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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第三章 大魔法祭を楽しく過ごしたい!
106/121

魔道具の実演販売

 自由に見て回るようロキオンに促されたわたし達は、各々で興味のある魔道具を見ることにした。


 レオナはロートと一緒に使い魔用の魔道具を見ており、ウィルは戦闘に使えそうな魔道具、バニラもお菓子作りが便利になる魔道具を見ている。


「この魔道具はどうやって使うのでしょうか?」

「ああ、これはだな――」


 わたしはスピネルに説明してもらいながらカウンターの近くで魔道具を見ているところだ。様々な種類の魔道具が置かれており、見ているだけでもとても楽しい。


 そんなわたし達の隣ではむーちゃんが眠そうにしているブラウを乗せた状態でふわふわと浮かんでおり、のんびりとした時間が流れている。


「色々な魔道具があって楽しいだろう? クリス」

「はい! 連れてきてくれてありがとうございます、スピネル!!」


 わたし達が楽しそうに魔道具を見ているのが嬉しかったのか、ロキオンがカウンター越しに話しかけてくる。


「喜んでくれたみたいで俺も嬉しいぞ、クリス」

「はい、とても楽しいです! こうして見ると魔道具の種類もたくさんあるのですね!」


 わたしはお店の中にある魔道具を見回しながらロキオンに返事をする。お店の中にこれだけの魔道具が並んでいると、わたし達の生活が魔道具に支えられていることが良く分かる。


「ああ、そうだ。魔法で出来ることは大体魔道具でも再現出来るからな。使うためにある程度の知識は必要だが、それでも魔法を簡単に使える魔道具はかなり需要があるんだ」


 わたしの言葉を聞いて気を良くしたロキオンに対して、スピネルもお店の中を見回しながら話しかける。


「それにしても、前に来た時よりも魔道具の数が増えているような気がするんだが……」

「暇な時は常に魔道具を作っているからな……まあ、お客があまり来てくれない問題もあるんだが、それは些細なことだ」

「そんな状態でお店を続けられるのですか? 生活はちゃんと出来ているのですか?」


 お客が来なければ生活するのも大変なはずなのにロキオンは随分と余裕の様子だ。そんなロキオンの態度を不思議に思ったわたしが首を傾げていると、彼は眉を寄せて腕を組む。


「ああ。ハイリヒクロイツ国内で使う魔道具を国に納めているから、不自由なく生活は出来ているぞ。出来ているんだが……」

「本当はもっと普通のお客に買って欲しいんだよな?」

「そうなんだよ、スピネル。国からの依頼で作る魔道具は作っていて面白くないんだ。俺は完成している魔道具じゃなくて、新しい魔道具を作りたいんだ!」


 スピネルのからかうような言葉を聞いて、ロキオンは悔しそうに顔を歪める。


 折角お店を開いているのだ。ロキオンも他の人に言われた物を作るのではなく、自分が納得できる魔道具を追及したいのだろう。


 わたしも高等魔法を勉強して新しい魔法を作り出したいと思っているので、その気持ちは良く分かる。ロキオンの話を聞いてわたしがうんうんと頷いていると、彼はおもむろに立ち上がりわたし達の近くまで歩いてくる。


「というわけでクリス、スピネル。俺の作ったおすすめの魔道具を紹介してやろう」

「良いんですか!?」

「ああ、これも営業活動ってやつだ」


 ロキオンはどうやらわたし達にお店の中を案内してくれるつもりのようだ。製作者から魔道具の紹介をしてもらえるのは楽しそうなので、わたしとしても断る理由はない。


「それではよろしくお願いします!!」

「ああ。気に入った魔道具があれば是非買ってくれよな」


 わくわくした気持ちでわたしが歩き出すと、スピネルが難しそうな顔でこちらを見つめていることに気が付く。


「どうしたのですか? スピネルも一緒に見ましょうよ!!」

「ああ、そうだな。済まない」

「ありがとう、二人とも。それじゃあこっちに来てくれ」


 渋々と言った様子のスピネルを連れてロキオンの後をついていくと、少し離れたところでロキオンが立ち止まり、棚から小さな球状の魔道具を手に取る。


 見た目だけでは何に使うのか良く分からないが、ロキオンがおすすめするということはきっと便利な魔道具なのだろう。わたしは期待を込めた目でその魔道具を凝視する。


「ロキオン! それは一体何に使う魔道具なのでしょうか?」

「これは『回転の魔道具』だ。まあ少し見ていてくれ」


 ロキオンはそう言うと立てかけてあった盥を手に取り、テーブルの上へと置いた。そのまま腰の杖を手に取ると、魔法を唱えて盥に水を張る。


水よ出でよ(ヴァッサー・アプラス)


 魔法を唱え終えたロキオンは手に持った『回転の魔道具』を盥の中心にちゃぽんと沈める。どうやらそれで準備は完了したようで、ロキオンは再びわたし達の方へ顔を向けた。


「お待たせしました、クリスティア殿下。ただいまよりこの魔道具の使い方を説明させていただきます」

「はい、よろしくお願いします!」


 冗談めかして恭しい態度を取り始めたロキオンが何をするのか楽しみにしていると、先ほど盥の中に入れた『回転の魔道具』が高速で回転し、盥の中で水流が渦を巻き始める。


「わあ! スピネル! 回ってますよ!!」

「そりゃ回るだろう、『回転の魔道具』なんだから……」

「まあまあお二人さん。ここからが面白いところだ」


 わたし達の反応を楽しみながらもロキオンは説明を続けるつもりのようだ。ポケットに手を入れると薄汚れたハンカチを取り出してこちらに見せる。


 ハンカチの汚れを見せつけるように広げながら、ロキオンはわたし達に向かって説明を続ける。


「取り出したるはこちらのハンカチ。この汚れたハンカチを今から綺麗にして見せましょう」

「よろしくお願いします!!」


 芝居がかった様子のロキオンはハンカチを手で広げたまま盥の上へ移動させる。そして、盥の上で手を離すとハンカチは水の中へ沈み水流に巻き込まれていく。


「ああ! ハンカチが巻き込まれていますよ!!」

「いや、これでいいんだ。クリス」


 そう言ってロキオンは楽しそうに盥の中をじっと見つめて、少し時間が経ったところで水の中からハンカチを引き上げる。


 そのままロキオンがまだ濡れているハンカチを広げると、先ほどまであった汚れが綺麗さっぱり消え去っていることが良く分かった。


「凄いです! 汚れが綺麗に落ちています!!」

「これは回転させながら浄化の魔法を一緒にかけているから汚れがすぐに落ちるんだ。普通にハンカチを洗ってもこんなに短時間では綺麗にならないだろう」


 得意気な顔をしてハンカチを広げているロキオンとは対照的に、スピネルは胡散臭い物を見るような目をロキオンに向けている。


「でも俺やクリスにこの魔道具は必要ないだろう……」

「? どういうことですか? スピネル」


 わたし達には必要ないという言葉の意味が分からずに首を傾げていると、スピネルは納得したような顔で一度頷く。


「寮の部屋には制服をしまうクローゼットがあるだろう? あれには今ロキオンが説明してくれた浄化の魔法が既にかかっているんだよ。だからいつも制服も綺麗な状態なんだ」

「そうだったんですか!? 制服は汚れないのかと思っていました!」

「まあ魔布を使っているから丈夫だし汚れにくいんだけどな。ともかくクローゼットにしまっておけば綺麗になるんだから、俺達にはこの魔道具は必要ないってことだ」

「そう言われてしまうと確かに必要ないですね……」


 わたしがぐるぐると回る盥の水を見つめていると、ロキオンは窘めるような口調でわたし達に声をかけてくる。


「おいおい、スピネル。それじゃあ俺がクリスを騙しているみたいじゃないか」

「騙してはいないが、今のクリスには必要ないだろう?」


 スピネルとロキオンが話を始めてしまったので、わたしはむーちゃんと一緒に盥の水を見ることにする。


 わたしが声をかけるためむーちゃんの方を見ると、何やらむーちゃんがそわそわとしていることに気が付いた。


「むーちゃん?」

「ねえ、クリス! この中に入っても良い?」


 そう言ってむーちゃんは水流が渦巻いている盥の中を指し示す。そんなことをしてはロキオンにも迷惑がかかってしまうため、わたしは慌ててむーちゃんのことを止める。


「ダメですよ! 濡れてしまうではありませんか!!」

「ええ~……少しだけ! 少しだけだから!!」

「ダメですってば!」


 わたしが水に飛び込もうとしているむーちゃんを必死に止めていると、その様子を見ていたロキオンは楽しそうな顔をこちらに向けた。


「うん? もしかしてその使い魔が水に入りたがっているのか?」

「すみません、ロキオン! 今すぐやめさせますから!!」

「いや、入りたいなら入っても良いぞ?」

「ダメですよ、ロキオン! そんなことを言っては!!」

「本当!? やったーー!!」

「ああ、むーちゃん!?」


 ロキオンからの許可が出たことでわたしが止める間もなく、むーちゃんは勢い良く水の中へと飛び込んだ。次の瞬間ばしゃんと大きな水音がしたと思うと、むーちゃんは盥の中で楽しそうに回転し始めた。


「あはは、楽しいよ! クリス!!」

「ああ……むーちゃん!! ダメだって言ったのに……」

「ははは、やっちまったなあ」


 むーちゃんが飛び込んだことでテーブルや床には水が飛び散ってしまっている。それにむーちゃんの上ではブラウがお昼寝をしていたので、ブラウもびしょ濡れになってしまった。


「ぴい……」

「ああ、ブラウまで……! すみません!」

「何事ですの? 殿下」


 騒ぎを聞きつけて他の三人もわたし達の近くへ寄って来た。レオナはびしょ濡れになったブラウと盥で回っているむーちゃんを見て、大体何が起こったのか察したようで大きく溜息を吐く。


「ブラウ、あなたって子は……」

「ぴい?」

「むーちゃんの上でお昼寝していたから濡れたのでしょう? しばらく反省なさいませ」

「ぴい……」


 レオナはブラウを叱っているようだが、それ以外に盥を置いていたテーブルもびしょ濡れになってしまった。


 ブラウのことはとりあえずレオナに任せて、テーブルを濡らしてしまった責任を取るためわたしはロキオンに向き直る。


「申し訳ありません! ロキオン! むーちゃんには後でしっかり言い聞かせますから……」

「ああ、大丈夫だ。クリス。良い機会だからこれを使うとしよう」


 わたしが慌てて謝罪の言葉を告げると、ロキオンはわくわくした様子で先ほどとは別の物を取り出した。今度は薄い板状の魔道具のようだ。


「これは『乾燥の魔道具』だ。使い方は簡単で、乾燥させたい物に向けて魔力を注ぐだけだ」


 そう言いながら先ほど盥の中から取り出したハンカチに板をかざすとみるみるうちにハンカチが乾いていく。


「わあ! 凄いです!!」


 それからも濡れている場所に向けてロキオンは次々と板をかざす。板をかざす度に濡れたテーブルや床、わたしの服などがどんどん乾いていくのが目に見えて分かる。


「おお! これは凄いな!」

「ええ、みるみるうちに乾いていきますわ!」


 近くに寄って来ていたウィルとレオナもその光景を面白そうに見ている。それに気付いたロキオンは濡れたままのブラウにも板を向ける。


「レオナも使い魔が濡れたままじゃ困るだろう?」

「凄いですわ! ブラウの濡れた羽がどんどん乾いていきますわ!」


 レオナの言う通り、濡れたブラウの羽は少しするとふわふわの膨らみを取り戻した。羽が乾いたブラウは嬉しそうに軽くなった羽を羽ばたかせてパタパタと飛び始めた。


「ぴい!」

「良かったですわね、ブラウ! 今後はむーちゃんの上で居眠りしてはいけませんわよ!」

「ぴい~」


 ご機嫌なブラウを見てわたしも盥の中で遊んでいるむーちゃんを見つめる。申し訳ないがこのままでは困るので、わたしもロキオンにお願いしてむーちゃんを乾かしてもらうとしよう。


「あの、ロキオン……むーちゃんのことも乾かして欲しいのですが……」

「ああ、いいぞ。それならむーちゃんも盥の中から出てきてもらえるか? そのままだと流石に乾かせないからな」

「え~! もっと遊んでいたかったのに~」

「我儘言わないでください! ほら、出てきてください~」


 盥の中から出たがらないむーちゃんを両手で持ち上げようとするが、水を吸っているせいか普段よりも重くて中々持ち上がらない。


 わたしが両手を震わせているとそれを見かねたスピネルに声をかけられる。


「おい、大丈夫か? クリス」

「手伝ってください~」


 スピネルに手伝ってもらい何とかむーちゃんを盥から出したわたし達は、もう一度ロキオンにむーちゃんを乾かしてもらうようお願いする。


「それではロキオン。改めてよろしくお願いします!」

「ああ、分かった」


 ロキオンが頷いて先ほどと同じように板をむーちゃんに向けると濡れていた毛から水分がなくなり、あっという間にふわふわな毛並みへと戻った。


「むーちゃんもふかふかになりました!!」

「わあい、ありがとう! ロキオン!!」


 むーちゃんもふわふわの毛並みが戻って大喜びしている様子だ。この魔道具なら湯あみをした後のむーちゃんを乾かすために買っていってもいいかもしれない。


 そうとなればまずはお財布を持っているスピネルに相談しなくてはならない。わたしはスピネルの方をちらりと見上げる。


「スピネル……」

「ダメだ」

「まだ何も言ってませんよ!!」


 何かを口にする前にスピネルにはわたしの言おうとしていることが分かったようだ。こちらをじっと見つめてスピネルは大きく溜息を吐く。


「大方『乾燥の魔道具』が欲しいとかそんなところだろう?」

「良く分かりましたね、スピネル! もしかして心を読む魔法が使えるようになったのでしょうか?」

「そんな魔法は使えないが、クリスは顔に出るから分かりやすいんだ」

「え! そんなに分かりやすかったでしょうか!?」


 慌てたわたしが自分の顔を両手でぺたぺたと触っていると、スピネルが『乾燥の魔道具』を買わない理由を説明してくれる。


「これもさっきと同じ理由で俺達には必要ないんだよ」

「どうしてですか!? わたしの髪を乾かすのに『温風の魔道具』は使いますが、むーちゃんの毛を乾かすのは大変なんですよ!!」


 むーちゃんは湯あみを終えた後、びしょ濡れの状態で出てくるので、わたしがいつも乾くまで体を拭いてあげているのだ。毎日のことなので特に大変とは思っていないが、スピネルを説得するためここは少し大げさに言っておくことにしよう。


 先ほどの『回転の魔道具』が必要ない理由には納得できたが、今回は納得できないとわたしがスピネルに言い返すと、スピネルはむーちゃんの方を向いて声をかける。


「なあ、むーちゃん。むーちゃんなら濡れた状態でも魔法ですぐ乾かせるんじゃないか?」

「うん、出来るよ!」

「え! 出来るんですか!?」


 そう言ってむーちゃんはもう一度静かに盥に入ると、びしょ濡れの状態で宙に浮かんだ。濡れたままの体からは水が滴っており先ほどと同じ状態だ。


「えいっ!」


 そのままむーちゃんが可愛い掛け声をかけると、むーちゃんの濡れた体は一瞬で乾きふわふわの毛が広がる。


 理解が追い付かないわたしがぽかんと口を開けたままむーちゃんを見ると、むーちゃんは得意気な顔でこちらを見ている。


「どう? クリス! ボクだってやれば出来るんだよ!」

「それなら最初から自分でやってください!」

「クリスが拭いてくれると気持ちいいから普段は使わないようにしてるんだ!」


 どうやらむーちゃんはわたしに甘やかされるのが嬉しくて、普段は自分で乾かしていなかったようだ。出来るなら最初から自分で乾かして欲しかったものである。


「どうだ、クリス。これを見てもまだ欲しいと思うか?」

「う~ん……必要なさそうですね! 今日のところはやめておきます!」

「分かってくれたようで何よりだ……今日のところは?」


 とにかくスピネルの言うことにも一理あるので、今日のところは諦めて今度来た時にスピネルに内緒でこっそり購入しようと心の中で決意する。


 スピネルが首を傾げながら呟いた言葉は無視して、わたしはむーちゃんのつぶらな瞳を見つめる。


「それと……むーちゃんは今日から自分で体を乾かしてくださいね」

「えー!? クリスに拭いて欲しいよ!」


 むーちゃんはそう言いながらわたしの手の中に飛び込んできた。ふわふわの毛は『回転の魔道具』のおかげか、普段よりも数割増しで柔らかい気がする。


 勝手に行動することについては後でたっぷり叱らないといけないが、ふわふわの毛に免じて体は拭いてあげるとしよう。


「もう仕方ないですね! 今日だけですよ!」

「わあい!」


 甘えたがりなむーちゃんのお腹をわしゃわしゃと撫で回しながら、わたしはロキオンに再び話しかける。


「他におすすめの魔道具はありますか? 魔法の練習に使える魔道具があれば嬉しいのですが……」

「お、それなら丁度良い物があるぞ。今持ってくるから少し待っててくれ」

「ありがとうございます! 楽しみです!!」


 わたしの言葉を聞いたロキオンはお店の奥へ入っていき、綺麗な装飾の施されたむーちゃんが入りそうな大きさの箱を手に持って戻って来た。


「待たせたな。これが魔法を練習するための魔道具……『魔導箱』だ」

今回で町歩き終わりの予定でしたが終わりませんでした。

次回は学園に帰ります。

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