じ方法で開けられたのでやり方は間違ってはいないはずだが、一体何がいけなかったのだろうか。


「うーん……」


 その後もう一度魔力を流してみたが結果は同じで、結局古びた魔導箱を開けることは出来なかった。


 わたしは小さく息を吐いて、手に持った魔導箱をゆっくりとカウンターに置く。


「途中までは順調だったのですが失敗してしまいました……」

「やっぱり開けられないか……クリスのせいじゃないから気にしなくていいぞ」


 そう言ってロキオンは難しい顔で古びた魔導箱を見つめている。


「途中で魔力が押し返される感じがしただろう? あれのせいで一番奥まで魔力が通らないんだよ」

「そうですね……でも一体何故なのでしょうか?」

「それが分からないんだ。構造は分かったから真似して作ることは出来たんだが、結局開けることは出来ずじまいさ」


 ロキオンはそう言ってまた難しい顔をする。魔道具職人として自分の扱えない魔道具が目の前にあることが悔しいようだ。


 わたしも出来ることなら協力してあげたいのだが、先ほどの感覚を思い出すと普通に魔力を流すだけでは箱は開かないような気がする。


「何とか開けられないでしょうか……」


 手持無沙汰になったわたしが腕を抱きしめていると、アレキサンダーお兄様に貰った『魔封じの腕輪』に指先が触れる。そこでわたしの頭に妙案が閃いた。


「そうだ! アレキサンダーお兄様に相談してみるのはどうでしょうか!?」


 アレキサンダーお兄様なら魔道具にも詳しく、魔法もわたしより上手に使えるのでこの古びた魔導箱を開けることが出来るかもしれない。


 そのことに気付いたわたしは思わず大きな声を上げてしまった。


 もちろんアレキサンダーお兄様も大魔法祭の準備で忙しいので手伝ってもらうことは難しいかもしれないが、話をすれば相談には乗ってくれるだろう。


「そうか、確かにアレキサンダー殿下なら……でもなあ……」


 わたしの言葉を聞いたロキオンは顎に手を当ててぶつぶつと独り言を口にしていたが、しばらくすると考えがまとまったのかゆっくりと顔を上げる。


 その瞳は真剣そのものでわたしのことをじっと見つめている。


「クリスティア殿下。私の願いをお聞きいただいてもよろしいでしょうか?」

「……はい、何でしょうか?」


 姿勢を正したロキオンに対して、わたしも一人の王女として向き合う。ロキオンが真剣な以上こちらも相応の態度を取るべきだ。


「ありがとうございます、殿下」


 わたしが話に応じる姿勢を見せたことで、ロキオンはニコリと微笑みを浮かべる。そしてロキオンは古びた魔導箱を再びわたしの前へ差し出してきた。


「どうかアレキサンダー殿下にこの魔導箱をお渡しください。どのような物が入っているのか、どのように開けるのかを調査していただきたいのです」

「かしこまりました。お兄様に確認しなければならないので、少し時間をいただきますがそれでもよろしいですか?」


 アレキサンダーお兄様も暇ではないので、本格的に調査を始められるのは恐らく大魔法祭が終わった後になるだろう。また万が一ではあるがアレキサンダーお兄様が断る可能性もある。


 それでも問題ないかロキオンに伝えると、彼はゆっくりと首を縦に振る。


「ええ、もちろん問題ありません。こちらからお願いしているのですから、アレキサンダー殿下の都合が良い時に調査いただければと思います。断られた場合は魔導箱をお返しいただければ私が自分で調査いたします」

「かしこまりました」


 ロキオンの口ぶりからするとあまり急ぎでもないようだ。それならアレキサンダーお兄様にお願いするのは難しくないだろう。


「それと魔導箱を開けることが出来た場合、中身は今回のお礼としてアレキサンダー殿下にお譲りしたいと考えております」

「ロキオン様はそれでよろしいのですか?」


 元々家にあった物だと言っていたがロキオンとしては中身を渡してしまっても大丈夫なのだろうか。


 わたしが確認の意味を込めて首を傾げると、ロキオンは微笑みを浮かべたまま小さく頷く。


「はい、私はこの魔導箱が開けばそれで満足です。それに何のお礼もなくアレキサンダー殿下にお願いするわけには参りませんから」

「そうですか。かしこまりました」


 ロキオンからの了承も得られたので、これで問題ないだろう。わたしは微笑みを浮かべて目の前の古びた魔導箱に優しく触れる。


「それではこちらの魔導箱はお預かりしますね。必ずアレキサンダーお兄様にお渡しします」

「ありがとうございます、クリスティア殿下」

「それではスピネル、これをしまってください。預かり物なので丁寧にお願いしますね」

「かしこまりました、クリスティア殿下」


 横で話が終わるのを待っていてくれたスピネルもわたし達に合わせて丁寧に礼をすると、古びた魔導箱を布で包んで自分の鞄へとしまい込む。


 スピネルが魔導箱をしまっているのを横目に見ながら、わたしとロキオンは互いに目を見合わせる。堅苦しい話し合いはもう終わりだ。


 わたしが大きく息を吐くと、ロキオンも同じように肩の力を抜いて店主の顔でにこやかに笑う。


「やっぱりこういう話し方は俺には合わないな」

「でも真面目なロキオンの姿を見ることが出来て、わたしは楽しかったですよ!」


 そんな風にロキオンをからかっていると少し離れたところからカチリという音が鳴り、レオナの喜ぶ声が聞こえてきた。


 話し合いも終わった後、わたしは大小二つの魔導箱を購入し、他の皆もそれぞれ欲しい魔道具を購入したようだ。商品が売れたおかげでロキオンも満足そうな顔をしている。


「おい、クリス。そろそろ時間だぞ」


 皆でどんな商品を買ったのかを話していると、時計を確認したスピネルが口を開いた。ロキオンに魔道具の使い方を教えてもらっていたので、結構な時間が経っていたようだ。


「もうそんな時間ですか? もう少し見ておきたかったのですけど……」

「また今度連れてきてやるから、今日はこの辺りで終わりにしておこう」

「分かりました……また連れてきてくださいね! 約束ですよ!」


 スピネルの言う通りあまり遅くなると、魔導車で待っているローゼにも心配をかけてしまうので、今日はこの辺りで引き上げることにしよう。


 わたし達はカウンターの向こう側に座るロキオンに向き合い、本日の礼を伝える。


「今日はありがとうございました! 色々な魔道具が見られて楽しかったです!」

「俺の方こそ楽しかった。アレキサンダー殿下にもよろしく伝えておいてくれ」

「もちろんです! 魔導箱の調査結果も報告しに来ますね!」


 また来る旨を伝えてお店から出ると、空はすっかり赤くなっていた。わたし達はボロボロの魔道具店を後にして、魔導車乗り場へと向かって歩き始める。


 もう帰らなければならないと思うと寂しさが込み上げてくるが、皆と一緒に遊んだ今日のことを思い出すと口元が自然と緩んでしまう。


 劇場にカフェ、お菓子屋さんに魔道具店。皆がわたしのためにお気に入りのお店を案内してくれたことがたまらなく嬉しい。


 赤く染まる街並みをのんびりと歩きながら、わたしは心の底からの感謝を皆に伝える。


「今日はとても楽しかったです! 皆も付き合ってくれてありがとうございました!!」

「クリスが楽しめたようで俺も嬉しい。それに大魔法祭の出し物も決まったしな」

「はい! これから大魔法祭に向けて頑張りましょうね!」


 わたしが元気にそう言うと、後ろを歩いていた三人も満足そうに笑顔を浮かべる。


「ええ! 出し物がカフェに決まったからにはわたくしも今まで以上に頑張りますわ!」

「私ももっとお菓子作りの勉強をして完成度を高めていきますね」

「力仕事なら俺達も協力できるから必要なことがあれば何でも言ってくれよな!」

「はい! よろしくお願いします!」


 ワイワイと話しながら魔導車乗り場へと到着すると、魔導車の前でローゼがこちらに軽く手を振っているのが見えた。きっとわたし達の戻りを待ってくれていたのだろう。


 わたし達が魔導車に近づくと、ローゼは笑顔を浮かべ深々と礼をする。


「おかえりなさいませ、皆様」

「ただいま戻りました、ローゼ! 今日はとても楽しかったのですよ!」

「ええ。後ほどお話をお聞かせくださいませ、クリスティア様」


 ローゼに軽く挨拶をして皆で魔導車に乗り込むと、今日の疲れがわたしの体に襲い掛かってきた。途中に休憩があったとは言え、一日中歩き回ることはあまりなかったので足が棒になってしまったようだ。


「むーちゃんはここです!」

「わあい!」


 わたしがぽんぽんと膝を叩くと、むーちゃんは楽しそうに膝の上へ飛び乗ってくる。頭を軽く撫でてあげると尻尾をぴこぴこ動かして、とても楽しそうだ。


 ちなみに先ほどまでむーちゃんの頭に乗っていたブラウは既にレオナの元へと戻っており、ロートと二匹で仲良くレオナの両肩に止まっている。


 しばらくして魔導車が走り始めたことを確認したわたしはスピネルへと話しかける。


「今日は疲れました~! スピネル、宝石飴をください!」

「はいはい。あまり食べ過ぎるなよ」


 そう言ってスピネルは自分の鞄から宝石飴の瓶を取り出し、手渡してくれた。瓶の中では飴が窓から差し込む夕日を反射して輝いており、見ているだけでも幸せな気持ちになってくる。


「キラキラしていて本当に可愛いです! お店を紹介してくれてありがとうございます、バニラ!」

「殿下が喜んでくれて私も嬉しいです。お姉様にも伝えておきますね」

「はい! また今度買いに行かせてもらいます!」


 ニコニコと笑うバニラに礼を伝えて、わたしはいそいそと瓶の蓋を開ける。キラキラと輝く青色の飴をつまみ口へ放り込むと、口内で幸せな味が広がり今日の疲れも吹き飛んでいくようだ。


「疲れた体に宝石飴が染み渡ります……」


 わたしが口の中で宝石飴を転がして幸せを堪能していると、膝の上にいるむーちゃんがじっとこちらを見つめていたことに気が付く。


「クリスばっかりずるい!! ボクにもちょうだい!!」


 むーちゃんはわたしが宝石飴を食べているのが羨ましいようで、ぴょこぴょこと足を動かし始めた。わたしはそんなむーちゃんを宥めるため軽く頭を撫でてあげる。


「しょうがないですね……一つだけですよ、むーちゃん!」

「やった~!」


 むーちゃんのおねだりに負けたわたしは飴をもう一つ取り出すと、大きく開いているむーちゃんの口に放り込んであげる。


「うわあ! やっぱり美味しい!」


 飴を食べたむーちゃんは瞳を輝かせて喜びの声を上げる。そして、それを聞いたレオナも悲鳴のような喜びの声を上げる。


「きゃあ! またむーちゃんが喋ってますわ!! こちらでお話しましょう、むーちゃん!」

「うん、いいよ!」


 レオナの呼ぶ声につられたむーちゃんはレオナの膝の上へと飛んでいってしまった。


 レオナも嬉しそうにむーちゃんとの会話を楽しんでいるので、わたしもわたしで宝石飴を楽しむことにしよう。


 そう思っていると不思議そうに首を傾げたスピネルが口を開く。


「それにしても……どうしてむーちゃんはその飴で話せるようになるんだろうな」

「ミントも知らないようでしたし、良く分かりませんよね……これもアレキサンダーお兄様に相談した方が良いですかね?」

「あまりアレキサンダー殿下に負担はかけたくないが、夕食の時にでも話しておいた方が良さそうだな。魔導箱を渡すついでに報告しておくか」

「そうですね……」


 わたしとしてもアレキサンダーお兄様に頼り過ぎるのは良くないと思っているのだが、身近で色々と詳しい人がアレキサンダーお兄様くらいしか思い浮かばないのだ。


 もちろんわたしも出来る限りでは調べてみるつもりだが、それにも限界がある。なので誰か別の者の力を借りたいところなのだが、今のわたしにはそのあてがない。


「う~ん、どうしましょうか……」


 そんな風に考えているとむーちゃんのお腹をこちょこちょとくすぐっていたレオナがわたし達の会話に加わってきた。


「それならわたくしが調査してみてもよろしいでしょうか!?」

「それは非常に助かりますが、レオナも忙しいのではないでしょうか?」


 大魔法祭の出し物がカフェに決まった以上、レオナが基本的にお店の指揮を執ることになる。そのため、むーちゃんが話す原因を調べている余裕はないと思うのだが、レオナは自信満々に胸を張っている。


「わたくしもロートやブラウと話せるようになりたいですもの! 頑張りますわ!!」

「そこまでやる気ならレオナに手伝ってもらうのも良いんじゃないか?」


 スピネルの言葉を聞いて、わたしもレオナに任せてみるのは良いかもしれないと思い始める。出し物の手伝いは他の皆でも出来るが、むーちゃんの研究は魔獣に興味があるレオナにしか出来ないからだ。


「……分かりました! ですが、今は大魔法祭の準備に集中して、空き時間に調査するようにしてくださいね!」

「もちろんですわ! ありがとうございます、クリスティア殿下!」


 そんなことを話しながら魔導車に揺られていると、今日の疲れもあり段々と眠くなってきた。


 しかし、皆が起きているのだから眠るわけにはいかない。そう思って必死に我慢していると、わたしの様子に気付いたスピネルが心配そうに声をかけてきた。


「おい、クリス。眠いなら休んでも大丈夫だぞ。学園についたら起こしてやるから」

「そういうわけにはいきません……わたしは王女なのですから……」


 何とかスピネルに返事は出来たが眠気が限界になっていたわたしは、口の中の宝石飴がなくなる頃にはすっかり眠ってしまった。


「クリス、起きろ。もう学園だぞ」

「むう……?」


 スピネルに再び声をかけられて、目が覚めた時は学園の魔導車乗り場に到着していた。

クリスのイメージイラストをAIに描いてもらいました。

目次下部に載せましたので興味のある方は是非ご覧下さい。

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